カインの腐敗録 作:痛い作者ことカイン=9
□シンク林道 【死霊術師】カイン=9
薪の火が、月明かりすら薄らとしか届かぬ暗くなった辺りを照らす。出立の翌日。ボク達はあと少しでシンク林道を抜ける、そんな所まで来ていた。
「それでは、カイン=9様、今宵の夜間の警護、よろしくお願い致します」
「ああ、任せてくれ」
他の二人はあちらの世界での、それぞれの事情で、野営地点に着いてから早々にログアウトしている。
まあ、彼らもマスターで、リアルある者故、致し方ないことである為、ボクも特に言うことは無い。というよりは、昼間に出没したモンスターは彼らに任せっきりだったからその分、ボクも働かなきゃいけないとボクから願い出たのだ。
腰に付けたアイテムボックスから、ドラウグルの完全遺骸を四つ取り出す。それに合わせ彼らの装備品も。
「《
動き出した彼らは、各々、落ちている武器を拾い上げて腰や背中に装備する。
ボクが今死霊術で蘇生したのは、片手斧使いのD1、大剣使いのD2、二刀使いのD3、両手斧使いのD4。基本的に、戦闘は彼らに任せっきりだが、まあ、【死霊術師】とはそういうモノだと思う。
「D、馬車隊の周り十メートルを探索。探索終了後、馬車隊近くで四方警戒」
「「ウォォ⋯⋯」」
ドラウグルらに指示を出し、ボクは薪近くの椅子代わりにしている大きな石に座った。残りMPは半分程度。やはり、MPを注いで作るにはボクのMPは貧弱過ぎる。そこら辺も考えなくては。
そう言えば、師匠は元気だろうか?二週間程度開けるという旨を記した置き手紙を置いてきたが。そもそも師匠、どこに行ったんだろうか?あの人が死ぬとは思えないし、ああいう類の人間が責務──彼は【死霊術師】のクリスタルの守り手らしい。──を放り出して逃亡することも考えられない。まあ、全て僕の憶測で、希望的観測でしかないが。
あれこれ考えていると、カップを二つ持った商隊長さんが、こちらに歩いてくるのが見えた。「お隣、座っても?」と尋ねられたので、別段問題も無いため頷くと、彼はボクの隣の石に腰かけた。
「カイン=9様、お飲み物でも如何ですかな?」
「ああ、ありがとう。頂戴するよ」
差し出されたカップを受け取り、カップの中身を見詰める。やっぱり、今のボク、凄い不気味だな。水面に映るボクの姿は、一言に言って闇の魔術師、悪の魔術師と呼んでも何ら遜色のないものであった。
だが、どういうわけか、ゾンビやスケルトンのようなあからさまなアンデッドではなく、ドラウグルという未知だが屈強な戦士を彷彿とさせる彼らを使役しているボクは、彼ら商隊の死霊術師への見解を塗り替えた、らしい。らしい、というのはナイールさん含む護衛隊の人達からは、あからさまに警戒されているからだ。まあ、当たり前だけど。逆に、そんなすぐさまボクへの見識を改める彼ら商隊長達の方が心配になる。
別に、Dも結構見た目的にはアンデッドしてると思うけど。そう言ったら、商隊長は「纏う気迫がアンデッドとは違う」と熱弁してくれた。まあ、悪い気はしなかったけど。彼も、変わってるな、とは思った。
「⋯⋯カイン=9様は」
「カインで良いよ」
「いえいえ、そういう訳にもいきません。私達ティアンからすれば、マスター様方には守って頂かなくてはなりませんので。ナイールや護衛隊だけでは我らの戦力も心許ない限りですので」
ナイールさんはレベル48の【
まあ、この旅が終わる頃にでも、打ち解けられれば良いさ。
商隊長は、ごほんと咳払いをしてもう一度口を開く。
「カイン=9様は、お若い様ですが、どうして【死霊術師】に?」
「⋯⋯どうして⋯⋯か。まあ、一言で言うなら、魂の在り処、それを見つけたいんだ」
「魂の在り処、ですかな⋯⋯それは、どのようなもので?」
どのようなもの、そう聞かれるとまだ分からないとしか言いようがない。ボク自身、あの感覚が何なのかは確証がないし、それは気の所為だ、そう断じられてしまえば言い返せなくなる。
だけど、
「魂は、死んだらそこで途切れるものじゃない。宗教なんて信じないけど、ボクは、魂の旅路にはまだ先があると、そう思っている。それこそ、終わりなき旅路が、ね」
「終わりなき旅路⋯⋯ですか。それは、マスター様方の感覚からくるもの、ではなさそうですね」
「まあね」、そう言ってボクは後ろで警戒を続けるDの一体を見詰めて話を続けた。
「言ってみれば彼ら、ドラウグルに留まらず、アンデッド達にはボクや君達に宿るような魂がある。そんな気がするのさ。それは、ボク自身でも定かじゃない、ただの直感に過ぎない」
だけど、これだけは言える。
「ボクは、君もボクも同じ生きとし生けるものの総括、その
何を言っているのか、分からないと思うけど、ね。
温くなった紅茶を飲んで、乾いた喉を潤す。
「いえ、素晴らしいお考えだと、私は思います」
「そんなお世辞は」
