しかも本編ではなく過去という、なんとも言えない話。
更新が難しいので、ゆっくりと待ってもらえれば幸いです。
「恐れていた事態が起こったか!」
ヒルゼンは自室から見える里の惨状を目にして、普段から使用している戦闘服に手を通していた。本来ならばあってはならない事態に、冷や汗が穴という穴から吹き出してくる。
心配していたことであったが、自身が推薦した次代の火影がついていのだから、万が一のことは無いと思っていた。警備が甘かったとは言うまい。結界は里内でも五本の指に入る忍に頼み、万全を期して張ってもらったのだから綻びは無いはずだ。彼等が予想外の事態に巻き込まれた以外には考えられない。
「ミナトかっ!?まったく無茶するのぅ...」
里の中心から禍々しいチャクラを凝縮させた玉を、〈時空間結界〉で遠くに飛ばした張本人に聞こえぬと分かって呟く。空気に溶けるように消えていった玉は、遥か彼方へと飛ばされたというのに、地を震わせる振動がとてつもない。
「3代目様、九尾が!」
仮面をつけた男が音もなく傍に現れても、ヒルゼンは微動だにせず問いかける。
「わかっておる。被害と避難はどうじゃ?」
「被害は出現からの数分で出現場所を中心として半里が壊滅、被害は拡大しております!避難は特別上忍と中忍を中心として行っており、完了には今しばらく!」
「待ってはくれぬよな。ワシも行く。ワシが着くまで何としてでも押しとどめよ!」
「御意!」
来た時と同じように、音もなく消えた自身直属の部下〈暗部〉に指示を出すと、ヒルゼンは相棒を呼び出した。
「〈口寄せの術〉!」
『...余程のことになっているようだなヒルゼン』
「会話はなしじゃ猿魔。一大事故、少々荒っぽくなるぞ」
『文句などない。お前のやりたいようにやれ』
「では行くぞ!」
〈火影室〉のガラスを破って、ヒルゼンは被害の拡大している戦場へと躍り出た。
「ぬん!〈手裏剣影分身の術〉!さらに〈火遁 火龍炎弾〉!名付けて〈
空気を焦がすほどの熱を放つ炎を纏った数多の特大の手裏剣が、凄まじい速度で飛翔する。鋼のような硬度を持つ九尾の皮膚に突き刺さるが、九尾は気にせず攻撃された腕を振り払う。
「〈土遁 土流壁〉!ぬうっ、これほどまでとは。想定が甘かったか」
まともに喰らえば即死級の風圧を、どうにかして防ぎながらつぶやく。ただ腕を振り回しただけで、周囲の木々や岩は為す術なく吹き飛ばされる。地面は深く抉られ、地獄が口を開けて待っているようにも見える。
いや、地獄は目の前にもある。どれだけ攻撃を加えてもダメージが通っているようには見えず。どの属性も効果はないように思える。
避難の誘導に当たっている特別上忍以下の忍びを除いて、今ここにいる人数が最大戦力。総攻撃を開始して僅か30分。満身創痍になる忍びはあとを絶たず。重傷者を優先的に治療しているのもあるのだろう。戦線復帰する人数と、怪我をして戦線を退いていく比率が合わない。
どうにかして里外へと追い出したが、ヒルゼンの体力は限界に近かった。チャクラはまだどうにかなる。だが身体が言うことを聞かない。
「ワシも老いたのぉ...これしきのことで膝をつくとは」
『情けないとは言わんぞヒルゼン。九尾を相手にして、その程度の疲労と怪我で済んでいることが奇跡だ』
「褒めてくれるのか?」
『褒めずしてどうする?...それでやれるか?ヒルゼン』
「鼓舞してくれるのは嬉しいんじゃが、ちと老人の扱いが酷くないか?猿魔よ」
猿猴王猿魔の変化した武器を杖代わりとして立ち上がる。口元に笑みが浮かんではいるものの、それが強がりであることは誰にでもわかることだった。
ヒルゼンを止めようとする忍びは誰一人いない。止める余裕もないのもあったが、それ以上に止められないからだ。ヒルゼンの忍びとしての才能を知っているからこそ、誰も引き留めず最前線で戦う後ろ姿を見届ける。
「九尾よ、今こそワシらが討ち取る!ハッ!」
足裏に極限にまで高めたチャクラを移動させ、年齢を感じさせない速度で接近する。普通ならば、チャクラの熱と圧力で地面が耐えられないはずだった。だがヒルゼンの場合はそれを感じさせない。いや、起こさせず完全に掌握したまま走り続ける。その速度は〈疾風〉とでも称されるほどに。
「ぬんっ!せいっ!むんっ!」
【老いぼれが!失せろ!】
途方もない速度で身体を叩かれたからなのか。九尾がそれまでまったくと言っていいほど、してこなかった個人への集中攻撃が行われる。両爪による引っ掻きからの九つの尾による薙ぎ払い。さらには遠吠えと、地面からの揺れによる聴覚と三半規管への刺激が、僅かずつヒルゼンを追い詰めていく。
