食堂でのピークの時間帯はようやく過ぎ、一通りの落ち着きを取り戻した。
厨房を担当していたランスロット、ブーディカ、マルタは一息ついて、とあるテーブルににお手製の賄い飯とお茶を飲みながら、談笑して食べ進めていた。
何気ない話題で盛り上がるのはブーディカとマルタで、ランスロットは時たまに相槌したり会話に紛れることもあるが……やはり女性陣のほうが盛り上がりはすごいために少々疎外感を感じている。
そんななかで、ふとブーディカが思い出したかのように言葉を紡いだ。
「そういえば、ランスロットのサバイバー知識っていうのかな、どこで学んだの?」
「……いきなりだな、ブーディカ。 なぜそれを聞く」
「あんたのその食歴がゲデモノと謎の生物すぎて、一体何をどう食べたらそうなるのかって気になってたのよ。 というよりもその原点は何よ。ウチのタラスクを食べようとするその姿勢は」
「そうそう。 その所為で、皆が使う騎乗用たちがランスロットを怖がっているんだから――そもそもランスロットがそんな風になったのはどうしたのかなって気になっちゃって」
ブーディカの言葉に気まずそうに眼を逸らしながらお茶を飲むランスロット。
実はこの男、サーヴァントたちが使う騎乗・宝具用に使用される幻想種や生物たち――特にペガサスを見ての発言が次のように出た。
『ペガサスの程よい部位は馬刺し。他はバーベキューで食べてもいいかもしれんな。どれ調味料の準備をしておくか』
その言葉で殆どの幻想種と生物たちは即座に引き籠り、紫髪のライダーからは『食べないでくださいっ、あの子はそんなにおいしくありませんからっ! お願いですっ、やめてください!』と涙声になりながらランスロットの足元に縋りついてきたのであった。
ランスロットに向ける視線は冷ややかになり、彼はとても肩身が狭かった。
いまだにライダーのサーヴァントたちからは慄く目で見られているのだ……不用意な発言は避けたほうがいいかもしれない。
しかし、ランスロットは諦めない……いつかあのペガサスを馬刺しにして食べてみたいと希望を持っている。
あのペガサスは十分に鍛えられているし、ランスロットがいたあの世界でのペガサスよりも若干固いかもしれないが……それはそれでいいかもしれない。
「食べんじゃないわよ、ランスロット」
「食べたら、私とマルタのフライペンが飛んでくるから覚悟しといてね」
そんなランスロットの脳裏を読んだのか、マルタとブーディカが微笑みながらも睨みつけると云った器用なことをして釘を刺した。
彼女たちの言葉を聞いて、心中では舌打ちをしてお茶を飲み干すランスロット。
「……それで、俺のサバイバル能力についてか?」
「そうそう! それって独学に身に着けたの? もしくは誰かに教わ…………れないか、君みたいな人がそう何人も」
「いや、教わったぞ」
唐突の、まさかの発言に二人は目を点にしながらランスロットを見つめている。
まさかランスロットに師がいるとは思いもしなかったブーディカとマルタの視線を気にも留めず彼は話を続けだした。
「森や湖に棲んでいる生物の特徴と食べ方、生き抜くための知識を学んだ。いや……それだけじゃない、彼女は俺に戦い方を、剣を少しながらも鍛えてくれた人だった」
懐かしそうに語る彼であるも、内容が内容のためにあまり微笑ましくなかった。
この人外とまで言える程の強さを誇る男を育てた師は一体どんな人間なのだろうか……想像つかない二人である。
ブーディカは恐る恐るとお茶を飲みながら、彼の師について尋ねる。
「そ、それは中々ハードだね……一体どんな人なの、ランスロットにその知識を与えた人は」
「俺の母だが?」
まさかの発言にマルタとブーディカが口に含んでいたお茶が勢いよく吹かれて、ランスロットの顔にぶちまけられた。
「おい、お前らな……」
「ぶはっ、げほっ……ぐふっ! あぅぁ、おぉぐっ!」
「あ、あんた、母親に教えてもらったわけっ!?」
ブーディカが女性にあるまじきむせきかたをしているなかで、マルタはランスロットに詰め寄った――その表情は信じられないと云わんばかりのものだった。
何故二人がそんな反応をしているのか不思議さを抱きながら、濡れた顔を手元にあったハンカチで拭いながら答える。
「あぁ。 俺の母、湖の乙女は美しいと称されているものの……中々スパルタでな。生き抜くためには剣は勿論、周囲の生物や草木を食べられるようにしなくてはいけないと俺を鍛えてくれた。彼女が創ってくれた水棲馬(ケルピー)のステーキはとても上手かった、あれが母の味と云う奴だろうな」
「普通息子にそんなことを教える……?」
「いや、今となって彼女の教えはありがたい。 これまで生きてきた中で学んだ剣術とサバイバル能力は今でも役に立っているからな」
……確かに剣術に関しては見事なものだ、それは称賛に値する。
だが問題のサバイバル能力――技量は兎も角、食に対する貪欲、ゲデモノや異なる生物たちへの食欲、雑食性はすべて母であり師……湖の乙女の所為であることが判明した。
しかし、これが事実だとしたら、アーサー王伝説に記載されている湖の乙女のイメージが完全に壊れることは間違いなかった。
湖の精霊と人間の中間に挟まれながらも、美しく高貴な存在として彼女は描かれていた。
これがまさかランスロットの師であり、彼の雑食性・食欲を大きく歪ませた挙句に彼女自身もまさかの雑食性。
しかも息子の為とはいえ妖精の水棲馬(ケルピー)を食用にさせるとはだれが思いつくだろうか、いや誰も思わない。
「いかんな……久々に思い出したら、水棲馬(ケルピー)を食べたくなったっ。すまんが、少しだけ出かけてくる――今日は馬肉料理だ」
ランスロットはそう言って、席から立ち上がる。壁に立てかけていたアロンダイトを腰に差し込む。
……心なしかアロンダイトの輝きが若干薄れ出て、半ば呆れたような感じが漂ったのは気のせいだろうか。
マルタとブーディカは、彼を引き留めようとしなかった。
恐らく湖の乙女に関しての驚愕と衝撃が強すぎたためか、行動に移すことが出来ないのだろう。
「それじゃあ行ってくる」
彼は微笑んではそう言って、食堂を後にして向かった。
そして、本日の夕食は馬肉を使った料理であったことは報告しておこう。
全員が馬肉料理——まさか幻想種の一つで、妖精の水棲馬であるとは知らずに――を堪能している中で、紫髪のライダーはそれを見ては自らの宝具であるペガサスの様子を確認したことは別の話である。