数日前、某所とある一室にて
「強力な個性を持った子供?」
「はい。個性の詳細は不明ですが、●●町に半年前に現れてから郊外にある森から毎日のように町に近づいてくる奇妙な子供です。その珍しい容姿から当初は好事家達が手に入れようとゴロツキを幾人か雇っていたようですが、奴等が接触する回数が増えるごとにその子供は尋常ではない速度で力を付けているとのこと」
「ほう・・・だがそれだけで僕に話をした訳じゃないんだろう?」
「勿論です。ゴロツキだけでは最早捕獲は出来ないとみると今度は我々に依頼が回って来ました。我々としてもそれほどの強力な個性、必ずや
「それでせめて情報だけでも、と。たった数度君達と戦っただけで互角以上に成長した子供の個性・・・か。ただ強いだけの個性では無いのだろうな。確かに非常に興味が湧く。ならーー」
「
「今までは敵が数多くいる為に難航していましたが、この度その町にヒーローを配置するにあたって大規模な摘発を計画しておりました。その事前調査をした際にその子供の存在と」
「何やら強力な個性を持っている様で、
「それほどの個性を持つ人間を放っておく程、コレクターである
「其れ丈でなく、もしその子供が敵側に堕ちてしまった場合、将来的に相当な脅威になることは想像に固くありません。我々も万全のサポートを尽くすつもりですが、『奴』の手に渡る前に早急にその子供の保護をお願いしたいのです。・・・あの男にまともに対抗できるのがあなただけだとはいえ、貴方にばかり負担を強いるのは情けない話ですが・・・」
「HAHAHA!期待を背負うのがヒーローの本懐さ!これ以上世界を
「「僕が出よう/私が来た!!」」
「?」
森を跳び跳ねる様に駆け、もうすぐ町に着くという頃妙な違和感に襲われた。
ある程度町に近づけば喧嘩っ早いゴロツキの怒鳴り声が聞こえ始めることが常であるのに今日はそれが聞こえない。それに先程から感じる何かが焼かれているような変な臭い。町があるであろう方向の上空を見てみると何故気付かなかったのか不思議に思うほどに目立つ黒いモヤが複数立ち上っている。
いや、一応声は聞こえていた。だがその声や響いてくる音の質が何時もと気がした。
焦りの混じった怒号、絹を裂く悲鳴のような声や何かが崩れたときに起こる激しく大きな破砕音、それらが断続的に聞こえる。
一体何だ?、と疑問に思いながらも好奇心の赴くまま、速度を緩めることなく走り続け、目的地であるいつも町の中を観察する際に利用していた少し背の高い木の枝に飛び乗った。体重により枝がしなるが上手くバランスを取り、そのまま町の様子を眺めた幼児は目を見開いた。
「・・・・・・っ」
町はもう幼児が知っている風景では無くなっていた。
高く聳えていたコンクリート性の建築物はその多くがビルであったと思えないほどに崩れ、瓦礫の山を築いている。逃げ遅れたのか瓦礫の隙間には誰かの手足が力無く垂れ下がっていた。ビル以外の建物も同じく倒壊しており、あちこちで炎が燃え広がっている。住人達は倒れていくビルや火の手から逃れるべく、まさに蜘蛛の子を散らす様に散り散りになってはいるが、誰もが一心不乱に町の外を目指していた。何人かは道の途中で倒れ、血を流して動かなくなっている。
更に、町の至るところで大きな爆発音が響き、その直後には無事だった建造物は大きな音を立てて崩れている。崩れる瞬間に瓦礫の隙間から人影のようなものが複数、凄まじい速度で移動しているのが見えた。その人影同士がぶつかり合う度に辺りが吹き飛んだりしていることから幼児の浅い知識とは余りにも次元が違いすぎるものの、誰かが戦っている様だということだけは辛うじて理解できた。
あまりの豹変ぶりに混乱しながらも観察を続けると、他にも変な格好をした奇妙な集団が目に入った。
