カインの腐敗録 作:痛い作者ことカイン=9
第七話 カイン=9の参加
□地下墳墓モルブイン 【死霊術師】カイン=9
カビ臭く、埃や蜘蛛の巣で視界がいっぱいとなるような、もう見慣れた地下墳墓の通路を抜ける。
「D、全待機」
そして、ボクは今回の目当てであった場所に辿り着いた。追従する者達に指示を出し、蜘蛛の巣を払いながら、広場の中央まで歩を進める。
「⋯⋯見つけたよ」
ボクは、薄く埃を被ってしまった
◇
あれからというもの、ボクは何か変えるでもなく今まで通りに地下墳墓に潜っていた。
新しく就職した【
使役した
目の前に、二体のドラウグルが現れる。レベルが上がったボクからすれば、あまり脅威とは思えない。それに、言った通りボクには仲間がいる。
「ウウウ⋯⋯」
「D1からD4、ドラウグルを攻撃開始。D5、D6は欠員時補充まで待機」
ボクがそう言うと、後ろで待機しているD──【ドラウグル・使役】の内の四体が、それぞれの武器を構えて、ドラウグルに襲いかかる。
二対一で戦い始める彼らを見ながら、ボクは警戒を続ける。
【死霊術師】となったことによって、ボクは【死霊戦士完全遺骸 ドラウグル】を従属アンデッドモンスター、【ドラウグル・使役】として従わせることができるようになった。
当初は、六体と言わず、十数体程、叶うならば所持していた遺骸全てを従属させたかったが、それは今のボクでは不可能であった。
理由の一つに、彼ら従属アンデッドは扱いとしてはテイムモンスターという類に似ており、それの制限が少し多い版といったところがある。僕のキャパシティでは、レベルにして10前後の彼らを六体使役できれば良いといったところであった。
え?どうしてDかって?ドラウグルで良いだろ?
⋯⋯そういうの言ってみたかったのさ。気にしないでくれ。
「ウォオ!!」
「ウオォォ⋯⋯」
ドラウグルというモンスターの性質なのか、MPを使っている弊害なのか、未熟なボクでは満足に操ることも難しく、彼らには機械的な動きしかさせられない。だから、今もこうして二対一を余儀なくされている。それに、彼らがボクを主と認めていないような感じがするのも事実だ。
まあ、それは時間が解決してくれる。いや、時間に伴うボクの努力が解決してくれるだろう。
「ウォォ⋯⋯」
そうこうしている内に、彼らは各々の担当していたドラウグルを処理したらしい。D3──二刀使いの個体が刃を突き立てる姿を一瞥して、今日はそろそろログアウトするかどうか悩む。
あれから、【死霊術師】のジョブに就いてからあちらの世界で一日と少し、こちらの世界には三日は居る。
「これは、完全にハマってるね」
まあ、これも仕方が無いことなのさ。
目的、とは言うが、そんなに焦ってやることでもない。いや、死ぬまでには達成したいが、ボクとしてはそんなに焦ってやるのも違う気がするのだ。
まあ、というのは言い訳で。
ボクは今、完全に本来あるべき姿の〈Infinite Dendrogram〉を遊んでしまっている。まあ、死霊術師が、この世界に沿うモノかは分からないが。無限の可能性というだけあり、それも一つの道と思いたい。
そして、これがまた案外楽しかったりする。恐らく、今でも他のゲームにはここまで没入できないだろうけど、〈Infinite Dendrogram〉なら、最低限のあっちでの生活以外ではずっとこちらに居られる気がする。
「D、全待機。オペレート終了」
「「ウォォ⋯⋯」」
ボクの声で、彼らの目に宿る青い炎が消えた。
いや、正確には消えてはいない。ボクの起動の声、《アウェイキング・アンデッド》によって彼らはもう一度動き出す。
「この状態だと、他のドラウグルも襲ってこないのは驚きだ。何らかの違いでもあるのか⋯⋯」
いや、そんなことはボクには分からない。ゲーム上の仕様以外に説明出来ない。今度、師匠にでも聞いてみようか。
「そう言えば、師匠、何処に行ったんだろう?」
ボクが地下墳墓に頻繁に潜るようになってから、師匠の姿は見えなくなった。置き手紙には、しばらく留守にする、という一文のみ。
正直言って、心配はしてないが、もう少し詳細が欲しかったとも思う。まあ、ボクが同じ立場ならボクだってそうするかもしれないけど。
そんなことを考えながら、帰路を進んでいると、ようやく地上への扉に着いた。
なんだかんだ言って、ここまで来たら後は外に出てログアウトするだけだ。するだけなんだけど⋯⋯
「あ⋯⋯」
後ろ髪を引かれる想い、というのはこういうことを言うのだろう。
残してきたDを思うと、未練が首をもたげる。
「もう少しだけ⋯⋯」
その言葉を行動に移そうとして、それを咎めるかのような、そんなタイミングでボクの前に二つのアナウンスが表示された。
【アナウンス 尿意】
【アナウンス 空腹】
