主役がいない、物語 作:花篠 成之
Ⅰの記憶が残ってる内に見て貰わないと、つまらん
じゃ、スタート
祝、UA1000突破!!
科学、と
そこから物理学、化学、天文学etc。
更に細かくすると物理学の中でも力学、熱力学、電磁気学、連続体力学といった風に。
同時に、ある種こういった科学の完成形に近づこうとする『木原』一族も必然的に各々方が特化した分野に派生していく。
例を挙げよう。
『
どんな手段をとっても人を『諦め』させることに秀でた木原病理ならば、心理学。
何人
ごく稀に木原円周のようなイレギュラーも発生するが大抵のケースにおいては『木原』も分類できる。
だとすれば、木原極限の専門分野とは一体?
─────────
『散開ッ!1番から4番は正面から迫撃陣形を用意、5番から8番は背後を奪って残りは中距離からの援護射撃に徹しろ!』
目の前の人間の変貌を察知するやいなや、即座に指示を出せた駆動鎧はそれなりには優秀だったのだろうし、指示に従った部下もそれなりに優秀だった。
パパパパパパン!とサプレッサーを着けているのか軽く連なる発砲音を聞きながら、極限は地を跳ねる。『
否、『疑似城壁』を使うためにも極限はできるだけ動かなければならない。もし動きを止めてしまえば『正確な振動』を発するだけの電力の供給もストップ、『疑似城壁』は停止する。最悪は全方位から包囲され、銃撃による圧迫で動きを止められ『疑似城壁』の稼働電力が途切れるまで攻撃されること。
だからこそ強力無比な盾を持ちながら、飛び交う弾丸を避けなければいけないという矛盾が生じてしまう。
『クソッ、なんで
「真逆。那由多でもあるまいし。それに、私は『機械』の扱いは苦手だ」
縦横無尽に駆け巡り、時には
が、防がれているにしても母数になる被弾数が少なすぎる。当然だがご都合主義なんてものは存在しない。
理由は単純に極限の機動が人間離れしているのだ。
「ああ、君たちは知らないのか、私の専門分野を」
一際高く跳躍し、回り込もうとしていた駆動鎧の背後に降り立つ。その異様な身体能力は、並みのアスリートでは及ばない。どう見ても皮下に
「『
敢えてカテゴライズするなら──
「私が『素材』のプロだということに」
──材料工学。
極限は学園都市でも随一の、物質の解析や製作、大雑把に言えば『素材』の扱いに特化したスペシャリストである。
『そこかッ』
壁にしていた駆動鎧が振り返り、銃口を構え──
「ああ、有難く頂戴しよう」
『いいッッ!?』
──手首の関節からスパークを撒き、マシンガンをもぎ取られた。不意を打ち、同じ師を仰ぐ
「言ったはずだが?私は『素材』のプロだ。腕力を強化したい?ならば
それだけで学会に発表もできそうな事を、事も無げにさらりと言い放つ。
骨が脆い?──合チタンで人工骨を作れ。
視覚反応が遅い?──光ファイバーで神経を繋げ。
皮膚が柔い?──シリコンの人工皮膚を被せろ。
こうして極限は自分の体に多くの『素材』を組み込んできた。他の木原が扱う『機械』のように複雑な機構も、煩雑な操作も、面倒な工程も、必要ない。
単一用途のみに集中特化した『素材』を掻き集めた極限こそが、言うなれば1つの完成した『機械』。
『素材』にばかり熱中したせいか、反動として携帯ゲーム機に苦労するくらいには『機械』の操作がてんで駄目だが、本人は左程苦にしていない。
『……要は体が頑丈なだけだ。怯むな!それに、あの口径のマシンガンじゃ駆動鎧の装甲は貫けない』
『そ、そうだよな!』
麻痺しかけた部下と自分を鼓舞し、思考停止から引き上げて、戦闘態勢を維持する。
「まあそうだろう。確かにこの銃ではその装甲を突破できないな」
