V alternative 〜それはあり得るかもしれない物語〜 作:草賀魔裟斗
そんなに続きません
楓が舞う…ふと見上げた空に大きな月が居座っている
その空に向かいまるで突き刺さらんとしようとしているように背伸びする鉄の巨木たち
その風景に私は喪失感と苦痛を感じて目を伏せた
私の相棒…樋口楓が行方をくらませて1週間が経った…
皆さん、こんにちは!月ノ美兎ですぅー
今日はですね…先程も言ったと思うんですけど…かなり困ったことになりました
端的に今の状況を説明すると1週間ほど、樋口楓が失踪しています
本当に突然だった…夏の終わりごろ、急に楓さんは居なくなったらしい…事務所にも顔を見せなくなったし…LIVEもしなくなった…
それだけなら警察に捜索願を出せばいいし、この世界の警察は無能だがアホではない
きっと見つけてくれる
だけどそれはできない…なぜかと言うと…
楓さんがいない子って事になってしまっている
いない子っていうのは小学生にありがちな
「あいつウザイよなぁ?無視しようぜぇぇ!!www」
みたいなやつではありませんよ
戸籍から消えてるというのでしょうか…というか世界から消えているんです
おかしな話ですが…そう例えるしかありません…存在しない人間のために警察は動きませんよね…
自分でこの現状を把握してみましたが本当にタチの悪い冗談にしか聞こえませんね…こんなストーリーありますよね?2000年代前半のゲームとかにありがちなストーリーだと思うんです…
と現状は私1人が楓さんを探しています…ていうか、この世界も少しおかしいんです
どこか、冷たいというか…秋だからじゃなくてですね?どこか現実味の無い冷たさを世界に感じると言うか…誰も彼も人形に見えるんです…感情のない人形が何かに操られてゆらゆらと歩いているようにしか見えません…
凛先輩もどこか他人事のような対応でしたし…
人に聞くのは手掛かりにはなりませんね…弱ったな…バーチャル東京はかなり広いです、こんな中を1人で探すのは…せめて知り合いが1人でも居れば…
「あれ?月ノ美兎委員長ではありませんか?」
どこかで1度聞いた事ある声がした
「あの…えーっと…」
白のロン毛の少女はくすくすと笑いながら私の方を見た
彼女は妙に人間らしく見えた
「カルロ・ピノですわ、お久しぶりですわ委員長!、百物語以来ですわね」
「あ!アイドル部の!お久しぶりです!奇遇ですね」
カルロピノさんは私と同じバーチャルYouTuberの1人です
ご存知の方も多いのではないでしょうか?
「ピノさんはここで何を」
「人探しですわ…」
ピノさんは少し困ったように眉毛を竦めた
「花京院ちえりお姉ちゃんが失踪してしまいまして…」
「アイドル部でも…私もなんです、楓さんが…」
「でろーんさんがですか!?…一体何が起こっているんでしょう…情報を共有いたしませんか?…委員長も感じていらしてません?…この世界に嫌な違和感を」
ピノさんも…という事は私の思い違いでは無さそうです
「えぇ…どこか冷たいと言うか…なんと言うか…」
ピノさんは頷いて続けた
「笑わないんです…ここの人、それに他人の事に興味がないと言うか…ちえりお姉ちゃんが居ないのにアイドル部のお姉ちゃん方は心配すらしていませんでした…あんなの…お姉ちゃんじゃありませんわ…」
ピノさんの目に怒りが宿った
ピノさんは余程、アイドル部の皆さんの事を慕っているのでしょうね…
だからこんな巫山戯た現実が許せない…
アイドル部の皆さんは仲良しですね
まぁ?にじさんじも?負けてませんけど?皆仲良しですし?(煽り気味)
「笑わないのには気づきませんでした…流石、ピノさんですね…あとは…私の気づいた事と言えば…月が近くないですか?」
ふと見上げた月…まだ5時だと言うのにスーパームーンかッ!とツッコミを入れたくなるような大きな月が居座っている…しかも真上だ、いくら、秋で日が短いとはいえ、いくらなんでもおかしい
「…気づきませんでしたわ…流石、月ノ美兎委員長ですわね」
「月には敏感で無ければですねw」
くすくすとピノさんは上品な笑いを見せた
「ではここは異世界なのでしょうか…」
「情報が足りません、断定は危険ですわよ…ここが私たちの世界で月が何かしらの影響を与えてる可能性もありますわ…月は太古より不正常の象徴ですのよ」
流石、ピノさんは博識だ
そして聡明だなぁ…
はぁ…ここにもいもいが居れば話し合いがかなり捗るのに…
「しかし、そんな仮定は今は何の意味も持ちませんわね…」
「それもそうですね…ともかく、失踪してしまった2人を探して何がなんでも何としてでも帰らないと」
「ですわね…なら論より証拠、行動です、闇雲に歩いて見ましょう!」
