おなかすいた   作:オーレリア

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一応続きました。


誕生秘話2

 何十メートルもの高度から落下した車。当然の既決と言うべきか、乗っていた者達は赤ん坊を含め誰一人として無事でいられるような事等無かった。

 

 燃えて煙を上げるワンボックスカー。小さな破片が破片がそこかしこに散らばり、車の中に居る人間は殆どの者が血を流しながら力無く身を投げ出している格好となっている。酷い者は元が人間であったとは思えないほどに潰れ、手足首問わずあらぬ方向に折れ曲がり、飛び出した骨が筋肉を貫き露出してしまっている。

 

 奇跡・・・いやここまで来ると不運と言った方が正しいか、赤ん坊は死に体ではあるものの本当に微かであるが生きていた。白い腕から伸ばしていた糸が仇となってしまったようで殆どの大きな残骸が赤ん坊を中心として集中してしまっている。ただ元は生きていた人間の死体が緩衝材の役割を果たしたお陰か、脳死には至ってはいないものの頭部と胴体の一部、異形の手だったものを残して大半が残骸により潰されてしまっていた。

 

 赤ん坊の体は時折ピク・・・ピク・・・と痙攣するように動いている。しかしそれが収まるのも時間の問題だった。

 

 大事なナニかが薄れていくのを朧気ながら感じとり、赤ん坊は消え行く意識のなかで本能的に願う。

 

 

 『しにたくない』

 

 

弱々しく、しかし切実なその願いは小さな彼等に聞き届いた。

 

 

 

 

 

 

ーーあるじ、アブナイ?

ーーあるじ、しぬ?

ーーだめ

ーーしんジャだめ

 

 

 宿主の微かな灯火が消えつつある中、彼等も大きな混乱の最中にあった。彼等にとって初めて宿主から受けた願いと言うこともあって、どうにか叶えようと模索する。

 

 

 話は変わるが鳥や昆虫等、群れを成す生物に見られる『群知能』というと言うものがある。一つ一つの個体がお互いに簡単なやり取りを通じて、集団として高度な動きを行うことが出来るようになる現象である。乱暴に言えば同じ生物の群れが多く集まれば集まる程、単純な思考しか持たなくとも賢い行動が可能になると言うものだ。

 

 鳥や昆虫の群知能の原理と彼らの行う行動は多少異なるが、彼らも同じことが可能だった。それも億を優に越える全ての細胞が捕食し学習、増殖、他の細胞とのほぼ完璧に近い形で情報を共有する事で凄まじい速度で模倣と最適化を繰り返して、最終的に『進化』と呼べる領域まで到達する。これこそが、異なる世界では他生物が何億年もかけて今の形に進化したのに対して、僅か20年も経たない内に星の支配者に上り詰めた原動力である。

 

 

ーーからだ、なイ。たりなイ・・・どうスル?

ーーわからなイ。なイもの、どウヤル?

ーー!・・・あるじ、にてる、さんぷる、たくさんある

ーーあるじ、からだ、カわり・・・つかエル?

ーーソレ、たくさんたべル。ワレワレ、からだ、かわり、なる。いそぐ

 

 

 気付いたが否や周囲に散らばっていた白い糸達が一斉に動き出す。それらが周囲にある男達の死体に群がり始めた。死体は白い糸に触れた側から削られていくかのように徐々に形を失い、その度に白い糸が太くなり死体が消えていく速度が上がっていく。さらにそれだけでは足りぬとばかりに地面や生えていた木々にも白い糸のは伸び、同じように喰い荒らしていく。その行為は彼らが目覚めたばかりの頃とは違い、淀み無く進んでいった。

 

 そして同時にその白い糸・・・太さを考えると触手と呼べるだろう――は死に体の赤ん坊を欠損が多い場所を中心として体を包み込むように巻き付き始める。

 この時、偶然とはいえ最初に行ったのが最も必要な血の補填だったのは幸いだった。

 

 

ーーあるじ、えきたい、ワカッタ。かわり、なる

ーーほか、マダ、だめ。エキタイ、ダケできル?