その集団は全員が同じ衣服を身に纏い、一見頼りなさげに見える半透明な平たい板、細長い棒を持っていた。彼らは何人かのチームを組んで逃げ惑う住人たちを瓦礫や炎を庇う様に間に立ち、町の外に逃がしている様だ。それだけでなく町でも見たことがないような奇抜な衣服?に身を包んだ生物も襲ってくるゴロツキと戦いながらその集団を守るように動いている。
ーーあるじ、ココ、あぶナイ、にげル
ーーアレ、まずイ、あるじ、きけん
ーー『わかった』
幼児は脳内から語りかけてくる彼らの進言に同じく脳内で頷いた。
流石にこの状況でのんびりしていられる程幼児は呑気ではない。町で戦っている何名かは今の自分より圧倒的に格上だと動きを見て理解した。この己の実力を把握する感性は、何度も戦い逃げては『彼等』と襲ってきた相手の戦力分析を繰り返した結果身に付けたものである。これのお陰で幼児は無事に今を生きていると言えた。
その経験が語りかけてくるのだ。もし、あそこで戦っている者達が自分に牙を向いたら到底太刀打ち出来ないと。
だが、判断を下すのが少し遅かったらしい。
直ぐ様町から離れようと体を森の方に向け、飛び出そうと足に力を入れたその時。
突然、感じたこともない特大の害意(悪意)に晒された。
「?!!?」
それが自分に向けられた害意であると理解出来なかったほど、余りにも大きく異質な悪意に体が思わず硬直してしまった。動きたくとも体全体が固定されたかのように微動だにせず、それ所か呼吸すら忘れてしまいそうになった。
「やっと来てくれた」
固まった幼児の直ぐ後ろから誰かが声を掛けてきた。”おかしい、今まで近くには誰もいなかった筈”、”ここは高い木の上なのに何故”と一瞬脳内で考えかけたが、近づかれたことにより強まった声の主から発される身の毛もよだつ悪意に無理矢理思考が塗り潰されてしまった。その状態でも後ろにいるこの生物こそが、自分が今こうなってしまった元凶だと本能的に理解させられた。
ーーあるじ、にげテ
ーーダメ、あるじ、うごカナイ
「――っ」
「何時もなら早朝から姿を現すと言うものだから日が上る前から楽しみに待っていたというのに、随分待たせたねぇ。お陰で『オールマイト』とその他有象無象も来て、かなり激しい準備運動をさせられた」
ーーにげテ!
”朝寝坊でもしてしまったのかな?いけない子だ”、と一見柔らかい口調で話しているこの生物。しかし此方に向けられる意識に含まれた害意は今までの比ではない。
これに比べれば、今までの受けてきた害意は寧ろ善意だったのでは無いかと勘違いしてしまいそうな程。それ程に異質で強大だった。
「駄目じゃないか。人と話すときは目を合わせなきゃ」
声の主は動けないでいる幼児の前に回り込み、屈みながら顔を覗き込んで来る。
だが目の前にある筈なのに黒い影のようにしか見えない。目が見ることを拒否しているかのように焦点を合わせられない。怖くて目を瞑りたくとも瞬きすら出来なくなっている。『彼等』が必死で呼び掛けているがそれに気付く余裕すらなかった。
「おかしいな。彼等が返り討ちに遭うほどの子供がこれしきの恐怖で動けなくなるなんて思えないんだけどね」
「一体どういうこと何だい?」
当然ながら問いかけられている幼児からの返答はない。いや出来ないと言うべきか。言葉をまだ理解していない上に生まれてこのかた会話処か対話すらしたことがない。
そして幼児が過剰なまでに動けなくなっているのには一つ大きな理由があった。
幼児は他生物から発される自分にとっての害意を感じとる
「まあいい」
返答処か身動きすらしない幼児の様子を見た声の主はどうやら痺れを切らしたようで、がっかりしたように嘆息すると腕を幼児の頭に向かって手を伸ばした。
(こわい・・・やだ・・・コワイ・・・)
ーー・・・る・・・
ゆっくりと自分に向かって伸ばされる大きな手。もう顔を手の影で覆う程の近さまで迫っている。何をされるのか全く分からないがあれに触れられたら自分にとって凄く良くないことが起こる、と恐怖で脳裏が一色に染まっていた中でも漠然とではあるが感じる事が出来た。それなのに未だ体は思うように動いてくれない。
ーーあるじ!!
