カインの腐敗録   作:痛い作者ことカイン=9

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 金策回。なんか、大金貰った。そんな回です。


第八話 カイン=9の金策

 □霊都アムニール 【死霊術師】カイン=9

 

「またいらしてくださいねー」

「⋯⋯はぁ」

 

 消耗品などの買い物を済ませたボクは、手持ちのリルの少なさに顔を顰めた。

 特に使うことも無いので、必要無いと思っていたが、こうしてこの世界で暮らしてみると、かなり重要だということが分かる。

 仕方ないから、手持ちの物を売ろうにも、ボクの手持ちはドラウグルらの完全遺骸と彼らの武器、チーズや巻かれた古ぼけた紙など、売れそうなものは何も無い。

 

「手詰まり⋯⋯か」

 

 本当に手詰まりだ。取り出したチーズを眺めながら、ボクは溜息を吐いた。

 聞き忘れてたけど、今回のクエストの報酬が高ければ御の字、安ければどうにかして金策を行わなければ。

 

 そんな時、霊都の所々に設置されているベンチに座るボクに誰かが声をかけた。

 

「そこのお嬢さん、チーズなんか持ってどうかしたのかい?」

「ええ、まあ⋯⋯ええ⋯⋯」

 

 振り返り、声を掛けてきた存在を視認する。そして、ボクは困惑の声を漏らしてしまった。見知った顔だ。いや、ボクが一方的に彼のことを知っているだけだが、彼のことを思い出すのにかかった時間は一瞬。それ程までに、彼の印象(インパクト)は濃い。

 

「むむ? どうかしたのかな、お嬢さん。私の顔に何か?」

「⋯⋯いえ、なんでも」

 

 その存在は、一言に言って鍛え上げられた(マッスル)そのもの。貧弱なボクの語彙力では、彼の見事なまでに整った肉体をこれ以外の言葉で表現出来ない。割と顔も整っており、あちらの世界でならまあまあ人気のボディービルダーと言われても納得出来そうだ。

 

 だが、そんなことよりも、さらに目を引くもの。いや、目を逸らしたくなるもの。

 

「ああ、私のエンブリオが気になるのかな?」

「⋯⋯」

 

 気にならない訳が無い。その鍛え上げられた筋肉も目を引くが、その下にいるソイツはベクトルも次元も違う。

 ああ、だって、ソレ(・・)は⋯⋯

 

「TEKELI-LI TEKELI-LI」

 

「“ショゴス”は私の友人兼アッシー君だ」

 

 ショゴス、それは小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの物語に登場する粘体生物(スライム)

 太古の地球に飛来した宇宙生物である「古のもの」達によって創造された、漆黒の玉虫色に光る粘液状生物。ネットの界隈では、その鳴き声と共にそれなりに目にするワードだ。

 だが、そんなものまでエンブリオになるのか⋯⋯。というより、そんな粘体生物の中に沈んでいること自体がおかしいのだが。アッシー君って⋯⋯。移動手段なのか。

 

 ボクが内心疑問を重ねていると、粘体生物はその身体を伸ばし、

 

「TEKELI-LI!」

「あ」

 

 ボクの手の中にあったチーズを攫っていった。あれ、もしかしてあの粘体の中って溶けたりするのか?

 

「こら、ショゴス! それはお嬢さんのチーズだ! ペッしなさい!」

「TEKELI-LI! TEKELI-LI!」

 

 筋肉とショゴスの格闘戦を見ること数分。

 とうとう根負けしたショゴスが、中からほとんど欠片になるまで溶けたチーズを吐き出した。シュウウという音を立てながら、急速に小さくなっていくそれを見て、ボクはショゴスに浸かっていたこの筋肉がどうしてデスペナルティになっていないのか気になった。が、なんとなく気合いとか努力とか言われそうなので聞くのはやめた。

 

「すまないな、お嬢さん。大事なチーズだったろうに」

「⋯⋯いえ、別に大事って訳じゃ」

 

