サスケとナルトは家族   作:ジーザス

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はい、シリーズ史上もっとも文字数が多い話となりました。文字が多いと思われると思いますが、これを途中で切ってはならないと思い、このようになった次第です。

それではどうぞ!




12

ナルトがいのとほのぼのとした空気にいる中、サスケは帰路の終盤に達していた。ナルトと帰る予定が狂ったことで、少しばかり修行をしていたのだが、集中しすぎて予定外に遅くなってしまった。それなりに時間をかけて家に向かって駆けている最中だ。

 

うちは一族の住居は、里の隅のこじんまりとした場所に佇んでいる。里の中枢を成すうちは一族が、何故このような辺境の場所に住居を構えているのか。幼いサスケはずっと疑問に思っていた。うちは一族以外にも里を支える一族は中心部に暮らしているというのに、うちは一族だけが外れにいるのか。

 

謎が謎を呼ぶとは言わないが、サスケにとってそれらは可笑しなことだとしか思えない。つい先日、サスケはふいにそのことを父に聞いてみた。それを聞いたフガクは穏やかな父親の顔から、一族の長としての険しい顔つきに変貌させサスケに言った。

 

『お前は幼すぎる。知るには早い。そして二度とその事を口にするな』

 

そして視線を木の葉新聞に落とすのだった。視線は新聞の文字に向いているものの、文字を読んでいる気配はない。まるで空気を視ている(・・・・)ようでもある。

 

聞いたことに答えない父に不満を感じたサスケは、イタチに同じようなことを聞いた。

 

『俺はこれから任務に行く。悪いがまた今度だサスケ』

 

いつもと同じような額を中指と人差し指で突いて、少しばかり急ぐように家を出ていく。それは普段と変わりない何気ない朝ではあったものの、サスケには兄が何かを隠しているように思えた。

 

何か重大な。それも良くないことだと直感的に感じた。

 

だがそれは杞憂であると思えなくもなかった。それからは普段と変わらないナルトがいて、家の中がうるさい当たり前の生活が過ぎていったから。忘れていたと言うのがもしかしたら正しいのかもしれない。

 

だがそれはサスケが悪いのではなく、子供として気付けない大人の世界の話だからだ。サスケが知ろうとしても、誰もが相手にせず聞かせてくれない。6歳の子供が紛れるにはあまりにも難しい問題だった。

 

住居に入るには、1つしかない入口へと回らなければならない。壁をよじ登って中に入ることは誰にでもできることだが、歴史ある由緒ある名家の一つであるうちは一族が、そのようならしくないことをするのははばかれる。

 

サスケにとってそれは面倒くさいことに他ならないのだが、父や母を落胆させたくないから大人しく従っていた。

 

「っな、んだよこれ!」

 

唯一つの入口に向かって走っていると、門の前でいつも迎えてくれていた、駄菓子屋を営んでいる老夫婦がいない。あるのはその死体。身体は血に濡れているが一部分にしか見られない。正確に言うなれば、背中から腹部にかけて貫かれた1つの傷口の周辺のみ。

 

背後から一刺しだと思われる傷跡は細い。それが死人であるのは間違いないが、顔に浮かんでいる表情は、決して苦しんで苦しんで事切れたものではない。むしろ死が訪れたのが当然あるかのように、不自然に普通すぎた。

 

「...静かすぎる」

 

周囲の空気を感じて口にしてしまった。そう、あまりにもここら一帯が静かすぎる。普段ならば夕食の準備や、任務帰りの大人たちで和気あいあいとしているというのに。老夫婦が死んでいることを含まなくても、サスケからすれば異常なことだと理解できた。

 

門をくぐって中に入るが人影は一切ない。老夫婦のように道端に倒れている人もいない。家族が無事なのか心配になったサスケは、全速力で自宅へと走った。心配で心配でたまらなかった。

 

幾つもの家を過ぎ去って、何人もの死体を飛び越えて走った。家がある中心部へ向かえば向かうほど、死体の数が増えていく。どれも老夫婦のように背中を一突きのようだ。

 

「父さん!母さん!」

「来るなサスケ!入ってはならん!」

「来てはダメよサスケ!」

 

自宅の玄関を彼らしくない乱暴な手つきで開け放ち、家の至る所を探した。だが何処にもおらず、父がよく瞑想していた稽古場に向かって叫んだ。サスケに届いたのは、彼を拒む声量と緊迫した空気だった。

 

サスケにとってそれは理解できない事だった。一族の多くが殺されているというのに、その解明を行おうとしないどころか部屋に閉じこもっている。そしてサスケが入るのを静止させた。それらは明らかに今の事態を無視しているという異常なものだった。

