カインの腐敗録   作:痛い作者ことカイン=9

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 駆け足だけど到着。今回、一話並みの文字数。ここのところ、厨二病成分が薄くて辛い。どうにかしないと。


第十二話 カイン=9の到着

 □国境付近 【死霊術師】カイン=9

 

「そろそろ国境、か」

「そうだね〜」

 

 ログインしたラインハルトとみいこに、昨夜の襲撃について報告し、準備を整えたボク達は、国境を越える為出立していた。

 それから間もなくして、国境付近に辿り着いた馬車。ボクとみいこは、御者の隣から、遠くに小さく見える決闘都市ギデオンを見つけ、少し浮いた気持ちとなっていた。

 

 そんな時、吹き抜けた風に乗って、ここ数日でもう慣れた異臭に気が付く。それは、鼻がおかしくなりそうな悪臭。ファンタジーモノには必ず出てくる小人のものだ。

 

「⋯⋯襲撃だね〜」

「ああ、任せた」

「よろしくお願いします、マスター様」

 

 御者の彼とボクの声援を背に、みいこは、馬車から軽快に飛び降りた。

 見れば、先頭馬車に乗っていたラインハルトも、既に槌を装備して戦闘態勢を取っていた。

 

「ラインハルト〜、ちゃっちゃとやるよ〜!」

「油断は、するな」

「はいはい〜」

 

 ラインハルトは、さして気にするわけでもなく、静かに当たりを警戒する。恐らく、比較的隠れる場所の少ない国境付近に出現するモンスターで、あまつさえ気配を隠す知性があり、あのような悪臭を放つのは⋯⋯

 

「ゲギャギャ!」

「やはりゴブリン、か」

「ゴブリンですね〜」

 

 唐突に、近くの岩陰から飛び出した小汚い小人は、ラインハルトへと、短剣で持って斬りかかる。

 その一撃はラインハルトの左手の盾によって防がれ、お返しとばかりに、右手の片手槌による迅速且つ重い一撃が見舞われる。

 

「ふんっ!!」

「ゲギャ!?」

 

 それは、ゴブリンの脇腹に命中して横薙ぎに吹き飛ばす。四、五メートル程度吹き飛ばされたゴブリンは、光の粒子となって消滅した。レベル差的にも、ステータス的にも彼の方が圧倒的に強い。

 

「ギギギャ!!」

「⋯⋯っ!」

 

 だが、ゴブリンはまだまだ居る。合計で十体程度はいるんじゃないだろうか。ティールウルフよりも人間的に思考する分、読みやすくはあるが、難敵だ。

 

「ラインハルトには、指一本触れさせないよ〜!」

「ギ⋯⋯ィ⋯⋯!?」

 

 新たに現れた内の一体が、ラインハルトへと襲い掛かる手前で、みいこによって番え撃ち放たれた毒矢(・・)に貫かれ沈黙する。動かなくなってから暫くして、力尽きるかのように光の粒子となった。

 

 みいこの〈エンブリオ〉である緑の弓、TYPE:アームズ【必命貫弓 フェイルノート】は、番えた矢を当てたい部位に必ず命中させるスキル《必当の弦》というスキルがあるのだとか。成功判定は、狙った部位の致死率と、自身と相手のDEX、AGI、LUCの三つのステータスに依存するらしい。

 だとすると、みいこのジョブである【毒狩人(ポイズンハンター)】との相性はかなり良い。当てられさえすれば、【毒狩人】の本領である毒をどう使うかなど考えるまでもない。

 実は策士なのか? ⋯⋯いや、そんなことないか。

 

「⋯⋯ボク、やっぱりあんま必要無いよね⋯⋯まあ、ずっとログインしてる分、夜の警備とかはボクが全部引き受けるけどさ」

 

 どうしよう。暇過ぎて、思考から漏れ出た独り言が加速する。

 そんなボクを哀れに思ったのか否か、御者がボクに話しかけて来る。

 

「それにしても、マスター様はお強い⋯⋯」

「だね⋯⋯。特に彼らの連携はなかなかだよ」

 

 そうなのだ。彼ら、初対面のはずなのだが、やけに連携が取れている。正直言って、夜間さえなければボクなんか必要ないレベルだ。言ってて悲しくなってくる。

 

