カインの腐敗録   作:痛い作者ことカイン=9

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 案外、トントン拍子に進んで行きますかね。


第一話 カイン=9の就職

 □霊都アムニール カイン=9

 

 案外、ダメージを負うこともないんだな。あんな速度で落下したら、着地時には衝撃くらいあるものかと思ったが⋯⋯。そこら辺は出鼻をくじかれる、というわけにもいかないらしい。

 

「へえ、これが⋯⋯へぶっ!?」

 

 痛い。どうしてこんな所で転んだんだボクは⋯⋯。

 原因を知ろうと足元を見れば、そこには小さな石が落ちていた。

 いや、石如きで転ぶなんて今どき無いだろう。周りの視線が生暖かいものでとてもじゃないがいたたまれない。

 だが、そんな気恥しさも、この世界の感触の前ではどうでも良くなってしまった。

 

「これが、インフィニット・デンドログラム⋯⋯ああ、確かにこれならばボクの第二の世界足り得るに違いない」

 

 風に乗って運ばれる自然の匂い、途切れることがないながらも不思議と心地好い人々の喧騒。そして何より、ボクがボクの足でこの地に立っているという体感。

 ああ、素晴らしい(マジェスティック)。この一言以外に、言葉が浮かばないよ。ボクの想像力は矮小な物でしかなかったのだと痛感する。

 ボクの狭い世界、家でも学校でも絶対に得ることはできない。これは、彼女もボクに勧めるわけだ。新たな世界への鍵ってヤツは、思わぬところにあるものとはよく言ったものだね。

 

「さて、行こうか」

 

 ボクは、意気揚々とその場から歩き出した。

 特に目的はない。強いて言うなら、この世界をもう少し身近に感じてみたい。それだけだった。序に運命ってやつの思し召しで【死霊術師】のジョブクリスタルも見つけられたら良いかな。

 まあ、まずはそこの気になる鞄屋さんでも確認しよう。

 

 ◇

 

「案外、簡単に見つかるものだね」

 

 こうして数十分も歩き回ってみれば、霊都アムニールは思ったよりも広くなかった。いや、大まかな所にしか行ってないというのもあるかもしれないが、こんな所でネクロマンサーのジョブクリスタルに出逢えるとは思ってもみなかった。

 如何にもな暗い雰囲気を纏った野晒しの儀式場。一言で言えばそんな感じだが、その中央には文字通りのクリスタルが浮遊している。

 

「アレに触れれば、ボクも死霊術師になれるのかな?」

「暫し待たれよ、客人」

 

 ジョブクリスタルに触れようとした時、渋い声がボクを呼び止めた。辺りを探せば、ジョブクリスタルの後側で紫色の装飾が付いた黒いローブの人影が、そのうっすらと見える赤い眼光でボクを見詰めている。

 先程までは居なかったが⋯⋯あの位置から見えなかっただけ、というのもあるかもしれない。いや、無いな。ボクが彼の気配に気が付けなかった。恐らく、彼は今のボクなんかじゃ到底手の届かない所にいる存在なのだろう。

 だが、ボクも退くわけにはいかない。あの感覚を確かめる為(・・・・・・・・・・)にも、ネクロマンサーになることは必須なのだから。

 

「ほお⋯⋯マスターは大抵が道理も無く、我ら闇に潜みし者達の禁忌の術を得ようとするもの。だが、其方の眼からは何らかの理由があると見受けた。さて、如何に?」

「⋯⋯」

 

 な、何だこのかっこいい人は⋯⋯。

 恐らくはティアン、あの人曰くは人と変わらぬ意思を持ったNPCのはずだ。それが、惜しげも無くこんな格好良い台詞(セリフ)回しを使うなんて⋯⋯。

 

「ボ、ボクはつい先刻マスターとなったばかりだ。それは間違いない。だけど、ボクは確かめたいんだ」

「⋯⋯」

 

 無言でボクに続きを促す彼の姿に、ボクは話して良いものかと逡巡する。

 ――だが、そんなことで悩むのは、全くもってボクらしくない。

 

「ボクは、あの時に感じた、非日常感をもう一度感じたい」

「あの時⋯⋯」

「自分語り、失礼するよ」

 

 ボクは一言断りを入れてから、ボクの身の上について語り出した。ボクがこの世界に訪れた最大の理由だ。

 

「昔のことさ。道端で猫の死体を見つけてね。ああ、なんということは無い、餓死した猫だったよ」

 

