こんな言葉を知っているかい?   作:格言紅茶お化け

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電車でなんとなく目が合ってしまった人がいて、なんとなしにもう一度見るとまた目が合ってしまう、そんなシチュエーションよくありますよね……え?ない?そっか(´・ω・`)

そんな感じの体験から発想しました。


It always seems impossible until it’s done.

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 無言でお互いの顔を見て固まる、向かい合う2人の男女。

 

 片方は亜麻色の長い髪をサイドテールに結い、抱えたクマのキャラクター「ボコ」のぬいぐるみを膝に乗せた可愛らしい少女。

 もう片方は、イケメンという訳では無いが、特別悪くもない程度の風貌をした青年。

 

 というか俺である。

 

 どうして少女と見つめ合うなんて言うシチュエーションになったのかと言うと。

 

 いつもよりも学食が混んでいた。

 ↓

 左右両側が空いてる席をなんとなく探していたらちょうどよく見つかった。

 ↓

 トレーを置いて座ったら向かい側にその子が座っていた。

 

 それだけだ。

 

 ただそのあと、食べ進めていくうちに向かい側に座る子の手が進んでおらず何となく前を向いたら目が合ってしまい、お互い目をそらすのもなんとなく気まずくなった……のだと思う。たぶん。

 

「…………」

 

「…………」

 

 助けて(懇願)

 

 この無言の間がきつい。

 

 そう感じて目を逸らしたのだがなんとなくまだこっちを見てたりするのかと気になってしまいもう一度視線を向ければ、向こうも同じようなことを考えていたのか、再び目が合ってしまう。

 

「…………」

 

「…………ぁ」

 

 んんんんんん!

 ……こっちは食べ終わってるし、このまま席を立つか?いや、なんか目が合って直ぐに席を立つってなんか感じ悪くないか?席を立つ時にそれに反応した相手と目が合うってことはファストフード店とかであったりするけども!

 

「…………」

 

「…………」チラチラ

 

 すごく意識されている……こ、これはコミュ障の反応、俺もコミュ障少し入っていたからわかる(博識)

 

 気まずくて何か声かけた方が楽になれそうな気がするけど、なんて声をかければいいのかがわからない、そんな反応だ……。

 

 目の前の少女、島田愛里寿は基本的に物静かで、飛び級で大学に進学したということもあり、学内でも皆どう接すればいいのかわからないようで避けられている。

 ただ、彼女とは顔見知りとまては言わないが、機械整備関係でほんの少しだけ学内で言葉を交わしたことがある(向こうが覚えてるかは知らない)ため、なんとなく声をかけた方が楽になれる気がしてしまう。

 

 こっちから話しかけた方が良いか?しかし話題が……そうだ。

 

「ぁー、島田さんってボコ好きなの?」

 

「……ぁ、うん」

 

「そっか……いや、俺もボコのストラップスマホにつけてるからなんとなく気になっちゃってね、ははは。

 ごめんね?島田さんも気まずかったでしょ?」

 

 よし!これで立ち去れば自然とフェードアウト出来るは「ボコのストラップ?」ヒエッ。

 

「え、うん」

 

 予想以上に食いついてきた……、このままフェードアウトできるかと思ったけどなんか身を乗り出してめっちゃこっち見てる……。

 声を荒らげてるわけじゃないのになんか迫力あるし……助けて。(2回目)

 

「ボコが好きな人に初めて会った……!その……」

 

 めっちゃ目輝かせてる!こんな時はどうすれば、身近に女の子なんて妹くらいしか……っ!そうだ妹だ、あいつが良くやっていたことをすれば!!

 

「んんっ、あー、こんな言葉を知ってるかい?」

 

「え?」

 

「『最も重要なことから始めよ。』とりあえずお話はあとでもできるから、今はご飯食べちゃいなよ、ね?」

 

「……わかった」

 

 よくよく考えたら問題の先送りのような気もしなくもないけど、あの勢いで来られなければ冷静に対応出来る……はず。

 島田さんも普段はもっと物静かな感じだったし。

 

「……」

 

「ん?」

 

 と、そんなことを考えている間も彼女の手が動く様子が無い。

 よく見てみれば、ハンバーグ定食だったのだろうか、デミグラスソースが残ったお皿の上には付け合せのトマトがあり、それをじっと睨みつけているのが分かる。

 

 あ、うん苦手なのね、トマト。

 

「苦手なら、トマトくらい食べなくてもいいと思うよ?」

 

「でも、残すのは失礼かなって……」

 

 そう言ってまたトマトとにらめっこを始める島田さん。

 何度か箸を伸ばすが、やはりよっぽど苦手なのか、直ぐに引っ込んでしまう。

 

 居た堪れなくなってきた……。

 

「俺が食べよっか?」

 

「それは……」

 

 提案すれば、しばらく悩む様子を見せた後、お皿をこちらに寄せて、小さな声で「お願い、します」と呟いてきたため、少々はしたないが、ひょいとトマトを指でつまみ、口に放り込む。

 

 うん、デミグラスソースも付いてたから普通に美味い。

 

「ごちそうさま」

 

「ごちそうさまでした……ありがとう、えっと」

 

 そういえば、島田さんのことはある意味で有名ってこともあって覚えていたけど、島田さんはこっちの名前までは知らなかったよな。

 

「いやいや、別にいいよ。それから俺の名前は田尻 雄也だよ」

 

「田尻さん……それで、その……」

 

「ああ、ボコの事だったね……ほら」

 