 

サスケが戸を引こうとした瞬間、ドサッという物音が稽古場の中から聞こえた。

 

「父さん!母さん!」

 

両親の静止を無視して中に入ったサスケは、眼に入ったものをすぐに理解できなかった。折り重なるように倒れているフガクとミコト。床は2人の倒れている部分に、血が少しばかり溜まっている。

 

「誰だ!」

 

その次にサスケが見たものは、月明かりが格子の隙間から差し込む角度から逃れるように、立ち尽くしている人物だった。闇に潜む紅い(まなこ)が2つ、静かに叫んだサスケへ向けられていた。

 

その眼は冷徹で非情になった人間を思わせる。音もなく2人をまたいで素顔をさらした人物に、サスケは息を飲んだ。誰より信頼していた忍びが、このようなことを起こすなど到底受け入れられなかった。

 

「な、んで...」

「単純な事だ。今のうちは一族は問題を抱えすぎている。このまま野放しにすることは、俺の心が許せない」

兄さん(・・・)...」

 

感情もなくサスケを見下ろす影。それはサスケが目標にしていた誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも憧れた自身の兄うちはイタチだった。

 

「サスケ、これで最後だ。俺は俺のやり方で終わらせる。すべてをこの世界を。邪魔をするものは誰であろうと俺は斬り捨てる。それが友であろうと、肉親であろうと、ナルトくんだろうと、お前であろうとだ」

「それほどまでにやらなきゃダメなことって、なんなんだよ!父さんと母さんを殺してまで、一族のみんなを殺してまでやらなきゃダメなことってなんだよ!」

「お前が知るには早すぎる。お前はまだ幼い」

「待て!」

 

全ての質問に答えないまま姿を消したイタチを追って、サスケは玄関から気配を探った。闇夜に紛れるように逃走する兄を見つけるのは、サスケにとって簡単なことではなかった。

 

サスケが子供だからという理由も無くはないが、この場合は夜を味方につけたイタチが賢いということになる。如何に上忍であろうと、音もなく移動する人影を見つけるのは楽なことではない。

 

というはずなのだが、サスケは即座にその姿を捉えていた。何処に向かって家々の上を移動しているのかが、流れ込んでくる。《()》が見える。兄の性格を表したように、暖かい黄色に近いチャクラの足跡が。

 

「逃がすかよ!」

 

イタチを追って全速力で家々を飛び交う。胸元へ右手を突っ込んだかと思うと、抜き出した手には4本のクナイが握られていた。それらを両手に2本ずつ挟む。首元で交差させた両手を、背中を大きく逸らした勢いで、少しずつタイミングをずらして遠くへ投げ込んだ。

 

放物線を描くものや、直線を描くもの、弧を描くものなど様々な角度で視界に捉えていた影に向かっていく。このような投げ方をできるのはサスケの技量、紅い瞳孔とその周りに浮いた勾玉模様(・・・・・・・・・・・・・・)のある瞳をしているからだ。

 

いくらイタチといえど、このように様々な角度から攻撃を加えられれば、少なからず隙が発生すると思った。だがイタチはそれらを難なく避けてしまう。全てを避けたことで余裕が出来たのか。振り返ってサスケへ手裏剣を投げ込む。

 

黒色の手裏剣やクナイは夜にこそ力を発揮する。光の反射を抑える製法で作られた特注のものは、視認することが難しい。〈暗部〉にだけこの特注品が配布されているため、サスケは普通と違うものを初めて眼にした。

 

その手裏剣は容易くサスケの腹部へと刺さってしまう。弟がこれ以上追って来れないことを確認し、前かがみで倒れる弟に寂しげな視線を向けるイタチは、両親や一族を殺したとは思えないほど儚げに見えた。

 

「ここだぁ!」

「何!?」

 

予想外の事態に、彼らしくもなくイタチは驚愕の表情を浮かべる。上空から投げつけられたクナイを顔を背けることでどうにか避ける。

 

「そんなもんで終わるかよ!〈爆〉!」

「これは!?」

 

サスケが左手を思い切り引っ張った。するとクナイの裏側に仕込まれていた〈起爆札〉が露わになる。そのまま大きな爆発音をあげて、イタチとサスケは煙に巻き込まれる。

 

煙を少しばかり吸い込んだサスケは、むせながらもイタチからの攻撃を避けるために、大きく距離をとった。煙が晴れた場所にイタチはいない。《色》を頼りに視線を動かすと、電柱の上から自分を見下ろしている視線とぶつかった。

