評価もUAも気付かずうちにすごい増えてますね!さあ、夏休みの間に少しぐらいはすすめましょう!
「あいつら馬鹿だろ」
そう愚痴っているのは、今年度入学者で屈指の人気を誇るうちはサスケだ。6歳とは思えない少しばかり大人びた容姿は、同級生や年下の女子から崇拝かと思うほどの信者数を抱えている。サスケからすれば迷惑な話ではあったが、慣れたものであまり気にしてはいないようだ。
将来を約束された名家に生まれたことが、良いことなのか悪いことなのかサスケにもわからない。努力しなくとも、多少のことはできる程度には力を受け継いでいる。だからといってサスケは修行を疎かにしたことはない。名家に恥じない実力と名声を得るために努力をしてきた。
兄の背が見えないほど離れていても、目標として見てきた。イタチからは「〈うちは一族〉ということに執着するな」と、よく諭される。
それはもし万が一
それがイタチの願うサスケの成長だった。
「まあ、仕方ないんじゃないか?あいつらからしたらナルトは恐怖の対象だ。十分すぎる理由だと俺は思うぜ」
「そうだとしても納得はできねぇだろ。ナルトは嫌いだが好きだ。そんなことを言われたら腹が立つ」
矛盾した感情ではあるが、シカマルたちはそれが何を示しているのかを理解していた。その間、ナルトは教室の外にある広場になんとも言えない表情をしながら立っている。ここは手裏剣術の練習場としても使われるため十分な広さがある。もちろんそれ以外の用途としても利用されるが、主な使用方法は手裏剣術か体術である。
「いいか?今回は特例として試合を認めるが二度目はないからな。今後このようなことがあるのなら、俺はお前らに一切授業を教えない」
「俺は気にしねぇよ。何故ならこの試合に勝つのは俺だからだ」
「オレも文句ねぇってばよ。どんな理由であってもイルカ先生に迷惑かけたくねぇし」
イルカの言葉に双方共に返事を返すが、それは対極的な意味合いを含んでいた。
因縁を付けた少年からすれば勝てば良いだけ。または入学成績3位に負けるはずがなく自分の方が上だという傲り。3位になれたのも、脅しをかけて得点を増やしたという根拠も証拠もない思い込み。それらが自然体でいながら、隙を見せていないナルトへ向けられる視線に含まれる感情だった。
対してナルトの場合は、イルカに余計な手間と迷惑をかけてしまったという罪悪感が心の中に渦巻いていた。自分が入学成績で3位という順位を出してしまったが故に、こんなことになってしまったのだと。
だがそれは仕方ないことなのだ。全力で試験を受けなければ、これまで育ててくれた義両親に申し訳が立たない。手を抜いて入学したとしても、それらは2人を冒涜することに他ならない。だが良好なまたは優秀な成績を残せば、周囲から訝しげな視線を向けられる。試験官を何かしらの方法で惑わしたという、根も葉もない思いを抱かせてしまう。
成績が良かろうが悪かろうが、結局はナルトにとってどうにもならない板挟みとなっている。そんな精神が不安定になってしまうであろう生活の中で、ナルトが負の感情を爆発させることがなかったのは、友人たちの存在と支えがあったからだ。
義兄弟であり
「マジかよ…。ナルトは何も悪くないだろ」
「別にいいんじゃない?」
「ああ!?」
イルカの突き放すかのような言葉に、苛立ちを覚えたサスケが我慢の限界を絞り出すかのように呟く。それに対してチョウジは間違っていないとも聞こえる主張したため、サスケは納得がいかないらしくチョウジに喰いついていた。
「落ち着けよサスケ。チョウジは何もこれが正しいなんて一言も言っちゃいねぇ」
「…だが間違っているとも言ってない」
「そうだな。けど俺も別にこれでいいと思ってる」
「何?」
シカマルが言うことに理解できないとばかりににらみ返すサスケだったが、シカマルはそれ以上何も言うつもりがないらしくナルトを見据えていた。それを見てサスケは諦めたようにため息を吐き出し、友人たちと同じように視線をナルトへと向ける。
「準備はいいな?始めっ!」
「だらっ!」
「…」
イルカの合図と共に少年はナルトへと飛び掛かるが、無表情にそれを躱すナルトの動きは流れるようだ。無駄な力が身体のどの部位にも働かず、しかし必要最低限の移動または体重移動で攻撃をいなす。見れば見るほど鮮やかで華麗に動き続ける。
「クソが!〈分身の術〉!」
少年が印を結ぶと、少年と瓜二つの姿をした人間が現れてナルトへと飛び掛かっていく。分身が攻撃を繰り出すと時間差で本体がナルトへと殴りかかった。しかし同じようにナルトは表情を変えずに見つめる。1つだけ違ったことといえば、攻撃を躱すのではなく受け流していることだ。拳を捌きながら脚による払いを受ける。
