カインの腐敗録   作:痛い作者ことカイン=9

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 取り敢えず、エンブリオの詳細です。


第六話 カイン=9の就職2nd

 □霊都アムニール 【霊魂の案内人】カイン=9

 

 スッキリとした肌寒い空気を身に感じて、ボクの意識は浮上した。

 

「⋯⋯起きたか」

「⋯⋯ああ、師匠。おはよう」

 

 どうやらボクは、儀式場の平らな石の台座上に寝かされていたらしい。傍から見れば、生贄に捧げられる少女、といったところかな。いや、違うか。

 恐らく、というより確実に師匠がボクを運んでくれたのだろう。また、師匠に迷惑をかけてしまった。

 だが、師匠はそんなことは気にしないのだろうな。そんな予感がする。いや、確実に。

 

「その肢体が、其方のエンブリオ⋯⋯というものか」

「そうらしいね」

 

 師匠の言葉に思考を切り上げる。

 肉が腐り、膿んでとてもじゃないが直視出来ないような状態となっている両の手のひらを眺め、ボクは嘆息した。

 なるほど、これがボクのエンブリオ⋯⋯。自分の身体だからか、思っていたよりも、気持ち悪くはならないものなんだね。

 

「まあ、祝福しよう。祝福を受け付ける身体かは知らぬが」

「ああ、どうも」

 

 そう言って、メニューの詳細ステータス画面に追加された<エンブリオ>の欄を確認する。

 

 【半神死霊 ヘル】

 TYPE:ボディ

 到達形態:Ⅰ

 

 ステータス補正

 HP補正:D

 MP補正:F

 SP補正:G

 STR補正:D

 END補正:G

 DEX補正:G

 AGI補正:G

 LUC補正:G

 

 ヘル、確か北欧神話の方の女神だったか。死者の国、ヘルヘイムを支配する存在らしいが⋯⋯。まあ、【死霊術師(ネクロマンサー)】なんて目指してるボクにはお誂え向きってヤツかな。

 にしても、ボディなんて項目は、攻略サイトにも掲示板にも無かったけど⋯⋯。

 

「新種、か」

 

 ああ、なんて惹かれる言葉だ。ボクだけの唯一(ユニーク)、語呂は悪いが、嫌じゃない。

 次いで、保有スキルの欄も確認する。

 

 『保有スキル』

 《完全亡者肢体(パーフェクト・アンデッド・ボディ)》:

 全身を特異アンデットの肢体に置換する。聖属性、火属性、各種状態異常に耐性を獲得する。また、HPの自動回復に大幅な補正がかかる。切断系攻撃による被ダメージ量二倍。欠損した部位が擬似アイテム化する。

 パッシブスキル

 

 なるほど、完全にアンデッド化するわけか。無限の可能性、ならばボクのエンブリオがこんな変わり種でもおかしくはない、ということか。だが、どうしてボクのエンブリオがこんなにも変わりすぎたものになったのかは、果たして謎のままだ。まあ、嬉しいけど。嬉しいけど。

 己のエンブリオについて思案していると、師匠の方から何かが投げ渡された。驚きながらもなんとか受け取ると、手には冷たいぐちゃっとした感覚が。

 

「うわっ⋯⋯ああ、これボクの脚か」

「左様。どうするかは分かるか?」

 

 そこにあったのは、【ドラウグル・コル】によって切り離された僕の右足。

 ああ、もしかして⋯⋯。

 ボクはその考えに至り、己の足の断面に、切り離された右足の断面をくっ付けた(・・・・・)。すると、見るだけで怖気と不快感を煽るような、黄色い膿とどろりとした血液、蠢く腐った肉が、久しく会っていなかった己の足との再会を、まるで歓喜するかのように繋ぎとめた。

 

「ああ、これで治るのか⋯⋯」

「そのようだな」

 

 状態異常の欄を見れば、先程まであったはずの【部位欠損】が無くなっている。ただ断面と断面をつけただけで治るなんて、便利なカラダだ。ちなみに、とっくのとうに【骨折】の状態異常は無くなっていた。

 完全にアンデッドだねこれは。まさか、死霊術師志望が死霊になるなんて、考えもしなかったが、これはこれで⋯⋯。

 

「案外、悪くないな」

「左様か」

 

 師匠の問いに頷き、ボクは立ち上がった。体力ゲージを確認すると、どういう訳か全回復している。師匠が何かしてくれたのだろうか?