 ボクの言葉を遮って、彼は捲し立てる。

 

「私の名前はジェイクだ。是非とも、君の悩みを聞いて差し上げよう。遠慮はしないでくれ」

「⋯⋯はぁ」

 

 彼、ジェイクさんはそう言うとボクの返答を待った。

 ⋯⋯どうしよう。この人には頼みたくない⋯⋯。

 

「⋯⋯何か、良い金策とかってあるかな?」

「金策? なるほど、君はお金に困っているのか! 尚更、チーズを奪ってしまったこと、申し訳ない!」

 

 この人、土下座しそうな域である。

 どうしよう、とても面倒臭い。いい人そうではあるけど、どことなくこの人はボクとは思考している次元が違いそうだ。

 

「なら、私がお金を出そう! 生憎と今の手持ちは三億リル程しかないが、どれだけ」

「いいや、お金は結構だよ」

 

 それ以上先は言わせない。

 ボクは、卑しい物乞いになるつもりは無い。だから、お金を無償で受け取るつもりは無いし、月夜さんにも師匠にも、お世話になった分は返す。

 

「⋯⋯そうか。それなら、良い仕事を見繕ってあげよう」

「良い仕事?」

 

 ボクが聞き返すと、彼は白い歯を輝かせ笑顔を見せた。そして、僕に背を見せて着いてくるよう促した。

 その姿は、なんというか貫禄に溢れていて、歴戦の覇者と言われても納得出来そうだ。

 

 下半身がスライムに取り込まれてなければ。

 

 ◇

 

 彼の後ろに着いて歩くこと十数分。

 彼は徐に立ち止まり、道の脇にあった建物を指した。

 

「ここだ」

「ここは⋯⋯?」

 

 看板には、何やら上手な絵でキャラクターが描かれている。それも美少女や美女ばかり。ガラス張りの壁には、内側からサンプルと書かれたイラストが貼り付けてある。そのどれもに同じく美少女や美女が描かれている。

 ⋯⋯オタク的趣味?

 

「ここは、絵画屋。それも、“コスプレした女性マスター”のイラストを専門に販売している店だ。ちなみに、男は外見が女であっても描かないし、男そのものも言語道断らしい」

「絵画屋⋯⋯?」

 

 絵画屋?それにコスプレした女性マスターって⋯⋯まさか。

 

「ここで、何をするんだい?」

「何って、君がコスプレをして、ここの店主に描いてもらうのさ! 君、見た感じだとリアルも女の子だろう?」

 

 そうだけど、なぜ分かったんだ。

 ああ、いや、余程ロールプレイ、ネカマが板についていなければ、VRMMOである〈Infinite Dendrogram〉じゃ所作で簡単に分かるのか。そんなことが、掲示板に書いてあったのを見た事がある。

 だけど、コスプレか⋯⋯。今のボクの身体じゃ、難しいモノがあると思うけど⋯⋯。

 

「何か、心配事でもあるのかな? 嫌なら、別のところを紹介するが⋯⋯」

「⋯⋯ボクのエンブリオが、問題で⋯⋯」

 

 ボクがそう言うと、彼は頭に疑問符を浮かべた。エンブリオが問題になるなんて、そうそうない事だし、その反応が普通なんだろう。だけど、ボクの〈エンブリオ〉TYPE:ボディの【半神死霊 ヘル】は、ボクの身体そのものに影響する。

 

「ボクのエンブリオ、TYPE:ボディっていうヤツで」

「ふむ、新種か。ボディ、というからには身体、アバターに影響を及ぼす類いかな?」

 

 ジェイクさんの言葉に頷いて、左手のガントレットを外す。そこには、目を覆いたくなるような惨状、腐敗した肉と黄色い膿、どろりとした血液が滴る紛れもないボクの腕があった。ちなみに、どういう訳か、何かに触れてもこの身体の肉片や膿、血液すらも付着することは無い。常に身体にくっついたままだ。そのお陰で、ボクの装備品は全然綺麗だし、そこは助かっている。