「ぬあっ!」
『ヒルゼン!』
遂に九尾の攻撃がヒルゼンを捉えた。直撃こそ免れたものの、上空から地面にたたきつけられた衝撃で、ヒルゼンはダメージを受ける。衝突の瞬間、金棒を地面に突き刺すことでどうにか振動を減らしたものの、完全には防げなかった。あまりの衝撃にヒルゼンは立ち上がることは愚か、指を動かすことも出来ない。
「3代目様!」
「む...こりゃ派手にやられたのぉ...」
『...一応、無事なようだなヒルゼン。だがかなりヤバいぞ、見ろ』
猿魔に言われて眼だけを動かすと、火影岩に向けて放った技と同じものが九尾の口内に見えた。この距離で放たれれば自分どころかほぼ全員が死んでしまう。
それだけはあってはならない。未来を担うはずの忍びを失うことは、家族を失うことと同じだ。ヒルゼンにとって里の人間全てが家族。悪人だろうと善人だろうと。老若男女問わず。誰もが等しく自分の子供であり親であり家族。
猿飛ヒルゼンという忍びはそういう人間性なのだ。自己よりも他者を優先する人間。だからこそ忍びは、里内の人々はヒルゼンを〈火影〉として崇める。人を導く才があり、人望もある。関わらずとも自然と歩みを見てみたい。そう思わせる不思議な魅力を持つ忍びだ。
「また、打つのか...!」
轟音が鳴り響き、地形を変化させるほどの攻撃が目の前で準備されている。どうにかして起き上がった満身創痍の身体では何も出来ない。直撃を免れても、余波または追撃を喰らうのは目に見えている。ここまでかと諦めかけたその時。
「ミナトっ!」
大きなガマ蛙が空中から現れ九尾を地に沈める。
「この大きさを飛ばすにはそれなりのチャクラがいる!少しの間でいい、抑えててくれ!」
【いくらワシャでもこ奴はそう抑え込めんぞ!】
僅かな言葉を交わすことで、チャクラを練る時間を取得する。ガマ蛙を残してミナトは遠くへと飛んだ。
「あっちか!...ちと遠いわい。医療班すぐにワシの治療じゃ!ミナトを追いかける!」
「しかしっ!」
「4代目が命をかけて戦っておるのじゃぞ!先代がただ眺めているだけで、務めを果たせるわけなかろうが!」
普段から温厚なヒルゼンが怒声を迸ることが、どれほど異常なことか。九尾が完全復活したこと自体が異常なことではあるが。その気迫に逆らう部下は誰一人いない。手の空いている医療忍者はいなかったが比較的軽傷である者、あるいはある程度傷が癒えた者が指示を出した。
数人の医療忍者がヒルゼンの傷を癒す。チャクラを送る者と傷を塞ぐ者とに分担され、効率よくそして念入りに治療を行った。
巨大な爆発からどうにか難を逃れたミナトは、息を切らしていた。
「直ぐに結界を張らないと...ハアハア、チャクラが!」
「私は、まだ、やれるわ…」
ミナトの妻でありナルトの母である、うずまきクシナの背から鎖が飛び出した。それは九尾を縛り付ける。
「無理するなクシナ!君の身体はもう!」
「...わかってるわ、もう長くないってこともね。でもナルトのためにできるなら構わない。だって将来は里を救う英雄になるんだもの」
「クシナ、...君の言う通りナルトは英雄になる。でもそれは火影の子供だからとか、人柱力の子供だとかそんな理由じゃない。自分の力で切り開いていくんだ。..クシナ、.今の君にもう一度九尾を封印すれば身体が耐えられない。オレも体力がないから無理だ。...だからナルトに封印するよ。〈八卦封印〉でね」
覚悟を決めたミナトの瞳と声音に、クシナは目を見張る。それは怒りと納得という相反する感情による作用だった。
「何を言ってるの!?ナルトがそんな重荷を背負うことなんかないじゃない!火影の貴方ならわかるでしょ!?人柱力になった忍びがどんな扱いを受けるのかを!」
「...そうだね。確かにナルトが里同士の均衡を崩す力を得る必要は無い。オレも本当ならナルトに封印したくない」
「だったら...「でも」っ!」
「でも自分の息子だから預けたいんだ。完全にじゃなくていい。少しでいい。
ミナトは尾獣が抑止力であることを、もっとも理解している忍びと言ってもいいだろう。尾獣がどのような視線に晒され、どのような扱いを受けているのかを根本的に理解している。存在自体が危険極まりないというのに、それを体に宿した人間など爆弾を抱えているようなものだ。
いや、実際抱えている。