ーー・・・・・・あるじ、よくなテル。マダ、だいじょうぶ。モット、えきたい

 

 

 彼らがそう判断して直ぐ、赤ん坊の血色は良くないままだが小さな痙攣はゆっくりとではあるが収まり始めていった。未だ予断を許さない状況だが峠は何とか越えられた。

 

 やがて内蔵や筋肉等の他の部位の学習が終わり、宿主に最適な形で自らの細胞を変化させて体が修復されていく。だが、ある部分を修復しようとした際に必要性が無いのではないか?と悩ませると言った()()()()があった。まあ、彼らにとっては些細な問題ではあったが。

 

 

 そうして紆余曲折があったものの、命の灯火が消える直前だった赤ん坊の体が修復される。・・・が、その姿はもはや赤ん坊とは言い難いものになっていた。

 

 先ず、体の大きさが異なっていた。産まれたばかりで目すら開いていなかった赤ん坊ではなく、凡そ5歳時位の幼児の姿になっている。更に体色や髪色も本来のやや濃いめの褐色の肌と黒髪をしていたのが、今では体のすべての部位が異形の象徴だった片腕同様純白の肌と髪になっていた。木漏れ日をそのキメ細やかな肌が反射して、よりその白さを際立たせていた。

 

 やがて、元が赤ん坊だった白い幼児は気が付いたのか目をゆっくりと開く。その目は磨き抜かれた黄金を思わせる金色の瞳をしており、キラキラと太陽の光を反射していた。

 

 

 

 

 

 意識を取り戻した元赤ん坊―――現白い幼児は当然の事ながら混乱の最中にあった。

 

 当然だろう。先程まで目すら開けることが出来なかった赤ん坊だった者に現状を理解しろと言うのが無茶と言うもの。自我すら芽生えていないのだ。本来であれば触覚や味覚等から徐々に世界を認識していく筈であり、そんな赤ん坊が突然視覚、嗅覚、触覚、聴覚、味覚の五感の全てを強制的にそれも完全な状態で認識させられれば発達途中である脳の認識が追い付く筈がない。しばらくの間、幼児は膨大な情報を処理するために目を見開いたまま全く体を動かすことが出来なかった。

 

 

 そのまま動かないこと1時間、漸く幼児は体を動かし始めた。しかし、体を意識的に動かすなど初めての経験だ。当然その場をパタパタとその短い手足でのたうち回らせることしか出来ていない。

 

 身を守ってくれる者が存在せず、このまま移動が出来なければ幼い生物としてはとても危険な状況だろう。それを本能的に理解しているのかは分からないが、幼児は助けを求める為に泣き叫ぼうと目元に涙を貯め、大きく息を吸い込んだ。しかし、それを脳内で何者かが待ったを掛けたのを幼児は認識し、驚いたこともあって思わず動きを止めた。

 

 

ーーあるじ。まっテ?

ーー『っ!・・・・・・?』

ーーあるじ、いま、じょうほう、わカラナイ?

ーーワレワレ、も、あるじ、の、じょうほう、わカラナイ。ワレワレ、あるじ、おしエル。

 

 

 幼児と彼らのこの『会話?』はあくまでも脳内のイメージである。

 しかし、脳内で行われるこのやり取りは下手な会話よりも遥かに鮮明に意思を伝えることを可能にしていた。

 

 そして、この不思議なやり取りで彼等が把握できたのは、今の宿主には意思疏通をすることすら困難である、と言うことだった。流石に、幾ら鮮明に伝えられたとしても産まれたての幼児に現状を理解しろというのは高度過ぎる要求だったらしい。

 

 

ーーあるじ、カンガエ、わカラナイ。むずカシイ。

ーーデモ、コノママ、あるじ、あぶナイ、かも。

ーードウスル・・・――――?

 

 

 ふと、目の前を胴体のわりに大きな尻尾を持つ小さな動物が走り去る。それは栗鼠と言う動物であったがそうとは知らない幼児は自然とその生物が走り去る様子を目で追った。

 

 そしてその視覚映像を幼児から受け取った彼らは情報を共有、何度も反芻することで分析を始めた。彼等もまだ視覚という概念を認識したばかりではあったが、だからこそずっと情報を集めていた。幼児が目を開けてから行っていた何気ない地団駄で得られた体を動かす感覚に土の感触、臭い、地面を手足が擦れたときに生じた小さな音。幼児の意識が覚醒してから認識できるようになった外の世界を。

 

 そしてそれを今、見つけた。現状を打破できる可能性のある情報を。

 

 

ーーなに・・・?

ーーちいさイ、あんぜん?

ーーそれヨリ、うごキ。

ーーココ、はなれラレル

ーーあるじ、ヨリ、ちいさイ。できナイ

ーーうごキ、ダケ、あるじ、できる?

ーー『?・・・!』

 

 

 早速彼らは幼児に、体を動すことを提案した。伝えるのに難儀したが、宿主が興味を持った御陰で今度は成功した。幼児はうつ伏せから手、足の順で体を持ち上げようとする。しかし、バランスが上手く取れず体勢を崩してしまった。”うぷっ”と小さく呻き声を上げて頭から倒れ込み、小さな土煙が舞う。丈夫になった今の体のお陰で痛みは無かったが、目に涙が浮かび泣きそうになっている。

 

 

ーー『!?・・・!!』

ーーあるじ、うごかせナイ?

