「…良いデュエルでした。鮮やかな逆転勝利でしたな」
デュエルを終えたグリモはこちらへ歩み寄ると、笑顔で手を差し出してくる。
「…こちらも、あと1ターンあれば敗北していました。グリモさんもお強いですね」
その手を取って、握手する。
「凄いデュエルでした…!」
「デュエルリングでのデュエルというのも、一風変わって良いものだね!」
観戦していた3人もやって来る。
「ところで…カードと心を通わすとか、意思疎通がどうこうって言ってたけど…どういう意味だい?」
…あ。そういえば、つい熱くなって皆の前で精霊云々の話をしてしまったな。
誤魔化すのは…付き合い長くて好奇心が強い吹雪さん相手だと無理か。となると…
「皆は、カードには精霊が宿っているって言ったら信じる?」
「せ、精霊…ですか?」
きょとんとする3人。
「…それは、例えという話ではないのよね?」
「勿論」
「
「…まあ、そういうような面もありますね」
どういう風に説明しようか…
「今から約3000年前、古代エジプトでは魔術師たちが魔物や精霊の封じられた石板を操り戦っていたそうだよ。これがデュエルモンスターズの原型、ディアハ。やがて魔術師たちは歴史から消え、石板たちも地下深く眠りについた。トートの書に記されたその伝説はタロットカードを生み、そしてエジプトで調査を行ったペガサス会長によってデュエルモンスターズという形で復活した」
ってアニメでシャーディーが言ってた。
「古代エジプトにはデュエルディスクもデュエルリングもなかったから、石板に宿る精霊を扱う能力を持つことがデュエリストの最低条件だった。現代人にはまず無理だけど、古代人の血は薄くなっただけで無くなったわけじゃない。だから俺のように、たまに精霊を見たりできる人間が生まれるんだ」
「我が主、ラフェール様も精霊を見る力を持つお方。あの方はガーディアンの精霊たちを家族と呼び、時に身を以って守ることで絶対的な絆を築かれた。かつて武藤遊戯殿に勝利できたのも、精霊たちとの絆があればこそ」
「信じればデッキは応えてくれるっていうのは嘘じゃない。初めから精霊が宿っているカードはほとんどないけど、大切に扱えば共に戦う中で成長していき、吹雪さんの言うようにやがては精霊まで成長することもあるからね。精霊たちは気づいてもらえなくても、デュエリストに尽くしてくれるから」
「「「…………」」」
俺とグリモの話に言葉が出てこない様子の3人。
「…まあ、無理に信じてくれなくてもいいよ。俺を頭のおかしい人間だと思うのは困るけどね」
さすがに急に言われても受け入れられないか、と苦笑いする。
「い、いえ。東郷さんが言うなら、私は信じます」
と、宇佐美さんが少し慌てたように言ってくる。
「まあ、僕も東郷君がこんな嘘を言うわけないってことは知ってるからね。…それに、デュエリストと精霊の禁断の恋なんてロマンチックじゃないか!」
「正直言って信じがたいけど…IS社の偉い人までそうだって言うのなら、嘘や冗談だなんて言いきれないわね」
明日香は半信半疑のようだが、宇佐美さんと吹雪さんは信じてくれるようだ。
仲の良いこの2人に白い目で見られるのはかなりへこむので、信じてもらえるのは正直嬉しい。
「ところで、僕たちのデッキにも精霊はいるのかな?精霊を見れるなら、是非教えて欲しいんだけど…」
幾分か目を輝かせながら吹雪さんが問いかけてくる。
「う~ん、精霊の気配は感じませんけど…少し、デッキを見せてもらえますか?」
「勿論だよ。ほら、明日香も」
「ええ」
「わ、私もお願いします…」
「そういうことでしたら、私のデッキも見ていただけませんかな?」
そういうわけで、4人のデッキを見せてもらう。
…宇佐美さんと吹雪さんはほとんど知ってる通りのデッキだ。グリモもほぼ予想通り…というか、《手札抹殺》とか《血の代償》とか入れてるよこの人…。明日香は……ノーコメントで。
で、肝心の精霊だが…
「…精霊が宿っているカードはありませんが、かなり力が宿ってきているカードは何枚かありますね」
「おお!どのカードだい?」
「そうですね…」
吹雪さんのデッキは《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》と《褐色のウォリアー》。宇佐美さんのデッキは《二頭を持つキング・レックス》。
明日香のデッキはなし。というか《
グリモのデッキは《不敗将軍 フリード》と《戦士ダイ・グレファー》、そして《デーモン・テイマー》だ。3人より数が多いのは、デュエリストとしての経験の長さの差だろうか。
「私のデッキにはないのね…」
「まあ、まだ明日香は何度もデッキを組み替えて色々と試している段階だからね。長く使っているカードが少ないなら、仕方ないんじゃないかな」
「私や吹雪さんみたいに、種族を統一してみるといいのかもしれません…」
とりあえず打点が高いのを片っ端から入れてみました、って感じのデッキだからな…何かコプセントを決めるのもいいだろう。
「…義人殿。もう1つ頼みたいことがあるのですが……」
「何でしょうか?」
一方、何やら考え込んでいたグリモがこちらに顔を向ける。
「この3枚。どれか1枚を受け取っていただけませぬか?」
「え?」
精霊が目覚めそうなカードを自ら手放すのか?