ーー『・・・・・・!っ』
感情の波が最高潮を越え、一周して逆に冷静になれたのかほんの少しではあるが、やっと『彼等』の呼び掛けに意識を向ける事が出来た。緊急事態であるが故に何時もの冷静さは成りを潜め、滅多にない程に強く主張していた事も幸いした。
ーーワレワレ、あるじ、まもル
ーー『で、でも・・・どうやって・・・?』
返答を返したものの、幼児の感情には未だ怯えの色が残っている。それに逃げるにはもう遅い。もう何をやっても逃げ出すには間に合わないと判断できる距離だ。
ーーできル。
ーーまえ、ワレワレ、おしエタ、あるじ、あばレタ。おもイだシテ
その言葉に幼児は安定して日々を過ごせるようになった頃、「そろそろお互いに知らない情報を共有しよう」と彼等から話を持ち出され、自分が死にそうになった時どうやって生き延びてきたのかを体内にいる彼等を通して教えてもらっていた事を思い返す。
それは自身が本当に体感していると錯覚するほどに鮮明な記憶だった。視覚だけではない。触覚、聴覚などのその時に感じられるありとあらゆる感覚全てが再現されていた。勿論痛覚さえも。
見させられた直後はあまりのショックで半狂乱に陥り周囲を省みず暴れてしまった。木の葉を震わせる程の絶叫を上げて木々をなぎ倒し地面を抉る位には派手に暴れ、気付いた時には辺りにあった木や岩が消えて地面にかでくり貫いた奇妙な跡だけが残っていた。もし、拠点としていた森の奥地以外で見せられていたらどうなっていたことか。それに数日の間はふとしたことで思い出してまともに眠る処かじっとしていることすらできなかった。幼児にとってそれほどにショックな出来事だったのだ
このような反応をされたのに彼等は驚いたが、それ以上に幼児の脳にストレスとして多大な負担が掛かってしまっていた事が彼等にとって深刻だった。以降彼等はよりいっそう幼児の精神状態にも気を配るようになる。
過去の出来事に近いこの状況により、再び甦る体の大半を失い死にかけていた時の恐怖。少しずつ薄れ、自分という存在が溶けて消えて無くなっていくあの感覚を。
ゆるせない
ここまで来て漸く声の主に対する恐怖心が消えた。同時にふつふつと沸き上がるようにして感情が強まってくる。体が冷たく感じていたのに奥深くからドロドロと熱い何かが沸き上がってくる不思議な感覚。それは目の前にある理不尽に対する強い反抗心に強烈な怒り。戦っていた時ですら一度たりとも抱いたことがない攻撃的な感情。それが幼児と彼等を一つの行動に結びつける。
あの時は無意識ではあったが、生きたいと願ったからこそ一度目の偶然を現実のものにした。なら・・・今度は自分自信の意思でもう一度起こそう。
それは彼等の本能にして原点
(しにたくない)
ーーしナセナイ
(しにたくないからーー
ーー死なせてしまう前にーー
『『
『捕喰』である
(っ・・・?)
未だ抵抗すら見せない幼児の頭に触れた男『オール・フォー・ワン』は彼だけに許された固有の『個性』を発動させようとした時、一瞬であるが小さな、それも普通の人間では感知不可能な程に小さな違和感を覚え、思わず頭から手を離した。
だが、それで十分だった。
有機物、無機物、エネルギー、ありとあらゆるモノを喰らう単細胞生物群である彼等にとっては
チクリ
そんな擬音が聞こえてくる程の小さな痛みが、幼児に接触した手のひらに走る。気付いたオール・フォー・ワンは手のひらを自身の顔に向け、違和感のある部分を見る。
小さ過ぎることもあり見辛いが、よく見ると毛穴ほどの白い小さな痣らしきものが出来ていた。それがゆっくりと広がっているように見える。
「何だこれは・・・?毒物系の個性か?」
明らかな異常にこの現象の下手人と思わしき白い幼児を改めて見やる。ぱっと見たところ特に変わった様子はない。体勢すら動きを止めた時のままだ。
だが、目だけが違う。恐怖で焦点が合わずぶれていた目が今は確りと此方を凝視している。それも
「!っ・・・」
その眼を見たオール・フォー・ワンは直後、現在使用している個性の一つ『浮遊』を即座に解除、何らかの移動用の個性を使用したのか、いつの間にか幼児がいる木から離れた地面の上にいた。一瞬で数メートルの距離を取ったオール・フォー・ワン。その顔には驚愕の表情が微かに伺える。自分以上に戦闘経験を積んでいる者が居らず、個の強さにおいて自他共に最も頂点に近い人間の一人であると半ば確信してるこの男が、だ。