 

「いや、我は何もしておらぬ。其方の身体が、エンブリオが、回復を補助したのだろう」

「なるほどね」

 

 そう言えば、スキルの説明にそんなことも書いてあったな。自動回復への補正か。こちらも便利だ。

 確か、失われた部位はデスペナルティ以外の自然回復では治りがとても遅いとかなんとか。その点、自動回復補助と欠損部位の瞬間接着はかなり強いと思う。

 

「墓掃除、達成したようだな」

「うん。なんとかね」

 

 そう返すと、彼は一度頷いた後に口を開く。

 

「感謝しよう。そして、其方を正式に我が弟子として迎えよう」

 

【クエスト【墓掃除―地下墳墓モルブイン】を達成しました】

 

 師匠の言葉と共に、クエスト達成のメッセージが表示される。なるほど、これがボクの初クエスト達成、というやつか。確かに嬉しいものだね。

 

「何か、報酬の一つでも差し出すことが出来たら、と思うが⋯⋯」

「いや、いいよ。ボクはこれで十分さ」

 

 流石にこれ以上何かを貰うのは気が引ける。だが、師匠はなかなか納得出来ないらしい。律儀な人だ。

 とは言うものの、ボクはボクで様々なものを貰っている。だからこそ、これ以上はいらないという旨を伝えようとした時、彼はボクの身体、露出している腕などの部分を見て、何かを思い付いたらしい。

 

「そうだな。その身体では人と会うのは不便であろうし、其方には、あれを授けよう」

「あれ?」

 

 暫し待っておれ、そう言って彼は儀式場に併設された、石造りの小屋へ入ってしまった。

 

 ◇

 

「これだ。受け取るが良い」

「これは⋯⋯?」

 

 渡されたのは、青い卑金属に民族模様のようなものが刻印された篭手とブーツ。アイテム名は【古戦士の篭手】と【古戦士のブーツ】と、そのままだが、ドラウグルのモンスタードロップだろうか。

 貰うわけにはいかないとも思うが、その反面、これがあることのメリットはかなり大きい。

 不思議だが、今の己の姿を嫌悪することは無い。自分の身体ということもあるのだろうか。それとも、どういう訳か顔は腐敗していなかったから、というのも有り得る。だが、ティアンや普通のマスターからすれば、この見た目は悍ましいことこの上ないだろう。

 だから、有難く貰っておこう。それに、貰わないとテコでも動きそうにない。今の師匠からは、そんな感じがする。

 

【装備しますか?】という表示にYESを選択する。すると、両腕の肘から先と、両足の膝から下が何かに覆われた感触を覚えた。

 篭手やブーツなんて、初めて身に付けたが、これはなかなか⋯⋯。コスプレ、か⋯⋯。

 

「いやいや、ないね」

 

 コスプレなんてボクの柄じゃないさ。顔立ちはそんなに整ってないし。

 

「これなら、ボクの身体も隠せるね」

「うむ。では、早速ネクロマンサーの術、【死霊術師】の職を得るが良い。其方は、真に相応しいと、我が認めたのだからな」

 

 そう、これで念願の【死霊術師】のジョブに就くことが出来る。そう考えれば、デスペナルティなんてつまらないものを負わなくて良かったと、もう一度思えた。

 

 彼に促されるままに、ボクは儀式場のクリスタルに触れる。そして、表示にYESを選択し、【死霊術師】のジョブを獲得した。

 

「晴れて、其方も我ら【死霊術師】の仲間入り、という訳だ」

「ああ、お陰様で、ね」

 

 あまり、感想はないものなんだね。まあ、就いただけだしそんなものか。最初から備わっているらしい《死霊術(ネクロマンシー)》が、使えるスキルの欄に追加されたが、それも使ってみなければ分からない。

 

「さて、早速使いたい⋯⋯けど、それはダメ⋯⋯かな?」

 

 彼は、難しい顔をしてボクを見つめた。フードの下から見える赤い眼光は、逡巡しているように見える。

 

