勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。   作:吉樹

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第14話 「魔王様、次の行き先を決める」

「……お帰りなさいませ」

 

 

 ハルス村を巡る攻防を終えて魔女宅へと戻ると、森の魔女が土下座をして私たちを出迎えていた。

 もちろん言うまでもないが、今の私はちゃんとした身なりだった。

 馬車に置いていた道具袋には替えの服も入っているので、いまの私はもう半裸じゃないのである。

 

 

「ハルス村を救っていただき、本当に、本当にありがとうございます……」

 

 

 声には心からの感謝と喜びが込められていたが……

 震える声だけでなく、その全身もわずかに震えている様子だった。

 私を見つめる瞳には悲壮な決意が宿っており、私は内心で「やれやれ……」と嘆息ひとつ。

 

 

「え……どーいうこと?」

 

 

 困惑を隠せないウルが目をパチクリ。

 ちなみにいま、アテナの姿はない。

 消耗しすぎたこともあり、精神世界に戻っているからだ。

 

 

「森の魔女よ。とりあえず、茶の間で話そうか」

「……はい」

 

 

 まるで死刑執行を待つ囚人のような態度と雰囲気で、重たい足取りの魔女の先導で茶の間へと。

 

 椅子に座ることなく床に正座する魔女が、まるで献上するような動作で私に指輪を差し出してきた。

 

 

「……急ごしらえで申し訳ないんですけど、この指輪は私が造りました。効果は、周囲の魔力を取り込んで蓄積して、装備者の意思に反応してその魔力を受け取れる仕組みです」

「ほう? なかなか便利だな」

「ただ……急ごしらえだったんで、蓄積量がそんなにないってことです……ごめんなさい」

「ということは、これ(指輪)は私が貰ってもいいということか?」

「はい。私からの感謝と……謝罪と贖罪です……」

「ふむ……」

「ね、ねえ、クレア? どーいうことなのこれ? あたしたちってイイことしたんだよね? なんで魔女さんがこんなに怯えてるのさ? イミわかんないんだけど??」

 

 

 当惑を隠せないウルが問うてくると、それを聞いた魔女がビクっと震える。

 私は貰った指輪を装着してから、こともなげに告げた。

 

 

「まあ要するにだ。魔女は、私が()()()()()()()()()ことを知っているってことだ」

「ふえ……? なにを?」

「私の呪いを解くことが出来ないにも関わらず、取り引きを持ちかけたことだ」

「ええぇーーー!?」

「……っ」

 

 

 ウルが驚愕し、魔女が息を呑む。

 

 

「じゃ、じゃあ、あたしたちって騙されたの!? ってか、クレアは知っててハルス村に行ったんだね……!」

「話を聞かされて、私に見捨てるという選択肢はないからな」

 

 

「……ご慧眼、感服致します、クレア()……」

 

 

 観念した眼差しで正座のままで私を見上げてくる魔女が、胸元で両手を組んだ。

 それはまるで、神に祈りを捧げるかのような、あるいは逆に、懺悔するような敬虔な様子だった。

 

 

()()を謀った罰を受けることは、覚悟しています」

「なぜそこまでして、ハルス村を?」

「……恩があるんです」

 

 

 鎮痛な声音で答えた魔女が、ゆっくりとフードを脱いだ。

 私の目に移り込むは、黒の髪と黒の瞳。

 ……黒の容姿は人族特有のものであり。

 つまり魔女は……人族だったのだ。

 

 

「ふえ……っ? なんで人族が魔族の領域に? 確か、関係は最悪だったよね……?」

 

 

 ウルが目を丸くする。

 種族が違い、幼い彼女にとっても、もはや周知の事実。

 人族と魔族は国交断絶は言うまでもなく、むしろ敵対関係にあるので、人族である魔女が魔族の領域にいることは、極めて異質だった。

 

 なぜ人族と魔族の関係がここまで悪化したのかは、歴史の勉強をすればすぐにわかることなので、ここでいちいち説明するのは省くが。

 

 罰を受けることを覚悟している魔女は、静かな口調で語る。

 

 

