そして良いタイトル名が思い付かない・・・。他の作者様方は良く思い付きますね・・・。
後、前回でアルダノーヴァっぽいのがでましたが、まだシルエットで人型と分かる程度。時間が経つにつれ原作の姿に近づいていく設定です。
能力も同様なのでまだ浮けませんし、エネルギー弾等も使えないです。経験が足りないので使ったことがないモノはいきなりは使えないと考えました。
「此処は・・・」
目が覚めたらここ最近まで見慣れていた天井が視界に入っていた。独特の薬品の臭いが脳の記憶中枢を刺激し、自身が今病院のベッドの上に居ることを悟る。
だが、寝起きで鈍っている頭では何故ここに居るかが思い出せない。最近退院したばっかりだった筈だ。健康には気を使っていた方だから病気なんてしてないし、ましてや大怪我なんてーー
「そうだ!あの子は――ッ~~!!」
自分が此処に居る経緯を思い出し、ベッドから飛び起きようと体に力を入れた瞬間、全身特に腹部から鋭い激痛が走る。声にならない悲鳴を上げ、痛みに悶えていると横から聞き覚えのある声が聞こえた。
「気が付いたかい?」
「り、リカバリーガール・・・」
身動ぎするだけで激痛が走る為、視線だけ横にずらすと、ここの所御世話になり過ぎて頭が上がらない御仁がいた。呆れたような表情をしている様に見える。
「全く・・・無茶するなと言った矢先にこんなことになるなんてね」
「め、面目ありません。・・・それで、あの子は――」
「喋らなくて良い。今のあんたは重症で、前の傷も開き掛かってたんだ。・・・あの後の話だろう?全部話すからじっとしてな」
そこからはオールマイトが身を呈した努力の末、例の白い子供を保護する事に成功したその後の話を、半ば説教と愚痴混じりに説明された。
今回の立役者であるオールマイトは保護した直後に出血多量によるショックで気絶。即座に病院に搬送された。
大量出血に骨折、内臓気管損傷等の重症を負ったオールマイト。特に貫かれた腹部の傷が深刻で、長時間にも及ぶ手術の末何とか一命は取り止める事は出来た。しかし、少し前から蝕んでいた個性の使用制限、身体機能の低下等の後遺症がより酷くなったのは避けられなかったという。
これにはオールマイトは自業自得さ、と苦笑いで答えた。
保護された子供は、あの後暫くは眠ったままだった。その場にいたリカバリーガールが直接診た結果、極度の緊張による精神的な疲労の可能性が高いと診断される。
その他眠っている間調べてみたが、案の定現在の姿でも機器による検査は出来なかった。それでも、接触による物体を取り込む現象が無くなっていたのは幸いだろう。・・・今度は肉体が頑強過ぎて結局検体が得られないままだったが。
「その時に分かったんだけどね――子供の体には外見上、
「・・・は?」
「クレボヤンスにも診て貰っても同様。骨格から内臓に至るまで普通の人間と変わらない。でも、そこだけが無かったそうさ。――まるで必要ないからと取っ払ったみたいにね」
「それは・・・」
そんな身体構造では生命活動に支障をきたすのではないか?彼女にそう聞いたが、あの子が時間が経った今現在も問題なく生きているということはあれで正常な状態、ということらしい。
「私はあの子があの部屋で機械の残骸を食べていたのを見ました。ならば食べたものは一体何処に・・・」
確かに保護される以前からそのような噂はあった。普段あの子供は穴だらけのぼろ布しか纏っていなかったのだから。しかし、それはあくまで噂話、もし本当だとするのならそれは人としてあり得るのか?