「ああ⋯⋯いや、興が殺がれた⋯⋯ログアウトしよう」
それでも、未練が沸き上がってくる⋯⋯というわけでもなかった。
ここ数日で何回か見たが、このアナウンスだけは、不快感を示さざるをえない。こちらの世界とあちらの世界が、まるで混同されているかのような、そんな感覚を覚えるのだ。
師匠から使うことを許されている石造りの小屋に入り、石の長台の上に毛布が敷いてあるだけの簡素なベッドに寝転がる。
「また明日」
メニューを操作し、ログアウト処理を行った。
もう慣れた意識が遠のく感覚に身を任せ、この世界との一時の別れを想う。
◇
「ふう」
〈Infinite Dendrogram〉の装置を外し、襲ってきた尿意と空腹感を無視して、ベッドに仰向けになる。
時刻を見れば、今は夕方の八時。どうにも規則正しい生活に戻りつつある。
「そう言えば⋯⋯はぁ、憂鬱、だね」
そろそろ中学校が始まる。だから、生活リズムを小学校時代(厳密にはまだ小学生なのだが)と同じものに戻そうとしているのであった。まあ、一日一食のご飯を食べてお風呂に入り、着替えるだけなのだが。それ以外は、あちらの世界でのことがほとんどだ。
何となしに、携帯を起動し、メール箱や小説サイトの通知を確認し、〈Infinite Dendrogram〉のスレッドや掲示板を検索していた。
「⋯⋯パーティーメンバー募集?」
なんということは無い、最新の書き込みだが、ボクはそれにどういうわけか目が留まった。
珍しい書き込みというわけでもなければ、特に目を引く要素があるわけでもない。何ら変哲はない、既視感に溢れた書き込みだったが、ボクはその書き込みをタップした。
「⋯⋯」
「レジェンダリアで普通の人求む」⋯⋯ね。
気になったものは仕方ない。概要だけでも聞いてみるかと、その旨をレスで伝える。
まあ、変態の国と言われるだけあり、レジェンダリアには常軌を逸した思考のマスターが多いようだ。ボクも、ここ数日の間に幼女と追いかける全裸女性以外に、テイムモンスターか何かのスライムに浸かりながら移動するマッチョとか、悪魔のような蝙蝠にも似た羽を片側だけ生やした高笑いする女性とかを見ている。高笑いする女性は、少し気になったから、話し掛けようとしてしまった。いや、だって、格好良いし⋯⋯。
閑話休題。
だからなのか、レジェンダリア関連のパーティーメンバー募集の書き込みの中でも、「普通の人」「一般人」「逸般人お断り」などはそれなりの数を見る単語だ。
レスが来るまでにトイレと食事を済ましておこう。そう考えて、ボクはベッドから起き上がった。
◇
「⋯⋯クエスト⋯⋯アルター王国までの護衛⋯⋯その手伝い⋯⋯どんな職業でも歓迎⋯⋯ね」
案外レスは早く返ってきていたようで、ボクがベッドを発ってからものの数分で概要が書き込まれていた。
他にも、いつのまにかもう一人この掲示板に参加している。メンバー募集をかけた【
みいこは参加する気満々であるため、彼らは実質的にはボクのレスを待っているようだ。
まあ、恐らく【死霊術師】であることを伝えたら、彼らはボクとはパーティーを組めないと判断するに違いない。
そう思ったのだが、彼らの反応はボクの予想するものとは違った。
「はぁ⋯⋯まあ、良いか」
「【死霊術師】だから何だ?」という反応と、「【死霊術師】なんて格好良い!」という反応。前者はラインハルト、後者はみいこだ。
なるほど。この反応は、彼らの生来から来るものか、それともレジェンダリアの変態を見慣れたが故に出来るものなのか。まあ、その方がありがたい⋯⋯のかな。
ボクは、参加することを伝える。
すると、感謝するの短い一言と、細かいことは集合時に伝えるという旨、集合時間と集合場所についての記載があった。集合時間はあちらの世界で明後日の午後14時、こちらの世界では昼下がりだ。場所は初ログイン地点から程近い公園。それなりに時間はあるけど、まあ、向こうにずっと入れば良いかな。
そう考えて、ボクは早速装置を付け、ログインした。
◇
ログインして早々に、待機している彼らの身体を迎えに行く。
「《コンプリーティング・ネクロマンス》」
これは、己のMPを使った従属アンデッドに対して、魂を送還し、仮初の命を抜き取る魔法だ。ちなみに、経験値は発生しない。
これのお陰で、いつでもどこでも彼らをアイテムボックスに収納出来る。
「さて、取り敢えず⋯⋯行くか」
煩わしい為と外していたフードを深く被り、ボクは昼下がりの街に繰り出した。目指すは師匠にオススメされた消耗品屋だ。
感想、お気に入りよろしくお願いします。アドバイス、提案もよろしくお願いします。
なんだかんだ言って、お気に入りとか評価が欲しくてやってる訳でもないけど、感想とか来たりお気に入り登録とかされると目に見えてやる気が出るのも事実⋯⋯。まあ、今は書き続けます。