「私は国を追われてきたんです。私はただ、依頼されたものを造って、それを依頼主に渡しただけなんです。恋の成就がアップする程度の簡単な魔道具だったんです。でも……」

 

 

 過去を思い出してか、小さく息を吐く。

 

 

「依頼主が勝手に改造してしまったらしく、魔道具が誤作動して、依頼主の意中の方を殺してしまったんです……」

「自業自得だな」

「私もそう思いました……でも。その依頼主が責任を私に擦り付けてきたんです。勝手に魔道具を改造したのが悪いくせに、欠陥品の魔道具を納品した私が悪い、と。しかもあまつさえ、最初から私に殺意があり、依頼主は利用されただけなんだと言い張ってきたんです」

「ひどい……っ」

「おかげで私は犯罪者の烙印を押されてしまい、国を追われることになったんです……」

 

 

 遠い目をする魔女は、道中の艱難辛苦を思い出しているのだろう。

 だが私には、気になる点があった。

 

 

「そこまで大事になることなのか? 確かに人ひとりを殺めたのは罪になるが、国を追われるなど……」

「依頼主が……一国の王女様だったんです。そして彼女の意中の男性が、隣国の皇太子でした」

「なるほど、な。それじゃあ、事を治めるには”生贄”が必要だったわけだ」

「どーいうこと?」

「下手をしたら、国の存亡を懸けた戦争に発展しかねないってことだ」

 

 

 魔王によって統一されている魔族国とは違い、人族国にはいくつもの国が存在しており、共同連合という形で魔族と交戦状態にあったのだ。

 小規模の領土争いも茶飯事のようで、魔族という共通の敵がいなかったならば、いまごろ人族国は全域に渡って領土争いの戦禍に塗れていたことだろう。

 

 

「隣国の王女に自国の皇太子が謀殺されたとあっては、報復というお題目を掲げて、開戦の口実に出来るからな」

「まじかー……人族国って、怖いねー」

「……はい。すごく、怖いところです、人族国は……」

 

 

 そして、魔女は話を続けた。

 

 真実を知る王女の側近のひとりが良識のある人物だったようで、地下牢に囚われていた魔女は密かに解放され、どうにか国外に逃げることができたとのこと。

 他の国にて細々と生きていたが、追っ手が放たれてきたことで彼女の逃亡生活が始まる。

 国を転々とする日々に疲れ始めた頃に追手に追い詰められた彼女は傷を負い、どうにか命からがら逃げ出せたものの、逃げた先は魔族国領であり、それがハルス村だった、との話だった。

 

 

「瀕死だった私は、ここが魔族領だと知った時、死を覚悟しました。でも……ハルス村の人々は、私が人族であることにも拘わらず、手厚く看護してくれたんです」

「そっかー……ハルス村って、命の恩人なんだね!」

「……はい。だから……どうしてもハルス村を救いたかったんです……」

 

 

 言うべきことは言い終えたとばかりに、魔女は居住まいを正してから、改めて私を見上げてきた。

 

 

「理由はどうあれ、()()を謀ったことに変わりありません。覚悟は……できています。私の首を差し出すので、どうか……どうか、ハルス村はこのままにしてもらえないでしょうかっ。悪いのは全部私なんです……っ。ハルス村は被害者であって、何の罪もありません! だから()()のお怒りを受けるのは、どうか私だけにしてください……! お願いします……!」

 

 

 どこまでも必死でいて、悲痛な懇願だった。

 本気でハルス村のために、自分の命を投げ出す覚悟なのだろう。

 

 私は……ひとつ溜め息を吐いた。

 

 ビクッと魔女が震えるが、構わずに私は言葉を紡ぐ。

 

 

「そもそも、君は勘違いをしている」

「……はい?」

「私が君を断罪する理由がない」

「え……そ、それは、私が貴女を謀ったので……」

「確かに、嘘は吐かれた。が、()()()()()依頼報酬(指輪)こうしてはもらったし、それに最初から全てわかっていた上で、ハルス村に行ったわけだしな」

 

 

 弱体化が解消されないことは残念に思うが、そもそもが最初からそれほど期待はしていなかったので、嘘を吐かれた程度で目くじらを立てるほど、私は子供じゃないのである。

 