 

「...ここまで腕を上げていたとは。成長したなサスケ」

「あんたが家を気にしなくなってからも、ずっと練習を続けてきたんだ!」

「お前のことを見ていなかった俺のミスだな」

 

サスケは最初からこの作戦を思いついていたわけでは無い。真っ向勝負で勝てないことは、誰にだってわかる事だった。だからどうにかして勝つためには、卑怯な手を使わなければならなかった。少しでも気が引けるのは何か。

 

そこで考えついたのがクナイによる陽動で自身に隙を作り、攻撃されることで倒したと油断させる。その直後に〈起爆札〉を仕込んだクナイを投げつけるという作戦だった。

 

「っ、身体が...」

 

激痛が全身に走りその痛みに耐えられず、膝をついてしまう。

 

俺の眼(・・・)を誤魔化すほどの〈分身〉。それを生み出すためには大量のチャクラを必要とする。今のお前では1体出すのが限界だろう。いや、出せること自体が運に左右され、その後に動けるなど奇跡としか言えないか」

 

いくら同年代と比べてチャクラの多いサスケとはいえ、正式な忍びとなり任務にあたる大人と比べれば、それは微々たるものだ。それを自覚した上でサスケは全てをそれにかけたのだった。

 

「俺が憎いか?ならば俺を殺しに来い。その恨みを晴らすために、俺と同じ眼(・・・・・)を持って俺の前に立て」

 

それだけを言い放ち、チャクラ切れで意識を保つことが出来ないサスケを置いて去って行く。イタチが姿を消す瞬間、自分を見る瞳に涙が浮かんでいるのを、サスケは薄れゆく意識の中で見落とさなかった。

 

 

 

 

「...ケ!...スケ!...サスケ!起きろよ!」

「う、...ナルトか?」

「そうだってばよ!何があったんだ!?」

 

声をかけられ眼を開けると、慣れ親しんだナルトが自分を起こしているのがわかった。あれからどれほど時間が経ったのか。気絶していたことで時間感覚も朧気で確信が持てない。

 

「ナルト、イタチを追え!今すぐに!」

「イタチさんを?」

「一族を殺し、父さんと母さんを殺したあいつを追ってくれ!」

「なっ!」

 

無理もない。その現場を目にしていないナルトにとって、それは信じ難い事柄だったからだ。サスケの言葉が嘘だと言いたいわけでは無い。ただ信じられないだけだ。あれほど優しかったイタチが誰かを殺すなど、少しも考えられない事だったから。

 

『...ふむ、サスケが言っているのはどうやら本当のようだぞナルト』

「どういうことだってばよ」

『自宅付近から生命感をまったく感じん。...死んだのだろうな一族諸共』

「...わかった、イタチさんを追うってばよ」

 

サスケの起こしていた上半身をゆっくりと寝かせてから、ナルトは朱い衣を纏って空を駆けた。九尾が一族の死を知ることが出来たのは、〈仙術〉を使って自然エネルギーの流れを感知したからである。自然エネルギーは、生きている生き物すべてから感じ取れるものだ。

 

意識しても感じないチャクラのようなもので、忍者だろうと一般人だろうと体内から体外へ自然と流れ出ていく。だが死んでしまうと、その流れは消えてなくなってしまう。その観点から九尾は人の死を感じ取ることが出来る。

 

「ぜってぇ許さねぇ!」

 

サスケの場所にいた頃は、尾が1本だったのだが今は3本に増えている。九尾の衣は怒りの度合いによって、圧力と質量を増やしていく。今のナルトの怒りは、完全な尾獣状態の3割ほどだと考えられる。

 

本来、九尾の衣はナルトの怒りによって歪んだ術式の隙間から、意図的に流れ出るものだ。だが今はナルトの意志(・・・・・・)によって動いている。つまり九尾はチャクラをナルトに貸しているわけでも、自信が意図的に外へ送り出しているわけでは無いのだ。

 

むしろナルトの怒りを抑えようとしているのだが、刺激を与えるべきではないと考えていた。中途半端な仲介は怒りを助長させる可能性がある。長い時を生きた九尾だからこそ、ナルトを無下に扱わないように気づかっている節がある。

 

「見つけた!」

「ナルトくんか。...その姿は九尾の力を使っているのか?」

「許さねぇ!ぜってぇに許さねぇ!」

 

もうナルトはイタチの言葉を聞こうとしない。怒りによって脳は麻痺し、正常な判断などできるはずもなく。里から少し離れた木々を飛び交って、ナルトとイタチは交戦を開始した。

