RD/ストラトス   作:ハナガネ

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亡国機業編
チャプター 29


──その事件は二つ意味で大きく世界を激震させた。

 

「……」

 

虚ろな視線を送る先、吊り下げられたモニターにはあの現場の衛星写真が映し出されていた。

 

『やはり、地下で極秘裏に進められていた核実験の事故ではないかと』

 

『いいや、これは間違いなく政府が推し進めていた人工地震の陰謀ですぞ!この計器の異常が動かぬ証拠!』

 

『IS学園、そして続けざまの今回の爆発、これも全てあのRDというテロリストの仕業という憶測がネットで飛び交っているようですね』

 

『──政府は現在、原因の究明を急いでいます』

 

映像を切り替える度に、専門家を名乗る人物たちが全く違う論を並べる。また。その横の緊急速報では市場がサーキットブレイクを起こした、アメリカ国防省がデフコン2に移行したことを皮切りに各国が非常事態宣言を発令するなど、どうやら世界情勢は眠っていた間に混乱を極めているようだった。

 

「……ウッ……あ……はぁ、はぁ……」

 

つい昨日、目覚めた少女──ラウラは逆流しそうになる胃液を抑え、ゆっくりと手元に取り付けられた操作パネルで車いすを動かし、暗い廊下の先に光る──ポットルームのドアを叩く。

 

「みんなの、容態は……」

 

「ラウラちゃん!?まだ、寝てなきゃ──!」

 

そこにいたのは更識楯無。壁で彼女は膝を抱えていた。少し匂うあたり、付きっきりで看ていてくれたのだろう。

ラウラに気が付いた楯無は、すぐさま立ち上がりラウラを追い返そうとする。しかし、ラウラはその襟を弱く掴んでうな垂れて、懇願する。

 

「……いいから、教えて欲しい。頼む……」

 

「でも、あなたもまだ傷が!」

 

「いいから!……教えてくれ」

 

「……分かったわ」

 

その気迫に更に言い返すことはできない。そう観念した楯無は、手元にコンソールを呼び出し、ロックのかかっていた奥の扉を開き、入っていく。

 

「……付いてきて。でも……覚悟してね」

 

「……」

 

ラウラは楯無の後に続き、その中──ポットルームに入室。

 

「──」

 

そこで全ての言葉を失った。

緑色の液体に生まれたままの姿で沈む見知った仲間の姿。

だが、それはとても直視できるようなものではなかった。口、血管、心臓など体に繋がれた大量のチューブ、焼け焦げた肌、刻まれたいくつもの縫合の痕、それでも露出した裂けた肉、焼け焦げた肌。その体に傷が無い場所など見当たらない。

惨たらしいという言葉では形容できない。軍に所属していたラウラでさえも──こんな重篤なものを見るのは初めてだった。

 

「……全身粉砕骨折の上Ⅲ度以上の熱傷、出血多量、全神経断絶、臓器も殆どやられてる──正直、生きているのが奇跡的と言ってもいいわ」

 

「……あ、あっ……」

 

「ここから命を吹き返す可能性はかなり低い──いえ、篠ノ之博士のこのポッドがあったからこそ、そのわずかな確率を得たという方が正しいのかもしれないわね」

 

その言葉は聞こえていないだろう。喘ぎ、我を忘れて手を伸ばすラウラ。

楯無はそのラウラを優しく抱擁し、それからゆっくりとあの後を語り始めた。

 

 

楯無は当日、発った千冬から残されたIS学園を任され、全てに目を張り巡らせていた。

もう二度と、悲劇を繰り返さないために。そのためなら、自身はどれだけでも手を汚そう──そんな、決意は脆く打ち砕かれた。

計器が巨大な振動を観測。地震大国と揶揄される日本ではあるが、その振れ幅の形状とはまるで違う。

ともかく、逆算。震源地を予測しようとする──

 

「なにこれ!?」

 

だが、確かに送られてきていた計器のデータが狂っていた。いや、狂っていたというよりリアルタイムで変動し続けていた。急に収まったかと思えば、再び振動し、かと思えば大地震なんて程じゃない揺れを観測する。

サイバー攻撃か。直ぐに確認するが、異常は無い。異常はあるはずなのに異常が見つからない。

 

「……くっ!後、お願い!何かあったら連絡、ダメなら直ぐに信号弾で!」

 

ならば切り替えるしかない。楯無はミステリアス・レイディを呼び出し、直ぐぐに外へと駆ける。

ここから捉えられる周囲5kmには怪しい影はない。少なくとも、今の爆発はこのIS学園を狙ったものでは無いだろう。

生徒は先の事件からオンライン学習に切り替わっていたのが功を奏し、既に地下への避難が始まっていた。

しかし、この学園が完全に制圧されてしまえば避難なんてものは意味をなさない──警戒しなければ。

 

「また!?」

 

その時、再び計器とリンクしたISが異常を通知してくる。

この短期間に2回目。いよいよ、事故では済まない何かが起きている事が確信に変わる。

しかし──待てども、待てども見て取れる異常は現れない。何も無いなら、警戒を解くべきか。そう思い出した、正しくその時だった。

 

「潜水艦!?まさか、また──え、人参?」

 

学園の海に浮上するオレンジ。それは──どこからどう見ても大きな人参だった。

だが、見た目で騙されてはいけない──以前のIS学園でヤツらはロケットでアーマードコアを送り込んできたのだ。成功体験に酔いしれ、似通った手を使ってくる可能性も否定できない。