 

「クレアナード様……」

 

 

 覚悟を決めていただけに赦されたことに、魔女がポロポロと涙を流していた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 どこまでも低頭平身だった魔女の家にて一泊した後、私たちは街道にて馬車を停めて、今後の方針を話していた。

 

 

「あの暗殺者は、間違いなくブレアの差し金だろうな」

「私も同感です。このタイミングでクレア様に暗殺者が襲ってくるなど、その可能性しかありえません」

 

 

 ブレア(新魔王)を知らないウルが不思議そうな顔をするも、わざわざ会話を中断するつもりがないのか、小首をかしげるのみ。

 恐らくは、私が元貴族だと思い込んでいるので、そっち関係の人間なのだろうと判断したのだろう。

 

 

「こうなってくると、このまま魔族国で活動するのは、面倒になってくるかもしれんな」

「確かに。また何かしらの()()()()が来るかもしれませんね」

 

 

 暗殺者をただの”嫌がらせ”の一言で片づけてしまうアテナに私は苦笑いを見せるも、私としても彼女の意見には賛同だった。

 

 

「いまのこの位置だと……近いのは、エルフ族国か」

「では、これからエルフ族国に向かうので?」

「まあ……魔族国に留まる理由もないからな」

 

 

 それに、違う国に行けば冒険者として新規登録もできることだろう。

 なので、リスクを負ってまで魔族国にいる必要はないのである。

 

 すると……神妙な表情を浮かべたウルが、口を開いた。

 

 

「あたしは……ここまで、かな」

「……ん? どういう意味だ?」

 

 

 私と無言のままのアテナが、狼少女を注視する。

 私たちの視線を受けて、彼女は「えへへ」と頬をかいた。

 

 

「今回のことでさ、なんか痛感しちゃったんだよね。あたしって……クレアにとって足手まといだなって。最初からクレアにアテナさんの援護があったら、もっと楽に勝てたんじゃないかな……?」

「ウル……」

「ウルさん……」

 

 

 今回のことについては、ウルに助けられたこともあるのだし、私としては彼女を足手まといだなんて思ってはいなかった。

 しかし、ウルにとってはそう思っていなかったようで。

 彼女は強い決意を宿している瞳で私を見てきた。

 すでに彼女の中では……答えが出ていることなのだろう。

 

 

(そういえば、魔女宅でも何やら考え耽っていたな……あれは、こういうことだったのか)

 

 

 一言相談してくれれば……と思うのは、私が()()()になりすぎていたのかもしれない。

 

 

「ほんとはもっと一緒にいたいけど……それだとクレアに頼ってばっかで、きっとあたしは成長しないと思うんだ。だから……いまは、お別れするよ」

 

 

 薄っすら涙を浮かべるも、ウルは元気な笑みを見せてきた。

 

 

「あたしはもっと強くなる。アテナさんの御守りがいらないくらい、クレアの背中を守れるくらい、もっともっと強く。だからその時は……その時こそ、()()()の仲間にしてほしいな!」

「……そうか」

 

 

 私は、柔らかな微笑を浮かべる。

 まだ幼い少女がここまで決意している以上、私が()()()からという理由で引き留めるわけにはいかないだろう。

 ウルの健気な気持ちを尊重しなければならない。

 

 

「これまで私が教えてきたことをしっかりと覚えていれば、必ず強くなれるさ」

「うん! だから、いまだけ──バイバイ!」

 

 

 こうして私たちは、お互いに違う道を進むことに。

 

 駆けて行ったウルの姿が見えなくなってから、ぽつりとアテナが言ってきた。

 

 

「寂しくなりますね」

「だな……だが、出会いがあれば別れもある。それが、冒険者の醍醐味ともいえるだろう」

「おや? クレア様は、まだ冒険者ではないと思うのですが? 登録できていませんよね?」

「……感傷的な気分ぶち壊しだな。こういう時は空気を読んでほしいな」

「これは失礼を」

 

 

