カインの腐敗録   作:痛い作者ことカイン=9

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 そろそろタイトルが思い浮かばなくなってきたこの頃です。



第九話 カイン=9の出会

 □霊都アムニール 【死霊術師】カイン=9

 

 差し込む朝日の煩わしさを伴って、意識が覚醒する。

 この世界で寝るのは初めてじゃない。まあ、寝ずに地下墳墓に篭もっていることの方が多いのだが。

 

「んー⋯⋯よく寝た」

 

 この硬い石造りのベッドにも慣れたもので、初日は痛さに、寝起きの不快感に顔を顰めたものだが、今ではそれもない。むしろ、快眠出来ている程である。人間慣れる生き物とはよく言ったものだ。

 時刻を見れば、今は朝の六時過ぎ。集合時間までは、あと八時間程度は余裕がある。まあ、余裕と書いて暇と読むのだが。ああ、とても余裕()だ。こういうことさ。

 だが、そんな栓のなくグダグダとして、くだらない言葉遊びをしているのも飽きてきた。言葉遊びは節度を持ってするべきだ。

 さて、本当に何をしようか。

 

「⋯⋯そうだ、試行錯誤でもしようか」

 

 どうせやることも無い。ならば、兼ねてよりやろうと考えていた、とあることについて試行錯誤することにした。

 ククク、如何にも死霊術師っぽい、(ネガティヴ)の側面的行為だ。少し心躍る。

 

 アイテムボックスから色々と取り出して、それらを石の台座の上に置き、ボクはそれらと向き合った。気分は工作する子供番組のおじさんだ。

 

「どこから手をつけようか⋯⋯」

 

 時間はたくさんある。気の向くままにやろう。ククク。

 

 ◇

 

「ふう、完成だ」

 

 思ったよりも手間取ることも無く、簡単に終わった。それでも、丁度良い時間潰しにはなった。

 時刻は十二時少し前。公園までの道のりで適当に食べ物でも買って行けば、ぴったりだろう。

 そう考え、完成したソレをアイテムボックスに回収する。ストレージ容量を確認し、ボクは少し思案した。

 

「そう言えば、これだけリルがあるんだし、そろそろ、新しいアイテムボックスを買っても良いかもね」

 

 アイテムボックスは、常にドラウグルの完全遺骸と彼らの武器で満帆なのだ。初期配布のアイテムボックスも併用しているが、まるで足りない。これから先、何か重要な物が手に入っても、容量不足で持てないんじゃ笑い話にもならない。

 

「⋯⋯買っていこうか」

 

 そうと決まれば話は早い。

 ボクは、フードを被って小屋を出発した。暫くは戻らない。あのベッドともしばしの別れだ。名残惜しいわけではないが、感慨深いものがある。

 

 やっぱり、アイテムボックスにはどうしてか惹かれるものがある。

 

 ◇

 

 木で出来たシンプルな作りの扉を開けて、ボクはこれで三回目の来店となる鞄屋の店内を見渡した。いくつもの鞄、アイテムボックスが上から吊り下げられている光景は、何度見ても飽きない。あのアイテムボックスはどれくらい入るんだろう、あのアイテムボックスは何で出来ているんだろう。そう考えると、堪らなく全部欲しくなる。まあ、さすがに全部買えるほどのお金は無い⋯⋯と思うが。

 すると、小さく咳払いが聞こえた。

 そちらの方を見れば、そこには、標準(デフォルト)で退屈そうな顔を隠そうともしない、頭部の毛量の薄い店主が居る。カウンターの裏側で椅子に座って頭をポリポリと掻くその姿は、お世辞にも店員には思えない。

 そんな彼とは、もう顔見知りと言っても良いかもしれない。

 

「嬢ちゃん、また来たのか」

「また来たよ」

 

 ボクのことを嬢ちゃんと呼ぶ彼の顔は、非常に面倒臭そうだが、纏う雰囲気はそこまで非歓迎的なものじゃない。

 