尾獣を宿した忍び、つまりは人柱力。その者の意思ひとつで、街や里を破壊させることが可能だからだ。彼等は存在を自ら望んだ訳では無い。強大すぎる力を分裂させて生まれた生物だ。
罪はない。
だというのに、弱者はそれの生を否定する。自分より強い存在は頼りたくなる生き物だというのに、強すぎる存在は恐怖の対象としてしか見ない。それを火影という里を守る忍びが知らないはずがない。
「ナルトのことを思うなら、封印なんかする必要ないじゃない!それが父親のすることなの!?私はナルトにそんな思いをして欲しくない!尾獣バランスのため。国のため。里のために。私のためにナルトを犠牲にする必要なんかないじゃない!」
「国を捨てることも里を捨てることも、それは子供を捨てることと同じだよ。それ以前にオレたちは忍びだ。ナルトならきっと正してくれる。里を守る長に選ばれたオレが、自分の息子だけを特別扱いはできない。家族を里を守る義務があるんだ。...君の残り少ないチャクラとオレのチャクラを組み込めば、いつか出会えた時にナルトの未来を支えられる。...信じてみよう。なんだってオレたちの息子なんだから!」
ミナトの全てをナルトに預けるという気持ちを、理解できないクシナではない。言わざるとも、心を読み取ることは造作もない。
だからその気持ちが痛いほどよくわかる。
息子にとてつもない重荷を背負わせてしまうことを。どのような扱いを受けるのかを。だがそれを乗り越えてくれる。その苦しみを糧に、前へ歩いてくれると信じている。
「結界が張られておる...九尾を外に出さないためか。いや、むしろ...」
ようやく追い詰めたというのに、それではこれまでの犠牲が無駄になってしまう。九尾襲来による死傷者は1000を超える勢いだ。今ここで終わらせなければ次はない。それを見越してミナトは結界を張っていたのだろう。
「3代目様!」
「無駄じゃ。これから先は九尾を外に出さぬために張られた結界で進めぬ」
「ではどうすれば?」
「2人に賭けるしかなかろう」
ヒルゼンの瞳には、2人が命をかけて終わらせようとしているのが明瞭に写った。ヒルゼンの方角からはナルトの存在は確認できず、2人が互いに向かい合っているようにしか見えない。
「小さくなったがまだ完全とは言えんな…」
ミナトが見た事のある印を組み、何かが身体にぶつかるような体勢を取った。すると九尾の巨体が半分ほどにまで縮小される。
何故小さくなったのか。ヒルゼンや周囲にいる上忍には理解出来ない。まさか2人がナルトに九尾を封印しようとしているなど、考えもしないだろう。人柱力だった親が子供に封印すれば、この先どんなことが待ち受けているか想像できないはずがない。
九尾が人の身長を軽く超える爪を突き立てる。ナルトに刺さるのを防ぐため、クシナとミナトがそれの軌道上に飛び込んだ。
「子供がいるのか!?」
「かばったようです!」
爪が2人の身体をボロ切れのように易々と貫く。九尾を封印するための儀式用台座に眠るナルトには、ギリギリで触れていない。あれほどの速度で閃き突き出された爪を、自らの身体で威力を阻害し子供を守った。親としての役割を果たすというものを体現したようである。
「まさか子供に封印するのか!?ミナト、よすんじゃ!」
「ナルト、父さんの言葉は...口うるさい母さんと同じかな。〈八卦封印〉...」
「ミナトぉぉぉぉ!」
眩いばかりの光が結界内を埋めつくし、ヒルゼンたちの視界までも奪う。ヒルゼンの声は、光に飲まれるように儚く消えていった。
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「うむうむ、元気そうで何よりじゃ♪」
見るからにご機嫌なヒルゼンが、スヤスヤと気持ちよさげに眠る赤子を見てだらしなく頬を緩ませる。
「火影様?」
「寝顔は笑みを浮かべて目を細めるミナトに瓜二つ。ぐずった時の怒る顔は、クシナを思わせるのぉ♪」
尚もヒルゼンの頬はだらけていく。
「...火影様?」
2度目の問いは少しばかり間隔が空いた。
「むふむふ...む、なんじゃ?」
「
「仕事よりこっちが優先じゃ。おほっ、欠伸もまたかわええのぉ。食べてしまいたいわい」
「渡しませんよ!」
今にも食しそうな勢いのヒルゼンから赤子を守る。当たり前のこととはいえ、何故ヒルゼンが機嫌を害しているのかがわからない。
「火影のワシから遠ざけようとは。いい度胸じゃの
「いくら火影様でも許せません!