(あの眼は何だ?あんな眼で見てくる人間なんて今まで見たことがない・・・。さっきまで恐怖していた弱者特有の反応じゃない、あれはーー
反抗的、若しくは殺意といった攻撃的な視線は、男が生きてきた間で飽きるほど受けてきた。その類いであれば態々反応するほどでもない。だが、今受けている視線の質は凡そ人間が発するものとは思えない程に根源的で純粋、かつ動物的。男ですら初めて経験するものだった。
(・・・惜しいな)
しかし、動揺は直ぐに収まった。幾ら強く睨み付けてきたとしても男から見てみれば幼児のそれは脆弱も良いところである。・・・尤も、国内に名だたる殆どのトップヒーローすらこの男にとってはそう見えるのだが。
だがこの時、手に起きた異常の事を半ば忘れていた。男は毒物系に対抗できる『個性』を幾つも所持していた事に加え、目の前の幼児の『個性』が直接的な戦闘で発揮されるものであると考えていたことも大きい。何せそうでなければあり得ない身体能力を持っていたのだから。
(にしても実に面白い『個性』だ。見た目からして恐らく異形型なのだろうが、この僕でさえ見ただけではまるで内容が予想が出来ない。・・・もっと観察したい処だが生憎時間がないな。それにそろそろ
まるで新しい玩具を手に入れた後を想像する子供のように胸を踊らせつつ、今度こそ自身の目的を果たそうとこの場に最も合う『個性』を発動させようと右手を翳したその時
グチュッ!!
突如オール・フォーワ・ンの右手首部分までが、不快な粘着質な音を立てて
「!!」
音が聞こえた瞬間、痛覚が脳に到達するよりも早くオール・フォー・ワンは自らの右手を肩口近くまで一切の躊躇なく切り落とす。それは長い時を生きた彼の膨大とも言える年月に培わされた勘と戦闘経験が遺憾なく活かされた瞬間でもあった。
そして切り落とされた右腕は、男の行動の正しさを証明するかのように地面に落ちる直前には全て白い肉塊に成り果てていた。落ちた肉塊は、グニャグニャと挽き肉でも捏ねるかのような音と共に蠢き、溶けるように地面に白い染みを広がらせつつ沈んでいく。
「ぐっ!?・・・これも『個性』・・・か?」
(・・・触れたものを自身の体の一部として制御下に置く個性か?地面にも作用する所を見るにそれも生物、非生物問わずか。確かに強力、だが・・・)
”ならば先に本体をどうにかしてしてしまえばもままいい”、と思考が行き着いたオール・フォー・ワンは幼児に目をやる。腕からは大量の血液が流れ落ちているが気にするほどではない。何より高々出血ごときでは、百年単位で生きるオール・フォー・ワンを死に追いやるには不足に過ぎる。
しかし、視線を向けた先には幼児の姿はなかった。居ない、という理由ではない。幼児の姿を保って居ないという意味ではあるが。
「これは・・・繭?」
幼児の体色と同様の大小、太さ、細さ様々な触手というべき物体が、幼児の体を包み込むように幾重にも巻き付いていた。既に姿が確認出来ないほどに包まれ、乗っていた枝はオール・フォー・ワンの右腕のように白く変色し、それが木、地面へと際限無く侵食し始めていた。
男にはこの現象そのものには見覚えがないが、似たようなものは何度も見てきた。いや、自身でも実験と称し、態と他人に起こさせたりした事もある。複雑且つ強力な『個性』持ち程起きやすいそれ。『個性』が複雑化した現代では凶悪な事故にも繋がりかねない予測不可能なその現象。
(成る程、
まじまじと様子を伺っていた男が何やら気づいた直後、背後から突如として何かが着弾したかのような巨大な土煙と遅れて爆音が響き渡った。
爆心地から出てきたのはピッチリとした派手なアメコミヒーローを思わせるスーツに身を包み、鎧のような筋肉がスーツをこれでもかと言うほどに押し上げている。頭部には兎の耳、若しくはVの字をイメージさせる特徴的な髪型をしている筋骨隆々の巨漢が片膝と片腕を地面に付き、着地した体勢でそこにいた。
パラパラと細かい土砂が降り注ぐ中、その人物は立ち上がり、オール・フォー・ワンを睨み付ける。堀の深い顔立ちが目元の殆どを隠しているが、怒りを宿す眼光だけははっきりと見えている。
「見つけたぞオール・フォー・ワン!!」