 

クナイによる投擲をナルトは威圧だけで弾き飛ばす。忍術さえその衣に阻まれナルト自身には届かない。

 

「〈火遁 豪火球の術〉!」

「許さねぇ!許さねぇ!」

 

最大火力でも容易にその衣は防いでしまう。

 

「がぁっ!」

 

ナルトが右手を大きく振りかぶり、前に投げ込むと衣だけが飛んでいく。はるか遠くの木の幹を掴み、それを支えにして大きく跳躍する。

 

一瞬にして肉薄したナルトの左手による引っ掻きで、イタチの上半身が袈裟懸け状に引き裂かれた。大量の血を吹き出させながら、イタチは地面へと落下していく。それを追いかけて地面に叩きつけられたイタチに、馬乗りになって殴り続ける。

 

何発も何十発も。イタチの顔が人の原型をとどめなくなっても殴り続けた。憎しみを恨みを晴らすかのように殴り続けた。

 

殴り続けて息が切れたナルトが殴るのを辞めた途端。イタチは煙をはいて、切断された木の幹のような姿になる。〈変わり身の術〉は敵を油断させたり、自分の身を隠すまたは逃走する手段を稼ぐ為に使われる。

 

もちろん遊びなどでも使われる基本的な忍術のひとつだ。これが出来なければ一人前の忍びにはなれない。基本的な忍術だからこそ騙されやすいことも多々あることは、これまでの忍びの世界を見ていればよくわかる。

 

〈がぁぁぁぁぁぁぁ!〉

 

本体ではなかったことで、さらなる怒りを撒き散らすナルトの咆哮はもはや人ではない。血に飢えた獣そのものへと変貌している。尾は6本を越え、肉体に大きな変化が見られていく。身体の至る所に骨が形成され、それがさらなる鎧と化しているのは一目瞭然。

 

『怒れ怒るのだナルト。その想いは決して間違いなどではない。知るのだ怒りがどれほどの力となるか、どれほどの驚異となるのかを』

 

ナルトを洗脳するかのように繰り返される九尾の言葉。それはナルトへと浸透していく。怒りが心地いい。物を壊したい。形あるのものを消し去りたい。

 

『さあ、ナルト解き放て。その怒りをイタチにみせてやれ!』

〈うがぁぁぁぁぁぁ!〉

 

ナルトが感情に飲み込まれそうになる瞬間。何処からか穏やかで暖かな声が2つ(・・)聞こえてきた。まるで閉ざした心の氷を溶かすように。急激に温度を高めて溶かすのではなく、じわじわと時間をかけるように溶かすのだ。

 

【聞き入ってはダメよ】

【まさかこんな形で再会することになるとはね】

 

その声にナルトは意識を取り戻す。だがそれは精神での話であって、肉体ではないため完成体へと近づいている現実世界では何も変わっていない。あるとすれば変化が止まっているということだけ。

 

【ここにいていいんだよナルト】

【あなたは生きるべき人間なの】

 

怒りによる震えを抑えようとしていた両手を離し、視線を上へと向けてみる。そこには微笑みながら自分を見下ろす男性と女性がいた。黄色の髪に切れ長でありながら優しさを思わせる顔つき。特徴的な赤い長髪と温和な微笑み。

 

それは初めて見るナルトでも、不思議と安心できる温かさだった。ナルトが知らないのは当然で、事態を呑み込めなくなるのは仕方がない。何もかもを撒き散らそうとした途端に、誰かから呼び止められたのだから。

 

2人の声が聞こえたことで、九尾は満足そうな笑みを浮かべる。どうやらナルトを煽っていたのは、このための布石だったようだ。

 

「誰?」

『久しいなミナトにクシナ』

 

自分の後ろから声を投げかける九尾を振り返ってみた。九尾は真剣な顔付きで2人を見つめている。

 

【...九尾、丸くなったか?】

『さあ、どうだろうな。お前がそう思うならそうなのだろうし、そうでないと思うならそうではないのだろう』

【...な、なんだか九尾が記憶と違って困るってばね】

『褒め言葉だろうなそれは』

【ど、どっちとも言えるってぱね。私の時は暴れることしか考えてなくて、話を聞いてくれなかった。でも今は話しかけてきてるってことに、理解が追いついていないってばね】

 

2人の挙動不審な行動に九尾は笑みを浮かべる。その様子にさらに2人が眼を丸くするという、サイクルが少しばかり続いた頃。ようやく現状を理解した男性が言葉を発した。

 

