カインの腐敗録 作:痛い作者ことカイン=9
□霊都アムニール 【霊魂の案内人】カイン=9
無事に霊魂の案内人のジョブを手に入れたボクは、逸る気持ちを抑えて師匠である彼の元へと急いだ。
彼は、ボクが来るまであそこで待っていたらしい。ボクが無事にジョブに就けたことを確認すると、彼は付いてくるように言った。なんでも、修練は地下でやるらしい。死霊術師になる為の修練が、奇妙な儀式場の地下で行われる。なんだか、それらしい雰囲気だ。
「さて、それではネクロマンサーの術を伝授する為にも、其方には霊魂の案内人としてのレベルを上げてきてもらおうか」
「それは良いけど、何をするんだい?」
石造りの螺旋階段を下り辿り着いたのは、冷ややかな空気の漂う、所謂地下墓地。こんな所で何をするんだろうか?レベル上げというからには、モンスターを倒したりするのだろうか?
ボクの質問に、彼は行動で応えた。
彼が手元の石版を操作すると、縦に配置された棺桶の一つが横にずれて、一つの入り口が姿を現した。
「ここは⋯⋯」
「ここは、我が直々に修練する死霊術師の為の特別なダンジョンというやつだ。喜べよ、我の教えを乞う事の出来るものは数人と居ない。マスターで我の教えを乞うことが出来るのは其方で二人目だ。さらに言えば、メイズの馬鹿弟子が何処かへと消えた故な。我も暇だったのだ」
「なるほど⋯⋯ね」
そのメイズとかいう死霊術師は、彼の弟子、要するにボクの兄弟子というヤツになるんだろう。まあ、見知らぬ存在について思案するのも馬鹿らしいが。
そもそも、ボクはマスターだが、彼はティアンなのだろう。つまり、交わることのほとんど無い乖離した存在というわけだ。
「さて、其方には、霊魂の案内人固有の魔法である《
「ああ、確かに持ってるよ」
「其れを使い、この下にいる亡者達の魂魄を送還するのだ。さすれば、50レベルに到達することも長き道のりではあるまい」
そうすることで経験値を得ることが出来ると。それならば簡単だ。
「だが、我は一切関与せぬが故、独力で彼らを還してみせよ」
「へえ⋯⋯面白い。やってみせるさ」
そう言って、僕は意気揚々とダンジョンに挑むのであった。
◇
「⋯⋯思ったよりもいないな」
地下墳墓、それもこんなにもそれらしい雰囲気を醸し出しているというのに、そこにはネズミの一匹も存在しない。倒れた棺桶や、開いた棺桶。朽ちた棚やテーブルが、皆一様に蜘蛛の巣に覆われ、埃に塗れている。
辺りに警戒しながら歩いていると、唐突に縦に設置されている棺桶の扉が開き、通路を塞ぐようにして、二体の見るからにアンデッドなモンスターが現れた。青白い肌に、両眼には蒼い灯火を宿している。簡素な腰巻きのみを装備しているものと、胸に布を巻いているものの二体だが、さしずめ男型と女型と言ったところか。どちらも、手には剣や斧などの武装をしている。
「なんという名前のモンスターかは知らないけど、潔く送還されてくれ」
「⋯⋯オオオァァアォォ」
ボクの言葉は理解していない。当たり前か。彼らはアンデッド、更に言えばNPCの類ではなく、モンスターエネミーの類いだ。元からそのような機能は併せ持ってはいないに違いない。
「《魂の送還》!」
「ア⋯⋯オオオォォ」
宣言と共に突き出したボクの右の掌から発された淡い光は、彼らの身体を包み込む。
すると、ボクを今まさに殺さんとしていた二体の人型は、片方は光の粒子となり、もう片方は操る糸が切れたかのようにそのまま地面に倒れ伏した。
良かった、二体ともボクよりレベルが16以上は上じゃなかったようだ。この《魂の送還》という魔法は、対象のレベルが使用者よりも16以上高いと効果を発揮しないのだ。更に言えばレベルが高ければレジストされやすい。しかもネームド、ユニークには絶対に通じず、多少なりとも強い意志を持つ者には簡単にレジストされてしまうらしい。だが、彼らには通じた。要するにレベルが15以下だったということだろう。更に言えば、意思もほとんど残っていなかったに違いない。
MPのゲージを確認すれば、六分の一は減っている。しかし、レベルは二つ上昇していた。
「⋯⋯思ったよりも簡単だな」
この調子なら、あと二日三日で達成出来るだろう。いや、没頭すればもっと早くに出来るかもしれない。まあ、十中八九、こんなつまらない作業ではボクの精神力が尽きるだろうが。それでも、やれる時にはやっておくべきだろう。
「そう言えば、あの遺体? ⋯⋯遺体はどうすれば良いんだろうか」
そう考えて、動かなくなったアンデッドの身体を触ってみると、ウィンドウが出現する。
もしかして、これ、回収出来るのか?