「預けた恩を忘れよって!」
「それとこれとは話が別です!職務を放棄してまで来る必要はございません!」
「火影じゃからいいんじゃ!時には来たくなるもんじゃい!」
「
ミコトの言葉はもっともである。
九尾襲来からまだ1週間。被害の確認と死傷者の把握は、依然として進んでいない。里の中心部に現れたことが、被害の拡大を促したのは言うまでもない。被害の拡大を防ぐため、里の外へ追いやる作業も助長させていた。
不幸中の幸いだったのは、里の実力者たちの大半が里帰り中だったことだ。普段は他里との国境付近で警戒に当たっていた彼らも、その日は珍しく非番だった。
そのお陰でミナトが駆け付けるまで、耐えきれたという結果に至る。重なっていなければどれほどの被害になっていたことか。
彼らがいても、現在確認が取れているだけでも死傷者は1000を超えている。このままいけば、少なく見積っても2000にまで増えるだろう。
まさに不幸中の幸いだった。
「...わかっておる。わかっておるんじゃが、生まれてまもないナルトが不憫で不憫で仕方ない。両親から本当の愛情を与えて貰えないのは、命ある者としてあまりにも悲しすぎる。愛情を与えられなかった者が、どのような末路を辿って来たか。ワシは多くのそれを見てきた」
「...心中お察しします。確かにミナトくんやクシナくんから、真の愛情を抱けなかったナルトくんですが。何一つ心配することはありません。私たちがナルトくんを未来ある里を、世界を造り上げてくれる忍びに育ててみせます。彼が世界を憎まず、愛してくれるようなそんな人間に」
ミコトの夫であり、うちは一族の実質的リーダーであるフガクの瞳には煌めくものがある。それが友人同士であったミナト夫妻に対する悲しみ。そしてこれからの覚悟を秘めた光であることを、2人は察していた。
いつかナルトが、そして2人の血を引いているサスケが里を率いてくれると願う。かつて〈木の葉の里〉を創設した初代火影 千手柱間のように。
「うむ、その誓いは天晴れじゃ。誰に託せばいいか悩んでいたことが、馬鹿馬鹿しく思えるほどにな」
肩の荷が降りたように、穏やかな表情をうかべるヒルゼン。未だスヤスヤと眠り続けているナルトの髪を、優しく撫でる。まるで実の我が子のように力強くそして愛おしそうに。
自分たちの前から、里の中心部へ帰っていくヒルゼンの背中は眩しかった。ナルトの未来を明るくするためこれまで覚悟してきた気持ちを、さらに強化なものにしたように。
「ミナトくんが亡くなってから、3代目様も意気消沈していた。それを癒すためにナルトくんを見に来ていたのだろうな。お気持ちは納得できるが、職務を疎かにしてまで来てはダメだろうな」
「一仕事終えてからというのが宜しいでしょうね」
ヒルゼンを見送る2人の視線の先には、ヒルゼンの頼りがいのある背中があった。
後日またヒルゼンがやってきて、夫妻とちょっとした口論になったのはまた別の話。
はい、原作通りで面白要素ゼロぉ(某番組風)。
許してにゃん。
次話の更新は未定...。すみません