「・・・しまったな。折角撒いたというのに、思った以上に時間が経っていたようだ。それもこんな時に」
”困ったものだ”とまるで困っているようには見えない表情でオール・フォー・ワンは片手を後頭部に手を回し嘯く。その言葉を聞き、巨漢『オールマイト』は漸く己の宿敵の片腕が無いことに気付いた。思わず目が見開かれる程度には驚いているようだ。
「・・・その腕とそこの白い球体はどうした?また悪趣味且つ大道芸染みた『個性』の組み合わせでも思い付いたか?」
「僕にそう言える人間は君くらいだよオールマイト。そうだ、と言えたら面白そうなのは確かなんだけれどね」
残念ながらそうじゃない。と白い繭状の物体を見やる。宿敵の目の前で隙だらけの様に見える振る舞いだが、この男に限ってはそうならない。事実オールマイトは明確な隙を見つけられず手を出しあぐねていた。
「腕はそこで繭になっている子供に喰われたよ」
「子供・・・?」
「僕と君達が探していた子供さ。尤も今は個性の暴走中だから何が起こるかはその子のみぞ知るって所かな?」
「!貴様・・・あの子に何をした!!」
おどけた口調で話すオール・フォー・ワン。対して聞いていたオールマイトの目付きがさらに鋭さを増し、威圧感も跳ね上がる。握っていた拳からはギチギチと音が鳴り、それが何れだけの激情を身に宿しているかが分かろうというもの。
つまり、既にワン・フォー・オールは保護対象であるその子供に『個性』を暴走させる程の何かをしたということの証左に他ならないとオールマイトは判断し、怒りを滲ませているのだ。
「ああ、勘違いしているようだから言っておくが、僕はその子にはまだ何もしていない。する前に暴走した、が正しいね」
「その言葉を信じるとでも思うか・・・!」
「まあ、僕としてはどう受け取ってもらっても構わないけどね。・・・其よりもいいのかい?僕の経験上、あんまり悠長にしてるとその子、君達にとって大変なことになると思うけどなぁ」
「何を言ってーー」
オールマイトが続けようとした言葉は途中で中断された。今までゆっくりと地面その他を侵食していた白い繭と地面から、濁流のように白い触手が飛び出してきたからだ。オールマイトは後方へと飛ぶことで回避し、オール・フォー・ワンは身動き一つせずに透明な壁でも作り出したのか触手が勝手に避けた様に見える。
飛び出した触手達が触れた場所からまた侵食されているのか白く染まり出し、染まった部位からまた触手が飛び出すを繰り返している。青々とした森の中が一転して白く染まり、あっという間に彼ら二人の周囲は白い触手に覆われてしまった。
「ほう、見えないはずなのに何らかの手段で此方を感知しているのか殆どが僕を狙っている。それに発動した『個性』に対しても効果があるのかな?物理的攻撃に強いこの『防御壁』が喰い破られそうだ。・・・勿体ないことをしてしまったな」
(本体は既に地面に沈み込む事で反撃から逃れようとしている。一人だったならならどうとでもなるが、オールマイトがいるこの場ではもう捕まえられないな。さっきは暴走とは言ったが、それにしてはやけに行動に知性が感じられる。本当に単純な暴走なのか怪しいものだ)
「これが、この子の『個性』・・・」
立ちすくんでいたオールマイトに何本かの触手が向かう。だが、それはオールマイト本人をを狙ったものではなく彼が立っていた場所に向かって伸びてきたため、少し移動するだけでなんなく回避出来た。
反対にオール・フォー・ワンには何百という触手が食らいつかんとばかりに殺到している。正気を失ってしまいそうな光景であるが、それも何かしらの『個性』で防いでいる様だ。しかし、徐々に触手との距離が詰められつつあった。
傍目には切羽詰まっているように見えるこの状況でもオール・フォー・ワンの顔には焦りの色は全くない。冷静に幼児の『個性』を観察する余裕すらある。
「・・・そろそろ頃合いか」
暫くこの状況を静観していたオール・フォー・ワンの呟きは小さなものだったがオールマイトの耳には届いていた。同時にオールマイトに背を向け空中に浮かび上がる。逃げようとする敵に対して、それでも触手は諦めてなるものかと高く伸ばすことで追い掛けて攻め立て続けている。
「待て、何処に行くつもりだ!」
「何って、勿論帰るに決まってるだろう?君と戦うには今の状態はよろしくない。・・・それに、もう僕達の目的は果たせなさそうだ」