【久しぶりと言いたいところだけど、顔を合わせるのはこれが初めてだね。ナルト】

【見た目はミナトそっくりね。ミナトの顔を幼くして少しだけ悪戯っぽくした感じ】

『ボケっとすんなナルト。こいつらはお前の父と母だぞ』

「えぇ!」

 

ナルトの驚きように2人が微笑みをうかべる。

 

【オレは4代目火影波風ミナト。お前に九尾を封印した張本人であり、九尾の言う通りお前の父親だ。会いたかったよナルト】

 

ナルトの視線にしゃがみこんで両手を大きく広げる。どういうことかわからないナルトだったが、どうしようもなく駆け出したくなる衝動に突き動かされる。迷った末、眼に涙を浮かべながらミナトの広げた腕の中へ飛び込んだ。

 

「父ちゃん!父ちゃん!」

【大きくなったなナルト。お前が産まれて6年、傍に居たのに何も出来なくてすまなかった】

 

胸にすがりつく息子を慈しむように抱きしめるミナトの頬にも、ナルトと同じように涙が浮かんでいた。産まれて数時間も立たぬ間に引き裂かれ、共に生きることを許されなかったことを悔やむ。

 

さらには九尾を封印するという、必ず生きることの枷になるとわかっていながら施すことが苦しかった。だがそれしか里を守る方法はなかった。

 

里と自身の子供を守ることを比較すれば、普通なら子供を優先するはずだ。だがミナトは里を守る長としての責任もあった。だから個人的な感情だけを、優先させるわけにはいかなかった。

 

里を守りながら息子の危険も守る方法と言われれば、九尾を息子に封印するしかなかった。死に行くクシナに封印して、束の間の安泰を得るという手段もあった。だがそれは少しばかりの間復活を伸ばすだけで、里や息子を救うという根本的解決にはならない。

 

悩みに悩んだ上で、九尾をナルトに封印して後を託したのだ。いつか九尾を使いこなすことを夢見て。里を守る忍びになれるように。

 

【今までよく頑張ったわね。生きてくれてありがとう】

「母ちゃん!母ちゃん!ずっとずっと会いたかったってばよ!」

【ってばよ...か。本当に私の息子なのね】

 

ミナトの腕から離れてクシナへと抱きつく。息子の成長を喜び、自分の手で抱きしめられる喜びを直に感じる。子供の温かさがクシナを癒していく。九尾の人柱力の前任者として、ナルトの苦労をかなり理解していると思っている。どれほどの憎しみを受けてきたのか、わかっているつもりだった。

 

【辛いのによく頑張ったね】

「...別に辛くはなかったってばよ。むしろ毎日が楽しくて詰まらない日はなかった」

【それは本当かい?人柱力は疎まれやすいはずだ】

『ナルトが嘘をつくと思うか?6年間会うことも出来なかった親に嘘を言えるかっつうの。子供を育てていないお前はからしたら仕方ないかもしれんが、ナルトは1度たりとも不満を言ったことは無いぞ。これまでもこれからもな』

 

いつの間にか寝そべって、不満そうにしている九尾が構ってくれと言わんばかりに告げる。左手で床をつつきながら、文句を言う様子は幼い子供がぐずっている様にそっくりだ。

 

【いや九尾、君はいつからそんなにガキっぽくなったんだい?】

『馬鹿にしてんのかミナト!ワシは九尾ぞ、そんなことで幼児退行するかっての!』

【その言い訳がガキっぽいってばね】

『クシナ、てめぇ!てかナルトから離れろ。ナルトはワシの近くにいるべきだ!』

 

駄々を捏ね始める九尾に2人は笑いを必死に堪えている。ナルトを2人から引き剥がし、自分の胸元まで引き寄せ毛でナルトを覆う。まるで親狐が小狐を守るような仕草に、驚きより喜びを感じるように互いに見つめ合うミナトとクシナ。

 

夢見ていた光景が、目の前で行われていることで2人は心から安心していた。

 

【なんだか嘘みたいに九尾が静かすぎて、調子が狂っちゃう】

【いい事だから受け入れるべきじゃないかな。ボクたちを殺したあいつが、ナルトをあそこまで守ってくれるなんて思いもしなかったけどね】

『ミナトあまり言うな。今のワシはあの頃のワシではない』

 

自身にとって後悔でしかない出来事を蒸し返され、少しばかり機嫌を損ねた九尾だった。その様子は心の底から悔やんでいるのだと、被害者であるミナトやクシナにもわかった。

 