 今度は少し控えめながらも、やはりよっぽど気になっていたのだろう、すぐさまボコの話題に移った。

 ポケットから携帯を取り出してストラップを彼女に見せれば、目をまん丸にした後、キラキラと輝かせながら見ている。

 

 ちなみに俺にとってボコは彼女ほどでは無いが、そこそこ愛着のあるキャラクターだ。

 このボコ専門のアミューズメント施設が存在し、そこで知り合いが働いていることからよく手伝をしており、そのお礼としてグッズも結構持っていたりする。

 

「スゴイっ、これって限定品のブルドーザーにボコボコにされたボコ!」

 

「分かるんだ」

 

「あ、その……ボコミュージアムでしか販売していなくて、私は買いに行けなかったから……」

 

 そう言ってしょんぼりとした表情を見せる。

 

「欲しかったらあげるよ?」

 

「でも、悪いし……」

 

「いやいや、実はボコミュージアムに知り合いが居てね、何度か手伝いに行っててその繋がりで色々と貰った中の一つだから家にまだもう1つあるから、上げられるよ」

 

「本当!?」

 

 と、年相応で可愛らしい様子に頬が緩んでしまう。

 最初あんなに気まずく感じていたのに、話してみればどうということは無く、むしろ同級生の女性よりも余程話しやすかった。

 

 

 ◆

 

 

 あれからボコについてあれこれと話をしているうちにだいぶ時間が経ち、食堂も人が疎らになってきた頃、ようやくボコ談義にひと段落着いたため、食器を返すために席を立つ。

 

「そういえば、最初辺りに話したストラップについてだけど、ぬいぐるみとかもかなりあるから被ってるのはいくつかあげようか?」

 

「え!?あ、でもさすがにそこまでは……」

 

 確かに、安いものって訳でもないから気が引けるか。

 

 ……そうだ。

 

「それなら、たしか島田さんって戦車道やっているんだよね」

 

「やってるけど……」

 

「代わりと言っちゃなんだけど、中身触っても大丈夫そうな戦車とかあったら少し触らせてもらえないかなって……戦車とか車の整備系の勉強もしているんだけど如何せん実物を触る機会がなかなか無くてさ」

 

 そう提案すると、彼女は顔を俯かせてしまう。

 さすがに戦車をって言うのは無理な提案だったかな?

 

「その」

 

「?」

 

「私、戦車道やってはいるけど、皆よりも年下だからあんまり良く思われていないみたいで……話しかけられたりとかぜんぜんだから……」

 

「そっか……」

 

 確かにそれだと戦車どうこう以前の問題か……。

 

「わたし、このまま上手くやって行けるかな……」

 

 重い!なんかすごく重い展開になってきた……。

 確かに今日の様子からして元々あんまり話すのは得意ではなさそうだったし、周りよりも一回り以上年下だからって言うのもあって、良く思われなかったり侮られたりって言うのもあるんだろう。

 

 でも確か、島田さんのお家って戦車道だと結構有名なんだっけ?

 それに、飛び級まで出来るぐらいには優秀なんだよな。

 全員が全員、悪く思っていたりする訳無いだろうし、この子のコミュ障さえ何とかなれば意外とどうとでもなるのではなかろうか。

 

「あー、勝手な憶測になっちゃうけど、島田さんは飛び級っていう実績もあるし、あとはコミュニケーションさえきちんと取ればだいたいの人には案外直ぐに受け入れられるんじゃないかな?」

 

 話してみていい子だってのはわかったし、こんな子を嫌う人なんてそうそういないでしょ。

 それこそ年齢で侮ってる人とか以外なら。

 

「でも……」

 

「んー、こんな言葉を知っているかい?『It always seems impossible until it’s done』」

 

「どんなことでも成功するまで不可能に思えるものであるって意味なんだけどね、まず、コミュニケーションに関してはほとんど話したことがなかった俺とこんなに沢山話せているんだから、やってみれば案外簡単なことだよ。」

 

 仲がいい人が出来れば、周りの反応は案外柔らかくなるものだし。

 

「それに、島田さんの大好きなボコもいつもめげずに立ち向かっているでしょ?もしも失敗しても、また何度も挑戦すればいいさ」

 

「ボコみたいに……」

 

 と、ボコを例えに出せば、彼女は少しハッした表情でこっちを見てから、抱えているボコ人形を抱きしめる。

 

「……わかった、自分から頑張って話しかけてみる」

 

「うん、それがいいよ。もしあれだったら俺が話の練習相手にでもなるからさ」

 

 そう言うと悲しそうだった表情が、少し柔らかくなり、小さな声で「うん」と頷いた。

 

「よし、それじゃあ頑張れってことで、さっき言ってたこのボコをあげるよ」

 

 と、携帯からボコ人形ストラップを外して島田さんに渡す。

 それを彼女は、じっと見つめている。

 

「あ、新品の方が良かったかな?」

 

「大丈夫、これがいい……」

 

 そう言い、ストラップをぎゅっと握りしめた彼女は、こちらに顔を向ける。

 その顔にはもう陰りはなく、ちょっとした覚悟のようなものが見えた。

 

「いろんな人に話しかけて、認めて貰えるように頑張る」

 

 

 

「だから、戦車とか用意できるようになったら、ボコのぬいぐるみとかも、その……お願いしても良い、ですか?」

 

 

 

 その質問に対する答えは

 

「もちろん」

 

 それ以外ありえなかった。

 




すごく簡単にまとめるとコミュ障少女が人に話しかけることを決意する話()

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