それからバーチャル東京をまさに闇雲に歩き回ってみた、渋谷や池袋、秋葉…しまいには豊洲とかまで行った
でもやはりピノさんの考察通りどこにも笑顔はなかった、そして普通のバーチャル東京よりも人が少なかったような気がした
「気持ち悪い街ですわね…ここは本当に東京なんですの?」
ピノさんがボソリと言った
同感です…昔から鉄の街とか呼ばれていたバーチャル東京ですがこれでは鉄の街ではなく人形の街です…
「このまんまでは赤子も笑わないし泣かなさそうですねw」
「そうなるといよいよですわよw」
少し冗談を言って場を和ませたが何も変わってない
その結果が冗談後の沈黙に現れた
「っ…美兎委員長、今何時ですか?」
突然何を…まぁ確認してみますか
iPhoneXの時計は21時を示していた
まぁこんだけ東京を回ればそんな時間には…ん?9時…夜の?
「…9時です…まさか…」
周りは人っ子1人居ない…
「いくら日本が労働大国とはいえ、全ての企業が労働基準法に触れるようなことはないとは思いませんか?それに人もあまりいないですし…これはいよいよ異世界説が濃厚になってまいりましたわね…」
異世界…元から存在していたのか、誰かが制作して私達を閉じ込めているのか…
それにしても
「ならなんで私は1週間気づかなかったんですか?」
状況から察するに異世界に飛ばされた事と楓そんとちえりさんの失踪は繋がってる筈です…
ならその時点で気づくはずだ
自慢ではありませんが空気を読むのは得意です
そうでなくともこんな大袈裟な変化気づかないはずありません
「それは…私にも分かりません、少なくとも私の記憶では昨日はこんなへんな事はなかったはずです…あれ?でもちえりお姉ちゃんが失踪したのは1週間ほど前…なんなんですの…何が起きてますの…?」
仕方ない…こんな世界になってしまったってるから頼れるかどうか分からないけど…
「連絡を取っても良いですか?」
「良いですけど…ここの知り合いが美兎委員長の知る知り合いとは限りませんよ」
「分かっています…でも彼女なら…」
iPhoneXで真っ先に掛けたのは恐らくこう言う場面で頼りになる人
……繋がった!
「どうかしたの?美兎ちゃん」
「モイラ様!良かった…」
どうやら電話の先は私の知るモイラ様のようだ
心配そうな声がそれを物語っていた
「美兎ちゃんと楓ろーんちゃんの座標が掴めなくなったの…アイドル部のカルロ・ピノちゃんと花京院ちえりちゃんもおなじ…今、八重沢なとりさんが来ているわ」
「お米お姉ちゃんが!?」
ピノさんが心底嬉しそうに反応した
「あー!ピノさん!そこにいますね!もう〜何やってたんですか!?どこで油売ってるんですか!?心配したんですからね!」
「ご、ごめんなさい!お米お姉ちゃん」
なとりさんの声が私の耳に刺さる
心配するのは良いけど私の事を考えてください…
「ごほん!八重沢さん?今は緊急事態なの、分かっている?」
「え、えぇ…分かってます…ピノさん、現状を教えてください、ちえりさんはごいっしょなのですか?」
ピノさんにiPhoneXを渡すピノさんはiPhoneを耳にあて現状を話し始めた
「現状は月ノ美兎委員長と一緒です、残念なのですが…ちえりお姉ちゃんも楓さんも一緒ではありません…で、今は渋谷にいます…あまり人はいませんが」
「渋谷ですか…モイラ様、確実らしいです」
「モイラ様、なにか分かりましたか?」
今度はピノさんがiPhoneXを私に返してきた
「えぇ…と、その前に美兎ちゃんはクリフォトとセフィロトって知ってるかしら」
「栗フォト…にセフィロス…?」
栗なフォントでしょうか、セフィロスは大手RPGのボスでは…
「クリフォトはフォントでもないし、セフィロトはセフィロスではないわよ…セフィロトは簡単に言うと善なる木、クリフォトは簡単に言うと邪なる木…更に言うとセフィロトは人間らしさ、クリフォトは非人間らしさを表す木なのだわ…このAI世界もこの2本で1本の世界樹にできているのだわ、私達が住んでいるのがセフィロト世界、物質世界と女神は呼んでいるのだわ…という事は」
「さしずめ、ここは非物質世界と言った所でしょうか?」
ピノさんが続けた
「そう…でも非物質世界と言うだけあってクリフォトにあるのは虚無だけだったのだわ…まぁとある誰かが虚無に世界を作り”道を外れた人”を名乗ったという特例もあったけどね…それでもそれは特別な例なのだわ」
「虚無とは呼べませんね…確かに人形みたいな人が少しいますけど」
モイラ様の唸り声が聞こえた
「でも、この電話のおかげで座標は掴めたのだわ!女神チートパワー!」
iPhoneを通してモイラ様となとりさんが出てきた
なんでもありか!この女神!