「いえいえ、カイン=9様にも助けられております」

「いやいや。昼間は彼ら、夜はボク。当然のことってヤツさ」

 

 そう。当然のことで、別にボクに賛辞が送られることじゃない。

 だが、どういうわけか、彼らはボクら〈マスター〉に対して腰が低いのだ。曰く、商人の癖みたいなものらしい。よく分からないが。

 

「そろそろ終わったようだよ」

 

 先程から比べて随分と静かになった。

 ラインハルトの声とゴブリンの悲鳴が聞こえ、そちらの方を振り向けば、そこにはゴブリンに向けてハンマーを振り下ろすラインハルトの姿が。

 

「っらぁ!!」

「ギギィ!?」

 

 そして、振り下ろされたハンマーは最後のゴブリンの頭を打ち砕き、戦闘が終了した。

 

 

 

 ⋯⋯かに思われた。

 

 

 

「⋯⋯うぅっ!?」

「みいこ!」

 

 少し離れた場所にいたみいこの苦悶の声が聞こえ、そちらを振り向けば、そこには腹部から剣の切っ先を生やして膝を付くみいこの姿が。

 その下手人を探せば、ソイツは、みいこの背中に足を掛けて刃を引き抜く最中であった。その顔は笑みをたたえて醜悪に歪んでいる。

 

「くはははは! マスターと言えど、闇討ちには弱いなぁ!」

 

 ソイツは、正しく盗賊といった様な出で立ちをしており、〈マスター〉ならロールプレイ、ティアンなら生粋の盗賊に思われる。そして、その右手には紫色の布が巻き付けられている。

 

「おい、お前ら! さっさとこいつら殺して、積荷を奪うぞ!」

「「応!」」

 

 後から現れたのは、似たような身なりをした四人の男達。皆同様に、紫色の布を右手に巻き付けている。

 その姿に、正確にはその紫色の布に見覚えがあるのか、御者の人が驚いたようにその名を口にした。

 

「パープル・クロス?! 近頃噂になってる、マスター殺しの極小規模盗賊団です!」

「マスター殺し?」

 

 ボクの疑問に、御者の彼は早口に答える。

 ギデオン周辺⋯⋯というよりは、レジェンダリア以外の場所については疎い為、彼らの知識を持ち合わせていなかったボクとしては、とても助かる。

 

「その名の通り、彼らの右手にある紫色の布が目印の盗賊団です。マスターを優先的に殺し、抵抗しない限りティアンは殺さないスタンスらしいですが⋯⋯」

「私たちの積荷を奪われる訳にはいかないのです! 何卒、どうか、何卒、我らの積荷をお守りください、マスター様方!」

 

 大声でボク達に助けを求め懇願する商隊長の声に押されるかのように、ボクは馬車から飛び降りた。

 そして、アイテムボックスから完全遺骸を取り出す。

 昼間はかなり厳しい戦いを強いられるが、やらない訳には行かない。

 ラインハルトも考えは同じだったようで、槌を構えてもう一度戦闘態勢に入っている。

 パーティーの欄を見れば、幸いなことに、麻痺にかかっているだけで、みいこはまだ死んでいない。

 

 なら、まだ笑って彼らを見逃せる。

 

「《死霊術》。D1からD9へ、一人につき三体で望め!」

「「ウォォ!!」」

「ひっ、ゾ、ゾンビ!?」

 

 ドラウグルを見た盗賊の一人が恐怖し、悲鳴を上げる。

 だが、その男に盗賊のリーダーが叱責した。

 

「何を狼狽えてやがる! 相手は所詮、日中のアンデッドだ! 俺たちパープルクロスの敵じゃねえ!」

「⋯⋯言ってくれるね。ラインハルト、リーダーともう一人は任せても良いかい?」

「ああ、任せろ。⋯⋯《望火昂尚結界(ザ・プロモーティブ・ファイア)》!」

 

 彼がそのスキルを宣言した瞬間、ボク達に暖かな感覚が与えられる。すると、ボクのステータスにHP自動回復速度向上やHP上限向上、SP上限向上などのバフが追加される。

 これが、彼の〈エンブリオ〉、TYPE:テリトリー【望火与聖 プロメテウス】のスキル。

 残念なことにボクには効いても、D達には効かないようだが、Dには時間稼ぎをしてもらうつもりだ。だから、ボクには考えがある。今度こそ、誰一人として魂の旅路に向かわせはしない。

