ペダルを踏み、砂の中から上昇。
そして、カメラが捉えたその姿にRDは酷く困惑した。
(女……!?いや──そもそもなんだ、あの兵器は!?)
翼のようなものを浮遊させた女。浮遊する兵器程度ならRDも見知っているが、そうでは無い。浮いている。ブースターの噴射の反作用とかではなく、完全に武装が空中に浮き、静止していた。
反面、どんなはその武装とは裏腹に薄いスーツ──昔どこかで見たミズギという服──のようなものを身につけただけで、装甲になりそうなものは身につけていない。
少なくともRDの知識の中にこのような兵器があった覚えはない。
『システム スキャンモード』
だが、コイツは違うかもしれない。ヴェンジェンスをスキャンモードへと変更。
果たして──表示された解析結果は『ERROR』敵の名称も、耐性も、武装も、何もかも測定不能。僅かな情報すら出てこなかった。
(……どうする)
スキャニングには失敗。相手は裸も同然。とはいえ、相手は正体不明の武装をしている。
判断に攻めあぐねていると、ふと機体の足元にも何かいることに気がついた。
少女が見上げていた。煤けた銀髪、白目の部分が黒い瞳、そして酷く損傷した武装。
(似ている、気がする)
分からない。何を思ってそう思ったのか。正直、得体のしれなさではこちらの少女の方が何倍も勝っていた──そう、背中がゾクリとして震えるあの『ヤバさ』に似たものがあった。
だが、それは『恐怖』ではない。シンパシーとも言うべきか、その瞳の奥に抱えたものが自分自身と似ている。そんな不思議な感覚をRDは覚えた。
『……大型兵器!?』
『なんだ、これは……い、いや……』
(……分からない)
コイツらが何者か、ここはどこなのか。そして──どうして今、生きているのか。
『ぐっ……あっ……クソッ、恐れるな!こっちはIS乗りなんだ、こんな木偶の坊がなんだって言うんだ!撃て──……』
(分からない、けどさ)
こうして、生きている。生き返った。
ならば──RDの目的は変わらない。
『システム 戦闘モード』
「今度こそ、生きてやる」
刹那、ヴェンジェンスの
『な、なに!?うわああああああっ!?』
『回避ッ!』
赤い武装の女に狙いをつけたパルス弾は、女が急旋回したせいで狙いが逸れて外れた。だが、レフトアームより放たれた銃弾。それは、反応に遅れた女の小さな体からすれば砲と呼べる威力を持ってして胴体へと命中、貫く。
『うっあ……な、なに……この、威力……シールドエネルギーが1発で4割以上……!?』
(な……)
だが、そうはならなかった。今度はRDが驚かされる番だった。
銃弾は間違いなく直撃した。それは間違いなかった。だと言うのに、目の前の女は武装の損傷はあれど、その体は健在だったのだ。加えて、赤い武装の女の動き。
(ACと同じ……いや、それ以上か!)
生身に見えるようで下手な戦車よりも固い防御力に、空中戦が行えるような機動力。空と速度の利に小回りが効くらしい相手にこの距離は不利をRDはすぐさま悟る。
(なら!)
すかさず、ブースターを点火し後方へと飛び退く。同時に、パルスマシンガンによる制圧射撃。
『威力は高いけど、遅い!』
合間を縫い、突撃してくる被弾した女。ブレードを盾に真っ直ぐにヴェンジェンスへと突貫してくる。
それが、RDの狙いだとも知らずに。
「え」
その女の視界はきっと先まで追っていた鉛色、その一色に染まったかと思えば次の瞬間、乱回転していたことだろう。
ブーストチャージ。当たらないなら、誘えばいい。近接戦闘を避けるフリをして、すぐさまブースターを噴射し、機体でタックルを仕掛けたのだ。
ACですら重量の乗ったタックルは致命傷になり得る。ならば、それ以上に軽い武装を装備した女ではどうか。そうだ、耐えられるはずがない。
大きく後方へと吹き飛んでいった女は、地面を何度もバウンドしてようやく砂漠にめり込む。
(まず、一人)
次のターゲットを見定めようとして、RDは再びカメラに映ったものに驚かされることとなる。
(武装が、消えた!?)
