「やァ、待たせたネ」
イベント終了後、俺と宇佐美さんはレックス竜屋から渡したいものがあると言われ、彼の控室でレックス竜屋が戻ってくるのを待っていた。
「まずは、素晴らしいデュエルを見せてくれたことに感謝させてヨ。タッグデュエルはたまにするけド、あんな綺麗な連携プレーでの勝利なんてそうそう見られないからネ」
「いえ、大したことでは…」
「謙遜することはないヨ。…で、そのことへのお礼と、有望なデュエリストの卵へ先達からの餞別としてカードをあげようと思ってネ」
そう言って、レックス竜屋は宇佐美さんに《ブラキオレイドス》と《ヘルカイドプテラ》を差し出す。
「え!?い、いいんですか?」
「どっちもボクはたくさん持ってるから、1枚くらいあげても問題ないのサ。キミは融合素材を持っているし、大切にしてくれそうだからネ」
「あ、ありがとうございます…!」
ペコペコと頭を下げる宇佐美さん。《ヘルカイドプテラ》を貰ったことで《ヘルホーンド・ザウルス》の融合素材が揃ったし、《ブラキオレイドス》も彼女のデッキのどのモンスターよりも攻撃力が高いから喜びも一入だろう。
「ああ、モチロン東郷クンにもあげるヨ。キミには…これがいいかナ!」
これは…!
暗黒の海竜兵
星4/水属性/海竜族/攻:1800/守:1500
効果なし
水陸両用バグロス Mk-3
星4/水属性/機械族/攻:1500/守:1300
「海」がフィールド上に存在する限り、
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
「キミのデッキはパワーが不足気味のようだからネ。本当は上級モンスターとかがいいんだろうけド…ちょうど良いカードの持ち合わせがなくってサ」
「い、いえ。助かります。ありがとうございます」
この2枚は本当に助かる。
《暗黒の海竜兵》は単純に打点が高いし、《水陸両用バグロス Mk-3》は《伝説の都 アトランティス》を発動していれば、グラヴィティ・バインドの影響を受けない攻撃力1700のダイレクトアタッカーになるから俺のデッキには非常に相性が良い。
『良かったね。マスター』
『ああ。これで、毎ターン500ずつチクチク削らなくても済むようになる…!』
「キミたちは十分才能があるよ思うヨ。もしこれからも腕を磨いて、プロリーグに行けるくらいのデュエリストになったら…今度はハンデ無しでデュエルしてみたいネ!」
「は、はい!」
「その時は…正々堂々一対一で戦いましょう!」
「フフフ、その時を楽しみにしてるヨ?」
「…良い人、でしたね」
「うん。軽薄そうな人かと思ったけど…さすがはプロ、っていうところかな」
何度も頭を下げてからレックス竜屋の控室を辞すと、既に会場は閑散としていた。
「…でも、控室で待たせてもらえて良かったね。下手したら、『デュエルして』とか『デッキ見せて』とかって観客の人たちに囲まれてたかもよ?」
「そっ、それは困りますね…」
劇的な逆転勝利だっただけに、観客席も大盛り上がりだったが…俺も宇佐美さんもあまり目立つのが好きではないタイプなので、もみくちゃにされるのは勘弁して欲しい。
「ともあれ、デュエルに勝てて良いカードも貰えて万々歳だよ。…ありがとうね、誘ってくれて」
「い、いえ。私だって、東郷さんが来てくれなかったら何もなかった、でしょうし…」
照れているのか、宇佐美さんが頬を赤らめる。
「それで、ですね。東郷さん…」
「やあ2人とも!一週間ぶりだね!」
宇佐美さんが何か言いかけたが、突然聞き覚えのある声が背後から呼びかけてくる。
「…吹雪さん?なんでこんな所に?」
振り返ると、長い髪の少女を連れた吹雪さんが駆け寄ってくるところだった。
「キミたち2人を探していたんだよ。今日はここに来ると聞いていたからね。用は色々とあるんだけど…まずはこれかな」
そう言って、吹雪さんは20枚ほどのカードの束を差し出してくる。
「…これは?」
「実はね…」
吹雪さんの話によると、以前宇佐美さんからカードを脅し取ろうとして俺に負けた偉井田の母親は天上院吹雪ファンクラブの一員で、偉井田は『吹雪さまのお友達からカードを奪おうなんて何ということを!』とみっちり絞られたらしい。