 

「くそ、なんだコイツら! アンデッドの癖に、あんまり弱くなってねえぞ!」

「狼狽えるなっつってんだろ! 所詮はアンデッ⋯⋯っ!!」

「余所見を、するな⋯⋯!!」

 

 基本的に、日中のアンデッドの戦闘力低下は凄まじいの一言に尽きる。夜、上級パーティーを全滅させるようなアンデッドでも、昼には下級パーティーに殺られることがあるくらいだ。それくらいには戦闘力低下が著しい、のだが⋯⋯

 

「生憎と、ドラウグルは普通じゃなくてね!」

「ウォォオオア!」

 

 どういうわけか、ドラウグルはその低下が三分の一程度で済んでしまっているのだ。それでも、大きいものは大きいが。

 おっと、解説してる場合じゃない。

 ボクは、倒れ伏すみいこの元まで駆け寄った。

 

「みいこ、喋れるかい?」

「う、うん。なんとかまあ⋯⋯ごめんね、足引っ張っ」

「それ以上は言わなくて良い」

 

 幸いなことに、みいこに仕掛けられた麻痺毒は身体の自由を奪うだけの類だったようで、あまり強いものではなさそうだ。

 ボクはみいこの傷口に懐から取り出した瓶の中身を振りかける。

 一つは回復促進のポーション、もう一つは状態異常回復の解毒ポーションだ。どちらもそこまで高いわけではないため、あまり効果は望めない。そう思ったのだが、案外効くものだったようで安心した。

 みいこの麻痺が消え、《望火昂尚結界》によって強化された回復力とポーションの回復力強化でみいこの体力は瞬く間に回復していく。

 

 よろけながらも立ち上がるみいこに肩を貸し、不意に彼女に訊ねる。

 

「みいこ、やれる?」

「当然だよ!」

 

 その返答は、流石は彼女だと思わせるものであった。

 彼女は、〈エンブリオ〉を召喚し矢を番える。

 

「カインちゃん、ありがとうね! 私、働くよ!」

「了解。絶対に勝つよ」

 

 弦を引き絞り、狙いを定めるみいこの姿は、不思議と見惚れるものがあった。

 ⋯⋯見惚れている場合じゃない。

 見れば、D達は段々と押されてきている。

 

「ボクも、奥の手を出す、かな」

 

 ボクは、MPポーションを浴びるように飲み干す。そして、外套の裏側に隠すようにしながら、一つの遺骸を取り出した。

 

「《コンプリーティング・ネクロマンス》」

「ウァ⋯⋯」

 

 戦闘を続行していたD達は、糸が切れた人形のように地面に倒れた。最初は疑問に思っていた様子の盗賊団達は、死霊を操っていたボクを倒せば良いと判断したらしく、こちらへと駆け寄ってくる。

 ⋯⋯甘いね。

 

 膝を付く完全遺骸の背中に手を当てて、僕の残ったありったけのMPを込める。

 

 

 

「《死霊術》──行くよ、英雄(・・)!」

 

 

 

 ボクが《死霊術》を発動した瞬間、今にもボクを殺そうと襲い掛かる彼らへと、ボクの外套の中から影が飛び出した。

 

 

「「ウォォォォォオ!!!」」

 

「ヒィっ!?」

 

 英雄の雄叫びが草原に伝播する。

 それは、いつか、ボクを殺したあの英雄【ドラウグル・コル】のものに他ならない。

 身体のいくつかの箇所を古ぼけた紙で覆われていることを除けば、その勇姿はボクを殺した時と何ら遜色はない。

 

「汝ラニ⋯⋯死ヲ⋯⋯」

「あ、殺したら駄目だからね」

 

 聞いているのか聞いていないのか、物騒な言葉を発した彼、DC1は硬直する盗賊団の一人に向けて飛び掛る。

 

「ウォォアア!!」

「がァッ!?」

「うグッ!?」

 

 左手に持つ斧の刃の無い方で盗賊の一人を殴り飛ばし、さらに、近くに居たもう一人の盗賊を蹴り飛ばした。

 その姿は、とても弱体化しているとは思えない。

 それもそうだろう。

 

