おなかすいた   作:オーレリア

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文章が安定しないので暫く此方を優先します。

思い付きで書いているので矛盾点が多発しないか不安です。


いつの間にか高評価を頂いていたようで、誠に有り難う御座います。


胎動

 様々なコードやモニター、傍目では用途が分からない機器がところ狭しと置かれ、元が広い部屋だったとは思えない少々手狭に感じるとある一室。だが中には数人の白衣を着た人間がモニターの画面に目を凝らし、資料と思わしき紙媒体と見比べていたり、機器を操作したりと忙しそうに動き回っている。

 

 そんな軍事施設か何かを思わせるものものしい部屋の分厚い扉から独特な機械音を響かせ入ってきたのは二人の人物。一人は体に包帯を巻いた巨漢『オールマイト』。もう一人は巨大な注射器を模した杖を付けた、オールマイトとは対照的に小柄な体格をした老婆。

 

「先生、()()()の様子は、どうですか・・・?」

 

 老婆と共にオールマイトは通常のものより遥かに太い点滴スタンドを杖代わりにふらふらと覚束無い足取りで、現在その部屋に居る数人の人間の中から一人の研究者に近寄り声をかけた。

 

「!貴方は・・・あの子は相変わらずです。それよりも御自分の身の心配して下さい。まだリハビリが出来るほど治りきっていないと『リカバリーガール』さんから聞いています」

 

 入ってきた男の以外な正体に気付いて驚きで目を見開き、だが直ぐに冷静さを取り戻した先生と呼ばれた男は、続いて非難を込めた視線を老婆に送る。あなた程の人が何故厳しく止めなかったのですか、とその目は物語っていた。

 

「あたしらも安静にするようにと口を酸っぱくして言ったんだけどねぇ。下手に止めると無理矢理でも此処に来ると言って聞かなかったのさ」

 

 諦らめた様に肩を竦めて言葉を吐いたリカバリーガール。疲れきった声色と表情には、彼女も医師として必死に止めようとしていたのだろうと白衣を着た男にも伝わった

 

 

 事件後、警察やヒーロー達にとっては幸いなことに、逮捕された敵の中にはオール・フォー・ワン子飼いの部下が複数居た。個性も使用した徹底的な尋問によりオール・フォー・ワンの拠点の情報が数多く得られ、そこからこの期を逃してはならぬと判断した警察とヒーロー協会はヒーロー達の中からトップレベルの実力者のみを選出。表向きは敵拠点の摘発として、裏ではオール・フォー・ワンの追跡調査が全国規模で行われた。

 

 しかし、片腕を失い組織的な力を多少落としたとしても長年悪の首魁として君臨した男。拠点を潰しても潰してもそこから新たな拠点の情報が次々と沸いて出てくる。結局、オールマイトがオール・フォー・ワンを追い詰めることができたのは、事件から2ヶ月たった後だった。

 

 ヒーローと敵。二つの勢力で頂点に君臨する者同士の戦いは熾烈を極めた。だが片方は片腕を失い、もう片方は万全の状態。この違いが優劣を分けた結果。オールマイトが勝利し、敗北したオール・フォー・ワンは死亡したとヒーロー・警察側からは判断された。だが、勝ったとはいえオールマイトも無事では無く、重傷を負い病院へと緊急搬送される事になる。

 

 術後、病院のベッドで横になる日々を送っていたオールマイトは、自身の悲願達成の一助になった。しかし、救う事が出来なかった子供の事が気掛かりだった。

 

 オール・フォー・ワンを倒すまでは気が抜けなかった為、罪悪感とともに頭の隅に追いやっていたがベッドの上でじっとしているとどうしても脳裏に浮かんでくる。そこで事情を知る主治医のリカバリーガールに聞いてみると、何と事件から既に数ヵ月も経っているというのに未だに事件当時のままの姿を保ち、何も進展が無いことを知らされ愕然とした。

 

 動けるようにはなったがこれから暫くはリハビリが必要、と診断されていたばかりだった彼は、いてもたってもいられず直ぐに足を引きずりながら、この施設に来ようと動き出した。

