カインの腐敗録   作:痛い作者ことカイン=9

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 今回、大分説明が長いですが、まあこのチートじみた職業の云々を明かしていく形となります。


第四話 カイン=9の納得

 □戒能九玖

 

「ほな、ナインちゃん、またなー」

「ありがとうございました」

 

 ひらひらと後ろ背に手を振って帰っていく月夜さんを見送り、ボクは安堵のため息を吐いた。やっぱり、味は微妙であった。ただ、今日は向こうで用事があるらしいため、早めに帰ってくれたのだ。

 やっと帰ってくれた。あの人と一緒にいると精神的に穏やかじゃない。

 

「⋯⋯もうこんな時間か」

 

 リビングに戻り時計を見れば、時刻は既に午後の10時を指している。ペナルティ解除までのあと10時間、何をして暇を潰そうか。

 

「そう言えば、小説の更新しとこうか」

 

 言うが早いか、ボクは愛用しているWeb小説サイトを開き、早速ログイン。マイページに入ってみると、そこには感想通知がひとつ。⋯⋯久しぶりの感想だな。どんな物好きがボクの小説を読んだのだろうか。

 

「⋯⋯もう少し文章内のルビを減らして⋯⋯内容は面白い七割、奇妙三割⋯⋯まあ、普通の感想だね」

 

 だけど、感想をもらって嬉しくないはずがない。それにアドバイスもくれている辺り、この人はボクに、ボクの作品に期待してくれているのかもしれない。光栄なことだね。

 お気に入りは4000と少し。このサイトに登録して書き始めた頃は、全く伸びずに悩んでいたものだが、しばらくすると勝手がわかって楽しくなってきた。たまに日間ランキングの下の方に顔を出す程度には読んでもらえているということ。それは、ボクからすれば、いや、大抵の作者にとってはとても嬉しくて名誉なことだと思う。

 感想とアドバイスへのお礼と努力する旨を伝えて、感想欄を閉じる。

 

「今日中に、書き溜めでも増やしておこうかな」

 

 そうと決まれば、ボクは感想をもらった嬉しさを燃料にして、スマートフォンに指を走らせた。

 

「にしても、佐々木以蔵さん⋯⋯ね。どんな人なんだろう」

 

 感想をくれた人の名前を頭に浮かべ、どのような人か夢想する。名前の感じからして、剣豪とか武士とか剣客のようなジャンルが好きなのだろうか。いや、でもボクの作品はローファンタジーものだし、もしかすれば本名をもじったタイプかも知れない。

 顔も知らない見ず知らずの人物に対して、ああでもないこうでもないとあれこれ考え、そして、執筆に集中するために散らした。

 

「もっと⋯⋯上手に書けるようになろう」

 

 読んでくれている人の為にも、そして、ボク自身の為にも。

 

 ◇

 

「はあ、やっぱり、プロットがあっても、細かな展開を考えるのはとてもじゃないが疲れるね」

 

 まあ、それも楽しみのひとつと言われれば言い返せはしないし、実際、ボクもそれを楽しんでいるのだから、満更でもないわけだが。

 それに⋯⋯、

 

「そうか、向こうでなら眠ることも出来るのか。なるほど」

 

 気分転換と称して、〈Infinite Dendrogram〉のスレッドや攻略サイト、情報交換の為の掲示板などを見て回ったせいで、あまり集中できなかった。

 

「これじゃあ、まるで想い人を待ち遠しく思う乙女だね。まあ、ボクはそんな柄じゃないけど」

 

 独り言ながら、時計を一瞥すれば、時刻は午前七時過ぎ。

 そろそろ時間だ。適当な物で軽食でも摂って、トイレに入ってから部屋に行こう。

 

 □霊都アムニール 【霊魂の案内人】カイン=9

 

「⋯⋯戻ってきた、ね」

 

 目の前に広がったのは、昨日と変わらぬ霊都の姿。時々、ボクの怪しい姿を訝しげに見る人もいるが、すぐに興味を失って歩みを再開する。衛兵も例外ではないようだ。

 はて、こんな如何にもなにかやらかしそうなマスターがいるというのに、どうして平然としていられるのだろうか?

 いや、まあ掲示板などを見た感じでは、この国はどうしてか、頭のおかしい人間や行動が異常な人間、“変態”と呼ばれる存在の群生地らしいという情報をちらりとだが見た。だからこそ、ティアンも正常なマスターも、そんな光景を平然と受け入れられるに違いない。

 だから、街中を爆走する幼女は知らないし、嬉嬉としてそれを追い掛けるほぼ全裸の女性も知らない。ボクは、そんな事案まっしぐらな光景は見ちゃいない。

 

「まあ良いか。取り敢えず、師匠のところに急ごう」

 

 半ば逃避しながら、ボクは師匠の元へと急いだ。

 

 ◇

 

「ふむ、異界より帰ってきたか、其方よ」

「ああ。待たせて悪いね、師匠」

 

 ボクが儀式場に赴くと、そこには変わらずに師匠がローブの袖の中で腕を組んで、クリスタルの前で立っていた。やはり、ボクがいなくても彼は全くもって普段通りであったのだろう。

 

「まさか、早々に死ぬとは思わなかったが、初めての体験であったろう? ならば、よかったでは無いか」

「そう言われると耳が痛いね」

 

 いや、三日間も、それも帰ってくるとも限らないマスターを待ち続けるのは、彼であっても面倒、と言うよりかはもどかしかったのかもしれない。

 まあ、次は気を付けよう。

 

「其方、今、レベルはいくつになった?」

「えーと⋯⋯」

 

 ステータス画面を見れば、ボクのレベルの表記は25。丁度、下級職の折り返し地点と呼ばれるレベル帯となっていた。ここからは、レベル上げも難しくなるだろう。

 