女が淡い光に包まれたかと思えば、その身に纏っていた武装が消えたのだ。
(こんな、技術は知らな──)
『よくも!』
『こっちだ!』
「!チッ!」
その技術に気を取られていると、上空と正面から鉄の雨が降り注ぎ、その尽くがヴェンジェンスに吸い込まれるように当たる。それは常にクロスファイアの形となっていて理想的な攻撃と言えるだろう。
だが、足りない。その全ては装甲に弾き返されて彼方へと消えていく。当然だ。彼女達は知るよしもないが、ACの装甲は戦車砲、ひいてはミサイルの1発2発なぞではビクともしない程に堅牢なのだ。彼女達のライフルの火力では突破には到底届かない。
モニターの情報からそれを確信したRDは積極的な回避という選択を捨てた。かと言って、再びブーストチャージかと言えば否だ。相手は既に警戒して、付かず離れずの一定の距離を取っている。
『こっちか!』
『気をつけて下さい!』
RDは狙いを赤色の武装の女に集中させる。すばしっこいならば、こちらの攻撃が当たるように動きを制限してしまえばいい。地面を滑るように移動させながら、肩部に搭載された
『下手くそめ!』
空へと一斉に広がる包囲網。だが、赤色の武装の女にはそのどれも掠らない。大きく空へと逃げ、弾幕が大きく拡散して広がったその合間をすり抜けていく。
それを確認したRDは攻撃の手を、後ろの女へと切り替えた。だが、それよりも早く、動きを予期していたらしいその女も赤色の武装の女と同じ軌道で空へと逃げる。
当たらない、当たらない。確かに企業はRDにACの才能ありと認めたが、まだ乗りこなすには至っていない──あの臨死体験からそれをRDは学習した。
故に、RDは当たらないことを逆手に取った。それは酷く原始的な手段。しかし結果としてそれは実に、効果的だった。
『んな……貴様ッ!卑怯な!』
銃口を向けた先は、空中ではなく地上。そう、先程ブーストチャージで吹き飛ばし、地面で気絶していた女だ。
人質。空中での回避行動を選んだ彼女達には距離がある。地上へと降下して人質を回収するか、RDがワンアクションで引き金を引くか。どちらが速いかなんて考えるまでもない。
「なあ」
『しゃ、喋った!?し、しかも……男!?』
「降りて、武装を解除しろ。さもないと撃つ」
『お、男の分際で、私たちに命令するのか!?』
銃口を無言でRDはさらに近付ける。
『……わ、分かった。降りる、降りるから!』
「それでいい」
ゆっくりと、降りてくる2人の女。その間も、RDは銃口を向けたままだ。そして、2人は地面に着地し、アサルトライフルをまたもやあの技術で消した。
『……それで、私達はどうすればいい?』
「決まってる。死──」
瞬間、後方の砂の中から飛び出した影があった。
「ふっ……!」
先の銀髪の女だった。潜んでいた彼女は、淡い光と共に顕現させたブレードを突き立てる。大きく飛び散る火花。だが、その程度では足りない。
「余計な世話を!」
ちっ、と舌打ちをしながらも準備していたライフルの引き金を引く。完全に銀髪の女に気を取られ、回避にはもう遅かった。次々と銃弾が突き刺さっていき、そして。
「……」
「……」
虚しい発砲音が甲高く響いた後には静寂が残った。
相対し、再び交錯するカメラと視線。
「……アンタ」
「わた、しは。私は、クロエ。クロエです。一つ、聞いてもいいでしょうか」
「あ?」
「あなたは、あの時の──救世主様、ですか」
RDは知らない。このクロエと名乗る少女との邂逅の先に待ち受ける運命を。
RDは知らない。この事態の裏で世界が大きく変動し始めていることを。
RDは知らない。目を細めた狡猾な羊が空からヴェンジェンスを眺めていたことを。
今は、まだ。