 当然周囲はいきなり外に出ようとするオールマイトを必死に止めた。しかし重傷の身であっても元々常識外の膂力を持つこの男を止められる人間はこの国には皆無と言っていい。よってせめてもの妥協案として、この特殊な施設に足を踏み入れることができ、且つ医療知識が豊富で、もしもの時即座に対応できる彼女が付添人に選ばれたのは極自然なことだった。 

 

「こほっ・・・当然です。あの子がこうなってしまったのは私の責任。それにあの子のお陰で奴を仕留められたと言っても、こふっ・・・過言ではありません。私にはあの子を見守る義務がげほっこほっ・・・あります」

 

 苦しそうに咳をしながらも話すことは止めない。未だに立つことすら苦痛を伴うだろう体でこの場所まで来ている事から知ってはいたが、改めてその目に宿る凄まじいまでの正義感と意思の強さに少しの畏怖を覚えて、先生と呼ばれた男はそれを誤魔化すように咳払いを一つ。続いてモニターに視線を戻す。

 

 釣られて二人も部屋に数あるモニターの中で最も大きなモニターを見た。

 

 

 

 映っているのは対象物が見やすいように壁、床、天井に至るまで暗い色で構成された部屋。その中で異彩を放っていたのは、中央に鎮座している白い球体だった。

 

 それは基本的に真っ白で綺麗な球体を維持していた。が、時々脈打つように形が僅かに崩れ、その度に表面にほんの少し別の色のインクを垂らしたような奇妙な模様が浮かび上がっている。

 

 どう見ても生き物の形には見えない。だが一定周期に起こるその動きは呼吸をしている様などこか生物的な印象を与えていた。

 

「・・・この子がこの状態になってから既に3ヶ月。恐らく、蓄えた膨大なエネルギーを生存のために回しているのでしょう。多くの人間の『個性』を診てきましたがこんな事例は初めてです」

 

「今時同じ事例の方が珍しいと言えるけどね。・・・でも、長期間こんな状態になる個性は早々無いのも確かさ」

 

 リカバリーガールは同調するように頷いた。個性柄、医療に関して国内有数である彼女もこの球体について深く関わっている。その彼女ですらこの球体・・・子供には手をこまねいていた。

 

 

 モニターに映っている物体の正体は個性の暴走により、町をまるごと呑み込んだ白い幼児だったものである。

 

 町が触手に呑まれすべて白く染まった後、染まった部位は一点を目指して集まり白い球体を形作った。地面まで深く侵食していたらしく、町があった場所はスプーンでくり貫かれたような半球状のクレーターになり、その中心に球体は転がっていた。

 

 運び込もうにも接触するには危険が伴うのはその場に居合わせた全員が理解している。少数精鋭のため人数は少なかったが、幸いな事に現場には遠隔で対象物を動かすことでの救助を得意とする『個性』持ちのヒーローがいた。彼に運んで貰おうとするのは自然の流れだった。

 

 直ぐに彼は球体を丁寧に浮かせ持ち上げた。あれだけの質量を一点に集めたのだ。最悪質量の関係で持ち上げる事が出来ないのでは、と思われたが不思議と見た目よりも軽い。どうやらそこまでの重量は無いらしい。

 

 後はこの状態を何とかするために医療、若しくは研究機関に運び込むだけ、となったところで事態は難航した。

 何トンもの重量物でも軽々と運び込めるそのヒーローが運ぶことが出来なかったのだ。浮かせることは問題なく出来た。が、動かそうとする途端に彼は目を見開き、球体を凝視する。様子をいぶかしんだオールマイトを含むヒーロー達に声を掛けられても、相当に集中しているのか反応すらしない。表情には冷や汗が流れ、暫くすると落としてしまった。

 

 その後何度も運ぼうと試したが結果は同じだった。唯一多大な集中力を要するが、浮かせた状態で彼ごと移動させることにより運ぶ事が可能だと判明し、最終的に大型のトラックに球体を浮かせた状態の彼を乗せ、この施設に直接運び込まれることとなった。

 

 その後、本人の証言では”やったことはないが、まるで素手で鰻でも掴んでいるような感覚だった。掴んで持ち上げる所まではできても、少しでも動こうとすると途端にすり抜けてしまう。こんなことは初めてだ”とのこと。

 

 

「何せこの子には殆どの検査機器が使えない。機器を接触させると触れた部分から取り込まれる。当然、体組織の採取も出来ない。その上、レントゲンや電波も通さないせいで機械では中の様子は一切わからないときた。出来るのは表面上の観察だけ。ほんと医者泣かせで手がかかる子だよ」