 

 ジェイクさんは、最初は驚いていたようだが、すぐに思案する顔になった。こうして真面目な顔をしていれば、見てくれは整っているのだが⋯⋯。まあ、下に問題があるので上なんて関係ないが。

 ほんの少しして、彼はボクを見つめた。

 

「なるほど。まあ、そんなことはあまり関係ないと思うよ」

「何故だい?」

 

 いやだって、こんな身体じゃあ、頭から下を隠し切れる衣装じゃないと駄目だと思うんだけど。そうしたら、着れる衣装も大幅に減ることは簡単に分かる。

 

「まあ、私も断言できないが。だけど、そう言うのはイラストだから誤魔化せば良いし⋯⋯」

「良いし⋯⋯?」

 

 まあ確かにイラストだから、そういうところも融通が効くだろう。だけど、ボクみたいな(ゲーム内とはいえ)腐敗した身体の女を直視して描きたいと思うような人間も居ないだろう。

 そう考えていたのだが⋯⋯、

 

「それに、うちの国は“変態の巣窟”だからね。ボクの知り合いにも、ゾンビ好きなマスターとか全然いるし、もっと言えばこの国にはネクロフィリアも何人かいるくらいだ。この国、本当に終わってるよ。それに」

 

 死体性愛、屍体愛好、屍姦好き(ネクロフィリア)⋯⋯。

 唐突に襲ってきた寒気、悪寒を頭を振って誤魔化し、話の続きを待った。

 というか、キミに「この国、終わってるよ」、なんて言われたくはないと思うのだけども。まあそういうことは飲み込んでおくべきかな。

 

「この店のオーナーは、人外娘大好きと言ってはばからないからね」

「あぁ⋯⋯なるほどね」

「ほら、案外大丈夫だろう? 私はここで少し休憩してから行ってしまうが、彼女は、アレで優しい人間だ。だから、心配することは無い」

 

 それなら、確かに大丈夫そうだ。

 ボクは、ちょっとした安心感を覚え、ジェイクさんにお礼を述べる。彼は、「気にするな、これもお詫びの印、というやつだ」と言って、スライムに肩まで浸かってしまった。そんな奇怪な行動にも、この少しの間にもう慣れてしまったボクが恐ろしい。

 

 まあ、物は試し⋯⋯かな。

 そう考え、ボクは取り敢えず、店に入ってみることにした。

 

 ◇

 

 扉に付いたベルを鳴らしながら店の中に入ると、綺麗に片付いていて、こざっぱりとした印象を持てる店内だった。こういう所は絵の具とかで汚かったり、紙が散乱しているイメージがあったのだが、ボクが思っているようなそういうモノではない様だ。

 しばらくすると、カウンターの裏から人影が見えた。

 

「いらっしゃいませ、ですわ」

「⋯⋯貴女は⋯⋯!?」

 

 出てきたのは、いつか見た“仮称片翼の悪魔”。まさか、こんな所で逢えるとは思わなかった。凄い、感動だ。

 黒のメッシュが入った美しい白髪を伸ばした長身の美女。そして、その右肩からは悪魔のような翼を生やしている。服装は、ズボンにTシャツという極めてラフなものだが、気飾ればさぞかし美しいだろう。

 そんな彼女は、ボクの姿を捉えるとすぐに目を細めた。

 

「貴女は、どっち、かしら?」

「⋯⋯買わない方、でお願いします」

 

 ボクが控えめにそう答えると、彼女は笑みをたたえて、「こっちにいらっしゃい」、そう言ってボクをカウンターの裏の通路に招いた。

 

 十数歩歩いて辿り着いたのは、絵描きの部屋という言葉がそっくりそのまま当て嵌る様な一室。

 ハンガーにはいくつもの服が飾ってある。そのどれもが、現実では着ないようなものばかりだ。

 

