カインの腐敗録 作:痛い作者ことカイン=9
それと、一話の誤字報告をしてくださった方、ありがとうございました。とてもありがたいです。
□シンク林道 【死霊術師】カイン=9
馬車隊の最後尾の馬車に揺られながら、遠ざかっていく緑を眺める。
二つ先の先頭の馬車からは、朗らかな商人の声とラインハルトの声が聞こえてくる。
「いやはや、マスター殿、依頼をお受け下さりありがとうございます。助かります」
「いえ、俺達も依頼を受けたからには、貴方方を送り届ける責務がありますので」
まあ、こういうこと、平たく言って機嫌取りは苦手だから、助かると言えば助かる。ラインハルトは素で誠実で気高い男の為、ボクみたいな怪しい風貌のマスターや、みいこみたいな緩そうなマスターよりも、彼らからすれば信用に値するのは分かる。
実際、ロールプレイとはいえ、ラインハルトのあれは凄いと思う。
だけど、こうして出番まで蚊帳の外というのも⋯⋯
「何だかねぇ」
「ですねぇ〜」
隣のみいこも同意してくれる。いやまあ、理解してるかは分からないが。
あまりにも暇なので、ボクは一時間前の出立を回想した。
◇
特にこれといった会話もなく、道路を歩くこと数分。
ボク達は霊都から、シンク林道──レジェンダリアからアルター王国へと続く道の一つ──への門に辿り着いていた。
そこには、三台の馬車が停まっており、商人と見られるティアンや軽装に身を包んだティアンが荷物を積み込んでいた。
その中の一人、身なりが最も良い商人風の男が、ボク達の姿を認めこちらに駆け寄ってくる。
「お待ちしておりました。貴方方が、今回同伴してくださるマスター様方ですかな?」
「そうです」
「そうだよー」
「ああ」
ボク達の返答に満足気に頷いた彼は、「ナイール!」と向こうで忙しく働く中の一人を呼びつけた。
「マスター様、こちらナイールと申しまして、私の商隊の護衛隊長を務める男です」
「ご紹介に預かりました、ナイールと申します」
「ご丁寧にどうも。俺は、ラインハルト。こちらの狩人がみいこ、こちらの術者がカイン=9と申します。これから、アルター王国までの間よろしくお願いします」
ナイールさんは、ラインハルトを見て、次いでみいこ、ボクと視線を移す。ラインハルトさんを見る時の彼の視線は、とても頼り甲斐のある男を見る物であったが、ボクとみいこを見る時の目は、怪しげな物を見る目であった。
まあ、この世界を生きる者であるティアンであり、しかも、商隊の護衛隊長だ。彼、ナイールさんが、ボクとみいこ、特にボクを怪しげな物を見る目で見るのは納得出来る。
あからさまに怪しい見た目だが、ラインハルトの仲間であるから一応の信用は得ることが出来たらしい。ラインハルト様様である。
「私共はまだ用意がありますので、ナイールと護衛の擦り合わせをお願いします」
「分かりました」
「さあ、こちらへ」
ボク達はナイールさんに促され、馬車の一つに乗り込んだ。中には、小さな机とその上に地図があった。先程まで、彼らティアンの間で擦り合わせをしていたのだろう。
「シンク林道を抜け、国境を越える。ギデオンで補給を済ませた後は、ネクス平原、サウダ山脈を超え、アルター王国王都アルテアに到着するという流れです。五日間で到着する予定ですが、質問はありますか?」
「⋯⋯ギデオンへの到着は何日後となる?」
ラインハルトの質問に、ナイールさんは答える。
それはボクも気になっていた質問だ。流石に五日間拘束されるというのは難しい。あっちでの生活もある。
「二日の内には着くでしょう。マスター様の離脱はこちらも視野に入れております故、離脱は一声お声掛け下さい」
「了解した」
なるほど。良心的だ。
さて、それが分かればボクからも聞くことは無い。みいこも同様らしい。
質問はあるか、というラインハルトの目線に頭を振ることで答える。
「それでは、準備が整いましたらお呼び致しますので、ご自由にお過ごしください」
「ああ」
とは言われたものの、やることも無いし、今の内にアイテムボックス内の確認でもしておこうか。
◇
こうして、ボク達は霊都アムニール、レジェンダリアを出立した。
⋯⋯したのだが。
「暇だね」
「暇ですね〜」
暇だ。
護衛だから分かってたとはいえ、まさか、ここまで暇なクエストだとは思わなかったよ。
「まあ、何も起きなければ幸い、だけどね」
「そうですねぇ」
みいこと一緒になって、馬車の中でだらける。