 

「その点に付きましてはこちらの資料があります。リカバリーガール」

 

 よくこの施設まで運び込めたもんだ、と感嘆する様に呟き、職員に勧められるままに備え付けられた机の上にある資料に目を通す。分厚い資料であるがこういったのは慣れているのか、淀みなくパラパラと捲り読み進めていく。後ろではオールマイトが心配そうにその様子を見守っていた。

 

「・・・『サトリ』に『クレボヤンス』・・・成程、機械が使えないなら『個性』による検査か。そうせざるを得ないとは言え、あまりこの件に人を増やしたくはないんだけどねぇ」

 

「我々も本来ならそうしたい所なのですが、この状態では専門とした『個性』持ちの方に頼らざるを得ないのが現状です。現在の多様な個性に対応した様々な機材も、使えなければ無用の長物となってしまうのは此方としても非常に歯痒いのですが・・・」

 

 分厚い資料に含まれていたリスト。その中には戦闘にはあまり向いていないものの、救助者の捜索や諜報活動など事専門分野に至っては第一線を張るヒーロー達の名前が書いてあった。その中にはオールマイトも知る人物も含まれている。

 

「・・・・・・して、リカバリーガール。あの子の様子について何か解ったことは・・・?」     

 

 痺れを切らしたオールマイトが恐る恐るリカバリーガールへ声を掛けた。自分も相当に酷い状態だと言うのにこんな時でも他人の事ばかりなのは相変わらずだね、と思いながらも説明するために口を開く。

 

「結果的に言うとあの子は今、非常に危険な状態にある」

 

 いかな怪我人の救助も行うトップヒーローとは言え、専門的な用語は門外漢な為、素人でもある程度理解しやすいように言葉を噛み砕いた内容だった。

 

「話が変わるけど芋虫が蛹から蝶に成る際、蛹の中でどんな変化が起こっているか、知っているかい?」

 

「・・・確か、一度体を溶かして成虫に成るとテレビで聞いた覚えが――まさか?」

 

 あり得ない。若しくは信じられない。と言う表情を浮かべモニターに視線を移したオールマイトに対して、真剣な顔色の彼女はそのまま話を続けた。

 

「そう、一部の脳神経と臓器を除いてドロドロのコロイドと呼ばれる状態になるまで体が溶ける。知っていたのかは分からないがあんたから聞いたオール・フォー・ワンの繭って言う表現はとても的を射ていたのさ。

 あの球体の中に居るあの子の体は今、脳を除いて何も無かったらしいよ。・・・そんな状態でも生きているのを見たクレボヤンスは、見た瞬間その場で嘔吐してしまったそうさ。無理もないね」

 

 告げられた内容は悲惨の一言に尽きた。

 

 体の一部か全てが液体、気体に成る等不定形な身体機能を持つ個性持ちは珍しいがいない訳ではない。しかし、彼らは得てして生まれた当初から、若しくはそういう個性持ちとして当たり前に生きている。だが、脳以外の全てが不定形と言うのは異常だ。もし、何かの弾みで脳だけが体外に露出、放り出されたとしたらそれだけで死が付き纏うだろう。

 

「個性によって生かされている。と言うことですか。なら、元に戻れる可能性も・・・」

 

 同時に希望も浮かび上がっていた。そういう個性ならば本能的に自ら体を再構成する可能性もある。

 

「無いとは言い切れないよ」

 

 その言葉でオールマイトの顔色が若干良くなったように見える。だが

 

「可能性は確かにある。でもね、それは個性の暴走が無かったらの話さ。考えても見てごらん、町を丸々体内に取り込む程の暴走をしたのは制御訓練もまともに受けていないだろう子供だよ?それほどの大質量、間違いなく影響は大きい筈さ」

 

 ”それこそ人の形に戻れる保証は何処にも無いさね”

 

 続けられた言葉は絶望に叩き落とすのに十分だった。サァ、と血の気が引き、顔が青ざめ体温が一気に低下したとオールマイトは錯覚する。

 

「そんな・・・」

 