「論より証拠、行動よ!」
「モイラ様…なんでもありか…」
「勿論ですわ、女神、女神なのよ♪」
モイラ様と私が話してる中、なとりさんとピノさんも再会を果たしていた
「お米お姉ちゃん…私…」
「心配したんですよ…すっごく心配したんです!後で稲ムチの刑です!」
なとりさんは涙目になりながらまくし立てるように言った
心配だったんだろうな…
「でもそれはピノさんだけじゃありません!ちえりさんも同罪です!無事に見つけ出して2人揃って稲ムチです!」
「はい…分かりました、ちえりお姉ちゃんを見つけ出します…1人で稲ムチは嫌ですもの」
「当たり前です!」
なとりさんがピノさんに抱きついて泣き崩れた
状況を察するに余程、心配だったんだろう…当たり前だ…私だって今、樋口楓がドッキリやでー!って出てきたら殴り倒してすがりついて泣き崩れる自信がありますから…
「美兎ちゃん、女神だってでろーんちゃんの事もあなたの事も心配だったわ…」
モイラ様…っ!
…そう言えば状況は掴めたが一つ謎のことがあったんだった
「そう言えば、モイラ様、私はセフィロト世界で何日間失踪していましたか?」
モイラ様はむぅと唸り声を上げてしばらく考えた後に続けた
「クリフォトは非物質世界で何も無いって話し覚えているかしら…その通り、何も無いの…生物も物質も…時の流れでさえも」
「あ、だから四六時中、月が出ているんですね」
そうと短くモイラ様は続けた
「無いものは当然だけど、感じれない、女神である私でもこの世界では時間を感じる事が出来ないし、時間に関する記憶が曖昧になるの…ピノちゃんと美兎ちゃんの記憶も噛み合わなかったでしょ?」
確かに…じゃあ!
「ならなんで電話口で言わなかってんですか?」
「それは女神のうっかりなのだわ(´・ω・`)、美兎ちゃんに一刻も早く会いたくて…」
こんの女神は…はぁ、でもまぁ事情を深く理解したモイラ様が居るのは有難いですね…
言いそびれた理由も私が起因してるみたいだし、それで怒るのは愚の頂上ですね
「お米お姉ちゃん…その…一つ、謎があるのですが」
ピノさんが口を開いた
「どうしたんでしょうか?」
「私、クリフォト世界でアイドル部のお姉ちゃん方に会ったのですが…その中にお米お姉ちゃんとごんごんお姉ちゃんが居なかったんです…セフィロト世界とクリフォト世界は繋がってるとしてお米お姉ちゃんはモイラさんの所に居たからとしてごんごんお姉ちゃんはなんで居なかったんですの?」
「いろはさんですか…?いろはさんは失踪してなかったと思うんですけど…」
ピノさんはふむと唸ると考え込んでしまった
「人手が増えたとして…最終的には歩き回って探さないとですね…はぁ」
思わず、ため息が出てしまった
バーチャル東京を歩き回って1人を探すなんて砂漠で1粒の砂を探すような物だ
それが2粒になったところで砂漠が砂場になったところで人手が増えたって大変なのは変わりない
「聞いて欲しいのだわ…多分、この先の目的地、決まってるのだわ」
「何か手があるんですか?」
「勿論なのだわ」
モイラ様は地図を取り出した
どこに持ってたのやら…
「現在地は渋谷ね…新宿の高い所に…新宿で最も高いビルはどこ?」
「丸の内本庁舎です、でも都庁ビルなんて勝手に…」
「関係ないのだわ、この世界は非物質世界、何をしようが物質世界で罪に問われることはないのだわ」
「分かりました、まずは行って見ましょう…そこに何があるかは車の中で」
なとりさんが指刺した先には乗用車があった
「なんで女神が…」
モイラ様がブツブツ言いながらハンドルを握った
「仕方ないじゃないですかwwだって他の人、全員、未成年ですよww」
