「はーっ……はーっ……」
ハイパーセンサーが捉えるのは三機のIS。それらはどれもフランスのデュノア社のラファールだ。右と左の機体に特筆する点はない。だが、先行する中心の機体は指揮官らしく、赤にカラーリングされ、装甲の比重が減らされた独特のカスタム。そして、なにより他の二機よりも速い。体感にして二割増。
『所属不明機に告ぐ!直ちに武装を解除し、降伏せよ!』
『その機体のシールドエネルギーも僅かなことは分かっている!』
降伏を促す声。その声に合わせて、左右の二機は一人は手に持った55口径のアサルトライフルの照準を私に、もう一人は私のブレードに照準を合わされる。
対する私の武装はブレードのみ。他の武装は無い。全て破壊されてしまっていた。
(あの化け物に手を出さなければ──!)
後悔など遅い。視界の端に表示されたシールドエネルギーは残り13。あのアサルトライフルの弾が一発でも掠めようものなら、具現維持限界を迎えてあっという間におしまいだ。
機体を地面スレスレで飛行させ、ブレードが砂を大きく巻き上げる。苦し紛れの目眩しだ。だが、ハイパーセンサーで捉えられているとはいえ、正確な狙いを失えば多少の時間は稼げる。
(だがそれでどうする──?)
時間を稼いだところで、この状況の打破は難しいと言う他ない。針の穴程の可能性を潜り抜けてようやく、といった所だろう。
どうする。どうする。
思考を加速させる。打開の、打開の一手を──
『貰ったッ!』
(え──)
巻き上げた砂より伸びてくる先まで後方にいた赤いその機体の手。
ありえない──だが、先天的に強化されたこの眼で捉えたものにその理由を直ぐに理解した。振り切られたブレード。そうか、あの腹で射出を。
「あ──」
手が機体に触れる。届く。この首に届いてしまう。
(終わっちゃう、んだ)
走馬灯。そんな綺麗で大切なものは私にはない。あるのは、ただ一つ。私を生み出して廃棄したアイツらへの復讐心。
(こんなところで……)
痛い。辛い。苦しい。望まれたのに、ただ処分と嘲笑った顔が過ぎる。その光景が黄土色の培養液と赤黒い血で埋め尽くされていく。握り潰したいのにどんどん暗い暗い、闇へと沈んでいく。
(嫌だ)
終わる。捕まってしまえば私は、私は──死ぬ。
(嫌だ………!)
この人生が人を煽るIS神話の幻想の一部になってしまうのが怖い。全てを失って、何も残らずに死ぬのは──怖い。
この復讐を完遂できないのだけは──
「嫌だぁっ!!」
激しく轟く擦れ合う金属の悲鳴。
砂塵と吹き飛んでいく機体。
宙を舞う赤い破片。
『ぐああああああっ!?』
「……え……」
打ち上げられた砂が晴れる。大きな影が私の前に立っていた。
火を噴く巨大な鉄の塊。それは戦車とか装甲車の兵器よりも大きな人型の機械だと、理解するのに少しの時間を要した。
軋む鉄の関節に、オイルと火薬の匂い。両手に握られた銃火器はISよりも一回り以上大きい。そして何よりも目を引く機体に匹敵する大きさの尋常ならざる束ねられた刃。
膝をついていたソレは立ち上がって、私を見た。頭部のカメラと私の視線が交錯する。
「同じ、だ」
分からない。何が同じなのか分からないけれど、そう私は呟いていた。
それが果たして届いたのか、どんな意味を為したのかは分からない
──でも。
『今度こそ、生きてやる』
そんな悲しい声の救世主は私にその大きな背を向け、ラファール達にその銃口を向けた。