勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。   作:吉樹

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第8話 「魔王様、密偵と会う」

「甘い!」

「ぐへえ……っ」

 

 

 飛び掛かってきたウルにカウンターである膝蹴りを叩き込み、直撃した狼少女はもんどりうって、そのまま動かなくなる。

 ……死んだわけではなく、ただ気絶しただけである。

 

 場所は、街道沿いに広がっている平野。

 

 ちょうど昼時ということもあり、昼食を摂った後、恒例となっていたウルとの稽古の時間だったのだ。

 

 

「やれやれ。クレア様のドSは相変わらずですね。少しくらい手加減してもよろしいのでは?」

 

 

 意識がない少女を優しく抱え上げたアテナが、無表情のままで私を非難してくる。

 

 

「それでは稽古にならないだろうが。というか、私としても少しキツいんだけどな」

 

 

 私は額に、薄っすらと汗をかいていたりする。

 弱体化の影響は魔力のみならず、どうやら体力まで奪っていたようで。

 本来だったらこの程度の運動で、汗などかかなかったのである。

 

 

「なるほど。歳の差ですね。血気に溢れる若者が相手では、寄る年波に負けるクレア様では荷が重い、と」

「お前は、いつもよけいな一言が多いな。逆に感心するぞ」

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

「いや、褒めてないから」

 

 

 街道脇に泊めている馬車内へとアテナがウルを運んでいくのを横目に、私は手近にあった小岩に腰かける。

 一旦身体を休めてしまうと、一気に疲労感が押し寄せてくる。

 

 

(……私はまだまだ若いつもりなんだけどな)

 

 

 内心で苦笑い。

 弱体化の影響だと思いたいところである。

 

 すると、街道を挟んで向こう側にある森に”気配”が生まれた。

 

 殺気は感じなかったのだが、一応警戒して、立ち上がってそちらへと鋭い視線を向ける。

 やがて木々の間から音もなく出てきたのは、忍び装束に身を包んだ少年だった。

 視認した私は、小さく息を吐いてから警戒を解く。 

 見知った顔だったからだ。

 

 

「ダミアンか……懐かしいな、と思うのはまだ早いか?」

 

 

 マイアス家お抱えの密偵のひとり……いわゆる、シノビである。

 彼とは何度か手合わせをしたこともあり、その時は私の全戦全勝だったが……

 いまの私の状態だと、勝敗はわからないだろう。

 

 

「お久しぶりです、クレアナード様。ご壮健で何よりかと」

「お前もな。それで? 落ちぶれた私にわざわざ会いに来たのはなぜだ?」

「通信機等では傍受される恐れもありますので、こうして俺が派遣されたのです」

「なるほど。で? 用件はなんだ?」

「……魔王城にお戻りになられる気はないのですか?」

「愚問だろう。いまの私はもう”最強魔族”ではないのだからな」

「……いまの上層部の情勢はご存じで?」

「知らないな。知る術もない」

「では、ご説明させて頂きます」

 

 

 ダミアンが語った内容に、私は少なからず驚いてしまう。

 

 

 かつては私の下で一枚岩だった上層部が、いまでは新魔王ブレア派と№2マイアス派とに分かれており、表立った対立こそないものの、互いに牽制し合っている、と。

 

 

「それでは、国の政ごとが滞っているのではないのか?」

「はい。大なり小なり支障が出始めております」

「あのマイアスがそんなことを望んでやるとは思えないな……ラーミアにけしかけられたか」

 

 

 私の指摘に、ダミアンは頷くことで肯定する。

 

 

あの馬鹿(ラーミア)……よけいな諍いを」

「クレアナード様を想ってのことです。いつ戻ってきてもいいようにと、居場所を守ろうと」

「気持ちは嬉しいが……迷惑をかけないようにこうして旅に出たというのに。これでは、意味がない」

「では、魔王城に戻られますか?」

「……いや。そんな拮抗状態なのだとしたら、それこそ私が戻れば、何が起きるかわからなくなってくる」

 

 