「⋯⋯そう急くでない。其方の、《死霊術》の力を使うには、死体が、【完全遺骸】が必要だ。生憎と、我は持ちえておらぬ故な⋯⋯すまないが」

「いや、それなら持っているけど⋯⋯」

 

 ボクがそう言うと、彼は思い出したかのような仕草をして、口を開いた。

 

「そうか、【ドラウグル】の遺骸があったか。久しく《死霊術》を使っていない故、忘れていたが、それならば問題はあるまい」

 

 付いてこい、そう言って師匠は地下墳墓への扉へ向けて歩き出した。

 

 ◇

 

 地下墳墓の、テーブルやベンチなどがある少し開けた場所に来ると、師匠はある一点を指した。

 

「では、そこにドラウグルを」

「分かった」

 

 ボクは、持ちうる【死霊戦士完全遺骸 男性体ドラウグル】と【死霊戦士完全遺骸 女性体ドラウグル】をアイテムボックスから取り出した。

 その数、ざっと40体程度だが、その光景は壮観である。

 

「⋯⋯其方、回収し過ぎではないか?」

「⋯⋯やっぱり、そうかな⋯⋯」

 

 師匠の目が痛いが、使うかわからなくても、回収できるだけ回収したい、いわば貧乏性のようなものがボクにはある。だからという訳では無いが、致し方ないことだと思う。

 

「だが、まあ、良い」

 

 そう言うと、彼は徐に、地面に転がるドラウグル達の遺骸を物色しだした。

 そして、その中の一つを引っ張り出すと、しゃがみ込んで右の掌を当てた。

 

「見ておれ。⋯⋯《死霊術》⋯⋯」

 

 瞬間、奇妙な光が男性体ドラウグルの遺骸を包み込む。

 そして、光が晴れた時、

 

「⋯⋯ウウ⋯⋯⋯⋯」

 

【ドラウグル】は仮初の命を持って息を吹き返した。先程まで空洞しか存在していなかったその眼窩には、ボクが対峙した時と同様に青い光が宿る。

 なるほど、これが《死霊術》か。

 

「今のが怨念ではなく、MPを使っての《死霊術》だ。我が教えるのは、MPを使っての《死霊術》のみである。怨念を使うことを、我は好まぬ」

「分かったよ」

 

 僕の返答に満足したらしい師匠は、次はボクがやる番だと目で促した。

 最も近くの適当な男性体ドラウグルを選び、その側にしゃがむ。そして、埃をかぶった冷たい肢体に触れ、意識を集中させた。

 

「⋯⋯《死霊術》」

 

 ボクの右の掌から放たれた光は、ドラウグルを包み込んだ。

 成功、かな。

 初の《死霊術》の行使に、内心緊張していると、光が晴れた。

 

「⋯⋯アアオオ⋯⋯」

 

【ドラウグル】の両目に、青い光が灯った。

 それは、例え仮初でも、命を、()を感じた。パーティーの欄には、ボクの他に【ドラウグル・使役】が追加されている。

 

「⋯⋯これは⋯⋯」

「成功、だな。初めてにしては悪くない」

 

 ⋯⋯そうか。やはり、コレが、死霊術こそが、ボクの求める答えへの道なのだろう。

 ならば、極めるしかない。当たり前だろう。やっと叶うんだ。ボクの願いが。妥協はしない。

 

「くく、その顔、良いぞ。ああ、面白い。其方は、旧来とは違った冒涜者となりそうだ。実に楽しみだ」

「⋯⋯ありがとう」

 

 師匠は、やっぱり【死霊術師】だ。その歪んだ笑みは、確かに負に傾いている。

 だが、今のボクの笑みも、大概だろう。だが、この込み上げる感情の波を抑えることは出来ない。

 

「ククク、アッハッハッハッハッ!」

 

 ボクが、魂を究明する。解明してみせるさ。この世界なら、それが出来る。そう実感している。そう予言してみせよう。

 

 だから、今暫くは、不明(アンノウン)の高揚感に酔い痴れさせてくれ。




 感想やお気に入り登録、よろしくお願いします。よろしければ、アドバイスやご指摘などもよろしくお願いします。
 ⋯⋯執拗過ぎないかな⋯⋯(不安)

 追記
 ご指摘に伴い、エンブリオ【ヘル】の表記を【半神死霊 ヘル】に変更致しました。
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