奪ったマシンガンの銃身をカンカンとノックしながら最早敵を視界に入れずに話す。もう脅威はアウトオブ眼中らしい。
「何度も言わせないでくれ給え。私は『素材』のプロ。駆動鎧の装甲だって熟知している。というか製作にも関与している。こんなマシンガンじゃ精々
このままでは持久戦になる。そうなれば駆動鎧の装甲をぶち抜く手立ての無い相手の方が遥かに不利。況してや相手は一応生身、走り回るスタミナにも限界がある。それを知った駆動鎧が醸し出す安堵の匂いを敏感にも嗅ぎ取ったのか、不愉快そうに眉をひそめる。
「ふむ。もしや“もう自分たちが負けることはない”なんて思ってはいないだろうな?もしそうなら『木原』の名と、何よりも私を過小評価している」
極限は先ほど包囲してきた駆動鎧を飛び越し、その背後に立った。つまり、今の極限がいるのは包囲網の外側。そこから陣形を組み直す駆動鎧の全てを睥睨する。
『他ならないお前自身が言ったことだが?』
「他人の言い分を鵜呑みにするのはどうかとは思うが、そうだな。マシンガンでは駆動鎧の装甲を突破できないのは純然たる事実。私が見たところ、それは市街戦モデルだろう?耐圧耐衝撃耐熱耐電気。大概において高い水準を見せる、私の自慢できる一品だ」
『つまりお前は自分で自分の首を絞めた訳か。ハッ、滑稽だな』
「滑稽なものか。お陰で貴方たちを排除する算段が付いた。いい加減に気づけ。『自分たちが狩ること』ではなく、『自分たちが狩られないこと』を目標にすげ替えてしまったことにな」
ざらり。
砂山を崩すような音を上げて、極限の足下から鈍色のナニカが這い出る。
ミミズとムカデを足して二で割ったような、全長三メートル近い鋼鉄の異形。
『チッ。主戦力はそっちだったか』
「紹介しよう。私が扱える数少ない『機械』の1つ、『
若干誇らしげに胸を張って、ギチギチと顎らしきパーツを鳴らす鋼の虫を撫でる。
直後。
その堅牢な胴に、狙い澄ました弾頭が突き刺さる。ボワッッッ!!と倒れた『土塊食らい』が炎熱で溶解する。『土塊食らい』が間にいなければ極限にクリーンヒットの弾道だった。
「おお……」
『無様だな!こっちにも漸く援軍が到着したぞ!』
同じ機械でありながら、『土塊食らい』が少しは生物的なのに対して、こちらは無機的。
武骨な砲塔を設置した装輪装甲車、HsWAV-15。
通称、『十本脚』。
本来なら戦争に投入されるような破壊兵器を前に極限は──ちらりと横目で見て、胸を撫で下ろしていた。
「ああ、ソレか。
『見栄を張るにも限度があるのを知れッ!』
「見栄など張っていないさ。いいかね?そもそもにおいて『土塊食らい』に攻撃力は皆無、おまけに既に用済みだったから処分されても一向に構わないのだよ。替えも利くことだしな」
ざらりざらりざらりざらりざらりざらり!!!
呼びかけに応えるように地中から続々と新たな『土塊食らい』たちが這い出る。
「私たちが立っているこの地面も、立派な『素材』の一種だというのを頭に入れた方が良い」
靴のつま先でトントンと土を蹴る。
「さて、その上で質問だ。今、
『
そんなコンビが数分前から急ピッチで水面下の作業を進めていた。地下の様子など言うに及ばない。
『俺たちを生き埋めにするつもりか?残念だったな!ここの地下は、栽培の為に土の層が薄いんだよ!』
毒々しい色合いのトウモロコシ畑を指差す。トウモロコシは原種でも50センチほどの深さまでしか根を張らない。それを、より浅く狭く根を張るように遺伝子を組み換えている。生き埋めにできるような土の量は、ない。
相手の策謀を見透した気になって、勝ち誇ったように嘲笑と歓声を上げる敵。
「はあ、
極限が遂には哀れむような眼差しを向ける。
『…………下?』
さて、ここはどこだったか?