偉井田の父親が宥めようとしたが火に油を注ぐ結果に終わり、最終的に『そもそもあなたが強いカードなんて与えたからこんなことになったのよ!』とデッキ没収という処分が下されたそうだ。まあ、金を持っているのは親であって偉井田本人ではない以上、あのデッキもほとんど父親に買ってもらったカードで占められているのだろうから、そこまでおかしい話ではない。
だが、件の母親はその没収したデッキをお詫びとして吹雪さんのところに持ってきたそうだ。吹雪さんは断ろうとしたが断り切れず、結局魔法・罠カードは半ば押し付けられるようにして受け取ることになったらしい。
…吹雪ファンクラブすげぇ。
「かといって、ただその場にいただけの僕が貰うのもおかしいからね。被害者であるキミたち2人が受け取るのが筋だと思うんだよ」
「…じゃあ宇佐美さん、半分ずつで分ける?あ、デュエルしたのが俺だから俺だけ受け取れってのはナシね」
「ええっ?なら、その、はい…」
また俺に譲るつもりだったらしい宇佐美さんは少し困ったような表情を浮かべたが、素直に頷いてくれて何よりだ。
「で、2番目の用なんだけど…明日香?」
吹雪さんが振り向いて声をかけると、少女がこちらへと一歩踏み出す。
「私は天上院明日香よ。よろしくね」
「ああ、やっぱり吹雪さんの妹さんか。東郷義人だ、よろしく」
「う、宇佐美彰子です。よろしく、おねがいします…」
やっぱり幼少期の明日香か。
アニメでも少しだけ描写があったし、多分そうだろうと思っていたが。
「兄さんからあなたが《竜騎士ガイア》を当てたと聞いて、見せてもらいたいと思って来たのだけど…」
「ああ、そんなことを言ってたね…」
だが…
「でも、《竜騎士ガイア》は家に置いてあるんだよね。超が付くレアカードだから落としたり、盗まれたりしたら怖いし」
オークションで確認したら、八桁の値が付いていたからな…
しかしこれでも、《ブラック・マジシャン・ガール》の足元にも及ばないのだから恐ろしい。
「だったら、キミの家にお邪魔してもいいかな?宇佐美君も、キミとカードをどう分けるか相談する必要があるだろうし…」
「私からも、お願いするわ」
3人を家に入れる、か…
『…どうする、エリア?』
『まあ、大丈夫じゃないかな?私の部屋にさえ入れなければ、だけど』
同居人であるエリアは反対するつもりはないようだ。
となると、俺の判断次第となるが…
「まあ、勝手に家の中を歩き回ったりしないならいいですよ。父の書類とかは混ざると大変な事になるので…」
「勿論さ。じゃあ、案内してくれるかい?」
そういうわけで、俺は吹雪さんたち3人を家に招くことになった。
「…そういえば、東郷君はもうこの大会のことは聞いたかい?」
俺の家へと向かう途中、吹雪さんがそんなことを言って1枚の紙を手渡してきた。
「小学生が対象のジュニア大会ですか…」
来月、結構大きなデュエル大会が開かれるらしい。
俺は現在小学生だから、当然出場資格はある。
「賞品の欄を見る限り、キミが興味を持ちそうだったからね」
「優勝賞品は、新規カードを含むカードのセットですか。…って、これは……」
優勝賞品が書かれている欄の背景は、上部から差し込む陽光に照らし出される海底都市…とても見覚えのあるイラストだ。
「《伝説の都 アトランティス》に関係あるカードが賞品というのは、見逃せないだろう?」
「ですね!これは是非とも参加しなければ…」
海皇シリーズはさすがにないだろうが、《アトランティスの戦士》や《海》に関係するモンスターなら是非とも欲しい。あるいはアトランティスそのものでも良い。核となるフィールド魔法が1枚だけというのも問題だし。
「参加方法なんかも書いてあるから、忘れない内に申し込んでおいた方が良いと思うよ」
「はい!」
ネット申し込みの場合は、この大会名で検索してサイトに飛んだ上で…
「あ、あの。東郷さん?お家、通り過ぎそうになってますよ?」
「あ…ごめんね、宇佐美さん」
つい夢中になって家の前を素通りしそうになってしまった。
謝りながら鍵を開けようとして…あることに気が付いた。
「鍵が開いてる…?」
主人公のデッキ強化計画発動です。
いい加減増強してあげないとデュエルシーンが書きにくいので…
では次回、『『教授』登場』にてお会いしましょう!