第一特異点から第三特異点まで六華はマシュとランスロット、召喚されてきた仲間たちとともに人理の修復を成功してきた。
召喚されてきた中にランスロットの顔見知りがいて、感動の再会もあったが、それはまた別の話――後程語られるものなので置いておく。
第三特異点が修復成功して、次なる特異点に向かう前の休暇を前にして――。
「あ、あのぉ、ランスロットさん?」
「マ、マルタさんもどうして……」
カルデアにある休憩部屋にて六華とマシュは何故かダブルベットで横に布団をかぶせられていた――カルデアのオトンとオカンと云われている、ランスロットとマルタの二人の手によって。
二人はベットの上で隣同士で座り、ランスロットはマシュの頭を撫で、マルタは六華の頭を撫でていた。
「お前たち二人は強制入眠だ、仕事も何もかも忘れて横になってろ」
「彼の言う通りです。 あなたたち二人は働きすぎ……ですがあなたたちはそれを言っても聞かないだろうと思いまして、やりすぎではと思いましたがランスロットの手助けをしました」
「ふっ、といってもお前は少しばかり乗り気だったのではないか……『あの子たちは働きすぎよ』と息巻いて」
「う、うるさいわねっ、余計なことを言うなバカ!」
ランスロットの意地悪い笑みに反応して大声を上げては荒々しい声で叫ぶマルタ。
そんな彼女に驚愕する二人にマルタはハッと気づいて空咳をしては優しい声で紡げる。
「マ、マスター、それにマシュ? 貴方たちは普通の人間……休めるときには休まないと次の特異点に立ち向かえませんよ?」
「おいまて、俺も人間なのだが」
「どこの世界に幻想種やゲデモノをバーベキューして焼いたり、鍋に煮込んで食べて、しかもタラスクまで食べようとした奴がどこがどう人間なのよっ!?」
大声を上げて突っ込みをいれるマルタに(確かに)と心の中では同意をする六華とマシュ。
第一から第三の特異点の間、ランスロットの荒唐無稽な行動に全員は驚愕と呆れることが多かった。
・厨房に赴いたと思いきや、カルデアのスタッフたちに手料理を振る舞ったり。
・愛剣アロンダイトでサーヴァント相手に手玉を取り、巧みな剣術で翻弄しては斬り捨てたり。
・魔神柱をアロンダイトの力を解放したことで一人で斬り捨てたり。
・本来危険且つ手間を取るはずの幻想種——特に最強と謳われている竜種——を斬撃で斬り捨て、料理にして全員にふるまっては食べたり。
・ゲデモノ――蛇や触手のなにかを――を倒したと思いきや、自らの手で焼いて食べたり、煮込んだりしていた。
他にも色々なことをしでかし、そんな彼の行動に頭を悩ます仲間たちもいれば、「さすがはランスロット……っ!」と崇めたり尊敬したりする仲間もいるのだが……そこはご愛敬。
「あっ――コホン! とりあえず、マスターたちはお休みを。 後の仕事は私たちがやりますので大丈夫」
「で、ですが、先輩はともかく私はドクターや皆さんのサポートを――」
マシュはそう言って身体を起こそうとしたが、ランスロットの手が彼女の頭を触れると同時に優しく押し倒した。
「いいから寝てろ……第三特異点まで戦ったり働きっぱなしだったんだ、少しばかりはゆっくりしろ」
「で、ですが」
ランスロットの言葉に尚反論しようとしたマシュの額を優しく指であてる。
「仮にその状態で働いても、次の特異点で疲れが出ては倒れこむのがオチだ……休めるときに休め。体調管理も仕事の一つだ――お前の盾はもう立派な戦力なんだからな」
「……むっ、そ、そう云われてしまうと断りにくいです」
不貞腐れたようにマシュがそう言うと、ランスロットの手が額から離れると同時に彼女は布団を頭から被った。
布団から若干見れる耳元が赤く染まっているのを見て、どうやら照れている様子。
次いで六華のほうに目を向けると、マルタの優しい手つきで頭を撫でられている姿が見受けられた。
彼女も恥ずかしそうにしながらも決して拒否はせずに受け入れている様子があった。
「やれやれ、普段もそうやって甘えればいいものを……」
「む、無理云わないでよっ、ランスロットさん!? 恥ずかしすぎるよ!?」
「いや、むしろ甘えてこい。 お前たちはまだ十代後半だぞ……さらに人理修復も行っているなどありえん。こうゆう場合だからこそ甘えるべきだ」