何故躱すのではなく受けるようになったのか。それは攻撃を繰り出している少年の表情を見れば一目瞭然だろう。全力でないとはいえ、口だけではないことを示す鋭い攻撃を躱されたことで精神の安定は崩れている。攻撃がかすることもしないので少年は、速度もない考えもない唯がむしゃらに攻撃を繰り出すだけになる。
力任せな攻撃を躱されることなく、真正面から受けられる現実が少年の心を余計に焦らせていた。人間は攻撃が当たらなければ苛立ちを示す。また受け止められることも精神的な不安を増やす結果になる。しかし攻撃を躱されるのと受け止められるのとでは、いささか自身が受けるダメージの種類が異なってくる。
躱されるということは、相手の技量が自身の技量に勝っているということを示す。反対に受け止められるということは、互いの実力が拮抗しているが決定打にならないということを示す。
しかし今回の戦闘に置いて、最初は攻撃を躱され続けたが今起こっているのは、攻撃を受け止められている。
攻撃を躱せるだけの実力差があるというのに、
つまりそれは舐められている。そんな現実に思い至った。
「馬鹿にしやがって!」
「馬鹿にしてるのはそっちだってばよ」
「黙れ!てめぇなんかの化け物が学校に通うことが、なんでできるんだよ!」
「...知らねぇよ。オレは助けてもらった恩を返すために強くなる。だから邪魔すんなってばよ!」
両手を掴まれたことでどうすることもできない少年は、憎々しげにナルトを睨み付けその腕から逃れようともがく。だがどう角度を変えて動かそうにも、びくともしないことに焦りが募っていく。
「お前を育てた奴は気でも狂ってたんだろ!?お前を利用して里を壊す気なんだよ!っうああぁぁぁぁ!」
焦りと苛立ちが募りに募って、口にしてはいけないことを口走ってしまう。それはナルトにとって無視できない言葉であり、怒るには十分すぎる理由だった。掴み取っていた腕を砕かんばかりに力を込められ、少年はあまりの激痛に悲鳴を上げざる終えない。
「それを二度と口にするなってばよこのクソ野郎がぁ!」
「グボァ!」
掴み取っていた両腕をクロスさせて無理矢理捻り込む。痛みに耐えられず、体勢を崩して無防備になった腹部に膝蹴りを加える。痛みで前屈みになったところを、一本背負いの要領で地面に叩き付けた。
あまりの衝撃に一瞬呼吸困難に陥った少年は、呼吸を所々途切れさせながらも立ち上がる。口元からは血が垂れており腹部に手を添えているところを見ると、かなりのダメージを負っているのがわかる。
「…てめ、こ、殺…す。お、俺、が…」
「…これでわかっただろ。お前はオレに勝てないって」
「この勝負…「俺、は…負けない!〈忍法 毒煙の術〉!」おいっ!」
「なっ!」
イルカが試合を終わらせようとした瞬間、少年が忍術を発動させた。満身創痍の身体であるはずなのにそれを感じさせない声量で発すると、名前通りに毒々しい紫色の煙が周囲に流れ出した。
「てめぇオレを狙えってばよ!」
「知らねえ、なぁ!ゲホゲホ、俺の、言葉を…、聞かず、てめえ、の、味方…してる、や、つら…には、ハアハア、お似合い、だぜ!」
煙はナルトの方面へ流れることはなく、心配そうに見守っていたクラスメイトの方へと流れている。煙を吸ったクラスメイトたちが激しく咳き込み苦しそうにしている。中には毒性に耐えられず、気を失って倒れている生徒が何人もいる。
「ゲホゲホ、クソっこの程度の火じゃ防げねぇ!」
「面倒くせぇな!ゲホゲホ」
「ゲホゲホ、ここまで来るなんて!」
サスケ・シカマル・チョウジは倒れる様子はないが、それでもかなり危険な状況だった。煙から逃げようにもよほど重たいらしく、地面すれすれを移動する煙にクラスメイトが巻き込まれ、息止めの限界を迎えて吸い込み倒れていく。
「アハハハハハハハハ!全員死ね!俺の考えに納得しない奴らは全員皆殺しだ!ハハハハハハハハ!」
「この馬鹿野郎が!」
ナルトが関係のないクラスメイトまで巻き込む少年に、怒りの矛先を向ける。
『おい、ナルト』
『九喇嘛?』
ナルトの脳に響くような低い声が聞こえた。気が付けば床が水で覆われた大きな門のある場所に来ている。
『放っておけば全員気絶するぞ』
『わかってるってばよ。でもどうしたらいいんだ?』
『空へ打ち上げろ。それから思いっきり燃やせ』
『空へ移動させるのはいいけど、燃やすってどうするんだってばよ?』
『いいのがいるじゃねぇか』
ニヤリと笑った九尾にナルトはしばしの間、ぽかーんとしていたが何をすれば良いか思いつき大きく頷いた。
『サンキューだってばよ九喇嘛』
『ふん、これくらいで礼はいらん』