一応、表記名は【死霊戦士完全遺骸 男性体ドラウグル】としてアイテム扱いとなっているけど⋯⋯。推察するに、あのモンスターは恐らくだがドラウグルというのだろう。男性体だから、男性体ドラウグル。その完全な遺骸だから、死霊戦士完全遺骸の表記となっていることは想像に難くない。一応、アイテムと同じような扱いでアイテムボックスに入れられるようだから、入れておこう。
そう言えば、モンスターなどは頭上に名前が表示されるらしいが、どういうわけか見ることが出来なかった。何らかのスキルでも持っているのだろうか。死霊戦士ということは生前に何らかの妨害系スキルを持っていたのかもしれない。
アイテムとなった遺骸を回収して、ボクは立ち上がった。次いでに落ちていた武器を拾ったのは内緒だ。見た目から
閑話休題。
「よし、この調子で倒して行こう」
「オオオオ⋯⋯」
幸先が良いな。新たに棺桶を突き破り、また新たに立ち上がり現れたのは三体。どれも男性体で、大斧や刀剣を装備している。今度は彼らの頭上の名前がしっかりと見える。
ボクは、ニヤリと笑って彼らへと右手の掌を突き出した。
「《魂の送還》!!」
◇
今日で何度目かになる粒子となって散っていくアンデッドの姿を見届けながら、ボクは嘆息した。MPの問題もあって、休憩を挟みながらだったからか、精神的疲労が強い。
「ふう⋯⋯ここら辺で引き上げようか⋯⋯」
随分と深くにまで潜ったことだろう。こちらの世界の時間で三時間はこのダンジョンに潜っている。
レベルは思った通りかなり上がった。具体的には、25まで上がっている。これはかなり早い方なのではなかろうか。思った通り、というのは、この魔法《魂の送還》は経験値を稼ぐ効率が凄まじく良いのだ。四分の一くらいの確率で発生するアンデッドモンスターの完全遺骸としてのアイテム化時を除いて、完全?な送還が成功した時にはかなり大量の経験値を入手しているらしい。
ボクは、これにはリソースが関係しているんじゃないかという仮説を立てている。まあ、憶測に過ぎないが、送還によって跡形も残らなかった場合は、全てがボクに経験値として流れ、逆に形、アイテムとして残った場合はそこにリソースが割かれているのではないかと考えている。
完全遺骸の方も、男性体が十三体、女性体が十体程手に入った。こちらも収穫は大きいと言える。まあ、用途については不明だが。
ちなみに、レベルが10を超えた辺りから大体のドラウグルは名前を見ることができるようになった。やはり、レベル差でステータスの類を隠蔽するスキルが働いていたのだろう。名前が見れなかった最初の二体は、運良くレベルが低かったに違いない。
そうこう考えながらもう少し潜ろうと歩いていると、目の前に明らかに違う蜘蛛の巣と植物の蔦で覆われた扉が現れる。
「⋯⋯」
「⋯⋯ウォォォオオ」
そして、案の定出てきたのは、今までに出会ってきたドラウグル達とは掛け離れた雰囲気を纏う一体のアンデッド。右手には片手斧を持っている。頭上の表記は無し。名前を見ることができないということは、この亡者は今までのヤツらとは格が違うと考えて良いだろう。
先手必勝。今までのヤツらがいけたんだ。こいつもいけるはずだ。
「《魂の送か――」
「オオオ⋯⋯《ファイアーアロー》⋯⋯!!」
「⋯⋯っ!?」
右手を突きだし、魔法を唱えようとする。
だが、それよりも早く、
驚愕を覚えれど、痛みすら感じることなく。燃え尽きる直前に見えたのは、堂々と立つ一体のアンデッドの姿であった。
【致死ダメージ】
【パーティ全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
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