カインの腐敗録 作:痛い作者ことカイン=9
再始動のようなものです。
追記
諸々の展開を鑑みて、当小説を続行するにはカインの〈Infinite Dendrogram〉開始時期をレイより一ヶ月早い程度にすることとしました。通告が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。
第十五話 カイン=9の発見
□地下墳墓モルブイン 【死霊術師】カイン=9
「【
「ウォォ⋯⋯」
ボクの手から放たれた送還の一撃により魂を送還されたドラウグルが倒れる。
埃が舞う薄暗い通路で、ボクは喜びに肩を震わせた。
「やった⋯⋯ついにやったぞ、ボクは」
ボクは成し遂げた。
ボクは、やっとレベル50の【死霊術師】になったんだ。これで、次の段階に進める。
長かった。あちらの世界での二日をかけて、ボクはとうとう成し遂げたのだ。
◇
帰りの護衛任務までしっかりと終了したボクは、ラインハルトとみいこにしばしの別れを告げて、久しぶりになるジョブクリスタルの元、居候だが暫定ホームへと帰ってきていた。
まだ、師匠は帰ってきていないようだ。手紙も無駄になったな。
ボクは置き手紙を回収しつつ、小屋を確認した。埃をかぶった石机を手で払い、床も立て掛けてある箒で履いておく。
そして、小屋の石椅子に座って一息吐くと、徐に立ち上がり、
「よし、レベル上げをしよう」
レベルを上げねば、新たな職にも進めないし、これから先何かがあってもどうにもならない気がするのだ。それだけは拙い。
そうして、ボクは地下墳墓へと潜った。
◇
「次のジョブは何を取ろうかな⋯⋯このまま上級職に進もうか⋯⋯」
そんなことを考えながら、地下墳墓の扉を目指して歩いていると、開いた棺桶の一つにあちら側にある通路まで貫通したものを見つけた。
「あれ? こんな道あったかな?」
初めて見る通路だ。まるでボクを導くかのように、そこに存在している道は、確かにボクの興味を惹いた。その先に、何があるのか。とても気になる。
ボクは、その先にある何かに惹かれるように、その通路を歩き出した。
「うわ、埃まみれだね。蜘蛛の巣も大量だ」
歩き出して早々に、ボクは歩くだけで漂う埃に顔を顰め、分厚い蜘蛛の巣に嫌気が差す。
手入れされておらず、人の入りも全く確認できない。
だが、珍しいことにドラウグル達は胸の上に両手を重ねて、深く安眠している。
まるで、彼らの魂も眠りにつく程に、ここが神聖だとでも言うかのようだ。
得てして、それは正解であったのだろう。
恐らく行き止まりなのであろうちょっとした広場に着く。
その中央には、見紛う事なき“ジョブクリスタル”が見えた。
「⋯⋯なんだろうか、これは」
ボクはそのジョブクリスタルに触れる。
すると、ソレはボクが触れるのを待っていたかのように、神々しく輝いた。
「
【このジョブに就職しますか?】そんなウィンドウがボクの前に現れた。
いや、どうしてこんな所にジョブクリスタルが?とか、ジョブが分からない、とかそういうことは気にならなかった。
だけど、ボクはNOを選択していた。
別になりたくなかった訳じゃない。でも、今のボクはこのジョブに就くには値しないと、そう感じたのだ。
それは、このジョブクリスタルの後ろにあった、一つの棺桶が目に付いたからかもしれない。それが、濃厚な死の気配をボクに突き付けていたからやも知れぬ。
何にせよ、ボクはこのジョブに就くことなく、来た道を戻っていった。
来た道を戻り、アレをその時まで忘れよう。そう思ったのだ。
◇
地上に到達すると、ジョブクリスタルの付近に見知った影を見つけた。
「帰ったぞ」
「師匠、お帰り」
そこに居たのは師匠である。久しぶりに見たが、変わったところはなさそうだ。
ボクが彼に手を振ると、彼は懐から何かを取り出し、ボクに軽く投げ渡す。
それは、光を飲み込むようなどす黒い色のクリスタル。禍々しさをありありと感じさせるソレは、どう考えても良いものじゃない。
「わ⋯⋯何だい、これは?」
「それは、いつか分かる。その道を歩むことはないかもしれないが、その時まで、それを持っていろ。良いか?絶対にその時まで、それを使うでないぞ?」
「⋯⋯分かった。受け取っておこう」
ボクは外套のアイテムボックスに【怨霊のクリスタル】を収納する。少し肌寒い感じがした。気の所為だ。
「見れば其方、身体も精神も成長をしたようではないか」
「かも知れないね」
身体、というのはレベルの話だろう。で、精神というのは今回の護衛のことだろうか。別に、身体はともかくとして、精神は成長した訳でもないと思うのだが。
「まあ、まだ途上の身だからね。遠く及ばないさ」
「うむ。なればこそ、其方は新たなジョブに着く必要性がある」
「新たなジョブ?」
ボクが疑問を投げると、彼は頷き口を開く。
「其方は、新たなジョブとして【
「まあね。だけど、その口ぶりじゃ、ボクが就くべきジョブとは違うんだろう?」
「左様」
【死霊術師】のレベルを最大にした、要は究めたのだから、次なるはその更に先。上級職である【大死霊】だということは、容易に予想が着く。
だが、彼は、ボクに別のジョブについてもらいたいらしい。
「其方には、まだ【大死霊】になる為の素質が足りない」
「素質?」
「身体だけでなく、精神も【大死霊】となったことで惑わぬようにしなくてはならぬ」
なるほど。ボクは〈マスター〉だから、そこら辺は別に良いだろう。とは思わない。
何故ならば、彼は師匠であって、ボクの導き手なのだから。それに、ティアン、この世界のみにしか生きられない存在だとしても、彼はボクよりも先達で、ボクよりも遥かに高みに居る。
彼の言葉の方が重たいのは事実だろう。
「故、其方にはこの⋯⋯【適職診断カタログ】〜⋯⋯ゴホン。これを授けよう」
「何だい、今のレアシーン」
「気にするでない。これは、しきたりだと我が友も言っていた」
我が友⋯⋯?師匠の友って⋯⋯どんな人なんだろう?