「今日は買ってくのかい?」

「ああ。値段に糸目はつけない。ここで、一番小さくて一番大量に入る鞄、売ってもらえるかな」

 

 そう言うと、彼は目を丸くした。

 まさか、数日前には初心者丸出しのマスターであったボクが、そんなものを求めてくるとは思いもしなかったんだろう。ボクも同じ立場だったら疑う。

 

「⋯⋯嬢ちゃん、金は、あるんだろうな?」

「ああ、あるよ。1500万リル」

「は?」

 

 ボクが所持金を提示すると、彼は今度こそ絶句した。

 まさか、初心者がものの数日でそんな大金を持って帰ってくるなんて、誰が考えられるものか。

 

「それが本当なら、800万リルだ。800万リルで、おもしれえもんを売ってやる」

「買おう」

 

「ちょっと待ってな」、そう言って彼は店の奥に行ってしまった。何を持ってくるんだろうか。

 

「こいつだ」

「これは?」

 

 彼が持ってきたのは、黒い外套。それもローブの上から羽織れるタイプのものだ。

 はて、この外套に何があるんだろうか?

 

「これは、アイテムボックス付属式の外套。いや、外套型アイテムボックスって言った方が良いか」

「外套型アイテムボックス?」

「見てみな」

 

 店主は外套を捲り、裏側を見せてくる。

 そこには、びっしりとポケットがついていた。もしかして、これ一つ一つがアイテムボックスってことか?

 

「ポケットの数は驚愕の五十個。その一つ一つが、お前がこの前買ってったアイテムボックスレベルの収納量を誇る」

「⋯⋯」

 

 あのアイテムボックスは、初心者用鞄の三倍入る。それが五十個⋯⋯教室150個分、重さにして150トンか。なるほど。でも、もう少し入るものも⋯⋯

 

「さらに、これのすげえところは、外套装備でありながら、外套装備じゃあなく、アイテムボックスとしてカウントされるってぇところさ」

「?」

「要は、装備品の枠を取らねえ。この上から外套を装備することだって出来る。ちなみに、外套装備として装備品枠取って装備することも出来るぜ」

 

 なるほど。そういうことか。あくまでアイテムボックスだから、外套装備を別個に付けて戦力強化も図れる。

 それに、個人的な話だが、この先、何らかの上半身装備を手に入れた時、確実にこの初心者装備のローブは外すことになる。このローブが無いと、ボクの顔を隠すことが出来ない。

 だが、幸いなことにこの外套にはフードも付属している。

 

「しかもこいつは、外套装備でありながら、耐久力が異常に高ぇ」

 

 彼が懐から取り出したナイフをこの外套に突き付けると、普通なら破けるところ、なんとナイフを弾いたのだ。

 

「⋯⋯買おう」

 

 これは買うしかない。

 裾がボロボロに破けていて、見た目もかなり良い感じだし、何よりボクはこの外套を付けて戦う時を想像して、ある展望(ビジョン)が見えた。

 店主に800万リルを支払い、【黒箱外套衣】を入手する。そして、早速羽織った。

 うん、死霊術師らしさがワンランク上がった。そんな気がする。

 

「毎度ありー」

「ああ、また来るよ」

 

 良い買い物が出来た。8000万円分を使ったというのに、損をした気分は微塵も無い。まあ、もらった額がおかしかっただけ、というのもあるだろうが。

 

 まあそれはさておき。そろそろ時間だ。

 ボクは外套を翻し、公園へ向けて歩き出した。

 

 ◇

 

 公園に着くと、そこには全身皮鎧姿の男性が居た。頭部まで完全に覆っている。

 

「キミが、ラインハルト君か」

「⋯⋯貴女は⋯⋯みいこさん、ではないな。カイン=9さんで合っているか?」

「うん、ボクはカイン=9だよ」

 