 私が戻れば、ブレアも黙ってはいないだろう。

 二大勢力の真っ向からの衝突ともなれば、魔族全体を巻き込んだ大規模なものになることは想像に難くない。

 その隙をつかれて人族に攻め込まれると、もはや目も当てられない。

 その辺りを危惧しているからこそ、今のところブレアも大きな動きは自重しているのだろう。

 あの男にとっても、せっかくトップに立ったというのに国そのものが滅んでは意味がないからだ。

 

 

(意味合いは違うが、その点(国を守る)だけは信用できるというのが、皮肉な話だな)

 

 

 しかし困ったのは、ラーミアたちだ。

 私を想っての行動みたいだが……

 国を弱体化させることは、はっきり言って私の本意じゃない。

 

 

「私のことは気にせず新魔王に協力を──いや、無理か。あの男(新魔王)では、賢王にはなれんよな……」

「まるでご自分がそうであったかのような口ぶりですね? クレア様」

 

 

 馬車から戻ってきたアテナが、いつもの通り揶揄してくる。

 私は、自嘲的に微笑。

 

 

「……少なくとも、そうあろうとはしてたさ」

「クレアナード様。そのお志は紛れもなく、誰もが認めていることです だからこそ、マイアス様に賛同する者たちが大勢いるのです」

「まあ……いずれにしても。いまの私では戻ったところで、諍いの火種になるだけだ」

「では、どうしても戻られる気はないと?」

「力が戻れば話は変わってくるがな」

 

 

 ダミアンに、これから向かう先の事を教える。

 

 

「なるほど……魔女ですか」

「その魔女について、何か知っていることはあるか?」

「申し訳ありません」

「そうか、まあ私も知らなかったからな」

 

 

 元々ダメもとで聞いたことなので、別に気にはしない。

 ダミアンは居住まいを正してきた。

 

 

「クレアナード様のお考えはわかりました。ではその旨を報告させて頂きます。では、これにて──」

「お待ちください、ダミアンさん」

 

 

 待ったをかけたのは、いつの間にか先ほどの余りもの──野菜スープが淹れられた皿を手にもつアテナだった。

 

 

「どうやらお疲れのご様子。少しくらい、休憩していってもよろしいのではありませんか?」

「アテナさん。お心遣いはありがたいのですが、しかし……」

 

 

 言葉を紡いでいる途中で、ダミアンの腹の虫が鳴ってしまう。

 まだ幼さを残している顔が、恥ずかしさでほんのりと赤くなる。

 

 そこでようやく、私も彼の様子に気が付いた。

 何やら疲労の色が濃かったのだ。

 

 

「疲れているのか?」

「……言い訳ではないのですが、まさか馬車を使われるとは思っていなかったので……不眠不休で移動してきたので」

「そうか……それは悪かったな」

 

 

 馬車の速度──しかも影馬だからさらに早い──に追い付くのに、どれほど無理をしたことだろう。

 しかしながら私は、彼の疲労に指摘されるまで気づかなかったのだ。

 アテナの洞察力には、頭がさがるというものだった。

 言ったら図に乗りそうなので言わないが。

 

 

「少し休憩していってくれ。お前に命令する権限がないから、”お願い”という形になってしまうが」

「クレアナード様からのお願い……もったいない事です。では、喜んでご厚意に甘えさせて頂きます」

 

 

 こうしてダミアンは少しだけ休憩を取った後、ウルが目覚める前に、私の近況報告を持ち帰ったのだった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 ダミアンが立ち去ってしばらくしてから。

 

 

「くんくんくん」

 

 

 たっぷり寝て起きてきたウルが、私の周囲をぐるぐる回りながら匂いを嗅いできた。

 

 

「ん? どうかしたのか?」

 

 

 私が問うと、ウルが上目遣いで私を見上げてくる。

 

 

「オトコの匂いがする」

「は……?」

「なんか、知らない匂いがすると思ったら、これオトコの匂いだよ!」

「……ああ。さすがに、獣人族の鼻はよく効くな」

「どういうことなの?」

 

 

 正確には男の()なのだが……彼女にとっては大して変わらないのだろう。

 寝起きで思考がはっきりしていない所に知らない男の匂いが私からすることで、少し混乱しているのかもしれない。

 ダミアンのことを説明するには、私が元魔王だということから話さないといけないだろう。

 ウルにはそのことを話すつもりはないので、どうやって説明するかなと私が思っていると……

 