【わかってるよ九尾。さてナルト、話しておかなければならないことが山ほどあるけど、手短に話しておくよ。ボクたちのチャクラは死に間際に、九尾を封印するのと同時に組み込んだものだからそこまで多くない。だからお前といられる時間はとても少ない。基本、霊体であるこの身体は形を保つのに大量のチャクラを必要とするからね】

『あ〜、そのことなんだが気にしなくてもいいぞミナト』

【どういうことだってばね九尾】

『今のお前らは霊体というものなのだろう?チャクラの供給さえあれば存在できる。そうだな?』

 

頭の上に?を浮かべながら九尾の話に耳を傾ける2人。その様子をまったく理解できない状態のナルトが、2人と1体を見上げている。

 

『存在できるだけのチャクラを、ワシが供給すればいいだけの話だ。チャクラの受け渡しなどお茶の子さいさい、赤子の手をひねるようなもんだ』

【軽く幼児虐待だってばね】

【いや、クシナ今突っ込むのそこじゃないから】

【ミ〜ナ〜ト?】

【ハハハハハハハハ...】

 

九尾の冗談を真に受けるクシナに、茶々を入れたミナトが乾いた笑いをあげる。仲睦まじい様子は本当に互いを愛し合い、大切なものを見つけ出せたという結果なのだろう。

 

フガクとミコトの夫婦関係が悪くないのを見ているナルトでも、自身の親の仲の良さには恥ずかしいものがあるのだろう。顔を少しばかり紅くさせて、視線を下に向けている。その様子に九尾は口角を上げて眺めていた。

 

『冗談はさておき。お前らを〈この中だけ〉という限定ではあるが、ナルトと離れないようにすることは可能だ。どうしたい?』

【ありがたい申し出だけど、そんなことが本当に可能なのか?】

『可能だから言っとるのだ。まあいい、チャクラ自体は身体エネルギーと精神エネルギーから生み出される。これはさすがに知っているだろう?』

 

講師同然の真面目な顔つきで、九尾が説明を始めた。ミナトが頷いたのを確認してから九尾は続ける。

 

『霊体というものはチャクラというより、精神エネルギーを消費しているのが実際だ。今お前らは存在するために、封印術式と共に組み込んだチャクラで動いているにすぎん。だから精神エネルギーさえあればお前らは消えることはない。その精神エネルギーをワシが負担しようと言っているわけだ』

【乗らないわけないってばね。ナルトと一緒にいれるなら、危険なことでもやってみるものよ】

『相変わらずだなクシナ。お前が〈器〉のときに、それぐらい優しくあってほしかったものだ』

 

今のクシナがあるのはミナトと出会い、ナルトを儲けてからの変化であるため九尾の言葉はどうしようもない。もちろんそれをわかって九尾は言っているので、クシナを追い詰めようとしたわけではない。

 

『精神エネルギーの譲渡はチャクラと同じ要領だ。パスを繋げばそれで終わる』

【パス?どうやって作るんだ?】

『もうすでにできてある』

【な、なんだって!?】

『ナルトを介してお前らに送るわけだ。お前らはナルトと血縁関係がある。つまりそれをパスとして送ることが出来る。まあ、2人とナルトに血縁関係がなかろうと送れるのだがな』

 

意味深な九尾の呟きを、2人は無視することなどできなかった。血縁関係をパスとして利用するならば、それがなければ不可能なはずだ。だが九尾は自分たちならば、その必要は無いと言い切っている。

 

『クシナ、お前はワシの〈器〉の前任者だ。つまりそこには、ワシと切っても切れぬ関係が成り立っている。普通なら不愉快極まりないものなのだがな。そしてミナト、お前にはクシナ以上に繋がりやすい理由がある。それがわかるか?』

【...もしかして半身(・・)のことか?】

『ああ。それはワシと同じ存在だから、抜けた〈器〉のクシナより繋がりやすい』

【けどあれは肉体に封印されている】

 

その通り、九尾の半身は肉体のミナトであって霊体のミナト(・・・・・・・・・・・・・・)に封印されているわけでは無い。なのにそれが関係あるかのように言う九尾に、ミナトは理解が追いついていなかった。

 

『お前は死ぬ前に半身を己の身体に封印した。その時点で肉体と精神に、ワシのチャクラが統合されたことになる。その後お前はチャクラを封印術式に組み込んだのだから、繋がりが形成されるのは当然だろうが』

【...いやはや。かなりの知識を持って、火影として里を守ってきたつもりだったけど。まだまだ勉強不足だったかぁ】

【この世界に忍術や色んなものを、完璧に理解している忍びなんていないってばね。いるとしたら伝説の六道仙人ぐらいだってばね】

 