「都庁ビルに勝手に入るのはやむを得ずとして未成年運転は流石に風紀委員として見逃せません!」
「私が運転してもいいんですが…あまりおすすめ致しませんわ…新宿に行くまでに皆さん、再起不能になりますわよ」
モイラ様がふぅとため息をついた
「で、都庁ビルに何があるんですか?」
「クリフォト世界のメインサーバーなのだわ」
「え?そう言うのって天界にあるんじゃ」
「女神の予想では…クリフォト世界にこんな世界を作った犯人は人間なのだわ、人間の再現度も低いし…同業者のイタズラならもっと上手くやるわ、そして、犯人が人間なら天界なんてどこにあるかわからないでしょ?…それにもし、目的があって美兎ちゃん達を閉じ込めたのならターゲットの近くで監視したくならない?」
「だから庁舎…でも新宿なんてまだ…」
「だからなのだわ…まだ、回って無いからこそ、見つかる危険性がなくなるのだわ、灯台もと暗しね、高い所ならスカイツリーやビルだってたくさんあるけど…まだ美兎ちゃん達が探していない、機械施設がある程度置ける場所、そして立ち入り禁止の場所、そして美兎ちゃん達と近い場所…この3つを満たしているのはここだけなのだわ」
なるほど、筋は立っている
と言ってると丸の内本庁舎に着いた
「クリフォト世界の端末使うから女神のチートパワー!は温存しなくてはいけないのだわ…めんど臭いけど階段で登るしかないのだわ」
「元よりそのつもりです…この犯人をとっ捕まえて楓さんとちえりさんの居場所をゲロりさせます」
本庁舎の階段をパタパタ音を立てながら走った
ビル内は全然と言っていいほど人が居らず、エレベーターも使えなかった
「め、女神…もう限界…」
「確かに…少しつかれました…」
なとりさんとモイラ様が立ち止まった
当たり前だ…本庁舎の半分くらい無言で走り続けたんだから
でももう少しで終わるはずです
「?、あれなんですか?」
ピノさんが指さした先には本庁舎には似つかわしくない物々しい機械群があった
「ゲームセンターみたい…」
率直な感想でした
本庁舎の最上階には機械が機械音のオーケストラを奏でており
まさにゲームセンターのような場所になっていた
「ここがクリフォトのメインサーバーですの?」
「えぇ…そうなのだわ…今頃セミオートのサーバーとは…古臭いな…」
「…しっ!皆さん、隠れてください!」
機械の物陰に全員が隠れる
なとりさんが叫んだからというのもあるが全員、気配を察知したからだろう
「隠れていても分かる…僕はずっと君たちをモニタリングしていたからね」
白衣を着た男が口元を歪めながら近づいてきた
目はメガネの逆光で見えない、アニメでよく見るあれですね
「あなたね、クリフォトに世界を作った犯人は…!」
「いかにも」
「タコにも!」
ごめんなさい、反省しています
脊椎反射なんです、すみません
男はごほんと咳を1つして
「いかにも、僕は神威…一介の科学者だ」
「科学者…はっ!私映画で見たことありますわ!こう言う人の事をマッドサイエンティストというんですね!」
「僕はマッドサイエンティストでは無いよ…純粋な科学者の1人さ」
神威はメガネをクイッとあげた
「神威さん…何故こんなことを…ちえりさんと楓さんを返してください!今、無事に返してくれれば警察には言わないで置いてあげます!」
「警察…?どう説明すんだい?僕が異世界に君たちを閉じ込めたって言うのかい?そんなの警察が信じるかなぁ?」
なとりさんの目に怒りが宿る
「人をおちょくるのも大概にしなさい!喰らえ!稲ムチ!」
なとりさんの手に稲のような形状の鞭が光と共に現れた
それは無慈悲に神威に向かい振り下ろされる!