 彼には、残るMPを全て注ぎ込んだ。それは、数値にしてD一体に込める時の五倍に及ぶ。

 陽の光で弱体化しにくいドラウグルの、それも英雄に、それだけのMPを注ぎ込んでいるのだ。むしろ、地下墳墓で戦った時よりも強くなっているのは想像に難くない。

 

「フゥア!!」

「ぐフッ!?」

 

 最後の一人の腹部に、斧を握った方の拳で一撃を入れ、英雄は瞬く間に盗賊団の過半数を戦闘不能にした。

 流石は、ボクを殺しただけある。英雄も、敵ならば恐ろしいが、味方の時のなんと頼もしいことか。

 

 あちらは、どうなっているだろうか。

 そう思い、ラインハルト達の方を見れば、あちらも佳境に入っていた。

 

「くそ、てめえら雑魚みたいな動きの癖に、やりやがる!」

「賛辞として受け取っておこう」

「ありがとう〜!」

 

 苦しそうな顔をする盗賊団のリーダー、そして倒れ付す盗賊団の一人。対するラインハルトの声音には余裕が垣間見える。みいこは言うまでもない。

 ⋯⋯随分と余裕そうだな。援護には行かせなくて大丈夫そうだ。ボクは、《コンプリーティング・ネクロマンス》を唱えることで、英雄の魂を送り返す。【死霊古強者修復遺骸 ドラウグル・コル】をアイテムボックスに回収し、気絶している盗賊団数人を縄を借りて縛りに行く。

 その間にも、向こうの戦闘は聞こえてくる。

 

「さっきのお返し、だよ! 《麻痺毒付与(パラライズ・ポイズン)》! てやぁ!!」

 

 ラインハルトが盗賊団のリーダーをラインハルトが抑えている隙に、みいこが撃ち放った矢を足に掠らせた。

 すると、リーダーは膝を付いて動きを止めてしまう。その隙に、みいこは容赦なく《麻痺毒付与》の施された矢を撃っていく。

 ⋯⋯本当に容赦ないな。まあ、みいこも多少の恨みがあったんだろう。麻痺毒に多少なりとも耐性を持っていたあのリーダーが悪い。そういうことしておく。

 

 ◇

 

 彼らが動けない内に彼らの装備品のほとんどを解除し、縛り上げて、馬車の荷台に載せたボク達は、ギデオンへ向かう馬車や旅人の列に加わっていた。

 

「ありがとうございました。お陰で助かりましたよ」

「何より、ですね」

「うんうん」

 

 商隊長の安心した顔を見ると、何だかこちらまでほっとした気持ちになる。

 実際、今回は、ボクがポーションを買っていなければアウトだったかも知れない。自惚れるわけじゃないが、ゲーム初心者ガイドを見ておいて正解だったね。

 そして、それ以上に、ラインハルトが頑張ってくれていなければ、時間稼ぎすら難しかっただろう。彼には、感謝してもし足りない。まあ、したところで彼は受け取らないかもしれないが。

 

「さてと、これで一息付けるね」

「ああ、そうだな」

 

 ボクは、ギデオンへの列を眺めながら、安堵のため息を吐く。そして、同じく列を眺めるラインハルトに声を掛け、

 

 

「ラインハルト、頑張ってくれてありがとう。キミが居なければ、どうにもならなかっただろう。キミのお陰さ」

「⋯⋯ああ、その礼、受け取っておこう」

 

 

 どうしてか返事が遅かったが、それでも、ラインハルトはボクの礼を受け取ってくれた。これは信頼されてきたってことかな?

 それなら嬉しい、かもね。

 

 列が進み、やっとボク達の番となる。商隊長は、ナイールさんに受け付けで雑務を指示すると、ボク達に向き直った。

 

「それでは、マスター様方、我々は明後日まではこちらに滞在する為、暫くは自由行動となりますので、よろしくお願いします。何かあれば、お声がけ下さい」

「了解した」

「了解〜」

「分かった」

 

 ボク達は、それぞれ解散し、ギデオンの街を歩き始めた。

 ボク? 特に目的はない。だけど、ログアウトして、いろいろと済ましてから闘技場を覗いても良いかも知れない。

 

 ボクは、あれこれと考えながらギデオンの街を歩く。

 少し、その心持ちは明るかった。




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