「じゃあ、下着以外、脱いでくださいな」

「⋯⋯見ても、驚かないかい?」

 

 ボクのその言葉に疑問符を浮かべた彼女は、次いで「もちろんですわ」と柔らかな微笑みを浮かべた。

 やっぱり怖いけど、ジェイク君も言ってたし、多分大丈夫。その筈だ。

 ボクは、ウィンドウを操作して、装備を全て解除する。

 

「まあ⋯⋯」

「この醜いモノが、ボクの身体、さ」

 

 彼女は驚いたかのように目を丸くしている。

 彼女の目の前には、首から下が全て腐食し黄色く膿んだ身体が晒されている。顔だけ腐敗していないのが、却って不気味だ。

 ボクの心情、考えについてとやかく言われてもボクはまったく気にも留めないけど、偶然の産物とはいえ見た目についてとやかく言われるのは年相応に少し怖い。

 

「⋯⋯い」

「え?」

 

 彼女は小さく言葉を漏らす。聞き取れなかったボクは、彼女に聞き返した。

 

 

「綺麗⋯⋯可愛いですわ⋯⋯人外娘ハスハスですわぁ」

 

「へ?」

 

 

 驚いて彼女の方を見ると、彼女の頬は赤く染まり、目はボク以外を映していなかった。怖い。心做しか息も荒いし。なんか変な事口走ってるし。

 というか、まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 

「是非、是非、私に描かせてくださいな!!」

「わ、分かったよ」

 

 彼女の圧に押されて、ボクは承諾してしまった。

 と言うより、このほとんど裸の格好、かなり恥ずかしいんだけど、服着ても⋯⋯え、駄目? ⋯⋯分かったよ。

 

 ◇

 

「はい、今日の分のお給料。またいらしてくださいな。カインさん、とても可愛かったですわ。私も満足でしてよ」

「⋯⋯どうも」

 

 結局、着せ替え人形となった末、絵もたくさん描かれ、開放されたのは夜の九時過ぎであった。

 一番最初に描かれた、ボクの下着姿のイラストは、彼女、アステリア・レイルさん──名前は途中で教えてもらった──が大切そうに抱えていたため言い出せなかったが、出来れば捨てて欲しかった。

 名残惜しそうにしながらも、艶やかで満足気な表情でボクに袋を渡す彼女の姿を見たら、なんだかんだ言って、悪くは無い仕事だったかな、とも思う。どうせ暇だったしね。

 まあ、際どい衣装とか多くてちょっとアレだったけど。

 にしても、コスプレか⋯⋯。いつか、また機会でもあればやってみるかな。

 らしくもなくそう考えて、もらった袋を開け、ボクは驚愕に目を小さく見開いた。

 

「⋯⋯なんか、沢山入ってるんだけど」

 

 いや、法外すぎる。なんで、こんな大金が?

 袋の中身全てをもらってしまっても良いものなのか。その額、ざっと1000万リルは下らないだろう。日本円で1億円は流石に笑えない。

 え、だって、ボク、服とか着てポーズ取ってただけなんだけど⋯⋯。

 リルの中に二つに折られた紙切れを見つける。

 

「⋯⋯ああ、そういうことか。いや、納得出来ないけど」

 

 要約すると、「色を付けておいたから、暇な時にでもまた描かせてね」ということらしい。まあ、それくらいなら⋯⋯。

 思わぬところでお金について解決出来てしまった。まあ、今後も通うということを考えたら、少しばかり時間が制限されるが、それでもメリットが大き過ぎる。いや、本当に、こんな大金もらって良いのかな?

 

「⋯⋯考えないようにしよう。それが良い」

 

 結局、ボクは思考を放棄して、リルを回収した。ちなみに、総額1500万リルであった。

 

 ⋯⋯いや、おかしい。

 

 この日、ボクはなんとも言えない罪悪感に苛まれながら、残りを過ごすこととなった。




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 ⋯⋯投稿感覚、早いでしょうか?
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