 少し腐敗しかけていて、蛆も少なからず集っていたが、致命的な外傷はなかった。あれは、飢えたその果てであったのは間違いない。

 そして、ボクはその死体を拾い上げて蛆を取り払った。だけど、それだけじゃない。

 

「だけど、ボクは興味本位でその猫の骸を冒涜した。切り開き、抉り抜いて弄んでしまった」

「⋯⋯」

「ああ、勿論、己を嫌悪もしたさ。好奇心に恐怖も覚えた。しかも、その体内には赤子が、それも少し前まで生きていたのであろう赤子が居たんだ」

 

 最初は墓でも作ってやろうなんて考えていた。だが、ふとした瞬間に、ボクはその死骸にどうしようもなく引かれた。

 誕生日にもらった多機能ナイフを使って、ボクは家の倉庫で猫の骸を弄んだ。

 そして、その体内、冷たくなった胎内に赤子を見つけた。その赤子は、ボクが取り出した時にはもうすでに死んでしまっていて冷たくなっていたが、それでも生きていたことだけはボクに鮮明に伝えた。

 その時に、拭いきれないあの感覚(・・・・)が、渇望(・・)が芽生えたんだ。

 

「ボクは、あの時に感じた生命の呆気なさとその先に、生命の辿り着く終着点に可能性を感じたんだ。あの子猫は、本当の意味ではまだ死んじゃいない。いや、その(ゼーレ)はボクなんかじゃ計り知れないところにあるって、そう感じたのさ」

「⋯⋯」

「突拍子もない話だろう? おかしな事を宣う小娘だって嘲笑ってくれて構わない。だけど、ボクはその真意を掴むために、ただそれだけの為にこの世界に飛び込んだ。だから、ここで退くわけにはいかないんだよ」

 

 そこまで言い切って、ボクはどうしようもなく不安に駆られてしまう。ボクは、これでもまだ中学一年生になる直前だ。まだまだ何も知らない子供だ。そんな餓鬼が大層にもこんなことを考えているなんて、普通じゃない。それは、ボク自身も分かっている。だから、誰にもこの話はした事がない。今回は、これを言わなきゃ、前には進めないって言う確信があったからだ。

 これはボクの紛れもない本心なんだ。偽りで塗り固めた今まで、非日常のようで全くもって日常から乖離していないボクの人生の中にあって、確固たる真実、非日常の欠片をボクはそこに見た。

 

「くくく、くはははは!!」

「⋯⋯」

 

 だが、案の定、それはあんなに格好良いと思った人にさえ笑われる始末。

 おかしいな。少し、目頭が熱くなってきた。ボクはこんなにも弱い人間だったか。やっぱり、ここでもボクは非日常を得ることは出来ないのか。

 だが、彼の返答はボクが考え、予期していたものとは掛け離れていた。

 

「面白いぞ小娘。前にも似たようなマスターは居たが、其方も大概だな」

「へ?」

「惚けるな、童よ。許すと言っておるのだ。だが、其方はまだネクロマンサーとしての力を修めるには足りないのではないか?」

 

 足りない? 何が? 先程までとは一変した彼の歓迎的な雰囲気もそうだが、不意を突かれたかのような確認に、ボクは戸惑いを隠せなかった。冷静になるんだ、ボク。慌てるのは、それこそボクらしくない。

 ⋯⋯ああ、そうか。考えてみればそうだな。

 いきなり死霊術師になれる可能性の他に、段階を踏まねばならない可能性を、ボクは見失っていたらしい。

 

「まあ、其方にとっても我にとっても幸いなことに、死霊術師の準備期間である【霊魂の案内人(ネクロガイド)】のジョブクリスタルはここのすぐ近くだ。今すぐにでも行ってくるべきだと思うぞ」

 

 それならば早速行ってこよう。

 そう言えば、彼にとっても幸いだというのはどういうことなのだろうか?

 

「ああ、久方振りにネクロマンサーの術を修めるに値するマスターが来たと思ったが故な。我としても、楽しみであることは認めよう」

「⋯⋯へえ。それじゃあ、よろしく頼むよ師匠(マスター)

 

 心得た、そう言ってローブを翻す姿は格好良かった。アレは、確かにボクが目指すべき場所成り得るかもしれない。

 いや、まずはその霊魂の案内人とやらになってくるとしようか。ああ、先程までの陰鬱とした気持ちが(フォルス)のようだ。




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