 私とアテナのいつものやり取りに変わりはない。

 ウルはまだまだ成長期なのだ。

 きっとすぐに、私と肩を並べるだけの実力を身に着けてくることだろう。

 可愛い子には旅をさせろ、というやつだ。

 

 馬車に乗り込んだ私は(こんなに広かったか)と思ってしまい、苦笑い。

 御車席に座ったアテナが影馬を召喚し、私に訊ねてくる。

 

 

「目的地は、このままエルフ族国でよろしいのですね?」

「ああ。まあ、急ぐ旅じゃないんだ。のんびり行こうじゃないか」

 

 

 エルフ族には、エルフ特有の特殊な技能なんかもあったりする。

 もしかすれば、私のいまの状態を解消する”何か”もあるかもしれない。

 まあ、過度な期待はしないが、少しくらいならばいいだろう。

 

 

「では、発進します」

「ああ、頼む」

 

 

 澄み切った青空の下、私とアテナを乗せた馬車が走り出した。

 

 

 これといって目的のない旅は、まだまだ続く──。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「はあ……はあ……はあ……っ」

 

 

 重症を負いながらも魔女──アルペンは、必死に逃げた。

 無我夢中で、どこをどう走ったかもわからない。

 とにかく、”あいつら”から逃げることだけを考えて、ひたすらに走り抜いた。

 

 そしてたどり着いた場所は、どこかの村。

 そこで力尽きた彼女は、ついに意識を失ってしまう……

 

 

「……あれ、ここは……?」

 

 

 気づくと、彼女はベッドに寝かされていた。

 どうやら村の中の民家の一軒らしく、古びている窓からは穏やかな村内の景色が見えている。

 

 

「傷が……」

 

 

 重症を負っていたのだが、包帯が丁寧にまかれていることから、介抱されたのだと知る。

 と、ちょうどその時、様子を見にでも来たのか、ひとりの老婆が入ってきた。

 アルペンはその老婆を見て、硬直してしまう。

 そして、さっきは何の気なしに見た村の景色も思い出して、顔が強張るのを感じていた。

 

 

「魔族……ここは、魔族の村なんですか……」

「そうだよ、お嬢さん。ここはハルス村さ。なんだい、そんなことも知らずに来たのかい?」

「……わ、私は人族です。どうして、私を介抱してくださったんですか……?」

「瀕死のお嬢さんを放っておけってかい? そこまで薄情じゃないわい」

「で、でも人族と魔族は険悪な仲では……」

「ああ、そうみたいだねぇ。けどそれがなんだい? わたしらが直接人族に何かされたわけでもない以上、こんな片田舎で、種族同士の諍いなんて関係あるかい!」

 

 

 わっはっはと豪快に笑い飛ばす老婆に、アルペンは当惑するのだった。

 

 その後、老婆の家で療養する彼女へと、話を聞いたようで、村の人々が代わる代わる見舞いにきてくれた。

 思いがけない手厚い看護に、アルペンは涙を隠せなかった。

 

 この村は、種族とか関係なく、本当に暖かい人々たちでいっぱいだったのだ。

 

 無事に回復したアルペンは、村を後にする。

 とはいえ行き場などない彼女は、温かいハルス村付近に隠れ住むことに決める。

 さすがに世間の目があるのでフードで顔を隠しはしたものの、ハルス村の人々は変わらない優しで接してくれており、彼女はハルス村と親交を深めていく。

 

 呪術師という職業を生かし、村の役に立つ魔道具を造り、それを卸す日々。

 平穏を享受するも、それは唐突に壊れることとなる。

 ハルス村が魔獣に襲撃を受け、支配されてしまったのだ。

 

 ちょうどハルス村に魔道具を卸そうと向かっていた彼女は、どうにか逃げ延びることは出来たが……

 

 すぐに近隣の街に救援を求めたが、なしのつぶての反応。

 ギルドに依頼するだけの金も用意はできない。

 呪術師でしかないアルペンでは、直接魔獣を倒す力もなく。

 

 

(どうしよう……どうすれば……)

 

 

 居ても立っても居られないが、自分の力だけではどうにもできない事態に、歯噛みする。

 焦燥感に身を焦がす彼女のもとに現れたのが──

 