──彼らがいるのは通称『
『ま、さか。まさかまさかまさかッ!?』
「悪いが、市街戦モデルと発注されたのでな。装甲の
厳かに、地獄への入り口が開かれる。
包囲網の中心から。
駆動鎧の足下から。
『十本脚』のすぐ隣から。
極限の周りだけを孤島のように残して、陸地を浸食する蟻地獄のようにどんどんとあちこちで穴は広がる。
『うおォォォォ!!!』
「後々の展開を予測しないからそうなる。学習し給え木偶の坊」
小さな安全地帯を目指して死に物狂いで猛進する駆動鎧目掛けて、奪い取った
「『機械』の扱いは得手ではないが、致し方ない」
駆動鎧用のマシンガン。人間の使用を視野に入れていないのだから、当然ノックバックも生半可な威力ではない。常人なら逆に腕の骨を複雑骨折しても納得いく。そんな衝撃を『疑似城壁』で和らげ、頑丈な人工骨で支え、強力な人工筋肉で押さえ込む。
周り一面が敵、敵、敵。どんなに下手だろうと撃てば中る、
遂に地面の上にいる駆動鎧が一人になる。
『これで終わると思うなよ!いつかお前も俺と同じ末路を辿る、いや辿らせてやる!』
「笑止。盛者必衰は世の理。私とて何時までも栄華を誇っていられるなんて考えるほど驕ってはいない。死に急ぐ気も無いがな。私が死ぬのは少なくとも今ではない」
発砲音に紛れても、届くようにはっきりと。
「だから、私がいつか逝くまで沈んでいろ。まあ私が逝くのは天寿を全うしてからだろうがな」
『おああァァァァァ!?』
やがて穴が拡大し、残った最後の一人の踵に到達すると、
その穴を覗き込むと、光の差し込まない、何も無い地球の裏側まで届きそうに感じるほど深い暗闇だけが見えた。しばらく待っても、生存者が上がってくる気配はない。
「……ちゃんと落ちたか。生き残られても面倒だ」
ぽっかり空いた穴の1つ1つを念入りに確かめると、暗部の下部組織に電話を掛け、元通り跡を残さず復旧するよう指示を出す。
連れてきた『土塊食らい』では掘削しかできないのが欠点だ。今はまだ簡単な機構ゆえに極限でも扱えているが、流石に復旧までしてしまうとガッツリ『機械』の域になってしまう。正直、ただ指示を出すだけで良い『土塊食らい』でも極限にとっては扱いにくい。もう魂の奥底からアレルギーが出るようだ。
「何が野暮用だ。まったく、骨が折れる」
愚痴がこぼれるのも大目に見てほしい。
実際には『疑似城壁』を壊して合チタンの骨を折るほどの苦労はしていないが、精神までは『素材』を組み込めないので精神疲労は普通の人間並みだ。
………『
因幡の白ウサギのように、穴を塞ぐ『土塊食らい』の背に乗って陥没した穴を渡る。
「これだけやってまだ依頼のスタートラインにも達していないとは……」
急激に折れそうになる心を必死に支える。もう気分的には仕事が終わり、ギリギリの終電に乗り込んでいる。はずなのに手元には書類の山が残っているような絶望感がメンタルに襲いかかり、自然と背が丸まる。激戦の証であるボロボロの羽織も一層の哀愁を誘う。
「まあ請け負った以上はやるしかないか」
襟を正し、無理矢理に奮起する。そして、自分の師からの頼み事を忠実に遂行すべく町に降りていった。
…………自分の服装を忘れた結果、周辺住民から奇異の視線に曝されたそうだが、それはまた別の話である。
いかがだったでしょうか?
作者のお気に入り、木原極限。
科学者なのに『機械』が苦手とか中々曲者。
逸材の作り方 Fantastic_science──完