「さあねぇ。全てが効率良くエネルギーとして取り込まれているのか、はたまた別の何らかの形で排出されているのか。――分かるのは、よりいっそう調べなきゃいけないことが増えたってことさね」
"これ以上の仕事は老体には堪えるさね"そう答えたリカバリーガールの顔は疲れきっており目元には隈が浮いている。恐らくオールマイトの手術による疲れだけのものではない筈だ。限られた状況で調べ尽くしてこの結果なのだろうとオールマイトは理解した。
「それとあの子には性別も無い。そう言う事ですか?」
「かもしれない。だけど見た目状見えないだけで実は性別がある、なんて可能性も捨て切れない。・・・せめて細胞一つでも採取出来れば染色体や遺伝子情報やらで多少は予測出来るんだがねぇ」
その他、子供を守る様に覆い被さっていたオールマイト以上に巨体である二体の生物。あれは現場に居た者全員の証言通り、子供の個性の一部だと推測された。本人が拒否すること無く側に居ることを許しているのだからと、そうとしか考えられなかったからだ。
二体がオールマイトを攻撃する度に動きが鈍くなっていたあの現象。その後の経過を観察するに生まれたばかりでエネルギーが足りず、あの時点でガス欠寸前の状態だったかららしい。
「で、ここからが今あの子の状況さ」
子供は目が覚めてからも警戒心は未だ強く残っていた。一応大人しくはしているものの、転がっていた残骸等を食べて回復した二体の巨人を常に側に控えさせ、誰も近寄らせない。
何かを与えようとしても本人は断固として受け取ろうとせず、提供した食事も全てその二体に食べさせてしまう始末。
その上、言葉すら話せない事が発覚してからはコミュニケーションを取る事自体が難航しているという。
「そう、ですか。そんなことに・・・」
「アタシも長いことヒーローをやってたけど、正真正銘本物の野性児を相手するのは生まれて初めてさ。取り付く島が無さすぎてこっちにとしちゃ手詰まり状態だね」
そこで、とリカバリーガールは一呼吸を置く。多くの皺が刻まれた顔には複雑な表情が浮かんでおり、本当は言いたくないんだがね、と前置きを言いつつ言葉を続けた。
「あんたはあの子を救いたいと言っていたね?自分に出来ることがあるならどんなことでもして見せると」
「・・・ええ、私は一度あの子に背を向けてしまった。その事についての負い目もあるが、同時に私の恩人でもある。ヒーローとしてだけでなく一人の人間としてあの子を助け、報いて上げたい。それが例え一方的なものであったとしても」
片腕を失ったオール・フォー・ワンは分かりやすい程弱体化していた。それでも此方が大怪我を負ったのだ。例え万全の状態でも負けるつもりは毛頭なかったが、相討ちになって自分は今この世に居なかったかもしれない。
代償としてまた重症を負ったのも、あの子に対する贖罪と恩に比べればあまりにも安過ぎる。
体はボロボロで弱りきっているにも拘らず、答えたオールマイトの眼は覚悟の強さを示すが如く、力強かった。そう言うだろうと思っていたよ、とリカバリーガールは胸中で呟きつつ敢えて確認するように問うた。
「本当だね?」
「無論」
「・・・分かった。そこまで言うなら協力してもらうよ」
何を?、とオールマイトの疑問は、真剣そのものの表情でリカバリーガールの言葉に遮られた。
「あんた、あの子の父親になるつもりはあるかい?」
「おーるまいと!」
重厚な防護扉を開けると子供特有の高い声が男の名を呼んだ。正面には最初に会った時と同じく二体の巨人にすっぽりと包まれている真っ白な子供。
子供はオールマイトの姿を目に止めると嬉しそうに眼を輝かせ、こちらに詰め寄ろうとする。しかし、間に件の巨人達が間に入ることでそれを遮った。主である筈の子供が何度か隙間から通り抜けようとする度に優しく抱き上げ、元の位置に戻す。二体のうちのどちらかが必ずこちらを向いて威圧している事から、子供の意思に関係無く今度こそ絶対に近づけさせないという意思が伝わってきた。