 今は生きている。しかし、それが何時まで続くかわからない。人間に戻れるかも分からない。オール・フォー・ワンから助けられなかっただけでなく、人としての人生からも外れてしまうかも知れない。その事実にオールマイトは自身の足元に大穴が開き、落ちていく様な錯覚をした。

 

 今まで救おうとした人の中で取りこぼした人がいなかった訳ではない。それでも『人を救うこと』それに人生を捧げてきたオールマイトにとっては、今まさに救いたい人物を目の前にしながらもどうしようもない状況と言うのは、余りにも辛いものだった。

 

 

 

(全く、トップヒーローになって立派な大人になったと思ったが、こういう一つの事に入れ込みやすい所は相変わらずだね・・・)

 

 落ち込んでいる巨漢を見上げながらもモニターに映る子供をどう助けるべきか考え始めるリカバリーガール。彼にはああは言ったが、戻れる可能性は無いわけではない。そして、幾ら低かろうが可能性を手繰り寄せる為に諦めるつもりなど医師としても、ヒーローとしても毛頭無かった。

 

(さて・・・どうするべきかね?)

 

 長い年月を掛けて溜め込んだ、深く広い知識の海に思考を沈めようとした時、視界の端から誰かが近づいてきたのに気づいた。

 

「――確かに元に戻れる可能性は非常に高いと考えられます。ただ、他にも気になる点が有りまして・・・」

 

 少々強引に話に割って入ったのは研究員の一人だった。この暗い空気に耐えられず話題を変える意味を含めて話しかけたらしい。先生と呼ばれた男もこの空気には思うところがあったのか咎めるようなことはしなかった。

 

「・・・どれだい?」

 

「此方です。ヒーロー『サトリ』さんの検査結果とあの球体の表面を特殊な顕微鏡で拡大して撮った映像なのですが・・・」

 

「これは・・・」

 

 此方をご覧ください、と二つの資料を取り出してリカバリーガールに見比べさせた。片方は心を読むことが出来る個性を持つヒーローサトリの診断結果。もうひとつは球体の拡大した映像だ。ぱっと見ではこの二つは見比べても共通点があるようには見えない。だが、彼女の目にはどんな意味を持つか理解した。神妙な顔つきで資料を眺めている。

 

 サトリの診断結果では心を読むことが出来なかった。まるで、大規模なイベント会場内のごとく『大量のノイズ』が表層部分から聞こえ、まともに読み取ることが出来なかったと言う。

 

 もう一つ。拡大された映像に映っているのは生物の細胞だ。ただし、見た目の特徴からでは今まで確認されたどの生物との細胞とも一致しなかったと報告されている。此方は運び込まれた初期の時点で取られている映像で、機材が取り込まれる瞬間を撮影したものだ。この映像からは各細胞がそれぞれ個別で外部の物質に対して『補食』を行ったことが確認された。

 

「まさか・・・そういうことかい?」

 

「ええ、恐らくは」

 

「確かにそう言うことならば辻褄は合うね。しかし・・・」

 

 真剣な顔で議論を始めたリカバリーガールと研究者達。いつの間にか部屋にいたオールマイトを除いた全員が集まり、資料とにらめっこしながらあーでもないこーでもない等と言い合っている。

 

 落ち込んでいたオールマイトが部屋内の異変に気づいたのは直ぐだった。人だかりを見て、”あれ・・・もしかして私・・・のけ者?”とネガティブに考えてしまったのは、彼がまだ落ち込んでいた名残からだろうか。

 

「あのぅ・・・」

 

「だから・・・!、ああまだ居たのかい。少しは気持ちの整理がついたかい?」

 

「いや、まだ、ですけど。そのぅ、なんのお話をしてるのかな。なんて・・・」

 

「なんだい。煮え切らないねぇ。折角こっちはあの子が助かる可能性が上がるかもしれなーー「本当ですか!!」・・・いってのに急に元気になるんだから現金な子だね」

 

 降って湧いた希望、そうとしか思えない言葉に即座に食い付くオールマイト。ずずいっと近寄った為、身長差も合間って相当な絵面になっている。周りに居た人は一歩引いた。

 

「いや、まだ可能性の段階だよ。・・・・話は変わるけどオールマイト、あの子はああなる前から全身が白かったのは間違いないんだね?」

 