何とも横暴で勝手な発言……それがオトンの台詞なのだろうか。
六華は不満げな表情を浮かべて頬を膨らませると、ランスロットはため息をついて――。
「やれやれ、それではネロ・クラウディウス特別の子守歌の用意を」
「今からおやすみなさい!」
ランスロットが最後まで言葉を紡げる前に六華は叫んだ……どうやら効果はてきめんのようだ。ランスロットは満足げに頷くと、マルタは呆れたように目を向ける――その手はずっと六華を撫でながら。
「あなたねぇ……何えげつないことを考えているのよ」
「それじゃあお前が歌ってやればいいだろう。厨房で鼻歌をしながら作っていたのを聞いたが、お前もなかなかのものだったぞ」
「ちょっ、あんた何言ってっ」
「照れる必要はないだろう、とても上手かったぞ……ちょうどいいから二人に子守歌代わりに歌ってやれ」
「勝手に決めんなっ……あぁもうマスターたちはそんな目で見ないでよっ!?」
マルタの歌と聞いて、六華は期待の籠もった目で見つめ、マシュは遠慮して目を逸らすがそれでも時折目線を向けていた。そんな二人の期待を無碍に出来ないマルタはため息をつきながら、「あんまり期待はしないでよ」と言ってから一度深呼吸をする。
そして――彼女の歌が奏でられる。
* * * * *
マルタ特有の美しさに相まって、彼女自身の歌唱力と良質な楽曲が休憩部屋に静かに響く。
優しいメロディが子守唄のようで歌に包まれるようであった。
やがて終盤となったのか彼女の歌は紡ぎ終えたのか口を閉ざしては―――勢いよく息を吐いた。
「はぁ、終わったっ。 もうこれで満足です、か?」
マルタの言葉に誰も反応しない。よく見ると六華とマシュは寝息を立ててほころんだ表情で眠っていた。
その寝顔を見てマルタは優しく微笑みを浮かべては六華の頬を優しくなでる。
小柄な身体、柔らかい頬、細い両手足――まだ十代後半だというのに背負った重さは比例してとてつもなく大きい。
とても少女が抱えるものではない……それでも彼女は第一から第三までの特異点を旅して乗り越えた。
これからもまだ続く旅路をマルタは支えようと決意した。その決意をランスロットに話そうと声を掛けようとしたとき。
彼の身体は倒れこんで、マルタの膝に寝転がった。
「ちょっどうし、たのっ………って」
彼の顔を見ると、寝つきのいい顔で寝息を立てていた――どうやら彼もマルタの歌を聞いて眠ってしまったようだ。
顔には出ていないだけで彼も疲れていたようであった。考えてもみれば、彼は特異点Fから第三特異点まで出撃しつつも、カルデアの一般スタッフたちに料理を振る舞ったり相談したりし続けていた。
サーヴァントであれば問題はないだろうが、彼は人外的強さを持っていても一応は人間であることすっかりと忘れてしまっていた。
「ちょ、ちょっと、あんた起きなさいよっ」
しかし、それでも気恥ずかしさで顔を赤くしながらマルタは小さく声をかけるも、ランスロットは起きることはなく、小さな呻き声を上げて彼女の膝に擦り寄った。
「ひゃっぁ、ちょっあんた」
マルタが恥ずかしそうに声を上げるも、ランスロットは満足気に笑みを浮かべていると同時に再度寝息を立てた。
「————んんっ、もうっ」
諦めた様にマルタが大きく吐いては、六華に撫でた様にランスロットの頭を撫で始める。
「…………カ」
「ん?」
一瞬何か小さなつぶやきが聞こえたものの、上手く聞き取れずにいたマルタであったがそれを気に留めずに彼の頭を撫でる。
「三人とも……次の特異点までおやすみなさい」
普段頑張っている三人に優しく声を掛け、マルタはランスロットの頭を優しくなで続けていく――。
(あ、あの姐さんが女の顔になってるっ。 こ、これはレアものだぁっ!)
そして、そんなマルタの様子を宝具であり相棒でもあるタラスクが感銘に満ちた目で見ていた。
普段は聖女として、姐さんとして振る舞っている彼女が一人の女と成っていることにタラスクは嬉く感動をしていた。
…………しかし、その感動をマルタの前でポロリと喋ってしまい、思い切り殴り吹き飛ばされたのは後日談として語ろう。
異端ランスロット×マルタは前作設定どおりです。
基本的にこの作品の主なヒロインはマルタさんなのです。