「ここからは私一人でいい。君達は部屋から出ていてくれ」
「分かりました。危険だと判断したら直ぐに呼んで下さい。・・・お気を付けて」
だが、それでは埒が開かない。護衛として付いてきていた二人の職員に退室を促す。少しでも彼等の警戒心を解く為に。
職員は心配そうに此方を見つつも素直に部屋から出て行ってくれた。まだ包帯を外す処か傷が完全には塞がっていないが故の心配なのだろう。当然の反応だ。何せ、あの時からたった二週間しか経っていないのだから。
職員の優しさに心の中で感謝しつつ、後で怒られるのを承知で松葉杖代わりにもなっていた点滴スタンドも外し横に置く。警戒心を解くためにはこれも邪魔だと判断した。
この子供は施設に運ばれてから既に半年以上の長期間、一度も人間としての食事をまともに行っていない。
この超常社会では様々な姿形、力を持つ人間が居る。勿論本来なら人間が摂取しない物を摂る必要がある人間も存在するし、ある食物を多く摂らないといけない場合もある。だが、あくまでも人間の括りに入っている限りは逆のケースはそう多くない。いたとしてもそういう事に特化した個性持ちである場合が殆ど。基本的に全ての人間は昔とあまり変わらない食生活を送っている。
影響があってからでは遅い、最悪命にも関わる。見た目の上では問題無さそうに見えても体内ではどんな影響が有るか分からないのだから、一刻も早くどうにかしなければならない。だが現状では警戒心が強すぎて食べさせる処か近付く事すら出来ないと言う状況。本体である子供は不明だが、最初の迎合の際に判明した二体の戦闘能力が思いの外高いのも災いして無理矢理食べさせるのも難しい。
唯一現時点で可能性が有るとすれば、子供の心を開いただろうオールマイトのみというのがリカバリーガールを含めた周囲の見解だ。何せ、時折親を求める子供の様にオールマイトの名を呼んでいたのだから。
しかしヒーローとはいえ重症を負ったばかりの怪我人にそんな役回りをさせるのは不味い。だが、これ以上は時間を掛けられない・・・。そう悩んだ末に彼に話が持ち掛けられた。
その際リカバリーガールはこうも警告していた。
『これ以上あの子があんたになついた時、あんたの事を父親同然に思うだろうね。それも年齢を考慮すると恐らく産まれて初めての信頼できる人間にあんたはなる。・・・その場合のあの子のあんたに対する執着心は、間違い無く並大抵のものじゃないよ。それこそ本当に父親になる気概が必要さ』
自分が父親になる。それがどんなものなのか、子供処か妻も居ない彼にはまだ実感としては良く分からない。だが、この子を本当の意味で救うためならばその位の覚悟は有るつもりだった。
(様子を見る限り本人は好意的。対照的に側に居る彼等からは好意を感じず、しかし敵対意識は然程多くないといった所か・・・。つまり本体とは別に独立した意思とある程度の知能があの巨人達には有ると言うこと。・・・説得の鍵は如何に彼等を納得させるかに掛かっている、か)
「やぁ、久しぶりだね」
ある程度近づいた処で声を掛けてみる。目測で彼等からの攻撃が届くかどうか微妙な距離だ。身構えて警戒はしている様だが、最初に会った時程攻撃的には感じられない。完全に敵では無いと認識はさせることは出来たようだ。あのファーストコンタクトは失敗では無かった事を知り、胸を撫で下ろす。奥では自分の発言を真似たのか「やあー!」という可愛らしい声が聞こえた。微笑ましい反応に笑みが溢れる。
(しかし、改めて見ると・・・)
