RD/ストラトス   作:ハナガネ

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チャプター 05

「馬鹿言ってんじゃ──」

 

『馬鹿?理解できてないのはそっちの方だろ』

 

束が腕を振ると空中に投影されたのは一つのディスプレイ。

そこにはどこか、アリーナのような場所で空中線を繰り広げるISが映されていた。

 

『分かる?分かるわけないないね。だって、これはインフィニット・ストラトス。私が生み出したこの世界で最も優れたスーツだ』

 

「何を、言って」

 

『──今、私が話してるだろ』

 

重圧。発された怒気に威圧され、RDは思わず小さく呻き、更に一歩後ずさる。

束は、コホンと咳払いをすると解説という名の一人語りを再開する。

 

『元々は、宇宙への進出のためのものだ。なのに、その意図を理解できない世界の馬鹿共はこぞってISを軍事転用しようと躍起になってる。まぁ、軍事利用するにしたって、私の先を行けるヤツなんて一人もいないから問題ない──はずだった』

 

束はクロエとRDの後ろ──ヴェンジェンスを睨む。

 

『ソイツが台頭してしまえば全てが破壊される』

 

『OS、堅牢過ぎる装甲、異常な出力のジェネレーターext、ext……その技術が世の中に蔓延ったのなら待ち受けているのは紛争、戦争、破滅だ。ああ、別に人類なんか消えようがどうでもいいんだけどさ。私の大事な存在を脅かされるなら話は別』

『この世界において、ソレはあまりにも危険過ぎる。ソレを野放しにすれば、ISの未来が打ち砕かれてしまう』

 

『でも、今なら。まだ間に合う』

 

『だから──今すぐに消えろ』

 

所以も知らぬ人物に突如、宣告されたるは横暴、理不尽な死の要求。有り得ないし、呑めるはずもない。

ただ、それは常人を相手にした場合の話。きっと、不可能ではないのだろう。無理な要求を押し付け、それを罷り通す、いいや無理矢理にでも叶えてきた圧倒的な『力』が彼女にはある。

RDは嫌でもそれを感じ取っていた。

 

『それで、反論ある?いいよ、聞いてあげる。叶えてはやらないけど』

 

「……る」

 

『なに?もう、コイツの性能悪いなぁ。よく聞こえないんだけど』

 

「……断、る。オレは、もう、死にたくない」

 

だが、RDは屈しなかった。

確かに篠ノ之束には圧倒的な『力』はある。だけれども──それは『暴力』ではない。

剣幕に押し潰されそうになったRDを支えたのは皮肉にも、もう一つの恐怖だった。

死にたくない。あの時、まだ『死』を知らない自分を支えたのはなんだった。どうしようとしていた。思い出す。

 

『あのさ、聞いてた話?馬鹿には、ほとほと呆れ──』

 

「そうだ……怖いヤツは……」

 

『あ?』

 

「……怖いヤツは、消してしまえばいい」

 

ゾクリ、と背筋が凍えた。それはRDではない、クロエだ。束の押し潰す圧とは違う、例えるならばそう、遠くの空に集まるカラスを見たような不吉の予感。

はっ、と横を見ればRDの顔付きは先程とは全く違うものになっていた。クロエは僅かな時間とは言え、()()()()()()()()()で彼が臆病な性格であることは察していた。

けれど、それは彼の一側面でしかなかったのだ。彼の獰猛で鋭い目付きは篠ノ之束博士の冷ややかな目線と今、拮抗していた。

 

『へぇ、私と戦う気?オマエじゃ私には絶対に敵わないし、下手に苦しむより大人しく従った方がマシだと思うけど』

 

「ごちゃごちゃ、うるさいんだよ」

 

RDが大きく息を吸って、吐く。足は震えている。心臓は動悸が止まらない。だけれども、奥底から沸き立つただ1つの望みが、彼にそれを言わせた。

 

「──やってみろよ」

 

宣戦布告。それは奥底から滲み出た生きるという宣言でもあった。

 

『……あっそう』

 

篠ノ之束は酷く冷淡に一言、そう呟く。そして、空中に投影していた映像を消し、大きくため息を吐いてRDに宣告した。

 

『覚悟なんかしなくてもいい。私は私の持てる全てを使って、ISを守るためにオマエを必ず葬り去ってやる』

 

『いいよ、ルーキー──いや、イレギュラー。聞いてやる、名前は』

 

「RD」

 

『あだ名だろ、それ』

 

「どうでもいいことだろ」

 

『そうだね、実にくだらないことだ。オマエは最後のチャンスを逃した。そして、私はオマエを討つべき敵と認識した。そうやって、粋がれるのも今の内だけだよ』

 

篠ノ之束はRDを鼻で笑い、RDは睨み返す。

 

『──あぁ、それとクロエって言ったけ』

 

そして、どうしたことかクロエの方にも顔を向けた。

ただし、その顔には先と違い、怒りなどはなかった。むしろ、その逆。僅かながらも笑みが浮かんでいた。

 

『これは忠告だけど。そんな無理にISと接続してるといつか君の脳が焼き切れる、気を付けなよ』

 

『それじゃあ、戦場で』

 

そう言い残し、篠ノ之束のホログラフィックは霧散した。しばらくすれば、『ヤバい』感覚も消える。確かに人の形をした天災は去ったようだった。

 

「……はっ……はっ……はっ、クソ……はぁ」

 

とっくにRDの限界は超えていた。尻もちをつくように、RDは地面にへたり込む。滲む玉の汗をタオルケットで乱暴に拭き取り、水筒に残っていた水を頭から被る。

貴重な資源である飲料水を被るなど言語道断ではあるが、そんな事は構っていられなかった。

 

「あの」

 

「……聞いてたろ、RDでいい」

 

「では、RD様とお呼びさせていただきます。それで、大丈夫、ですか」

 

「ほっといてくれ」

 

「ですが……」

 

「さっきもそうだが、アンタがオレに構う義理なんてないはずだ……しばらくしたら、また声をかける。色々聞かせて貰う、今度こそ」

 

クロエは「了解致しました、ではまた後ほど」と頭を下げる。それから、水とタオルケットと一緒に持ってきていたらしい、注射器を取り出し──大方、麻酔の類だろう──を倒れていた女達に投与した後、ISを解除し、ガレージの奥へと消えた。

RDはゆっくりと立ち上がり、重い足取りでヴェンジェンスの近くで座り込む。

 

(クソ……クソ……!)

 

訳が分からない。いや、分かっている。分かってしまったからこそ、目を背けたかった。

IS、クロエの反応、篠ノ之束、抹殺対象のAC、自分が生きている理由。ここは、自分が元いた世界ではない、もっと別の世界。何らかの原因でここに自分は飛ばされてしまったらしい。

そしてここで、また自分は戦いに巻き込まれてしまった。2回目の生、もしかしたら今度こそ──平穏に暮らせたかもしれないのに。

 

「オレは、オレは……」

 

だが、そんな選択は初めから与えられていなかった。

RDの二回目の人生にして二度目の死に向かう旅路は今、始まった。

 




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