「25だね」

「そうか。其方、扉を守りし者【ドラウグル・コル】に殺されたのであろう? 彼の者のレベルは45前後。殺されるのも道理である。他の地下墳墓なら、もう少しレベルが低かったり、逆にレベルが100を超える“王”なる存在もいるようだが、ここの【ドラウグル・コル】のレベルは他と比べればあまり高くない」

 

 なるほど、ボクを殺したあのモンスターは【ドラウグル・コル】というのか。コル、つまりアイルランド語で戦士ということ。あのドラウグルは、ドラウグルの中でも強い戦士の遺体ということか。

 それにしても、レベル45前後⋯⋯ボクの二倍近くレベルが高い。個人的には、25から上へのレベルアップもなかなかきついくらいなので、初期装備であったとはいえ、それなら一撃で殺されるのも納得出来る。

 だが、他の墳墓にはアレよりももっと強い戦士、もっと言えば“王”がいる、ということか。今のボクじゃ、覚醒したって勝てないかもね。まあ、先は長いということ、かな。

 

「なればこそ、其方には早急にレベルを上げ、彼の者を打倒してもらわなくては困る」

「⋯⋯どうしてかな?」

 

 ボクが理由を聞けば、彼は瞑目して口を開いた。

 

「この墓は、古代ノールドの民の墓であってな。彼ら古代ノールド人は、怨念に似て非なるもの、“誇り”を動力にしてこの墓を守っている。いや、彼らの誇りは定期的に復活するのでな。しかも、どういうわけか消滅してもまた復活する。このままでは、彼らの子孫も墓参りができないわけだ」

「なるほどね。そう言えば、彼らの遺体がドロップしたら回収しても良いのかい?」

「構わぬ。所詮、誰の物かも分からぬ誇りが独り歩きしているような存在だ。遺族も、墓に用があるのであって、彼らに用はない故な」

 

 なるほどね。誇りが混ざりあって生まれただけの、言わばただのアンデッドと化した祖霊よりも、形ある墓の方が大切ということなのだろう。

 ということは、彼らの死体は回収しても良いわけか。それなら、気兼ねなく存分に回収してしまおう。別に、何かに使うわけでもないが。いつか、使いそうな、そんな気がする。

 

【クエスト【墓掃除―地下墳墓モルブイン 難易度:二】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 なるほど。これがクエストというものか。自動発生するというのは確認したが、本当に唐突に発生するものだね。

 

「じゃあ、もう一回行ってくるとするかな」

「うむ。今度こそ、其方が扉から帰ってくることを期待していよう」

 

 今度は、油断はしないさ。

 同じ轍は踏まない。失敗だったら尚更だ。それが、ロールプレイヤーってものだろう? まあ、あんまりロールプレイ出来てないけど⋯⋯。

 

 ◇

 

「《魂の送還(ソウル・リマンド)》!!」

「オオォォォ⋯⋯」

 

 現れたドラウグルを、《魂の送還》により即送還する。

 あの説明を受けた後なら、この魔法、ひいてはこの職業【霊魂の案内人】の役割も理解できる。そして、マスターの中でもボク含めて片手で数えられる人間しかこの職に就かない、いや就けない理由が分かった。

 荒ぶる霊魂の怨念を鎮め、アンデッドの魂を送還する事がこの職業に就いた者達に求められること。それだけで、余程の物好きでもなければ、この職業に就く気も萎縮するだろう。

 さらに言えば、この職業は、ほとんどティアン専用みたいなものなのだ。それも、何らかの暗い事情があったりして表に出ないような類のティアンのもの。そして、この職を斡旋するのも同じティアンくらいのものだろう。というより、こんな益の大きい職業を、マスターが教えるはずもない。人間っていうのは、そういう生き物なのさ。

 だから、師匠が何らかの念を抱きボクにこの職業に就くことを指示してくれたのは幸運であった。何せ、【死霊術師(ネクロマンサー)】は下級職で、特に制限もなく就くことが出来るのだから。あの時、ボクも、なんの支障もなく【死霊術師】の職に就くことが出来た。

 だが、そうしたほとんどのマスターは挫折するのだろう。【死霊術師】は嫌われ者だから。死者を冒涜する、それはこの世界を生きる生命、ティアンからしたら許し難い暴挙に違いない。マスターと言えど、現実世界を生きる人間だ。ボク達と何ら遜色のない彼ら(ティアン)に後ろ指を指されながらこの世界で生きるのは辛いだろう。有名所でありながら【死霊術師】のマスターは総人口が、おおよそ500人を切っているのも、それが理由なのかもしれない。

 その点、こうして【霊魂の案内人】の職に就けばレベル上げも容易く、その仕事柄、多少なりともティアンからも寛容される。それだけで、この職業に就くメリットとなる。

 個性(パーソナリティ)が欲しいものなんだ、人間は。【死霊術師】に就きたいと思う人間なんて、どうせひねくれた天邪鬼ばかり。だから、他の人間が【死霊術師】になることも寛容し難いのさ。挫折するなら結構、そういうことだろう。情報を提示しない理由なんて、それで十分さ。

 まあ、ボクは別にどちらでも構わないが。あくまで、憧れはあっても【死霊術師】は手段として見ている面が強い。

 

「アォォォオ⋯⋯」

「⋯⋯もう少し、レベル上げに付き合ってもらおうか、古代人」

 

 考えを切り上げ、新たに現れたドラウグル目掛け、ボクは右の掌を向けた。




 感想、お気に入りよろしくお願いします。私の筆(指?)さばきに直結します。

 追記
 ご指摘に伴い、【ドラウグル・コル】のレベルを60→45に低下。レベル100を超えた個体云々への補足を追加。
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