「おい、稚日女尊!
いるなら出てきてくれ!」
・・・・・。
返事はない。
あくまでも沈黙を貫くつもりだ。
全く困ったものだ。
このように悪態をつく龍聖だったが、彼女が沈黙するのもうなずける。
だって、彼女は真の姿となった龍聖による虐殺を見ていたのだから。
殺される。
そう思ってしまっても無理はないだろう。
しかし、当の龍聖はそんなことを知る由もない。
そのため、こういったことになっているのだ。
「おい、稚日女尊!
こっちだって手荒な真似はしたくないんだ。
だから、出てきてくれ!」
嘘である。
これは飽くまでも相手を誘い出すための言葉。
もともとことを荒げるつもりなどかけらもない。
しかし、こうでもしないと、出てきてくれないだろう。
「私は殺されてもいい。
ただ、どうか・・・。
どうかカグちゃんとヒコちゃんだけは・・・!」
カグちゃん?
ヒコちゃん?
一体誰だろう?
「それはお前の息子かなにかか?」
「いえ、私の兄弟たちです!」
ああ、そういうことか・・・!
なるほど、これで月詠の力が発揮できなかった理由がわかった。
「なるほど、お前のお陰で真実がわかった。」
月詠たちが頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「真実って・・・。
稚日女尊が天照に成り代わっていただけではないのですか?」
「ああ・・・。
これは、もっと大きな・・・・、陰謀だ。
今から説明をする。」
「え?ちょっと、どういうことですか?
私にもわかるように・・・!」
「ああ、無論そうするつもりだ。
事の始まりは神々の嫉妬だったんだ。
俺は月詠への嫉妬だと思っていたが、それだけではなかったよ。
あの神々は、地位に嫉妬をしていたのさ。
三貴子と呼ばれる月詠、天照、須佐之男の三人にな。」
そこまで話すと、須佐之男は驚いたような顔をしていた。
「まさか俺まで嫉妬されているとは・・・。」
「だが事実だ。
続けるぞ?
お前たちに嫉妬した神々はあることを考えた。
新たな三貴子を立てようとな。
しかし、それは簡単なことではない。
神格が違うものを新たな神にするのだからな。
だけど、それをやってのけたんだ。
あの神々は。
そこで登場するのが北欧神話の悪神、ロキだ。」
「まさか、私の作った神々による反乱が?」
「いや、そこまでたいそれたことではない。
が、それに近いかもしれないな。
本来違う神話同士は接触禁止だったはずだ。
俺や龍華が許可しない限りな。
だが、あの悪神はやってしまった。
【神話同士の交流を禁ずる】という掟を
あいつの権能【あらゆるものを閉ざし、終わらせる】能力で。
これがきっかけかな?
日本神話は密かに世界中の邪神、悪神どもに招集をかけた。
そして、禁断の儀を行ってしまった。」
その言葉に、周りにいる神はみな絶句した。
そう、これは起きてはならないことなのだ。
別にラグナロクが起きようと、ハルマゲドンがやって来ようと仕方がない。
だが、これだけはやってはいけなかった。
その儀式の名は【神転生】。
本来ならば、神には器がある。
そのため、信仰を失わない限り、神はその神であり続ける。
しかし、この儀式は、それを根底から覆すものだ。
神が他の神に転生する。
転生は、あらゆる生物に適応される。
だが、神だけは例外なのだ。
神は他の生物とは器の大きさが違う。
また、魂という概念を持たない。
そのかわり、【神格】というものがある。
この【神格】が転生を邪魔している。
神の格。
それはこの世の理に影響を与えるほど大きなものだ。
もし無理矢理にでもしようものなら、神格に耐えられない輪廻転生の輪が崩壊する。
また、それを行った者は精神を汚染される。
この世の理を無理矢理に変えてしまうのだから。
精神を汚染されたものはどうなるか?
至極単純な話である。
通常堕ちるのはどんなに上位でも天使くらいまでだ。
神が堕ちるなんてことはない。
しかし、この場合だけは例外だ。
なんせ、通常ではないのだから。
神が堕ちれば、それはもう大変な騒ぎだ。
その神が司っているものの制御が効かなくなり、地上は大混乱となる。
そのため、これは禁忌とされてきたのだ。
それを行った者がいる。
そのことは、とてつもなく衝撃的だったことだろう。
「話を進めるぞ。
みんなもう想像はついているかもしれないが、堕ちた神は天照だ。
堕ちた神が高い地位を持っていられる筈がない。
ということで、神々は天照から神の力を取り上げた。
それ同様、堕ちた神に親しいものは危険視される。
よって、月詠、須佐之男の力も薄まったのさ。
全く、自作自演もここまでくると甚だしいもんだ。」
「じ、じゃあ、お姉さまはどうやって殺されたのですか?」
月詠が不思議そうに聞いてきた。
「そんなの簡単な話だ。
神の力が使えぬものはもはや人間と同様。
殺すなんて、簡単なものさ。
まあ、表向きは崖崩れということになっているが。
わざわざポセイドンにまで頼み込むとは。
本当に、いろいろな意味ですごいよ、日本神話は。」
「それで、この稚日女尊とやらは?」
「ああ、それも簡単な話さ。
取り上げた力を他の神が持っていてもどうしようもないからな。
それに近しい物を司る神に渡したのさ。
天照は太陽を司っていたから、日を司る稚日女尊に。
須佐之男は海を司っていたから、規模は小さいが似たような力の天津彦根に。
月詠は大海と月を司っていたかが、大海の方は度外視されたのだろう。
月と同じく満ち欠けをする金星を司る天津甕星に。
そして、その三人、三神を新たな三貴子とした。
まあこんなところか?」
「ああ、創造神様・・・。
あなたの予測は全て正しい・・・。
私がこのようなことをしてしまったのです。
どんな罰でも受け・・・。」
途中で、彼女の頭には手が置かれた。
「いい、それ以上は言うな。
お前は利用されていただけ、そうだろう?」
「はい・・・。
ですが・・・!」
「いいんだ。
お前に反省する意図があれば十分だ。
さあ、家族とともに新しい世界へ行くぞ?
そこではお前もちゃんとした神としてやっていくのだ。
月詠、須佐之男に少し力を分け、みんなで協力するんだ。」
俺の言葉に、絆されたのか、みんな納得した表情である。
「さあ・・・!
これからこの世界を滅ぼすぞ・・・!
そして新たな世界を作ろう!
余波で飛ばされるなよ?
行くぞ、『創造神モード!』」
こうして、新たな世界ができ、旧世界は滅びた。
「さあ、これで一件落着だ。
みんなで酒でも呑んで、語り合おうじゃないか!
この事件、いや、異変。
そうだな、月天異変とでも名付けようか。
月天異変の解決を祝おうじゃないか!」
こうして、歴史上最初の異変。
誰にも語られることのなかった月天異変は、
八人の神による宴会によって、静かに幕を下ろしたのであった。