ダンジョン4階層
薄い青色をした通路の中で人影が無数の異形と戦闘をしていた。
「ふっ!」バキッ「ギャン!?」
「はっ!」ボキッ「グペッ!?」
鋭い拳がコボルトの頭を砕いたかと思えば鞭のようにしなる蹴りがゴブリンの首を折る。
2体のモンスターが地に伏し、動かなくなるのを確認してから人影-ベルは静かに構えを解いた。
「ふぅ。こんなもんかな。」
長い間戦闘をしていたのだろう。彼の周りには無数の異形の死体が転がっていた。中にはゆっくりと灰になろうとしているのまであった。
ーお疲れだったな。ベルー
半身である兄貴分が声をかける。彼は基本的に手を出さず索敵と牽制などを主にしている為、転がっている死体は全てベルが屠ったのだ。その数、およそ50体以上いかに4階層といえどつい先日恩恵(ファルナ)を刻まれた者の戦果とは到底思えないモノだ。
「やっぱり恩恵って凄いね。あるのと無いのとじゃ全然違う。」
ーまぁ、仮にも神様からの祝福(ギフト)だからな…それがしょぼかったらオラリオはここまで発展してないだろー
ベルは自身の変化に戸惑いつつ感触を確かめ、兄は自身の考えを述べた。
先日、エイナによって開催された勉強会(デスマーチ)を何とかへスティアと乗り切りった翌朝、ダンジョンで肩慣らしをしに来たのだ。入口付近の受付にエイナがいたので挨拶したが微妙な顔をされた。恐らく「昨日の今日で」とでも思っているのだろう。しかしベルのステータスを知っているので4階層までと釘を刺してベルを送り出した。
ーベル。そろそろ時間だろ?ー
「うん。魔石をはぎ取って帰ろうか」
ベルは腰のポーチからナイフを取り出して魔石をはぎ取っいく。
このオラリオではダンジョンからとれる魔石を加工した魔石製品の輸出により莫大な利益を上げている。冒険者はダンジョンに潜り、討伐したモンスターの魔石をギルドで換金して収入にしている。
とはいえ…
ーゴブリンやコボルトの魔石程度じゃ大した額じゃねーなwwー
「言わないでよ。悲しくなってくるから」
上層に出現するモンスターの魔石は大きさや質といったものが総じて低いので大した金額にならない。
泣き言を言いながらも黙々と魔石をはぎ取ること数十回。途中ドロップアイテムの牙や爪なども回収しポーチに入れベルは立ち上がった。
「さて、急いで戻ろうか。」
ー最短で行けば数分だろうよー
バチッと何かが弾けたような音がした瞬間ベルの姿が消えていた。ベルの立っていた場所には僅かな砂埃が舞っているだけだった。
ーーーーー
「はい、査定が出たよ。締めて7000ヴァリスね。」
「まぁまぁですかね?」
白亜の摩天楼「バベル」3階換金所フロアにて換金済みのお金が入った袋をトレーに乗せたエリナの言葉にベルが軽口を叩く。
「十分異常(イレギュラー)よ。」
エリナの呆れを含んだ小言にベルは肩をすくませる。実際恩恵を貰ったばかりの新人は先輩などにつき経験を積むものだ。そしてソロで潜って稼げたとしてもせいぜい1~2階層程度で1000ヴァリスいけば良いほうだろう。それを約半日もかけずにこれだけ稼ぐベルは普通じゃないようだ。
「そういえば今日は随分早くに切り上げたね。君なら1日籠るかと思ってたけど。」
「神様から昼過ぎには帰ってこいって言われてたので。」
エイナのふとした疑問にベルはあっさりと返す。朝ホームを出る時に「ベル君ダンジョンに行くのはいいけどお昼ぐらいには帰ってくるんだよ。僕の神友達に君を紹介したいんだ。」との事らしい
「それじゃエイ『ふざけるな!!たったの16000ヴァリスだと!?』ナさん…?」
突然聞こえた怒声にベルとエイナは揃って声の主を見た。そこに居たのはいくつか先の受付で職員と揉めている男だった。
「ドロップアイテムだってあったんだぞ!?なぁっ!もう一度確認してくれよ!」
「ふざけるな!こちとら何年もこの仕事で食ってきてんだ。いい加減にしろ!!」
どうやら冒険者の男は職員の出した査定額が不服らしく異常なくらいに詰め寄っていた
「…鬼気迫る感じですね。」
「あぁ…多分ソーマファミリアね。」
ベルの呟きにエイナは溜息をつきながら答えた。
「ソーマって言うとあの神酒ですか?」
「よく知ってるわね。えぇ、ソーマファミリアは主神の名を冠するブランドのお酒を作る酒造ファミリアよ。なんでもそのお酒を作るのに莫大な費用がかかるとかであぁいう風に資金集めに躍起なのよ。貢献度の高い人にはそのお酒を1番早く飲めるらしいし。」
「ふ〜ん…」
話を聞きベルは先程の男を見る。職員が話にならないとばかりに立ち去ったせいか男は頭を抱えて何やらブツブツ呟いている。その姿はまるで…
ー薬物中毒みてーだなー
(やっぱりお兄ちゃんもそう思う?)
ーあぁ。あの目はもう狂気の類いだー
小刻みに震える体やハイライトの消えた目。うわ言のようにブツブツと言っている様はもはや末期症状だ。
暫くして男はフラフラと換金所を出ていった。
「ギルドはどう対応してるんですか?」
男を視線で見送った後ベルはエイナに訪ねた。エイナは少し考えた後顔を寄せてきた。大きな声では言えないらしい。
[正直ギルドとしては判断に困るところなのよ。基本的にギルドは中立って事になってるからなんか事件にでもならない限り手出しができないわね]
[なるほど…]
[それに彼らのやっていることは要はファミリア内での競走だからギルドとしてはオラリオに貢献しているとしか取れないのよ。ギルドが推奨している面もあるしね。]
事実競争心というものは人のやる気を引き出すにはもってこいなのは確かだ。ソーマファミリアが中堅ファミリアながら結構稼いでいるのもそういうのがあるからだろう。
ーていうかベル。そろそろ時間ヤバいぞ?ー
「あ…そ、それじゃぁエイナさん貴重なお話ありがとうございました!僕は帰りますね!」
「あ!ちょっとベル君!?」
兄からの忠告に慌てたベルは矢継ぎ早にエイナに礼を言い走り去って行った。
「……もう、そそっかしいんだから。」
どこか優しい笑顔を浮かべそんな独り言を呟くエイナを影から見ていた同僚は影で「エイナに春が来た!」と騒いだため後でエイナにたっぷり絞られたそうな
いくら亀更新とはいえ遅くなりました( ̄▽ ̄;)