正直言って、やることが無いと言えば嘘になるが、それをこんな人目のあるところでやるというのも流石に気が引ける。いや、死霊術師ロールプレイの一環とでも思えば、出来ないこともないのだが、別に急いでやることでもなし、ということでやっぱり暇だ。
「御者君、後どれくらいだい?」
「マスター殿、まだ出立して間もないですよ。休憩まででも後五、六時間はかかります」
そうか⋯⋯本当に暇だな。
正直言って、暇過ぎて何か起きないかとすら思ってしまう程だが、早々何か、それこそ襲撃など起こるわけもない。
「⋯⋯はあ⋯⋯」
「カインちゃん、どうかした〜?」
「ああ、いや⋯⋯暇だなって思ってね」
みいこは、あまり得意じゃない手合いだ。
月夜さんのような命の危険を感じる程じゃないが、というより月夜さんも別に苦手というわけじゃないが、ボクは総じてホワホワとした緩いタイプや掴み所のないタイプは苦手らしい。
まあ、アステリアさんの次、二人目となる知り合いの同性のマスターだから、仲良くしたいとは思う。
「良ければだけど、カインちゃんはリアルは何をしてるか、教えて欲しいな〜、なんて」
「⋯⋯」
人のリアルに踏み込むものではない、そう忠告しようかとも思ったが、暇だし、それくらいなら問題ないと判断する。
こういうタイプは、策士系と本当に緩いだけの二種類が居る。そして、ボクの感、女のカンってヤツは、彼女が後者の緩いだけのタイプだと判断した、というわけだ。狙ってやってる緩さではなく、天性の緩さだろう。
「ボクは、今年で十三になる。中学一年生のガキだよ」
「へえ〜じゃあ、私と一緒だね〜」
「そうなのか⋯⋯へ?」
それは驚きだ。まあ、大人であれだけ緩い感じだと逆に心配になるが、まさかボクと同い年だとは思わなかった。
「まあ、アバターは大人っぽく頑張ってみたから、そんな風には思われないけどね〜」
「いや、大人っぽくはないと思うけど」
「ええ〜。そんなことないよ〜、頑張ったんだから。プンプン」
口でプンプンなんて言う人初めて見たよ。
ボクが参加しているコミュニティー“闇に飲まれし若き集い”にも、こういうタイプは居ない。
まあ、あそこはあそこで別のベクトルに傾いてるからね。ボクも、
「そんなこと言ったら、カインちゃんは若すぎじゃない〜?」
「いやまあ、ボクはボクでリアルそのままの顔だからね。全く変えてないし」
「へ?」
信じられないものを見るかのような目で見られる、とはこういうことなのか。
Juliさんにこのことを伝えた時は、素の状態で凄い心配されたものだ。というか、叱られた。流石に、髪の色とか目の色くらいは変えるべきだっただろうか。とは言っても、もう今更だ。
だけど、みいこにそんな目で見られるのは不服だ。今ならその気持ちもなんとなくは分かるけど。
「くくくくく」
「あはははは」
自然と笑みが込み上げてくる。
なんだかんだ言って、同い年との会話、というのは案外楽しいものだね。それは認めよう。実際、大人と語らうのはあまり好きじゃないけど、コミュニティーのメンバーや、今こうしてみいこと会話するのはとても面白い。
ボクの目に広がる世界では、彼ら彼女らのような歳の程近い存在は得難いものだからね。
「ま、これからよろしく頼むよ」
「良ければ、フレンド登録しよ〜?」
ありかな。
ボクはみいこの提案を受け入れ、フレンド画面を操作しみいこにフレンド依頼を送信、彼女の方も直ぐに承諾を押したようで、ボクのフレンド欄にはアステリアさんに続き二人目のフレンドが登録された。
「じゃ、このクエスト終わらせたら、王都で少し遊ぼ〜?」
「ああ、構わないよ」
実際、終わった後は商隊の用事が終わって帰路に着くまで暇なので、その申し出を受けることは全然構わない。
現実では今日で2月25日。中学校が始まるまでは、あと一ヶ月と一週間ちょっとある。帰路も含めれば、大体四日間はこのクエストに取られることになるが、アルター王国にも行ってみたかった為、それは全然問題ない。憂鬱だが。
「じゃあ、クエスト達成まで、がんばろ〜」
「ああ、そうだね」
取り敢えず、御者の生暖かい視線が気になって仕方ないが、無視しよう。無視だ無視。
どうせ暇だし、今の内に睡眠を取っておこう。
そう考えて、ボクは馬車の床に雑魚寝する。みいこが何か言っているが、もう耳に入って来ない。
暖かな風が吹き付ける中、ボクの意識は闇に沈んでいった。
こうして、クエスト初日は何事も無く終わりを迎えたのであった。
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