”本当に全身が真っ白だ”、と子供を見て思う。肌や髪、爪先から頭の先まで限りなく純色に近い白色。金色の瞳を除いて他の色が混ざり混んでいる様子は無い。小説等ではアルビノの肌に対して新雪のよう、なんて表現があるがそれはあくまで比喩表現。実際は血管等の他体組織が肌を通して透けて見え、あまりそうは見えないことが大半だろう。だがこの子供はその言葉がそっくりそのまま現実のものとして当てはまる。
幼くとも整っている容姿と合わせて庇護欲を掻き立てられる印象を受けた。こんな子が半年近くも敵と戦い抜き、生き残ってきたと思うと何故もっと早く助けられなかったのかと思わず自責の念に駈られる。
その代わり守っている二体の巨人は真逆で、五体のある方は細身の女性的な、首の無い上半身のみの方はオールマイトの様なガタイの良い男性的な姿。どちらもオールマイトと同等か一回り大きく、揃ってこちらを睨んでると威圧感が凄まじい。
「HAHAHA、どちらも元気そうで何よりだ」
だが怯むなんてのはもっての他。愛情深く育てられた子供は成長すると愛情を他者に分け与えるという。逆に敵意ばかり向けられた子供はどうなるか?・・・答えは目の前に居る。
この子は長い間誰からも善意を向けられたことが無かったからこそ、初めて会ったあの時自分に対してあそこまで狼狽した反応を見せた。無差別に襲い掛からないだけまだ打つ手はある。
(今は善意を向けられることを知ったばかり。それをほんの少しでも陰らせては今度こそ己は敵として見られることだろう)
これから自分が教えていかなければならない。他者とは全てが敵なのではないと。味方となってくれる者も大勢居るのだと・・・。
その場で数分程、一方的ではあるがジェスチャーを交えて対話を試みた後退室した。彼等はまだ自分が何を伝えようとしているのか理解していないだろう。だが最初はそれでいい。これから少しずつ対話し、自分達が敵では無く味方であると知ってもらうためなのだから。
「どうだったかい?」
退室してすぐ、リカバリーガールに出迎えられた。パッと見、自分が無事であることに安堵しているのか部屋に入る前より穏やかな表情だった。
「あの子は非常に友好的に見えました。問題はあの二体の巨人ですが、攻撃する意思は無く少なくとも当初よりは大分柔らかい反応でした。今はまだ難しそうですがこれから親交を深めていきたいと思います」
「それは良かった。他の人間に対してはこうは行かなかったからね。・・・それであの子の姿、気付いたかい?」
それについてはオールマイトも気になっていた。最初に会った時からもしやと思っていたが、今回改めて対峙したことで確信に変わった。
「・・・町で聞いていた容姿と現在の姿に明確なズレがありました。報告では凡そ一般的な人型個性持ちの五歳児程度と聞いてましたが、今はどう見積もってもそれ以上・・・やはりーー」
「ーー影響は少なからず出ていたのは確かだね。アタシが見たところ今の見た目上の年齢は大体
そう、違いは何もあの二体の異形が生まれた事だけでは無かった。敵やヒーロー達が把握していた以前の姿から身体が大きく成長していたのである。
「奴と対峙したことで本能的に自身を守れるよう体を変化させた。という事でしょうか?」
「かもしれない。でもーー」
それについては後回し。まずは親交を深めること、全てはそこから。そうリカバリーガールに言われ、この話題は一先ず終了となった。
彼女の個性で術後の傷をある程度癒すことが出来ても限度がある。直ぐにオールマイトは急ぎ病院に戻され、次の面会に備えて療養に専念した。
――1ヶ月後
「・・・・・・本当ならもっと時間が掛かると踏んでいたんだけどね」
「ええ、我々職員誰が相手でも警戒心を剥き出しにしていたのですが・・・。流石、平和の象徴と言われる訳です。こんなに早く彼等が気を許すとは・・・」
子供の部屋に新しく備え付けられたカメラ越しにリカバリーガールと職員達の目に入ったのは。ベッドに腰を下ろしたオールマイトの膝の上に件の子供が座り、用意していた流動食をスプーンを持った彼の手から与えられている様子だった。二体の巨人は二人の左右に陣取っているだけで特に何かをする様子は無い。