 

「ウルさんには刺激が強い話になってしまいますが」

 

 

 何やらアテナが口を開いてきた。

 

 

「先ほど、クレア様の昔の男がやってきたのです」

 

「えぇ……!?」

「な……」

 

 

 ウルばかりではなく、私もが驚いてしまう。

 そんな私たちに構わず、アテナはまったくのデタラメをまるで真実のように、すらすらと述べてくる。

 

 

「いわるゆストーカーです。クレア様が無意味にその色香を発揮してその男を誘惑したことで、彼は勘違いしてしまったのです。しかし金の切れ目が縁の切れ目とはよくいったもので、貢いでいた彼が破産するや、クレア様はあっさりと見限ったのです。それでも彼はクレア様を諦めていなかったようで……まさかこの場所を特定して追いかけてくるとは思っていなかったので、私も驚いた次第です」

「アテナ、さすがにそれは……」

 

 

 無理がある設定では……? と言おうとするも、なぜかウルが納得した顔になる。

 

 

「貴族だもんね……そういうのもあるんだね……? そっか……クレアはオトナの女だもんね……いろいろあるよね……」

「いや、いまのは……」

 

 

 アテナの説明だと、私は完全にクズ女である。

 かといって否定すれば、別の理由を見つけないとならず。

 嘘が苦手な私にとっては、まるで何も思いつかない。

 

 権力争いに負けた事実を告げるか、クズ女の汚名を着るか。

 

 プライドの問題である。

 真実を告げた場合……この件に関しては、相手が誰であれ同情はされたくなかった。

 それゆえに……言えない。

 言いたくなかった。

 

 

(アテナの奴……もっとマシな理由は思いつかなかったのか)

 

 

 半眼で睨み据えるが、当の彼女は何を勘違いしたのか、ウルに見えないように私に親指を立ててくる。

 

 

「……ねえ、アテナ。そのオトコの人は……どうなったの?」

 

 

 恐る恐る聞いてくるウルに、アテナは神妙な態度でゆっくりと首を横に振った。

 

 

「ウルさんは、知らない方がよいかと」

 

 

 ビクッと震えたルウが私をちらりと見てから、乾いた笑いをしてくる。

 

 

「あ、あたし、もう一回寝てくるかなー……ふわぁ~、欠伸も出てきちゃったしね……!」

 

 

 わざとらしい欠伸をしてから、いそいそと馬車に戻っていった。

 その背を見送ってから、私は嘆息ひとつだった。

 

 

 それからしばらくの間、ウルから微妙な視線を向けられることになるのだが、私たちはどうにか無事(?)に、目的地にたどり着いていた。

 

 

 鬱蒼と生い茂る森が目の前に広がっている。

 かなり広大な規模のようで、ここからでは森の全容が見渡せないほどだった。

 

 

「獣道すらないねー……ほんとに、こんな場所に森の魔女がいるの?」

 

 

 耳をピクピクさせて森の外から中を窺おうとしているルウが言ってくる。

 

 

「野良の魔獣とかは、それなりにいる感じだけど」

「魔獣がいるのか……飼い慣らしているのか……? もしくは共生か……?」

 

 

 魔女の異名は伊達じゃないということなのかもしれない。

 

 

「クレア様。情報だと、魔女は森の中腹あたりに居を構えているとのことです。中腹がどの辺りなのかは現状だと見当もつきませんが……如何いたします?」

「んー……ウル、木登りは得意か?」

「ふぇ……? あー……まあ、小っちゃい頃からよく登ってはいたけど……」

「では、頼む。中腹あたりの場所を見てきてくれ」

「あ、そういうことね。いいよー!」

 

 

 あっさり了承したウルが一本の幹へと行くと、そのまま軽業師よろしくの身のこなしでもって、するすると木を昇って行った。

 

 

「さすが身体能力が高い獣人ですね。もう姿が見えなくなりました」

「だな」

 

 

 ややあって、ウルが昇っていた木から降りてきた。

 怪我をした様子もなく、せいぜいが衣服が多少汚れた程度だった。

 

 