というか、何で師匠にそんなことを教えたんだ⋯⋯?イメージが壊れ⋯⋯壊れ⋯⋯いや、レアシーンだし案外悪くは⋯⋯。
しばらく悶々としていると、待ちかねたらしい師匠がカタログの角でボクの頭を叩いた。痛くはないが、脳に衝撃が走る。
「ふぎゅっ!?」
「雑念に囚われるでない」
「いったぁ〜⋯⋯こほん。痛いじゃないか」
ボクは師匠からカタログをひったくるように取ると、適当にページを開く。
そして、そのページに見えたとある職業に目が止まった。どうしよう、すごい惹かれる。
「⋯⋯【
「ふむ、【生贄】か。就職可能なようだな。MP上昇量はかなりのものだ」
「MP上昇⋯⋯」
ボクが取るべきジョブはこれなんじゃないのか?
現状、〈エンブリオ〉の上昇補正でボクのHPと何故かSTRは、並大抵の下級戦闘職近接系マスターを凌ぐ程になっている。その反面、ボクのMPはとてつもなく低い。補正もほとんど得られず、【死霊術師】というジョブ自体も特殊だが別にMPが上がりやすいわけではなかった。それに、思うのは、現在のMPは【
「それはあまりおすすめ出来ないな。もう少し見ても良いのではないか?」
「ううん⋯⋯まあ、それもそうだね」
ボクは珍しく否定的な師匠の言葉に促され、ページをめくる。すると、もう一つ就職可能らしいジョブが目に入った。
「戦士系統下級職、【
「ほう、懐かしい」
こんな職業、聞いたことがない。
いや、膨大に過ぎる〈Infinite Dendrogram〉の情報量、ジョブ量に紛れてボクが無知なだけだったのかもしれないが、ビルドなどの云々で掲示板を漁っていたボクが、見落としは考えにくい。月夜さんも言及しなかった。
それに、師匠は知っている風だが、懐かしい、ということはその名の通り古いジョブなのだろう。
まあ、なんだかんだ考えたが、このジョブには心当たりがある。さっき、ボクが見つけたあのジョブクリスタル。アレでこのジョブに就くことが出来るであろうことは、予想が着いていた。
「それは、古ノールド人の本物の戦士が就きし古のジョブ。今となっては、ロストジョブであったはずだが⋯⋯」
「そうなのかい?」
「うむ。ノールド人も数が少ない上、混血を繰り返し惰弱でな。認められることが少ないのだ。だが、しかし、其方をドラウグルが少しは認めた、ということ。それは、誇っても良いぞ」
「ドラウグルが⋯⋯」
だけど、あの棺桶の中にいたナニカは、ボクを認めた訳ではないらしい。アレに打ち勝てるようにならなくては、ボクはあのジョブに就くには値しないだろう。
他にもいくつか下級職ジョブを見たが、他に気になったのは【
⋯⋯とは思ったんだけど。
「ボクは【死兵】を取る事にするよ」
「何故?」
「ちょっと試したいことがあってね」
失敗した時の損失はかなり大きいけどね。
ボクは、師匠に手を振りながら【死兵】のジョブクリスタル目指して駆け出した。
■【
勢いよく飛び出していった彼女を見送り、我は思案する。
彼女は、我が弟子にして我が師匠、我が友である【冥王】ベネトナシュと肩を並べられるに至るか。
⋯⋯いや、まだ分からぬな。しかし、その素質はあると見て良いだろう。
ああ、あの娘は、確かに特別な〈マスター〉だ。
だが、腐る可能性も孕んでいる。アレを腐らせず、真なる【死霊王】にする事は、かなりの難業。一言に言って、寿命近き我が身では、次なる《無命転生》にまで間に合わぬやも知れぬ。
しかし、出来ない訳では無い。
なにより、アレを腐らせるのは我とて望むところではない故に。
メイズの愚弟子は、我が至らぬばかりにあの体たらくとなってしまったが、ヤツでは【死霊王】には至れぬ。
だが、彼女は違うのだ。我が、〈マスター〉の中で初めて、【死霊王】になるべきと見出した逸材。腐らせる訳にはいかぬ。
さて、そこまで導くは我の役目、ということ。
「ククク、我が腕の見せ所、ということよな」
夕暮れ、夜が顔を出した刻。
我が笑いは、暗がりに伝播した。
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