カインの腐敗録   作:痛い作者ことカイン=9

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 今回は、カインの現状です。さて、初めての原作キャラですけど、こんな感じで大丈夫でしょうか⋯⋯とても心配です。


第三話 カイン=9の現実

 □戒能九玖

 

 目覚めは悪くない。

 いや、目覚めた気分は最悪だが、目覚め心地は悪くなかった。頭が鮮明に冴えている。これならば、なんでも出来そうだ、なんて全能感に浸ってみもする。

 だが、そんなことではこの心に食い込んで残っているような、そんな妙なもやもやは晴らせなかった。

 

「参ったね⋯⋯」

 

 ああ、参った。

 まさか、あんな所で早々にデスペナルティを負ってしまうとは。まだ、レベル上げもし足りない上、エンブリオも孵化していないというのに、明日のこの時間帯までログインできないというのはなかなかに辛いものがある。

 ⋯⋯なるほど、確かにゲーム、いやこの〈Infinite Dendrogram〉はハマるね。まさか、自他共に認める飽き性なボクが、Web小説以外で続けられそうなモノが他にもあるなんて思いもしなかったよ。

 だが、そんな〈Infinite Dendrogram〉も当分はプレイすることが出来ない。

 気分はさながら、興味対象(ニンゲン)を失った悪魔(サタン)⋯⋯いや、おもちゃを取りあげられた赤子のようだ。なんて粗末な。頭は冴えていても、今日のボクの語りはあまり冴えていないようだ。

 

「もう八時か⋯⋯」

 

 時計を見れば現在は朝の八時。これから寝る時間だ。

 ボク自身、駄目だと分かってはいるが、受験が終わり卒業式を終えてから、ここの所、ボクの生活は訳の分からないことになっている。親からも一応の注意は受けたが、起きたい時に起きる、寝たい時に寝るという生活が板についてしまっている。

 両親は今年二歳になる弟を連れて海外に行ってしまった。それも拍車をかけて、ボクの不規則な生活を助長してしまっている。いや、ボクのことを気にかけた両親により、あの人がしばらくボクの面倒を見ることになっているが⋯⋯。あの人が助けてくれるのはありがたいけど、あの人は面倒くさいんだ。というよりも、どうして中学一年生になるばかりの娘を家に一人で置いていくのか。気分はさながら、いつか両親に勧められて鑑賞した子供な罠を張る映画のようだ。まあ、ボクにあんなことをするやる気も力もないが。

 ⋯⋯にしても、そうか。

 

「⋯⋯まだ四時間しかプレイしていないのか。向こうの時間はかなり速いらしい」

 

 それもそうだろう。三倍だ。あちらの世界の(とき)は、こちらの三倍の速度で流れている。

 プレイを開始したのは午前四時。向こうでは大体12時間くらい過ごした。だが、これからあちらの時間で三日も待たせることになるのだ。師匠は心配していないだろうか。

 ⋯⋯いや、無いね。彼みたいなタイプは奔放に生きるモノだって、ボクの直感が囁いている。というより、そうじゃないとボクのイメージが崩れる。

 

「⋯⋯寝るか」

 

 ボクは、襲ってきた眠気に身を任せ、暖房の効いた暖かな部屋で横になった。

 ああ、タンクトップくらい着替えるべきだったかな⋯⋯。いや、良いか⋯⋯。今は⋯⋯眠りたい⋯⋯。

 

 ◇

 

「⋯⋯案外今日の眠りは浅かったようだね」

 

 時計を見れば、現在時刻は十五時。午後三時ということは、七時間は寝たのか。

 

「うわ⋯⋯」

 

 ベッタリと身体に何かが張り付く不快感。嫌な予感がしながらも恐る恐るタンクトップを触れば、汗でびしょびしょになっていた。まだ夜も肌寒いというのに⋯⋯。早めに風呂に入ろう。

 

「ああ⋯⋯またあの時の夢を見たのか⋯⋯」

 

 最近では内容を忘れていることの方が多いが、いつかの猫の死体を弄んだあの日から、度々ボクの夢にはあの猫が現れるようになっていた。いや、正確には猫ではない。猫の魂だ。それが、ボクに語りかけるのだ。

 ――魂の冒涜者、汝の魂はいつか我が食い荒らす。それを忌避せんとするならば、魂の価値を――。

 なんということは無い、それこそボクのように中二病臭い発言だが、あの時のボクは本当に恐怖したものだ。実際、ボクは小学1年生の時には既にこの治してはならない病を患っていた。そんなボクのちょっとした肥大妄想だろうと、無理矢理納得することであの時は誤魔化していたが、今なら分かる。

 あの夢は、ボクを導く為に幼き日のボクが精一杯の語彙力で生み出した天啓のようなものだろう。ご丁寧にも、その為ならば、ボクには全てを払わせるという脅迫付きの天啓。そう考えれば、なるほど。理屈は無いが、しっくりくるものがある。

 そして、それを果たしたいと考えるボクがいるのも事実であった。

 

「さて、さっさと風呂に⋯⋯」

 

 ボクが立ち上がったのを見計らったかのように、家のインターホンが鳴った。ああ、来てしまったか。

 

「はぁ⋯⋯」

 

 渋々。そう、渋々ながら、階段を降り、家の扉を開く。

 そこには、髪を後ろで結った女性が待っていた。美人だ。まあ、本性は美しいとは思えないが。いや、ある種の美しさを内包している、とも言えるか。

 

「ナインちゃん、まだ昼夜逆転しとるんかえ?」

「月夜さん、別に毎日来なくったって⋯⋯」

 