ボクの言葉を遮り、彼は力強い言葉を放った。
「貴女の考えは、私達ティアンとは一線を画する。私目の見てきたマスター様方の中にも、貴女程に高尚で素晴らしい視点を持つ方を、私は見たことがありません」
「⋯⋯ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
フードを引っ張り熱くなった頬を隠す。
そんな事を言われたのは初めてだ。
そもそも、こんなことを赤の他人に喋ったこと自体初めてのことで、どうしてこんなにもすらすらと話したのか自分でも不思議で仕方ない。
でも、
「クク」
「どうかされましたかな?」
「ああ、いやなんでもないよ。ちょっとおかしかっただけさ」
言えて良かった。
彼のお陰で、ボクも決意が固まった。
「ボクは、この目的を、必ず果たす」
この〈Infinite Dendrogram〉を楽しみながら、ね。両立させることくらい、ボクには容易いことさ。
だって、この世界を実験場程度にしか思わないなんて、失礼なことだろう? なら、ボクは両立させなきゃいけない。
全く、罪なゲームだよ、〈Infinite Dendrogram〉。
だが、まあ、そうじゃなきゃボクもやらないさ。
◇
商隊長も戻り、商隊のほとんどが寝静まった頃、ソレは訪れた。
「ウォォ⋯⋯」
「⋯⋯敵、か」
D1が武器である片手斧を構える。それに釣られるかのように、他のDもそれぞれの武器を構えた。
「D1、D3馬車を守れ。D2とD4は半径50メートル圏内を散策、見つけ次第に排除しろ」
「「ウォォオ!!」」
それぞれに指示を出し、ボクはアイテムボックスを漁る。そして、新たに四体のドラウグルの完全遺骸を取り出し、《死霊術》を行使した。回復していた魔力がごっそりと削られる。これで、MPはあと三分の一程度。
かくなる上は、まだ完成していないけど、奥の手を使うしかない。
「D5からD8、命令があるまで待機」
立ち上がった彼らに指示を出し、ボクはその場で警戒する。夜目が利くわけでもなく、そういう類のスキルを持っているわけでもないボクは、この未だ燃え盛る薪が生命線となる。
暫くすると、森の方から何らかの獣の唸り声とドラウグルの威嚇の叫びが聞こえてくる。
狼系のモンスター【ティールウルフ】か。数にもよるが、ドラウグルが押される程じゃないだろう。
だが、念には念を入れる。
「D5、D6。D2達の加勢に行け」
指示を出した二体が、戦闘音の方へと走って向かっていく。これで死なれたら困るが、まあ、大丈夫⋯⋯
「GARRRRR!!」
「うわ!?」
「ウォア!」
⋯⋯じゃなかった。
D7が庇ってくれなければ、確実に易くないダメージを食らっていた。
今回はかなり数が多いな。まさか、二方に別れて襲ってくるとは。
D2達が戦闘を終わらせてこちらに戻ってくるまで持ち堪えられるか、正直言って五分五分、だな。何故って?それは、ボクが弱いからにほかならないね。Dにボクを守らせながら戦うのは少しばかりきついものがあると言えよう。
まあ、耐久力はどういうわけか【
「取り敢えず、ボクの命に代えても、Dが彼らに指一本触れさせないよ⋯⋯ってとこかな」
これ、フラグだったりしないよね?
そんなことを気にしている場合か、とでも言うかのようにティールウルフが襲い掛かる。
「GARRR!」
「D7、反撃! D8、先制!」
「ウオォ!!」
噛み付かれながらのD7の両手斧による一撃が、狼の頭を粉砕した。次いで、こちらの様子を伺っていた一体をD8の二刀の短剣が切り捌く。
「何とかなりそうだ」
残ったティールウルフの数を確認し、ボクはそのままDに次なる指示を出した。
◇
「ふう⋯⋯こんなものか」
「ウォォ⋯⋯」
何とかなった。途中から、護衛隊のメンバーも加勢してくれたこともあり、当初の予想よりも損害は軽微であった。
だが、損害は決して無視できるものでは無い。
「⋯⋯ありがとう、
「ァア⋯⋯ァァ」
今にも命尽きようとしているD7の傍らにしゃがみこんで、労いと感謝、弔いの言葉をかける。
「⋯⋯D、起動終了。《コンプリーティング・ネクロマンス》」
片膝を着いた状態で起動を停止した彼らの体は、最初からは掛け離れてボロボロであった。ティールウルフらに噛み付かれ、引き裂かれたその肢体は、生気のない物と言えど痛々しい限り。ボクがもっと上手くやれていたら、彼らを傷付けることは無かった。それは紛れもない事実だ。
ああ。申し訳ないという思いか、これは。
ボクの力不足が招いた現実と、それに晒された彼らの姿をまざまざと見せつけられるようで
弱いな、ボクは。
登る朝日に照らされながら、ドラウグル達を回収する。
護衛隊の一人から掛けられた言葉を無視して、ボクは馬車に乗り込んだ。
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