「無駄だよ」
なっ…すり抜けた?
「えっ…」
勢いあまりなとりさんが地面に倒れる
打ちどころが悪かったのかなかなか立ち上がれそうにもない
「ぐっ…」
「お米お姉ちゃん!」
「立体映像のようね…」
神威はニヤリと口元を歪めた
「少し違うな、この世界のものでは無い君たちにこの世界の物は傷つけられない…だからいくら君たちが頑張ろうとこの世界からは出られないし僕も殺せないよ…でも今の僕はこの世界の創造主だ…だから」
神威はなとりさんを無理やり持ち上げて首元にメスを突きつける
「こういう事も出来る…」
「離し…なさいっ!」
なとりさんの抵抗は全部すり抜ける
「無駄無駄、文系は無駄な事が好きすぎて困る」
「お米お姉ちゃんを…離せッ!」
ピノさんが神威に向かって走る
「ピノさん!ダメだ!」
そんなことしたって無意味だし、もしかしたら逆上を買うかもしれない!
ピノさんの拳は…
「えっ…?」
神威に激突し神威は体制を崩した
「え?ピノさん…?」
「あれ?私…あれ?」
「な、なんで…」
ピノさん本人も何が起こったのか分からない様子だ
「は…まさか…お前は…お前がカルロピノ…そして月ノ美兎…っ!」
「え?えぇ…私がカルロピノですわ」
「…なんでっ…なんで!プロトタイプが…こうも選んでここに来るんだ…」
プロトタイプ?
「なんで…なんで…このっ!」
神威は黒い塊を取り出した
よく見なくても分かる拳銃だ
「動くなっ!こんな知的じゃない事したくないが…動いたら殺す!」
神威は拳銃を振り回しながら私達を威嚇する
「落ち着いてください、神威さん、私達は元の世界に帰れれば…」
「黙れ!どうして誰も彼も僕の実験を邪魔するんだ!実証をさせてくれないんだ!それで僕はもれなく狂者扱いだ!マスコミはこぞって僕を面白可笑しく取り上げた!恋人はそんな狂者の恋人の扱いに耐えられず自殺した!こんなの許されるわけあるか!」
それは悲鳴にも似た叫び声だった
「感情も神も要らない!僕が理想郷を作ってやる!僕が最高の国を作ってやる!そして僕が神になる!」
「そうか…貴方ね…クリフォト世界の存在を実験して実証した科学者って言うのは…確か…神々の言論統制の対象になって統制された…そして自分の実験を実証するのとクリフォト世界がセフィロト世界の人間に与える影響を実験するために美兎ちゃんとピノちゃんを拉致して閉じ込めた」
「そうか…やはり神のせいか…」
神威のどろりとした殺意がモイラ様に向く
やばい!
「なら神である貴様から殺す!」
モイラ様に弾丸が騒音をあげ飛ぶ
でも痛みを感じたのは私の方だった
「え…」
「うぅ…くぅ…」
肩を撃たれてる見なくても分かる
赤い血が流れてるだろう
痛い…これは死ぬほど痛い…
「美兎ちゃん!!」
視界の端が赤く染まると言うのは本当らしいです…意識が朦朧とするほど痛い
「美兎委員長!」
「貴方は…不幸な人です…こうなったのは誰も…責めれません…だけど…楓ちゃんもモイラ様も関係ないでしょう!」
「黙れ!」
神威がもう一度、拳銃を向けた
ダメだ、死んだ…割と早かったです
死ぬのは…怖いけど…もういいや
未練はないです、あるとすれば楓ちゃんの顔、拝みながら死ねないことでしょうか
「美兎ちゃん!!」
楓…さん!?