ーーナラ、ワレワレ、うごかス

ーー『…?』

 

 

 また手足が動きだし体を持ち上げようとする。今度はさっきとは違い、ゆっくりとしたまるで感覚を確かめるような緩慢な動きだ。幼児は体の持ち主であるはずなのに不思議そうにその様子を見つめている。

 

 指を広げて地面につけることによりバランスを取り、何とか胴体を数センチ地面から浮き上がらせることに成功した。そのまま右手を前方に伸ばし移動しようとする。しかし、右手を浮かせた途端に体がぐらりと揺れた。慌てて右手を地面に着けて倒れ込むのを防ぐ。

 

 

ーー・・・むずかシイ

ーーモット、スル

ーー『・・・♪』

 

 

 それから何度も同じことを繰り返した。手足を何度も地面に立たせ体を浮かせる、その度に少しずつではあるが浮き上がる体の高さは上がっていく。遊んでもらっていると思っているのかその感覚を幼児は楽しんでいた。

 

 だが、何度も体を浮かせてもそこから前に体を進ませようとすると中々上手くいかない、バランスを崩し倒れそうになる。

 

ーーたテル・・・ケド

ーーほか、できナイ

ーー『!・・・♪』

ーー?・・・あるじ?

 

 

 突然宿主が体の主導権を奪い返した。何故、と彼らは疑問に思ったが幼児に理由など無かった。ただズルい、自分もやってみたい!と言う幼い感情の発露からの行動だった。

 

 パタパタと手足を跳ねさせる。時折手足を伸ばしてコロンと仰向けに、と思ったら今度は逆に転がる。彼らにとっては全く意味のない行為と感じるが、幼児にとっては心底楽しいのか鈴が転がる様な高い声を上げて笑っていた。

 

 これ以上は無駄だと判断した彼らが、また体の主導権を貰おうとしたところで幼児は手を前方に伸ばす。そのまま指を地面に食い込ませて腕を引き戻す。するとどうだろう、引きずる形ではあるが体は前方に進んだ。偶然の出来事ではあったが彼らが渇望していた本体の移動が出来たのだ。

 

 

ーー・・・!

ーーあるじ、モウいちど。モウイチど、ヤッテ

ーー『?・・・!』

 

 

 今度の意思疏通は上手く行ったようで幼児は理解したことを行動で示した。片手を伸ばし体を引きずりながら前進する。俗に言う匍匐前進である。肌が地面と接触している為地面を削りながらの行為であるが、その柔らかい肌には傷一つ付かず微かな痛みも感じない。その為躊躇なく続けていった。

 

 何度か繰り返し、十数メートルほど進んだ辺りで少しずつであるが移動する速度が上がっていく。単純に動きが早くなったのではない、動きに辿々しさが消え淀みなく次の動作に入るようになっている。行動が最適化され始めたのである。

 

 幼児の力だけでこのようになったのではない。中々主導権を貸してもらえない彼らが無理矢理介入しようとしていった結果、それが幼児の動きをサポートする形になり少しずつ無駄が無くなってきたのだ。

 

 それだけではない。より速く動こうとしていく毎に体が浮き上がり始め、最初に目標としていた四足歩行が出来るようになってきた。この様な経緯で幼児達は移動手段を得ることが出来たのである。

 

 

 最終的に柔軟且つ強靭な彼らの細胞で構成された肉体と彼等『オラクル細胞』達の緻密な補助のお陰で、移動できる様になった幼児は、日が傾き暗くなりつつある森の奥深くへと姿を消した。




主人公の体内は、脳を除いてほぼ全てをオラクル細胞で構成されています。体が拒否反応を起こさないように一度作り直した結果体を成長させました。但し、脳の一部は本来の体であるので知識、肉体の学習能力はアラガミレベルですが、感情等の学習が難しい部分は成長が著しく遅いです。

 脳にまで及んでいるので人格までオラクル細胞に侵される筈ですが、元々が宿主に依存する寄生生物であるが故に支配しようとはせず寧ろ宿主人格の補助を行おうとします。対話が出来ているのもこれのお陰です。
 無理矢理にも程がありますが、そこはご都合主義と言うことで一つ。

 というか全身オラクル細胞からスタートだと原作のソーマ・シックザールの誕生劇とほぼ同じになる上、その場合人格はアラガミだしシオみたいに人間を捕食対象から外せないしで世界の敵ルート、引いては世紀末一直線です。

 後オラクル細胞相手に15~16年も時間を与えたらヤバイと考えた結果、このような形になりました。



ーー追記 

因みに、主人公がこの時点で死亡していた場合野生化します。
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