「とりあえず、真ん中らしい場所はあっちの方向だったよー」

「そうか、すまないな。それで、何か建物らしきものは見えたか?」

「なんか家みたいのはぽつんってあったかも」

「状況的に、それが魔女の自宅の可能性が高いですね」

「だな。ウル、案内を頼めるか?」

「いいよー! 方角は覚えてるから、任せて!」

 

 

 元気よく返事したウルの先導のもと、私たちは森へと踏み入る──

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 森を進む道中で遭遇した魔獣は、その全てが下級に位置していた。

 

 下級のためにその脅威度は低く。

 ウルに経験を積ませる意味合いでそれら魔獣を彼女に討伐させながら、私たちは目的の場所へと到着していた。

 

 割と広めの開けた場所の中腹に、普通の民家が静かに佇んでいた。

 地下水をくみ上げる井戸も設置されており、少し大き目の物置すら置いてある。

 生活感に溢れた空間……ある意味では、こんな森のど真ん中では異質ですらあった。

 

 

「あれ、なんだろう?」

 

 

 不思議そうにウルが指さしたのは、何やら紋様が描かれている大き目の岩だった。

 周囲を見てみると、この広間を囲うような感じで、いくつか配置されていた。

 

 

「これは……魔除け? ……いや、この場合は、魔獣除けといったところか……?」

「おそらくはそうでしょう。そのような効果を発揮する”まじない”の類かと」

「まじないって、なに?」

 

 

 小首をかしげてくるウルに、岩をポンポンと叩きながらアテナが解説する。

 

 

「直接的に効果を発揮する魔法とは違い、間接的に効果を発揮するのが呪術であり、その一種に”まじない”という区分があるのです。主にこういった物体に紋様を刻むことで、目的の効果を発揮させるのです」

「へぇー……ってことは、これ作ったのは森の魔女ってことなのかな?」

「ふむ……状況的に考えれば、それが一番自然だな」

「クレア様」

 

 

 割と真剣なニュアンスで、アテナが私を見てきた。

 

 

「この”まじない”は、かなりしっかりと術式が構築されています」

「ほう? お前には紋様の奥の術式まで見えるのか? 私には表面上の紋様程度しか見えないんだが」

「精霊と人間の差でしょう。私たちは人間と違い、物体ではなく精神を拠り所としているので」

「なるほどな」

 

 

 私は思い出す。

 精霊が、相手の魔力の質を見ることが出来るということを。

 その事柄と同じような現象なのだろう。

 

 

「ですので、それを踏まえた結果、これを造った者は腕の良い()()()かと」

「そうか。どうやら魔女の正体は、呪術師だったってことか」

「? 魔女と呪術師だと、何か違うの?」

「言うほどの差はないけどな。”魔女”は漠然とした肩書き、”呪術師”はれっきとした職業、それだけの違いだ」

「そうなんだー……あ! そういえば故郷の村でもさ、いつも『ひっひっひ』って不気味に笑うばあちゃんが、みんなから魔女って呼ばれてたんだよね」

「意外だな。お前の村にも魔女がいたのか?」

「いやー……まあ、ただ単純にね、ばあちゃん歯がないから、うまく喋れなかったってオチ」

「……そうか」

「まさかのオチでしたね」

「あう……なんか、ごめん」

 

 

 そんな気はなかったのだろうが、私とアテナの微妙な反応に、ウルがしゅんとなっていた。

 

 

 気を取り直して、私たちは堂々とした足取りで民家へと向かう。

 いまさらコソコソしても意味がないからだ。

 恐らくこの”まじない”を通過した時点で、魔女には侵入者が来たことが知らされているはず。

 

 

「さてさて……蛇が出るか鬼が出るか」

 

 

 少なからず緊張感が漲ってくる。

 今のところ攻撃されてくるような気配はないので、話が通じる相手なのかもしれないが、油断はしないほうがいいだろう。

 

 私が目配せすると、その意を汲み取ってくれたアテナが、すっと自然な動きで無警戒なウルの側面に。

 

 

「? どうかしたの? アテナさん」

「少しモフモフしたくなったもので」

「え……っ」

 

 

 歩きながらモフモフされるウルは、戸惑ったように目をパチクリ。

 

 

(ドサクサに紛れて……少し羨ましいぞ、アテナ)