ならば、迎撃するか。武器を構え、突撃しようした時、回線が繋がれた。

 

『こ、こちら、1-1副担任の山田真耶です!その潜水艦に遠征メンバーの反応あり!ぜ、全員、バイタル危険域です!は、はやく回収して下さい!』

 

「──っ!了解!」

 

遠征メンバー──それはつまり、織斑千冬も含まれている。

一体、向こうで何が。しかし、今は回収が先決だ。

 

「こちら、楯無!一夏君!箒ちゃん!ラウラちゃん!織斑先生!?応答して下さい!──ハッチ、開けます!聞こえていたら離れて!」

 

応答に返事をせず、そればかりかゆっくりと海を揺蕩う潜水艦。

返事がないことに業を煮やし、楯無はハッチを蒼流旋で突き刺し解放。内部へと侵入。

 

「……一夏、君?」

 

そして、血に染まった溶液が充填されたポットの中に変わり果てた彼らを見つけた。

 

 

「それから、すぐさまIS学園に潜水艦を運び込んで──溶液の解析と充填、ポットの設備のメンテナンスをして……それだけ。悔しいけど、私達は何もできなかったの」

 

「……そう、か」

 

ようやく精神も落ち着き、車椅子を押され陽の当たるラウンジに出た2人。空は晴れ渡っていたが、その会話の終わりは曇天のように暗い。

 

「ねぇ、向こうで──いえ、篠ノ之博士のラボで何があったのか教えてくれないかしら?」

 

「!何故、極秘のそれを!」

 

「人参型の潜水艦、技術の粋を集めても届かない医療技術──まだまだあるけど、それだけ状況証拠が揃ってたらね」

 

「──……分かった」

 

軍に所属するラウラが機密事項を語るのは決して有り得ない。

だが、もうここまで悟られており、なおかつこの緊急事態ならばもはや、語らない方がだろう。ラウラは思い出す一つ一つに奥歯を噛み締めながら、楯無にその一連の出来事を語った。

 

「それで、篠ノ之博士はあのポットの中にはいなかったのだな」

 

「ええ」

 

腕を組み首を振った楯無にラウラは目を伏せた。

 

「……それにしても、RD。アーマードコア……世界は今、疑心暗鬼で他国を攻撃しかねない程に緊迫している。早急に亡国機業を掃討して、世界に事実を知らしめないと」

 

楯無は外を見る。そこには当然、IS学園が広がっているが、その様子は学園祭前と今では大きく違っていた。

復旧作業に追われる破壊された建物。その周辺には押しかけたマスコミ関係者が、その作業員達にセキュリティ体制に大きな不備があったのでないかと変わらない質問をぶつけている。

かく言う、自分も生徒会長の身のためにそのような応対は幾つも答えてきたが、その度にあの日々に彩りがあった生活が奪われたという喪失感に苛まされていた。

RDの捕縛、並びにそれを雇う亡国機業の掃討、解体。それは大儀であると同時に彼女自身も強く望むところだった。

 

「それには強く同意する。だが──我々は真の敵を見逃しているのかもしれない」

 

だが、その危険性を目の当たりにしたはずのラウラは完全には頷かなかった。

 

「真の、敵。どういうこと?」

 

「私が意識を失う寸前、声を聞いた」

 

「声。それはどんな?」

 

「……僅かだったが、それでも断言できる酷く狂った男の声だった。確か、名前は──ハングドマン」

 

「ハングドマン……」

 

ハングドマン、そう呼ばれて楯無は脳内に蓄積された記憶を遡る。だが、出てくるのはタロットカードの関連のものだけ。

暗い部分にこの世界で上位に君臨する程度には精通しているが、そのような名前は一度も聞いた事が無かった。

 

「他に何かない?なんでもいい」

 

「他に……そうは言われてもだな……あ」

 

顎に手を当てて考えこもうしたラウラは、ふと思い出す。

 

「そういえば……その後だ。その声を聞いて直ぐに、私は外で起きた爆発に巻き込まれて意識を失った」

 

「外で起きた爆発。なるほど、ありが──え?」

 

ラウラの話を頭に留め、次の話題に行こうとした楯無は耳を疑った。

 

「ラウラちゃん!あの今、報道されている核爆発って()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

「あ、ああ。あれは間違いなく外からの攻撃だった──」

 

「なら、おかしい……!」

 

「どういうことだ?」

 

額から冷や汗が垂れる。楯無の脳裏に過ぎる嫌な妄想が確かな形を持って主張し始めたが、そんなことは有り得ないと培われた常識が押さえつける。

 

「ラウラちゃん。世界各国、何処の機関、何処の衛星映像でも、核爆発しか捉えられていない。そして、もし映像の細工がされていたとして、それは現在に至るまで誰にも一切気が付かれていない……これがどういうことか分かる?」

 

「それは……まさか」

 

その妄想が実現できるなのだとしたら、可能なのはたった一人。しかし、その人物は話を聞く限り被害者で、映像を加工する暇も理由もない。

ならば──残る答えは、常識が認めない恐ろしいその一つだけしかない。

 

「そう──そのハングドマンという男は篠ノ之博士と同等以上に情報、電子戦に優れていて──そして、その気になれば今直ぐに世界大戦を起こせる怪物ということよ……」

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