 

 元魔王、クレアナードだった。

 

 

 アルペンは、彼女のことを知っていた。

 ずっと以前になるが、少し遠出をして大きな街に魔道具を卸しに行った時に、ちょうど魔王のクレアナードが視察でその街を訪れており、顔を覚えていたのだ。

 

 最近、弱体化したことで解任されたということらしいが……

 

 アルペンは、彼女(元魔王)を利用できるかもしれないと思った。

 素直に実情を述べて助けを乞うこともできたが、彼女のことを詳しく知らない以上、それは出来なかった。

 弱体化しているので下手なリスクを負いたくないと言われたら、それまでなのである。

 

 しかし、状況はアルペンにとって有利に働くことになる。 

 どうやらクレアナードは、自分が呪いにかかっていると思っているようで。

 何も呪いの気配は感じられなかったが……アルペンは、この千載一遇ともいえる状況を利用することにした。

 

 というか、時間的にも、もう彼女にしか頼れない。

 

 だが……謀ることには、多大なリスクが伴うだろう。

 元とはいえ、魔王を騙すのだから。

 

 

(私も、ただじゃすまないですよね……)

 

 

 でも……どうしてもハルス村を見捨てることはできなかった。

 なんとしても助けたかった。

 あの日の、あの温かさを、いまでも覚えているのだから……

 

 

 だから──アルペンは覚悟を決める。

 

 

 ハルス村のために、己の命をかけると──

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 都市ドルントの冒険者ギルドに、ひとりの狼人族の少女が姿を見せた。

 

 

「あ……ウルちゃん!」

「えへへ……だたいま、お姉さん」

 

 

 はにかんだ笑みを見せるウルに、受付嬢は僅かに顔色を変える。

 

 

「あのクレアナードって人はどうしたの? どうしてまたひとりに……まさか──」

 

 

 見放されたのでは、と受付嬢は危惧するも、当の彼女はブンブンと勢いよく頭を振る。

 

 

「んーん、違うよ! あたしが自分で決めたんだ。このままクレアにおんぶに抱っこじゃ、あたしは成長できないと思ってさ」

「ウルちゃん……」

「今日はさ、このクエスト受けようと思って!」

「これは……? 下級魔獣退治の……」

 

 

 近隣の村にて、数匹の下級魔獣が畑を荒らして困っているらしく、その討伐依頼だった。

 

 難易度はDなので、Eランクの冒険者であるウルには荷が重いんじゃ、と受付嬢は思ってしまう。

 昇格にも関わってくるので、ひとつ上の難易度までならば受けることが出来るのだが……

 

 もちろんながら、その際のリスクは自己責任である。

 己の力量と相談しながら見合った難易度に挑むのもまた、冒険者に必要な資質なのだ。

 

 

「ウルちゃん……ひとりで大丈夫なの?」

「大丈夫だよ! クレアにいっぱい鍛えてもらったから、もう以前のあたしじゃないからさ」

「そう……でも危ないと思ったら、いつでも逃げていいんだからね?」

「うん! 心配してくれてありがとね!」

 

 

 依頼を受注したウルは、喜々とした様子でギルドを後にする。

 その背を、受付嬢が心配そうに見つめていた。

 

 ギルドを出て通りを歩くウルは、ぎゅっと拳を握りしめる。

 

 

(ほんとはちょっとだけ怖いけど……でも、いつまでもそんなこと言ってられないもんね)

 

 

 強くなるためには、いつかは通らねばならない道なのだ。

 一日でも早く強くなって、早くクレアと肩を並べたかった。

 

 とある事情で故郷から出てきた幼い少女は、いつしかクレアが目指すべき目標となっていた。

 

 とはいえ、焦りは禁物だろう。重々承知である。

 

 焦らず、驕らず、確実に堅実に、一歩一歩進んでいくのだ。

 地道な努力がいずれは実を結ぶと、クレアも言っていたのだから。

 

 

(クレアだって、最初から強かったわけじゃないもん……だから──絶対に追い付いてみせる!)

 

 

 決意も新たに、狼人族の少女──ウルは、元気よく歩いて行くのだった。

 


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