 ボクの苦言をはんなりとした喋りで受け流し、いつも通りに彼女、扶桑月夜(ふそうつくよ)さんは家の中に入っていった。

 彼女は、近所に住んでいる例の女性。妙なカルト教団のトップで、ボクを〈Infinite Dendrogram〉に誘った張本人だ。

 曰く、ナインちゃんなら面白そう、らしい。ボクはおもちゃかなにかなのか。

 いや、実際のところ、この怪物(・・)はボクのことをおもちゃ程度にしか見ていないかもしれないが。

 まあ、それで良い。癪だが、ボクが一方的に姉のような存在として慕っているだけなのだから。彼女がどう思っていてくれようと、矮小な身に浸りたいボクには分からなくて良い。

 

「で、今日は」

「その前に、お風呂に入ってきー。そんな格好、お姉ちゃん恥ずかしゅうて仕方ないわー」

 

 ああ、そう言えばそうだった。とりあえず、お風呂に入ってこよう。

 月夜さんの事だ、別になにかするわけでもないだろう。カルト教団のトップの割には、何となくイメージと違う人物ではある。まあ、やはりというべきか頭がおかしいのはこういう類特有のものなのだろう。それに、時折正気を疑う常軌を逸した行動に及ぶこともあるが、まあ、頭がおかしかろうと馴れればどうということは無い。

 それに、結局のところボクからしたら、幼い頃から親交があって慕っている姉のような存在⋯⋯ってやつなのさ。

 

 ◇

 

「ふう」

 

 湯を張る暇もなかったため、シャワーで済ましたが、汗でベトベトのタンクトップを着て過ごすよりかは余程良い。

 髪の毛を乾かし、替えのインナーシャツに着替えてリビングに戻ると、そこでは月夜さんが椅子に座ってテレビを観ながら、チャンネルを変えていた。

 

「ナインちゃん、〈Infinite Dendrogram〉、始めたんやねー」

「⋯⋯うん」

 

 何故知っている⋯⋯。

 いや、ボクがお風呂に入っている間にボクの部屋でも覗いたのかもしれない。そう思いたい。部屋の鍵は閉めてるけど。

 

「どうやった?」

「まあ⋯⋯面白い、かな」

 

 ボクがそう言うと、月夜さんは目を細めてボクを見据えた。

 ああ、この反応はボクの答えが好ましくなかったのだろう。

 

「そうやない。ナインちゃんの目的は達成出来そうかっちゅうことえ」

「⋯⋯ああ。まだ分からないけど、ボクの願いは叶いそうだよ。恐らく、ね」

 

 この反応が欲しかったらしい。月夜さんの機嫌は目に見えて良くなった。まあ、言わされた感じがあるのは癪だけど、この人が喜ぶなら、ボクとしても吝かじゃない。自分で言っててチョロいものだと思うが、この人の妹を勝手に自負しているくらいなのだ。この程度は仕方ないだろう。

 月夜さんは、続けてボクに問うた。

 

「スタートは何処にしたんかえ? もちろん、アルター王国やろ?」

「ボクは、レジェンダリアを選択したよ」

 

 瞬間、部屋の空気が凍りついた。ぶわっと、冷や汗が吹きでる。

 ああ、選択を間違えたか。

 

「ナインちゃん、うちは〈Infinite Dendrogram〉を勧めた時、アルター王国を選択するように言うたよなあ?」

「⋯⋯そうだったかな」

 

 まるで心臓を掴まれているかのようだ。しかし、この殺気にも似た感覚には慣れたもの。彼女は、意図してか意図せずか、時折こんな雰囲気を纏う。

 まあ、身内、と言うよりは長年の付き合いからくる相互理解から、その殺気もすぐに収められた。

 

「まあええ。ナインちゃんの目的⋯⋯“魂の在処の把握”が達成出来たらでもええから、うち(アルター王国)に、そしてうち(月世の会)においでえな」

「⋯⋯分かった、考えとくよ」

 

 その答えに満足したらしい彼女は、いつも通りの雰囲気に戻っていた。

 ああは言ったが、恐らくその日は来ないだろう。

 “魂の在処の把握”、これはボクの〈Infinite Dendrogram〉における永遠の命題なのだ。

 これが達成された時、それはすなわち、ボクが〈Infinite Dendrogram〉を去る時に他ならない。

 気まずい沈黙が流れるが、それも仕方ない。始めたばかりで終わりの話をするというのも、変な話だな。

 その点、微塵も気にしていないらしい月夜さんは凄いと思う。

 月夜さんは、ゆっくりとした所作で椅子から立ち上がると、台所に向かった。⋯⋯嫌な予感がする。

 

「辛気臭い話も終わりにして⋯⋯今日はうちが晩御飯を作ったげるわ」

「いや⋯⋯今日はインスタントラーメンの気分で⋯⋯」

「そないなこと言うて、いつもインスタントラーメンばっかり食うとるんやろ? たまには、お姉ちゃんが愛情込めて作るえ」

 

 いや、それはまずい。味は微妙だが、その微妙な味が、濃くてどろりとした素材を台無しにするような味付けのものを好むボクからしたら、かなり精神的にクるのだ。

 

「任しときー。うち、〈Infinite Dendrogram〉でも料理の練習しとるんや。大分上達したでー」

「いや、だから良いって」

「遠慮せんでええよー」

 

 ああ、これは逃げられないな。

 ボクは、抵抗を諦めて、大人しく席に着いた。さて、果たしてボクは〈Infinite Dendrogram〉にログインできるのだろうか⋯⋯。とても不安だ。

 だが今は、腹を括ってこの戦場(食卓)に臨むしかあるまい。




 感想、お気に入り登録お待ちしております。誤字報告やアドバイスもどしどしお願いします。特に、設定の矛盾や原作キャラ関連⋯⋯。
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