「うっ!」
着弾点は私ではなくピノさんだった
ピノさんは多く後ろに後退して腕を掴んでいた
「ピノさん…どうして…」
「委員長は次撃たれたら不味いのでしょう?ここで美兎委員長に死なれては…シロお姉ちゃんに合わせる顔がございません…」
ピノさんは激痛が走ってるであろう腕を抑えながら上品に笑いながら気を失って倒れた
この人は…どこまで…
「神威ぃぃ!!」
なとりさんの怒号が響く
「なとりさん、落ち着くのよ…」
モイラ様は至って冷静に神威を睨んだ
「傷跡なら女神が消すわ…なとりさんは止血をお願いできる?」
「可能なんですか?ピノさんは配信の時、半袖なんです…そこから傷跡が見えたら…私…」
「可能よ、神は人間にうそはつかないわ、勿論、女神が悪い神に見えるなら別だけど」
モイラ様は優しく微笑みながらなとりさんを促す
なとりさんは私とピノさんを担いで少し離れた場所に運ぶ
「さてと…貴方がどこまで理解していたのか…分からないけど、かなり危ない橋を渡っているのよ」
モイラ様がそう言いながら神威の方を見た
「黙れ…黙れぇ!…やはり僕の理論は正しかったのだ!やはり感情など要らない!その事が証明された!感情さえなければ!あの二人は撃たれずに済んだ!いくら」
「…」
「いくらお前が外傷を取り除けてもあの二人の内傷、心の傷は決して癒えないぞ!治らぬ傷を自ら負った!やはり感情など人間の枷に過ぎん!」
「それは…」
「ちゃうわ!ボケ!」
突然の声に激痛で朦朧としていた私の意識がはっきりとした
この声は…聞き間違いでも死ぬ前の走馬灯でもない…これは…
「楓…ちゃん!」
白いポニーテールは風に揺れてキラキラと銀に輝き
目の薄紫の中に怒りとある種の後悔を感じた
「美兎ちゃん…心配せんでもうちは自分を責めたりせぇへんで…それで傷つくんは美兎ちゃんやもんな…」
「楓ちゃん…バカ!今まで何をしてたんですか…」
「ごめんな…この世界にはうちは存在せぇへんからな、それ利用して、そこのバカ追いかけとったんや…銃声聞いて飛んできたんやけど…遅かったみたいやな…」
楓ちゃんはクッと目を細めて神威を睨んだ
「感情があるから人は人を大切に思えんねん」
「だが同時に人を陥れる」
「感情があるから人は人を助けようとも思えんねん」
「だがそんな奴は少数だ」
「感情があるから!人は人を好きになれんねん…あんたにも恋人がおったんやろ…」
神威が押し黙ってしまった
「こんなこと、恋人さんは望んでんのか?」
「望んでないだろうな…彼女は聖人だからな…だが私は彼女のような聖人ではない!」
神威が拳銃を向けた
「イレギュラーが今更、増えたところで何だ!あの二人のように撃って無力化すれば済む話だ!」
「今や!ちえりちゃん!やったり!」
「おっけー!神威さん?あんたはここで…くたばりん♡」
神威の背後から鉄パイプが振り下ろされる
鉄パイプはゴスっと鈍い音を立てて神威を倒した
カラカラと乾いた音を立てて拳銃が転がる
それを見ると必要ないと思うけど
と呟きながら楓さんがガソリンを研究所中にばらまいた
「楓さん…?」
「保険やて…多分無いやろうけどこの施設、悪用されても困るからな」
あ、そういうね…
「ちえりさん!」
「ピノちゃんの容態は?…遅れちゃってごめんね、なとちゃん」
「ピノさんなら大丈夫です、気を失っているだけですから…でも遅れたのは許しません!後で稲ムチの刑です!」
「ヒィー、ご勘弁…でも良かったピノちゃんもなとちゃんも大丈夫みたいでさ…ピノちゃんは怪我してるけど女神さんが治してくれるんでしょ」
「えぇ…でもあの人の言うようにピノさんには大きな傷が残ってしまいますね…」
ちえりさんはにこりと笑って言った
「なら、ちえり達が支えれば良いんだよ、そのためのアイドル部でしょ?」
「…そうでした…そうですよね!しっかりしないと…」
その様子をみて微笑むと楓さんは私の肩を取った
「勝手に死なんといてよ」
「え…?」
「うち置いて勝手に死なんといてって言ってんの…うちは美兎ちゃんの居ない世界なんて想像したくない」
「…なんですかぁ?それは…新手の口説き文句かなんかですかぁ…?」
「なぁーんでそうなるの!」
「私は…貴方の居ない世界を1週間も体験したんですけど?」