「!・・・おい、しい!もっと、もっと!」
「HAHA!そうかそうか。おっと、あんまり急いじゃ駄目だぞ。ゆっくり食べなさい」
一口含んでは幸せそうに頬を膨らませ、飲み込んだら直ぐに精一杯口を開けて次を待つ。その微笑ましい様は親鳥から餌を待っている雛鳥を彷彿とさせた。
ベッドの側には柄だけが残ったスプーンだったものが複数転がっている。これは最初に食べさせた際、差し出された料理をスプーンごと食べてしまった名残である。オールマイトが何度か注意をし、今はちゃんと加減してスプーンだけを残して食べていた。・・・今使っている相当固い素材のスプーンに噛み後が残っているのはご愛嬌だろう。
面会は数日に一度の頻度で行われていた。
二度目以降、オールマイトは子供とどうコミュニケーションを取るべきか職員達と相談しあった。その結果、育児経験のある女性職員から絵本等の児童向けの本を読み上げながら同時進行で言葉を学ばせるべきであると指摘が出た。親交を深め、言葉という概念を知らない子供に絵本で意味と発音を教えることが出来、ある程度離れていても可能と複数の条件を満たせる最適な方法だと推奨されたのである。
事は彼等の予想以上に上手く進んだ。幸いだったのは二体の巨人はオールマイトに対して既にある程度気を許し始めていたこと。子供が異常とも言える程に学習能力が高かったことだった。
決して負の感情を持たず親身になって対応し続けた甲斐があってか少しずつ主を任せて良いのではないかと判断した二体の警戒心も緩み、凡そ5回目の面会で子供と接触することを彼等は許した。その時子供はオールマイトが入ってくると同時にダッシュからの突撃を敢行し、彼は吹き飛ばされ壁に激突。速攻で病院に出戻りするはめになった。
・・・次回以降からは加減するようになったが。
もう一つ、言葉を教えるのは尋常ではない速度で進んだ。
オールマイト自身、学校や幼稚園で交流するために訪問することがあっても幼い子供に直接教育をすると言うのは初めてだ。それも言葉を教えるなんてもはやどうすれば良いか検討もつかない。
だから彼は教えている間の殆どを本を見せつつ声を出して読むか、子供が疑問に思っただろう反応をされた時に自分基準ではあるが分かりやすく噛み砕いて説明してみたりした。
その様子は辿々しく、カメラ越しに見ていた職員達にはとても焦れったく見えていた。
但し、あくまでも教える側は素人。基本的に職員達はコミュニケーションツールとしてこれを推奨していただけで、実際に教えられるとは露にも思ってはいなかった。例え出来たとしても数年掛かりの長丁場になるだろうとも。
それほど基礎すら無い完全なゼロの状態から言葉を教えるというのは難易度が高い。
だが、その予想は奇しくも裏切られた。
一度教えられ、理解した言葉と発音は忘れること無く次々と覚えていく。一度読んだ本も一言一句違わず暗記する。砂漠に水を注ぐが如く即座に吸収し、しかし決して忘れず得た物を逃さない。その驚異の記憶力と学習能力で、一ヶ月が経った頃には気付けば今目の前で繰り広げられている様に簡単な会話なら出来るまでになっていた。
「・・・・・・これも個性の影響なのでしょうか?」
「恐らくはな・・・。しかし例え天才だろうがあれだけの言葉を一度に覚えきるのは難しく、完全記憶症候群だったとしても意味を理解するのが早すぎる。そうでなければこの学習速度は説明出来ん」
「だとするとこの子の個性は一体・・・」
余りに都合良くトントン拍子に事が進んでいる光景にやや呆然と見守っている職員達。それでも問題が無いわけではなかった。今はまだ通過点に過ぎず、寧ろこれからが本題といっても良い。