六道仙人と聞いて少しばかり九尾の身体が揺れたが、それを気付いたのは誰1人いなかった。

 

 

 

その後は2人に十分な精神エネルギーを渡すため、少しばかり時間をとった。それなりにたまると、2人は九尾の指示に従って〈ナルトの記憶〉を見る旅に出た。6年分ともなれば、それほど早くに戻ることは出来ない。

 

『さて、ナルト。今のお前の心はどうだ?』

「不思議だってばよ。あれだけイタチさんを憎んでたはずなのに、今はなんでかわかる気がするんだ。何かそうしなきゃならない理由があって、すべてを自分が背負うために終わらせたんじゃないかなって」

『...真実はいつも闇の中というやつだな。ならお前がすべきことがなんなのかわかっているな?』

「ああ」

 

その言葉を最後にナルトは意識を浮上させた。

 

 

 

ナルトが意識を覚醒させたのは、完全体へとなりかけていた身体が元通りになった瞬間だった。遠くでかなりの重傷を負っているイタチを、ナルトは哀しむように見つめた。

 

「九尾が消えた...か。一体何があったナルトくん」

「ちょっとの間だけ、1番会いたかった人たちに会ってきたんだってばよ。イタチさん、早く逃げてくれ。今ならオレにとって(・・・・・)の英雄として見送れる」

「俺を殺さないのか?憎いはずだ。君の育ての親である俺の父と母を殺した裏切り者なのだから」

 

自分を見るイタチの眼は紅く、瞳孔周辺に勾玉模様が3つ(・・・・・・・・・・)浮かんでいる。その眼を見れば、普通は恐れおののくはずだ。だがナルトはそれを無感情に見つめ返す。同情でも共感でもない。ただただ眼を見るという行動しかしていない。

 

「イタチさんが何を思ってこんなことをしたのか、オレにはわからない。でもそうしなきゃダメな理由があったはずだ。だからオレはそれを理解するまで、イタチさんを殺さない。疑わない。オレは何も見ていない(・・・・・・・・・・)

「...聡明なのか馬鹿なのかわからないな君は。オレはこれから闇で生きる。闇から光という別角度からこの世界を見ることにするよ。...サスケを頼む。俺と違ってあいつは、生真面目に突破しようとする奴だからな。君になら任せて行ける。...ありがとうナルト(・・・)。君は紛れもない俺の家族(・・・・)だった」

 

イタチはそう告げると、闇夜に紛れて姿を消す。姿を消す瞬間、突風が吹き荒れナルトを襲った。顔をかばうために両手を持ち上げる。風が収まり両手を下ろすと、足下の樹の枝にクナイが2本刺さっていた。

 

それは月明かりを反射せず光沢が一切ない、〈暗部〉特注クナイ(・・・・・・・)だった。

 

 

 

 

イタチとの停戦を終えたナルトは、他人の家の屋上に寝かしていたサスケを背負って自宅へと帰った。

 

『『ただいま』』

『お帰りなさいナルト、サスケ』

『今日も仲良く帰宅か。相変わらずだな2人とも』

 

玄関を開ければ、そんなふうに自分たちを迎えてくれた。だがその2人はもういない。二度とあの料理も時間も戻ってこない。それを思うと鼻の奥がつんと痛くなり、涙が溢れそうになるのをどうにか堪える。

 

『サスケはナルトくんのことを、好きなのか嫌いなのか俺にはわからないよ』

 

苦笑しながら楽しそうにしているイタチを見ることも、サスケと共に教えてもらうこともできない。過去の思い出は二度と現実に起こることは無い。それは生きる希望を失うにも近かった。

 

「う...」

 

朝日が昇り襖の隙間から差し込む日光に、瞼をあぶられて眼を覚ましたサスケの横で、ナルトは顔を填めて膝を抱えて座っていた。

 

何故自分は布団の上で寝ているのか。何故太陽が昇っているのか。理解するには秒針が半分ほど進まなければならなかった。右を見れば普段とは違うナルトがいる。空気は重く、何かに耐えているそんな風に思わせた。

 

「...はっ、父さん!母さん!」

 

起き上がり部屋の外へと駆け出していくサスケの声を聞いて、ナルトの身体がビクリと震える。見たものが嘘であると。いつの間にか幻術にはめられていたのだと、信じて疑わないサスケの行動はナルトを酷く落ち込ませた。

 