「はいはい、埋め合わせはちゃんとするから許して」
「ほんとかぁ?女泣かせの樋口楓ー?」
「なーんで疑うの!」
ふふ…また。こんなやり取りできるなんて…私撃たれたんですよね?w
「…ありがとね、楓さん」
「あんな?さっきから気になってんねんけど、なんでさん付けに戻ってんの!?楓ちゃんって呼んで!」
「分かりましたよ、めんどくさいカノピッピですね…w」
ずっと機械のキーボードをカタカタを弄っていたモイラ様がにこりと笑った
「さぁ!皆帰りましょ?」
モイラ様はそう言いながら扉を開いた
そこは眩しい光で包まれていた
ちえりさんがひゃっほーいと言いながらピノさんを連れて出ていった
「ちょ…ちえりさん!ピノさんは怪我人なんですよ!」
なとりさんが悲鳴にも近い声で叫んだ
「じゃ、女神もかーえる、あんま、管轄外にいるとまた、上司に怒られるのだわ…」
モイラ様がゆっくりと出ていった
なとりさんはというと気を失っている神威を見て下唇を噛み締めていた
「なとりさん?」
「…本当は…稲ムチの1つくらい食らわせたい所ですが…」
楓ちゃんも少し頷いた
「うちもやな…結局、うちはなんも出来んかったし…」
「いや、あの舌戦は見ものでしたけどね…かっこよかったですよ」
「やめとけ」
楓ちゃんのチョップが頭にあたる
「痛…あのね、こっちは一応、撃たれてるんですよ?」
「…でもな…神威やっけ?あの人も愚かでもあったけど可哀想な奴やで…」
スルーかっ!こいつ…
「分かってます…だから諦めます…」
なとりさんが少し寂しそうに微笑んで扉をくぐった
「さ、うちらも帰ろうか美兎ちゃん」
「うん…楓ちゃん…」
そして楓ちゃんに連れられて私も扉をくぐった
「ところで楓ちゃん…ガソリンはいいんですか?」
「大丈夫やで、きっと燃やしてくれるから」
「?」
「なんでだ…なんで…僕の何がいけなかったんだ!」
「何が言論統制だ!僕を殺して楽しみたいだけだろ!」
「僕は間違っていない、僕は正しい…正しい」
正しかったら何をしてもいいわけ?
「誰だ!」
こらこら急に話しかけないでシロちゃん
そーだぞー!
………
うわ、シロちゃん激おこモード!?私怖いんだけども!
「何だ、お前ら!」
アカリはシロちゃんに賛成だなぁ…ちょっとやりすぎだよこの人
やりすぎなのはやりすぎだけどね?物事には順序ってのが…
じゅんじょー!
月ちゃん?とりあえず、黙ってて
「無視するなぁ!どいつもこいつも僕をコケにしやがって!」
ごめんなさい、アイちゃん、この人、シロに任せてほしいんだけど
ダメだって言ってもやるでしょ?もう…程々にね
約束出来ないかも…
.LIVE関係の人、沢山狙われたし仕方ないよ…アカリは帰るね
月も帰るー!
あまり派手にやっちゃダメだよ?
白髪の小柄な女の子が付き添いであろう馬面の男と一緒に降り立った
「ぴーぴーとみとみとをやったのはこいつですか?シロちゃん」
「そうだよ、馬…でも馬は手を出さないで、火種を用意してくれる?」
「はいはいはい、任せてくださいよ、ばーちゃるくんがしっかり見つけてきますよ」
馬面の男が走っていった
「さてと…神威さんだっけ?」
「なんだ…なんだよ!お前ら!」
「ん?四天王だよ、バーチャルYouTuberの…人からはそう呼ばれてる、私はシロ」
シロはAKMを構えた
「さてと、美兎ちゃんとピノちゃんを傷つけた罪…重いよ…」
「なんだよ…なんだってんだよ!」
神威が拳銃を発砲
しかしシロはしっかりと弾丸をかわしていた
「ゆっくりと…じっくりと…救済する(殺す)ね」
あれから何日か経過した
傷跡は嘘のようになくなった
弾痕は愚か痛みもない
モイラ様は最強なのかもしれない…
ピノさんも同様らしく少しほっとした
心に傷は無いわけではない、当たり前かもしれない…
だって一介のJKが拳銃で撃たれたのだから、これに関してはピノさんも同じだろう…でもにじさんじのみんなが…支えてくれてる…だから大丈夫…
「美兎ちゃーん!」
「美兎委員長!」
遠くで手を振る楓ちゃんとピノさんを見て笑みが零れた
死は免れないものだ、と詩人は言いました
でも同時にこうとも言ったんです
でもそれは今ではない
そう
「今ではない………今行きます!ピノさん!楓ちゃん!」
自己解釈の嵐w