 なるほど、彼は堅物だな。それも、ロールプレイに興じれるタイプの堅物だ。こういうのは、ロールプレイならなんでもする。どんな状況下でも聞き分けがないタイプだ。

 

「知っていると思うが、俺はラインハルト。【戦士(ファイター)】のラインハルトだ。君は要らない、ラインハルトで良い。これからしばらくの間、よろしく頼む」

「ご丁寧にありがとう。ボクは【死霊術師(ネクロマンサー)】のカイン=9さ。ボクもカインで良いよ。よろしく」

 

 握手を交わす。互いに篭手を通しての握手だが。うん、信用は出来ないが、信頼は置けるタイプだとは思えた。

 

「カインは見るからに、という感じだな」

 

 ラインハルトは、ボクの格好を指してそう言ったのだろう。確かに、この格好はなかなか怪しさ満点だ。

 

「そうかな? まあ、始めたばっかだけど、巡り合わせが良くてね。この通りさ」

「そうなのか。俺は初めてあっちの世界で一週間程度は経つな」

「ボクもそれくらいさ」

 

 まあ、この時期に始める、ということはボクと同じく中学生に上がったか高校生に上がったかのどちらかだろう。

 いや、あっち(リアル)の詮索はつまらないね。妙な考察癖はボクの悪い癖だ。

 

「取り敢えず、これからの話はみいこさんが来てから、だな」

「うん、ボクもそう思う」

 

 よ、とまで言おうとしたところで、向こうからバタバタと駆けてくる音が聞こえた。

 

「お待たせしましたぁ〜!!」

「⋯⋯いや、差程待ってはいない」

「ボクも今来たばっかだよ」

 

 ボク達がそう言うと、如何にもファンタジーな狩人といった見た目の彼女は、薄く橙色みがかった白髪を揺らして、ボク達に向けて小さく腰を折って謝罪した。

 騒々しい人かと思ったが、礼儀正しい人だな。

 

「【毒狩人(ポイズン・ハンター)】のみいこです! みいこ、と呼んでください。よろしくお願いします!」

「【戦士】ラインハルトだ。ラインハルトと呼んでくれ」

「で、ボクが【死霊術師】のカイン=9だ。ボクもカインで良いよ」

 

 元気の良い人だな。

 まあ、ラインハルトが冷静なタイプ、ボクもどちらかと言えば冷静よりなタイプだし、案外つり合っていて丁度良いのかもしれない。

 

「じゃあ、そろそろ行こう。今回の依頼主とは、霊都の門の前で合流する約束だ。歩きながらにでも話そう」

「了解」

「分かりました〜」

 

 歩き出したラインハルトに追従して、ボク達も歩き出す。

 まあ、募集をしたのはラインハルトだし、ボク達はあくまでもヘルパーだから、リーダーは彼で良いだろう。

 

 公園を出てしばらくすると、ラインハルトが徐ろに話し出した。

 

「俺は、〈エンブリオ〉の恩恵もあって、前衛を張れる。みいこには後衛をお願いしたい。カインには⋯⋯」

「ああ、ボクなら昼間はあんまり役に立てないから、夜間までは補助要員ってことで。夜間は、ボク一人で構わないからさ」

 

 最低限の出来ることと出来ないことは申告しておく。これはパーティーを組む上で必須だ。特に、ボクが何も出来ないような役立たずだとは思われたくない。

 だから、夜間は全てボクが引き受けよう。

 ボクの進言に、最初は訝しげにしていたラインハルトだが、少しすると納得したのか、ボクの方を見詰めて口を開く。

 

「了解した。期待してるぞ、【死霊術師】」

「ハハ、任せたら良いさ」

「私も頑張ります!」

 

 案外、パーティーというものも良いものかもしれない。

 まあ、護衛対象と彼ら(ラインハルトとみいこ)は殺させないさ。フラグ、じゃないよ。

 ボクなら、それが出来るからね。




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