人類最後のマスター、藤丸 六華が目を覚ましたのは、冬木での騒動が解決してから翌日の午前だった。
幸いにもレイシフトは無事に完了し、帰ってこれた――ランスロットも一緒であったために当日はカルデア中が大騒ぎとなったものの些細なことなので閑話休題。
次なる特異点が発見され、それに向かう前に彼女たちはとある部屋に赴き、新たな仲間を呼び出そうとしていた。
――守護英霊召喚システム・フェイト。
レフが爆破させたことによって、システムに異常が発生したために出来なかったが、ダ・ヴィンチの手によって修理は完了した。
これを起動させることで、英霊を召喚することができる。
あまりにも火力が足りない上に少な過ぎる。これから各特異点に出現するであろうサーヴァントたちを相手にするにはマシュと、特異点Fより仲間になったランスロットだけでは決定打が欠けていた。
このまま進めてもあまりにも戦力不足であるのは明らかだった。
基本的に絶対的な攻撃力を兼ね備えたランスロット。
火力の代わりに圧倒的な防御力を兼ね備えるマシュ。
戦力増強の為にも召喚は必要性がある。また召喚のためにはカルデアの電力と聖晶石――高純度の魔力結晶――と呼ばれる石で魔力を精製するだけで良い。
召喚の準備のため、特異点Fの人理修復から数日間――立香、マシュ、ランスロットの三人は、こまめにレイシフトして聖晶石の欠片収集に当たり、何とかサーヴァントを二騎召喚できるまで集めた。
しかし、この召喚システムでは英霊だけでなく、偶に武具や礼装といった魔力が込められたアイテム――概念礼装が召喚される。しかもどちらが召喚されるかもランダムなので、完全な運任せ。
「あの、ドクター……折角の聖晶石がゴミになるのは些か苦痛なのですが」
「それだけだったら、まだいいよマシュ。 仮にサーヴァントを召喚に成功しても、六華ちゃんを襲う場合もあり得るんだよ……失敗しても個人的にはゴミでも何でもいいさ」
「まぁそれは安心したまえ。 そのためにもかの有名なランスロット卿が六華ちゃんの傍にいてもらっているんだ、そうなったら彼が何とかするさ!」
「……人任せにもほどがあるな、ダヴィンチよ」
ランスロットはため息をつきながらも、六華の傍らに付いた。
ロマンの言う通りに仮に召喚に成功されたとしてもマスターに襲い掛かる可能性もなくはないので、何時でもアロンダイトを抜けるように常時に構えている。
六華はゴミが出ないよう祈りを込めて掌にある三つの聖晶石を握りしめて――。
「それじゃあ……最初の召喚!」
召喚サークルの中央に投げ入れた。
すると召喚サークルが発光を始め、やがては光が魔方陣の外周を描くように回り出し、次第に円を作り出す。
光は1つに収束し天に突き刺さるように伸びていき、そこから光は再び強くなり、光の帯となっていく。
やがて光は収束し人影が見え始めた。そしてマスター権限で六華にはそのクラスが見えた。
「……あっ、セイバーだよ!」
「えっ、す、すごいです、先輩! 『三騎士』の一角で「最優」と称されるサーヴァントを呼び出せるなんて……っ!」
まさかの一発でサーヴァントの召喚——しかも三騎士の中でも最優ともいえるクラスの召喚に成功したことにマシュは驚愕と同時に六華を評価する。
そして光が消え、人影が完全に人として姿を見せた。
その姿は金髪を大きな黒いリボンでポニーテールに結えているのが特徴。 胸部を守る鎧の下の衣服は白を基調とした背中や腋が大きく露出した少女だった。
「初めまして。私はセイバーのサーヴァント、ですが――まだ半人前なので、セイバー・リリィとお呼びください」
その姿を見て、全員が呆気に捉え、ランスロットは驚きの表情を浮かべた。
全員はその姿を特異点Fで戦ったセイバーオルタの幼き姿であることに。
そしてランスロットは、過去の彼女――服装は男装のもので、目の前にいる彼女のように華やかではなかったが――が召喚されたことに。
「? あの、皆さんなにか…………あっ!?」
そう言って、彼女――セイバーリリィはランスロットの姿を見ると笑顔になり駆け寄ったと思いきや。
「ランスロット!」
大胆にも彼に抱き着いてきた。
「むっ……!?」
ランスロットは戸惑いと驚愕に満ちた声を上げた――過去の彼女はこのような行動をとったことはないはずだが……。