『九喇嘛ってばやっぱし優しいってばよ』
『バ、バカそ、そんなことあるか!ワシはお前が死んだら困るから言っただけだ!』
わかりやすくそっぽを向いた九尾に嬉しくなって笑顔を浮かべたナルトは、意識を浮上させ自分がすべきことを実行に移した。
「みんなに危害を加えやがって!オレが終わらせてやるってばよ!〈風遁
ナルトが術を発動させると、周囲に広がっていた毒の煙が動きを止めて集まり始めた。煙が集まってくると大きく巨大化していき、近くにあった樹をも軽く越えるほどにまで成長する。長方形に形作られその煙量に驚かされる。
「むむむむむむむ!〈風遁 気流乱舞!〉」
長方形に形作られた煙を空高く移動させながら、遠くへ移動していた人物へ声をかける。
「サスケぇ!火を頼むってばよ!」
「俺の火じゃ消えねぇぞ!」
「オレが力貸すってばよ!」
「何かわからんがしゃあねぇなっ!いくぜ〈火遁 豪火球の術〉!」
業火の玉がサスケの口から吐き出され煙へと飛んでいく。サスケが言ったように、煙自体を消失させることは簡単ではなかった。だがそれは
「〈風遁 烈風掌〉!」
ナルトが合掌すると暴力的なまでの風が発せられ、煙に衝突寸前だった業火の玉を背後から飲み込む。膨大な風圧と業火が合わさったまま煙に衝突すると、とてつもない衝撃波と爆音がアカデミーの広場に轟いた。黒色の煙が晴れると、そこにはあったはずの紫の煙はなく青空が何事もなかったかのように広がっていた。
『よく理解したなナルト』
『火が駄目なら威力を上げればいいだけの話だってばよ。また頼むぜ九喇嘛』
『気が向いたらな』
そう言う九尾の顔は微笑ましそうにしている。かつて〈木の葉の里〉を破壊していたとは思えないほど穏やかな笑みだ。どれだけナルトという存在が九尾に良い影響を与えていたのか、簡単には測ることができない。
きっとよほどの変化を与えるほどの試練を、ナルトは乗り越えて九尾を納得させたのだろう。
「イルカ先生!みんなを医務室に運ぶってばよ!」
「わかった急げ!動ける奴は全員救助してくれ!」
毒煙から逃げるのを誘導させていたイルカが、ようやく戻ってきたのを見つけたナルトが声をかける。テキパキと倒れているクラスメイトを運ぶナルトを、サスケたちが暗い表情を浮かべながら見ていた。
「万事休すだったがどうにか間に合ったな」
「言っただろ?別にいいって」
「それがどういうことなのか教えてくれないか?」
「簡単だよサスケ。あの場でナルトを特別扱いしていたら、ナルトの評価はもっと悪いことになってた。最悪ナルトが誰かに暗殺される可能性があったもん」
「…」
チョウジの真面目な顔つきに、サスケは「冗談だろ」とは言えなかった。チョウジがそんな非常識なことを言うはずもなければ、今の状況で口にできるはずがない。そういう理由でサスケは反論することができなかった。
「そういうわけで、俺たちはイルカ先生の言葉は間違ってないと思ったわけだ。もちろん正しい言葉遣いと方法とは思ってねぇよ。なんせナルトはただ因縁というかいちゃもん付けられただけだからな。そこに対してサスケがイルカ先生の言葉に怒りを抱いたのは理解できる。きっとあれはイルカ先生なりのナルトへの思いやりだったんじゃねぇかな」
「…俺はナルトがこれ以上苦しまないようにしたい。見ているこっちがこれだけ辛いんだ。ナルトが感じてる哀しみはきっと普通じゃない」
「…だよね。ボクもナルトが感情を爆発させないことが疑問だよ。でもナルトの気持ちを軽くできるのはきっとボクたちだけなんだ。だからボクは見返りを望まずに手を差し伸べるよ」
「まったくだ。でもチョウジはお菓子なら要求しそうだけどな」
「え?あ、それいいね!」
「おいシカマル、余計なこと言うなよ!」
悪戯小僧のような悪い笑みを浮かべたシカマルに、サスケが割と本気でたしなめようとする。だが時既に遅しで、チョウジの眼に良からぬ光が灯ったのを見てサスケは諦めを決定した。
「お~い、3人とも手伝ってくれってばよぉ!」
「うん、今行くよ。2人とも仕事だよ」
「まったく仕方ねぇ」
「面倒くせぇけどサボるのも面倒くせぇ」
いつも通りの2人に苦笑を浮かべながら、チョウジは自分たちを呼んでいるナルトへと脚を動かすのだった。
ナルトやクラスメイトに危害を加えた少年は、退学を言い渡され家族共々里外へと出て行った。彼を支持していた数人も居心地が悪くなったのか数日で自主退学を希望した。元クラスメートの報告によると、彼等に似た人物が生きる屍となっているのを見たらしい。
重い話でしたが次からは少しくらいは明るくいきたいです!
忍法 毒煙の術・・・オリジナル術。術者の技量により毒性を変化させることができる。
風遁