「これだけの事をしておいて逃がすわけがないだろう・・・!」
「その子を放っておいてかい?」
その言葉にオールマイトはぐっ!と呻いた。心情としては片腕を失い、明らかに弱っている怨敵。追い掛けて今度こそ捕まえたい処であった。が、それが出来ない理由がこの場には居た。
「ハハハ!守るものが多いのは君にとっては本望だろうがこういう時は難儀だねぇ!」
「・・・ハッ!そう言う貴様は子供相手に自分の腕すら守れない様だがな」
「・・・そんなこと言って良いのかなぁ?」
オールマイトの意趣返し混じりの挑発にほんの少しピクリと反応したオール・フォー・ワンであるが、直後何か思い付いたのか口角を吊り上げ笑みを作った。
ただの笑みではない、嘲笑が多分に含まれた、見るものを不快にさせるいやらしい笑みだ。嫌な予感がしたオールマイトは冷や汗を流しながらも、男が何をしても対処出来るよう身構えた。
そのままオール・フォー・ワンは空を飛びこの場を離れていく。
「!っまさか!」
行動の意図に気付いたオールマイトは目を見開いて直ぐ様追い掛けようと飛び出した。
同時にオールマイトが居た場所が白い津波によって飲み込まれる。
「貴様っ!この子に・・・この子の『個性』で
「見たところこの子は僕だけを狙っている。だから君はこの場に限り僕を捕まえる事は出来ない!これは僕を感知し続けている限り拡大し、追い掛けてくるだろう。・・・何処までこの子自身が耐えられるのかは知らないがね!」
頑張って町の人達を避難させたまえ、と高笑いを空に響かせながら飛び去っていった。当然、触手も猛烈な勢いで範囲を拡大させながら追い掛ける。オールマイトが初めて見た時は太くても腕位だったのが、この短時間で人間の胴体程に成長している。もし、これが町中に入り込んだらどれだけ凄惨な事になるか想像に固くなかった。
「何て事だ・・・!」
(この子の暴走を止められれば最上だが、奴のあの様子とこの状況。恐らく触れるだけでも相当に危険な『個性』!本体である子供が何処に居るのかも分からなくなっている現状では近づくことすら難しい・・・!)
その上、本体と触手が痛覚等も共有していた場合、下手に攻撃するのも危険。矛先が自分だけに向けばまだ良いが最悪両方を標的にされたら町の住人達の救助すらろくに出来なくなってしまうだろう。
業腹だが奴の言う通り先に人々を避難させなければ、と暫しの葛藤の後地面が捲り上がる勢いで走り出した。
子供一人助けられなかった己の無力さ加減に怒りを感じながら。
(どうか、この暴走が止まっても無事であってくれ・・・!!)
幼児に対してオールマイトに出来たことは、この事態が終息した後、生命的にも
後に箝口令が敷かれ、表向きには『敵グループによる組織的な大規模テロ』。実際に参加したヒーロー、警察関係者からは■■事件と名付けられたこの事件は、オール・フォー・ワンが態と町を周回するかのようにゆっくりと逃げ回った事で町全体に被害が及んだ。
捕らえたくともその間に迫る触手は生半可な攻撃では止める事は叶わず、より成長を助長させてしまう始末。さらに範囲が拡大する毎により大きく、より速く侵食する白い触手から人々逃がす為にヒーロー達は奔走するしかなかった。一刻も早く立ち去ってくれる事を祈りながら。
やがて満足したのかオール・フォー・ワンが上空から姿を消したのは、町のほぼ全てが白い触手によって呑み込まれた後だった。
最終的に一本一本が小さなビル程の大きさ迄に成長した触手達は追い掛けていたオール・フォー・ワンが姿を消すと、ある一点に向かい収束、縮小していった事で事件は幕を下ろした。
ヒーロー達の活躍もあり、この事件の死傷者及び行方不明者は約■■■名までに抑えられたと記録される。その中には保護対象とされていた白い幼児も
だが関係者の中でそれを指摘する人間は居ない。
証拠となるものは全て呑み込まれ、町のあった場所は巨大なスプーンでくり貫いたとしか例えようがない巨大なクレーターだけが残されたのだから。
??「ムシャムシャしてやった。今は(得た情報を)反芻している」
主人公はユーバーセンス擬きが過剰に働いた事も手伝ってこのような反応になりました。
オールフォーワンが噛ませ犬に近い扱いをしてしまったことに関しては申し訳なく思います。
カリスマ性が表現出来ない...