「わぁっ……!」 「は、はわわわ」
「おぉ、大胆だねぇ」
セイバーリリィの行動に感銘したり、戸惑いの声を上げたり、からかいの声を上げる女性陣。
「また会えて嬉しいですっ! 今度は足手まといにならないでマスターと一緒に精いっぱいあなたについていきますね!」
「……あぁ。 無理しない程でいいからな、アルトリア」
「はいっ、頑張ります!」
「さて、俺へのあいさつを一通りに終えたのならば今度はマスターである六華にもな」
「はっ! そ、そうでしたね……私としたことがっ!」
ランスロットは優しく微笑んでは彼女の背中を押して、マスターである六華にあいさつに向かわせる。
セイバーリリィはすぐさま六華とマシュに話しかけ、僅か数分で微笑みを浮かべて会話を始めだした。
その様子をランスロットは怪訝に見つめ、そんな彼をロマンが首をかしげながら言葉をかけてきた。
「どうしたんだい、折角の再会なんだろう? 何をそんなに……」
「お前だけには話しとくか……推測だが彼女は俺の知っているアルトリアではないかもしれん」
「へっ、ど、どういうことだいっ!?」
「俺の知っている彼女はあのように華やかではなかった……ズボンとシャツを着た質素な男装したものだ」
それなのに何故セイバーリリィが白を基準にしたドレス姿のもの……これは一体どういうことなのだろうか。
様々な疑問が思い浮かべるものの、今とりあえずは戦力増加を優先にすべきだろう――これからの時間でそれは解決するだろうとランスロットは切り替えて、六華に声をかける。
「ほら、六華もマシュもリリィも。 召喚の続きをしないか」
「あっ、はい。と――ランスロット卿! 先輩、続きをお願いします!」
「えっ、あっ、ごめんね! それじゃあ二回目――いっきまぁあす!」
ランスロットの注意に、慌ててマシュが六華をせかし、その六華も慌てて聖晶石を投げ込む。
するとセイバーリリィを召喚した時のように光が辺りを照らした。
やがて光は収束し人影が見えてくる――全身が青装束で手には確かに紅の槍を持った見た目からして戦士。纏う雰囲気は野性味があり、猛獣のような物を感じなくも無い
そしてその雰囲気と青髪には冬木に行った全員に覚えがあった。
「……おぉ!? 嬢ちゃん二人かっ、それに騎士の旦那に……セイバーだぁあっ!? なんだこのサプライズの連続はよぉ!?」
「クーフーリンッ!?」
「おうよ! 嬢ちゃんよ、この前と違って槍兵として務めてやるぜ! くぅう、やっぱ槍は良いなぁ!」
二人目の仲間――アルスター伝説の英雄、クーフーリンは気分よく槍を起用に廻す。
新たな仲間が召喚されたことに喜ぶ中、ランスロットは彼に近づいては耳打ちを行う。
「ふむ……近距離が俺を含めて三人か。些か遠距離に不安はあるが、それは小手先で補っていくか……クーフーリンよ投てきは得意か、特に石の」
「あぁ? まぁ得意ちゃあ得意だが…………ちょっと待て。あんた、仮にも円卓の騎士だろうがっ!?」
「騎士道精神が云々の前に、まず六華たちの命が大事だ。 悪いが遠距離の仲間ができるまで、必要に応じてやってもらうぞ」
「ったく、俺はランサーなのによ……まさかの遠距離だぁ? 冗談じゃねぇぞ」
ランスロットの言葉に頭を抱えながらも答えるクーフーリン。そんな二人の言葉がわからず六華とマシュ、セイバーリリィは首をかしげる。
「お前たちはまだ知らなくていい事さ」
三人の反応に苦笑しながらランスロットは切り捨てては、次いでロマンに視線を向ける。
「六華ちゃんとマシュそしてみんな――本当だったら親睦を深めたいところだけど、これから君たちには特異点に向かってもらいたい。本当に急なことだけどごめんね」
「おいおい……だがまぁさっそく俺の槍の腕前を見せてやろうじゃねぇか。 んで、軟弱男よ、場所はどこだ」
「はいはーい! そこはダヴィンチちゃんが発言しよう――場所はフランスで年は1431年による丁度百年戦争のときだね」
* * * * *
旅が始まる。
人理修復の『歴史を正す』旅が。
長く険しい道のりを歩むことになるが、それでも彼女は後輩と共に前に進み歩いていく――騎士と新たな仲間たちとともに。
藤丸六華の長きにわたる旅がこれより始まった――――。