「それを調べるにしてもこの子には自身の状況を説明できる知識と他人の指示を聞く程の他者に対する信頼関係を築いて貰わなければならない。だが、知識は近いうちに身に付けられたとしても信頼ばかりはどうしようも無いな」
「どうにも我々職員が特に警戒されているみたいです。何か要因が有るのでしょうが・・・」
「今はオールマイトにのみ気を許しているのも足枷になっていますね。彼の重症度合いが酷いせいで直ぐに対処できるリカバリーガールが付き添いでなければここには来れず、居られる時間も短い。やはり貴女の言う通り――」
優秀な人材が多いこの施設なら教育面では問題ない。個性の研究もここより勝る場所はそう多く無いだろう。だが、現時点ではオールマイトが一緒でなければ何れも機能しない。そのオールマイトもリカバリーガールが居なければこの施設に来れず、リカバリーガールもとある学校の教師としての仕事がある為これ以上頻度を増やせない。
治るまで待てばいいのかもしれない。が、今度は平和の象徴とまで呼ばれるオールマイトのヒーロー活動の足枷になる。それは社会の混乱に繋がる。彼が居るだけで犯罪率が減るのは誇張ではないのだ。彼がまともにヒーロー活動出来ない今が一番重要な時期、無駄には出来ない。
「――ああ、この子に関してはアタシ等に任せなさい。それが将来的に最善手になる」
将来を考えればある場所で過ごすのが一番良い。今までの事を鑑みればあの子にはそれだけの理由と事情がある。
「アタシ等『雄英高校』に」
口の中に入る度に仄かな熱と共に舌が優しく刺激され、感じたことの無い気持ちの良い感覚に満たされる。今まで食べてきたものは一体何だったのかと言いたくなる位だ。
(これだ。この匂いだ・・・!)
鼻から空気が通過する度に感じる快感、お腹の中に入った時の満たされる感覚。あの場所で嗅いだ匂いとは全くの別物なのだと分かっていても確信した。これが自分が欲していた匂いの正体なのだと。
オールマイトが言っていた。これが美味しいと言うものだと。これが食事なのだと。
今まで他の人間が自分に渡そうとしていたのがこれだったのなら、いっその事自分が受け取れば良かった。そう思える程に感動していた。
(・・・やっぱりいらない)
しかし、きっと自分は他の人間からは受け取ろうとしないだろう。
この場所に来る人間、ほぼ全てから受ける視線には自分に対する恐れが含まれていたからだ。
この視線が混ざっている人間は場合によっては敵意よりも厄介だ。次の瞬間には行動や態度が一辺して何をしてくるか分からない。以前も襲って来たのに急に逃げ出す、または逆に意図の分からない突撃をしてくるなんて事もあった。
少しでも視線の色にそれが混ざった人間は安心出来ない。それが自分が経験して考えた結果だ。
それ等に比べたらオールマイトは絶対にそんな視線を向けず、変わらず暖かい視線を今も向けている。それが如何に安心できて心地良いか、気を抜いたらまた眠ってしまいそうだ。
変な格好をした人間も大半が暖かい視線を寄越してくるが、どうにもまだ気を許すのが恐い。
左右には彼等がオールマイトを監視している。あれだけ大丈夫だと言ったのに・・・と少し不満。
「あー・・・?」
口を開けて待ってるのにごはんが来なくなった。見上げれば困った顔したオールマイトが空の容器を見せて来る。
「すまないが今回はこれで終わりだ」
「えー・・・」
たった三回のおかわりで終わりなのか。自分はまだまだ食べられるのに・・・。
「おかわり!」と言っても「ダーメ!」で返される。腕をクロスして×までされた。力ずくで○にしようとしても力強い腕は中々動かせない。・・・段々辛そうな顔になったので止めた。
「次からは他の大人から貰うん「やだ」だぞ・・・」
「ほかのひと、いらない」
それだけは絶対に嫌だ。そうする位ならオールマイトが来るまで何日でも待つつもりだった。