「え、いや。お恥ずかしながら私が発見した時には既にこの状態になっていました。・・・しかし、あの子の情報が出回っていた頃から全身が真っ白であると言う身体的特徴は共通していました。ですので恐らくそうではないかと」

 

「そうかい・・・だとすると、これはもしかするかもしれないね・・・」

 

「リカバリーガール?」

 

「患者でもない人間に希望的観測を言うのは医者としてどうかと思うけど、今のあんたは見てられないからね」

 

 そこからリカバリーガールと研究者達を交えたオールマイトへの説明が行われた。時々専門用語が何度も飛び交い、彼の頭からハテナマークが浮かぶことが何度も有ったが滞りなく進んだ。

 

 彼女等の説明は予々このようなものだった。

 

 

 観察できる表面上のみであるが、あの球体は同一の細胞で構成されている。

 それら全てが有機物、無機物、X線等問わず取り込む器官を持つ。

 機器の出力を幾ら上げても変わら無い事から表面だけに阻まれてるとは考え辛く、もしかしたら内部も同様の細胞で構成されているかもしれない。

 その場合、本人の脳は取り込まれることなく平然としているのが大きな疑問。

 オールマイトの言葉が正しければ、人型の時から似たような状況だった可能性がある。

 意思さえあればどんな生物の心でも読む個性持ちが、大勢の人間の中に居るような感覚を感じとり、表層しか読めなかった。

 そのことから、信じられないが少なくとも表層の細胞の一つ一つに意思、若しくはそれに類似した何かがあるのかもしれない。

 もし、本当に細胞全てに意思が有るのなら、本人だけでなく球体を構成する細胞達が以前の姿を記憶していて、自ら人型へと戻る可能性はありえる。

 

 

 説明を一通り聞いたオールマイトは、叩き込まれた内容をゆっくりと時間を掛けて頭の中で反芻する。正直理解があまりできていなかった部分も勿論あった。しかし、彼にとって今何より欲しいのは結果だ。

 

「・・・・・・つまり?」

 

「以前の人型に戻れるかもしれないってことさ。相当楽観的に見れば、だけどね。やはり、取り込んだ質量が問題。体を再構成するには大量のエネルギーが必要と考えられるけど幾らなんでも過剰なんだ。そこがどうしても取り除けない不安要素さね」

 

「しかし、逆に言えばその取り込んだ分を何かしらの形で放出できればーー」

 

「人に戻れる可能性はぐんと上がるって訳さ」

 

 希望が出てきた。まだか細く頼りないが時間を掛けていけば、手の内様が無い状況からは脱却できそうだった。それを聞いたオールマイトの体に自然と力が入る。冷えていた体に熱が満ち溢れる。

 

(・・・今度こそあの子が救われる!!こうして入られない!)

 

「リカバリーガール!私にも出来ることはーー」

 

「療養だね」

 

 

「・・・・・・え?」

 

 どうやらやる気が空回りしてしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

(オールマイト。あんたは気付かないのかい?)

 

 隣で喜び勇んでいるオールマイトを尻目にリカバリーガールは再び資料を眺める。冷静に読み進めるその細い視線は何処か冷たさを帯びていた。

 

(実際の所、コンマ数%にも満たない絶望的な状況てはあるものの、確かにこの子が助かる見込みは出た。でも同時に、またあの町を呑み込んだ、いやそれ以上の規模の暴走が起こる可能性が常に付きまとってるんだよ・・・)

 

 取り込んだ分のエネルギーを生存するために回している。なら、もしそれが足りなくなった場合、どんな行動をこの子供は引き起こすのか。

 

 奇跡的に人型に戻れるなら最善。この子にとっては不運だろうが、人型に戻れず一生を終えたとしても暴走しなければまだマシだろう。最悪なのはこの状態が続いてエネルギーを求め再び暴走を始める事だ。

 

(そうなったらいくらこの施設でも保護し続けることは不可能。上の連中はそれを見越して何処か遠くに隔離して放置する――なんて話もあったけど言わない方が良さそうだね。それと細胞毎に意思が有りそうなことも気掛かり・・・)

 

 本人以外の意思を持つものと体を共有、使役する個性は存在する。だが、ものには限度がある。細胞毎に意思があるのなら億処か兆を越える数の細胞達を今までどうやって制御していた?と言う疑問が残るのだ。

 