「ナルト!あれは夢だよな!?何も起こってないよな!?」

「...見ればわかるだろ」

「っ!イタチはどうした!」

 

伏せていた顔を持ち上げて、ナルトはすすり泣くような声で口にする。

 

「...逃げられた」

「なっ!九尾の人柱力が止められなくてどうすんだよ!何のためにその力はお前にあんだよ!それを使わなくていつ使うんだよ!」

「わかってるってばよ」

「わかってねぇ!わかってねぇから止められてねぇんだろ!」

 

ナルトの襟首を強く握り大声で隣り散らす。そうでもしなければ、自宅の物を破壊してしまいそうだった。怒鳴っても怒鳴ってもサスケの怒りは収まらない。口にすればするほど、怒りは際限なく高まっていく。

 

「お前の気持ちはわかるよ。だから落ち着いてくれってばよ」

「お前に何がわかるってんだ!?自分の親が兄に殺されて、一族もみんな殺されたんだぞ!血の繋がりがある存在が殺されて、何も思わないと思うか!?」

「俺だって失ってる。たとえ義理だとしても俺の親だ。でも受け入れなきゃ始まんねぇ」

「お前に理解できるかよ!この気持ちがよ!血の繋がりがないお前に、本当の愛なんてわからねぇんだよ!この余所者(・・・)が!」

「っ!」

 

その言葉はナイフのようにナルトを切り裂いた。ナルトだって理解していたはずだ。どれだけ愛情を注いでもらおうと、自分は所詮余所者。フガクとミコトの子供として暮らす毎日は、幸せで何者にも変えがたかった。

 

みんなが自分を除け者にしなかったから、蚊帳の外のような感じにはならなかった。だが、少しばかり第三者からの視点で見ると、やはり自分ははみ出ていると思えてならなかった。

 

4人が楽しそうにしているのを、自分からではなく第三者視点から見ても心がほこほこした。そこに自分も混ざっていると思うと、邪魔しているのではないかと疑問に思うことがあった。

 

だがそれを霧散させてくれるくらいにフガクとミコト、イタチは自分を受け入れてくれた。同い年のサスケは口では愚痴りながらも、実の所嬉しそうだったのを目にしている。

 

だからなのだろう。自分がこうして守ってきてくれた人物がいなくなって、自分の存在がどれほど歪なものだったのかを。自分がいることで誰かが笑顔になれると思っていた。でも違った。自分は確かに他人を笑顔にすることが好きだったが、実際にそうしていたのは他でもないイタチだった。

 

そんなイタチが全てを裏切り、闇に葬りさろうとしたことがありえないと思ったほどだ。怒りによる本能で九尾完全体になろうとした自分を、霊体となって自分の中にいた両親は認めてくれた。

 

自分はここにいていいのだと。生きていいのだと。九尾も不器用ながらも、いつも背中を押して支えてくれた。それを無下にはしない。してはならない。恩を恩で返すのは口ではなく、行動で示さなければならない。

 

つまり今ここで生きる希望を捨てるのではなく、生きる希望を見つける(・・・・・・・・・・)のだと決心した。

 

「サスケの言う通り、オレはうちは一族の血を微塵も受け継いでいないってばよ。でも血が全てなのか?気持ちでうちは一族だと思うのはダメなのか?」

「お前に何がわかる!すべてを失った俺をどうできるんだ!」

「すべてじゃねぇ。お前が、オレがまだ生きてる!お前の親が残した夢をオレたちで叶えるんだ!」

「お前は一体なんなんだ!どうしてそこまで俺たち(一族)にこだわる!?」

「《家族(・・)》だからだ!」

「...そういやお前は2回目(・・・)だったな。家族を失うってのを。あぁ、わかったよ。生きてやるよ。惨めに足掻いて生き続けてやるよ。父さんと母さんを裏切らないために」

 

2人の頭にはフガクが穏やかに微笑んで、頭を撫でながら言ってくれた言葉が流れた。

 

『さすが俺の子だ』

 

血が繋がっていなくとも、自分のことを我が子のように見てくれたことに深く感謝してナルトは前を向く。

 

「...なぁ、ナルト。イタチは、兄さんはどうしてこんなことをしたんだろうな」

「オレにもわからないってばよ。でも何かしらの理由があった、そうじゃなきゃオレたち以外を皆殺しにしないってばよ」

 

開け放たれた襖から空を見上げ、2人は6年間の想いが詰まった家を捨てる決心をしたのだった。




今回の話がこの作品の中で書きたかった回でもあります。次話もその一つとなる予定です。よろしくお願いします。
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