「どうしても?」
「やだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばし見つめ合う中、やがて諦めたように大きく息を吸い、細く長いため息を付いたオールマイトは「・・・これは手が掛かりそうだ」と小さく呟いた。言葉の意味が理解できなかった自分は、首を傾げる事で分からなかった旨を表現した。
「・・・分かった。じゃあこれから私の言うことを聞いてくれたら、次からも私がご飯を食べさせてあげよう」
「ほんと!?」
次に来るまでお預けだと思っていた所での予想外の発言に声が上擦る。ああは言ったが、本当は食べたくてしょうがなかった。
「勿論だとも。ある場所なら私も君に毎日ご飯を食べさせて上げることが出来る。一緒にそこに行くのならだが・・・行くかい?」
「・・・」
外の世界
信用出来ない人間ばかりのここにいつまでも居たくはない。でも、あの事が有ってから外に出るのが怖かった。あれ以上に恐ろしい敵が居るかもしれないと考えるだけで身体が震える。
いつの間にか俯いていた顔を上げる。
「どうかしたかい?」
笑顔で、でも心底心配そうにこちらを見るオールマイトの顔があった。
「・・・・・・ぃ・・・」
「?何か言ったかな?ごめんよちょっと聞き取れなかった」
「・・・いく」
「本当かい!」
「・・・うん」
確かに怖い、けどこの人と一緒なら大丈夫かもしれない。そう思える何かがオールマイトにはあった。
「そうか、そうか・・・ああ!良かった!断られたらどうしようかと思っていたよ!」
そこまで喜ぶ事だろうか?と不思議そうに見詰める自分を余所に、よりいっそう感極まったオールマイトに抱き締められた。ワシャワシャと強く頭を撫でられてこそばゆい。
オールマイトと一緒なら安全だ。・・・そう思ってはいても、自分自身がもっと強くならないとこの先生きていくのは難しいだろう、と何となく思った。
"いずれ自身で身を守らなければいけない時が来る。"経験から来る理屈でもなく感覚的にそうなる予感ががしてならなかった。
(もっと、つよくなりたい。『あのこわいてき』よりも、どんなにつよいてきよりも・・・。そう――)
ーー『――
その言葉はあくまで自身に向けたものであり、意図したものではない。当然、
しかし、その必死さをも滲ませた強い願いは、本人が気付かない内に彼等にはっきりと明確に伝わった。伝わってしまった。
ーー・・・・・・・・・
ーー・・・・・・・・・
"今度こそ自分達の主人を守る"、そうする筈だった。それがどうだ?この短い間で未だまともに守れた試しがない。オールマイトの件は、結果的には良い方向に繋がった。が、もし実は敵だったら?主人はどうなっていた?そもそも主人に尽くす為に生まれたのに守る事すら出来ない自分達に一体何の意味がある?寧ろ邪魔な存在になっていないか?
ーー・・・・・・
何も考えない木偶の坊であればこんな考えに至らなかったろう。だが、目覚めてから『主人を生かす為にどうするか』この一点の為に考え続けた結果、彼等の思考は高度なものに至りつつあった。
そんな彼等は追い詰められていた。幾ら手を施しても主人を守れない無力さに自らの存在意義を疑う程に。
そんな中、先の宣言は正に光明とも言えるものだった。『まだ自分達は必要とされている』そう捉える事が出来たからだ。
ーー・・・・・・・・・こんどコソ
彼等はどの様に主人の言葉を解釈し、受け止めたのか。――それは彼等のみぞ知る。
凄い今更ですが主人公性別不明です。1話までは女の子という設定だったのですが2話で下半身も潰れ、周りの死体も男だけだったので再生出来ませんでした。
その他の器官は治療で切羽詰まっていたのもありますが、生存する上で必要ないと細胞側に判断されました。
読了有り難うございました。