 

 

 実は、私もウルをモフモフしたかったりするのだ。

 しかしそこは必死に理性で止めていたというのに……

 そんな私の心情を知ってか、アテナが無表情のままで、にやりっと口角を吊り上げてくる。

 

 ……まあ、多少の悔しさはあれど。

 

 これで何か不測の事態があったとしても、アテナが傍にいるのだからウルの身は心配ないだろう。

 

 

「……さて、意外とあっさりついたな」

 

 

 何も起きることなく、私たちは民家の入り口ドアへと到達。

 しかし、まだ油断は出来ない。

 ドアを開けた瞬間、発動する仕掛けがあるのかもしれないからだ。

 

 

「では、クレア様。ドアを開けてください」

「……おいおい。ここは、メイドであるお前が開ける場面じゃないのか?」

「ご冗談を。それに、仕える主の骨を拾うことも、仕えるメイドの仕事ですので」

「私が死ぬ前提で話をするんじゃない」

 

 

「えーっと……あたしが、開けようか?」

 

 

 おずおずと言ってくるウルの頭をアテナは遠慮なくモフモフしながら、両目を細めてきた。

 

 

「13歳の女の子に、危険な役目を押し付けるのですか?」

「……だったら、お前が開ければいいだろうが」

「クレア様」

「はいはい、わかったよ」

 

 

 さすがに私としても、幼いウルに危険な役目を押し付けるほど鬼畜じゃないのである。

 とりあえず、こちらに敵意がないことを示す意味も兼ねて、呼び鈴を鳴らしてみた。

 

 すると、ガチャっと鍵が開く音が。

 しかしそれきり、何の反応もなく。

 

 

「……入って来い、ってことか……?」

 

 

 警戒しながらドアノブを握る。

 

 

「じゃあ、開けるぞ……」

 

 

 音もなく、ドアが開く──

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 クレアナードと邂逅後、ダミアンは独り森の中を駆けていた。

 駆けるといっても地上を走るのではなく、木々の枝を足場にしなりを利用して跳躍しており、まさに身軽なシノビだからこその移動法であった。

 

 

(クレアナード様、元気そうでよかった……)

 

 

 魔王城を追放されたと聞かされたときは、耳を疑ったものである。

 その理由を聞かされた時は、怒りのあまり新魔王の首を取ろうとしたものだった。

 とはいえ、さすがに適わない相手なので、踏みとどまるほどの冷静さはかろうじて残してはいた。

 

 

(本当なら、クレアナード様のお傍にいたいけど……)

 

 

 クレアナードは、マイアスみたくお抱えの戦力を保有しなかった。

 自身が最強ゆえに、必要と感じなかったからかもしれない。

 本当ならば、ダミアンはクレアナードの配下になりたかったのだ。

 

 

 ダミアンは……クレアナードに淡い恋心を抱いていたのである。

 

 

 分不相応ということは理解しているが、せめて近くにはいたかったのだ。

 それゆえに彼は、少しでも彼女との接点を持とうと奔走し……マイアス家お抱えの密偵のひとりに。

 

 ケツの青いガキが色気づくな、と揶揄されるのはわかっていたが……ダミアンはひた向きにクレアナードを想っていたのである。

 

 ……彼女はもう覚えていないだろうが、ダミアンは彼女に命を救われたことがあるのだ。

 まだ彼女が、最強魔王となる前に。

 まだ幼い頃のダミアンにとっては衝撃的な出来事であり、幼い心に植え付けられた羨望が、いまでは恋心へと昇華していたのである。

 

 それゆえに、今回のクレアナードとの連絡役という任務を、ダミアンは率先して志願していた。

 

 

(クレアナード様……本当に弱体化していた……)

 

 

 再会した彼女からは、以前のような圧倒的感がまるで感じられなかった。

 それは、ダミアンにとっては非常に不安になる材料だったのだ。

 

 早くマイアス()に報告を持ち帰った後、クレアナード(愛し人)の下に戻らなければならない。

 

 

(俺が……クレアナード様を守るんだ!)

 

 

 決意も新たに、ダミアンは帰路を急ぐのだった。

 

 

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『小説家になろう』にて本編書いてます。

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