(そんな数、本来なら人間に制御できるわけがない。人の形を保つだけでも奇跡ってもんさ)

 

 資料から目を離し、周囲の研究者達の様子を伺う。彼らは真剣にモニターや機器を見ているが何名かは顔色が余り良くない。ここに長く勤めている人間ほどその傾向が強い。彼らは理解しているのだろう。何時襲ってくるのかも分からない災害の目と鼻の先にいることを。

 

(それもこれも今のあの子が寝ているだけなのか、それとも起きていてどうしようもない状況なのか、せめて知れるだけでもある程度解決できるんだけど、脳波測定もできないからねぇ・・・)

 

 前途多難だ。そう心中で一人ごちた。

 

 

 

 その後、オールマイトが病院に戻った際はまた無茶な外出をされたら敵わないと、医師達総出でベッドの上に運び込まれ、常に病室では誰かが監視するという状況が出来上がったが完全な自業自得である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーあるじ・・・マダ、ねテル・・・?

ーーねテル、そと、こわイッテ

 

 球体内部で彼らは主人である子供の周りを取り囲み、次の肉体の再構成を行っていた。とはいっても膨大なエネルギーと情報量のせいで今だきちんとした形には出来ず、今はどの様に作り直した方がより効率が良いのか今まで得られた情報の中から取捨選択している段階だった。

 

ーーあるじ、まもレナカッタ・・・

ーーうごケナカッタ、なぜ?

ーーあるじ、うごケナカッタ、ワレワレ、うごケナカッタ、まもレナカッタ

 

 彼らは危機感に苛まれていた。何もされなくとも本能的に今まで相対した人間がかわいく見えるほどに強大な敵。天敵と出会したかのように動きを止めてしまった自分達の主人。今回は主人の感情を焚き付ける事で逃れることができたが次に出会ったらどうなるか。同じ手を使おうにも今だ眠っていることから主人への負担が大きかった。そう何度も使えないと彼らは判断した。

 

ーーどうスル・・・?

 

 肉体をより強くするだけではまた主が動けなくなったら意味がない。自分達が動かそうとしても肉体の優先権は基本的に主人の物だ。主人自ら委ねられた時か意識がないとき以外は彼らは肉体を操作できなかった。それ事態に不満は一切無い。主人の意識から無理矢理肉体を奪い取るということは、自分達の存在意義を否定すると動議だからだ。

 

 だがこのままでは主人を守れない、それが彼らには耐えられなかった。ならばどうするか。

 

ーーアイツ、にげタ、ワレワレ、はなレタ

ーーワレワレ、はなレル、あるじ、まもル

 

『主人の肉体は使えない。なら自分達が自由に使える肉体を作れば良い』

 

 彼らがその考えに行き着いたのはオール・フォー・ワンに接触され、何かをされそうになった時だ。一部の彼らは自らを主人と切り離し手のひらに付着することで奴の片腕を喰らう事に成功した。本来なら相手の肉体まるごと食いきるつもりだったが。

 

 それ以前に主人を襲う人間達は傷を負うなどで仲間の動きが鈍くなると無事な者が庇うように前に出て戦っていた。あの時は何を無駄なことをしている、と考えていたものだが成程、自分達に置き換えると主人を守るにはこの手以外に無いだろうと彼らの中で結論が出た。

 

ーーはなレタクナイ・・・

ーーあるじ、まもレナイ・・・こんどコソ、まもル

 

 この結論に抵抗を示す細胞達もいた。寧ろそちらの方が多かったかもしれない。彼らにとって主人と一緒にいることは当然の事でそれが本能でもあったからだ。だが主人の肉体を強くするだけでは現状では不足と言うことも理解している。やがて全員が納得するようになった。

 

ーー・・・・・・わカッタ

 

 今のままではまだ足りない。主人自身がただ強いだけでは大きな脅威に対抗するには意味がない事を彼らは学んだ。主人を守るには外からも守れる強いモノが必要だと。

 

ーーあるじ、マモル

ーーまもル

 

 

 

ーー『守る』

 

 球体が大きく脈動した。

 

 この時、外の人間達はその現象を観測したがその理由、意味を知ることが出来た者は誰もいなかった。




オールフォーワンの片腕をもぎ取った結果。現時点のオールマイトは大怪我を負ったものの、原作よりも軽くなりました。

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