「滅多にデュエルをしない私の手元に置くより、貴殿に持ってもらう方が成長しそうですからな。それでもし精霊が目覚めたならば、また私に見せていただけませんかな?返せとは申しません。ただ、私のカードから精霊を目覚めさせてみたいのです。もしかしたら、私にもその精霊なら見えるかもしれませぬし…」
「なるほど…」
そういうことなら…受け入れようか。では、この3枚の中から選ぶとすると…どれがいいだろう?
《不敗将軍 フリード》は戦士族主体というわけでもない俺のデッキでは効果が使えないし、グリモのデッキのエースのようだから持っていくのは不味いな。
《戦士ダイ・グレファー》は使えなくはないが…これも主力の1つである《ドラゴン・ウォリアー》の融合素材だし、何よりストーカーとして有名なカードの精霊をエリアの傍に置くのは嫌だ。
となると…
「では《デーモン・テイマー》をいただいてもよろしいでしょうか?」
「勿論ですぞ。では、このカードを頼みますぞ」
グリモから《デーモン・テイマー》を受け取る。
『ふ~ん。《デーモン・テイマー》を選んだんだ…』
『エリアみたいな霊使いと効果が近いカードだからな。同じデッキに入れたりできそうだろ?』
『それはそうだけど…なんだか、デュアル中に《デーモン・テイマー》の足を見てたよね?』
『カードのイラストと、ソリッドビジョンで服装が違うなって思ってただけなんだが…』
《デーモン・テイマー》の容姿が結構好みなのは否定できないが。
『……それに、エリアたちと男の精霊が一緒にいるって、何か嫌だし…』
精霊であるエリアが他の男に目を付けられることはないが、同じ精霊なら分からんからな。
『えっ?そ、そういう理由?』
『…動物とか、同性愛者じゃない女性モンスターなら許すが、男の精霊を同じデッキに入れるのは嫌だ』
『…フフッ、主は独占欲の強いお方なのですね』
からかうような口調で、ルイフェが珍しく口を挟む。
『…悪いか?』
『いえいえ。精霊に愛情を注ぐのは、主として当然のことかと』
『それにしても、やはり主はストレートロングヘアの女性が好みなのですね。良かったではないですか、エリア殿』
ヌルい視線を向けてくる双子精霊。
こいつら、完全に俺たちで遊んでやがる…!
「…あ、あの、東郷さん?どうしました?」
「あ、ああ。ごめんごめん。ちょっと精霊たちと話していてね」
…そういえば皆と話している最中だった。
「見えるだけじゃなくて、話すこともできるのか…」
「なんだか、羨ましいです…」
「先ほどのデュエルでも、そのような話を伺いましたな。ラフェール様は、話すことまではできないとおっしゃっていましたが…」
そういえば、エアトスたちがラフェールの前に姿を現すことはあっても、会話とかはしてなかったな。
精霊を扱う能力では十代、万丈目、ヨハンのGX勢の方が優秀なのか。
「…っと、あまり長々と私の都合に付き合わせて申し訳ありませんでしたな。では、このペガサス城を案内してさしあげましょう。やはり…武藤遊戯殿縁の場所が良いですかな?」
「ペガサス城の見どころと言いますと…ここですかな」
4人でグリモの後に続き、廊下の突き当たりあたりまで案内される。
「ここがかつて、武藤遊戯殿が宿泊されたという部屋です。まあ、当時のまま保存されている、というわけでもありませぬが」
「ここが、あの武藤遊戯が1晩を過ごした部屋…!」
「このテーブルで、決勝トーナメントに備えてデッキの最終調整なんかをしたんでしょうか…」
アニメで出た通りの普通の部屋だが、皆は興味深そうに部屋を見回している。
「本日はこれらの部屋を利用していただきますので、夜にゆっくりと調べられるがよかろう」
「えっ!?ほ、本当ですか!?」
目の色を変える吹雪さん。俺にはよく分からないが、有名人の泊まった部屋というのはやはりウリの1つになるのだろうか…。
「本当ですとも。ささ、次に参りますぞ」
グリモに促され、廊下に戻る。
「こちらは城之内克也殿、そちらは孔雀舞殿が宿泊された部屋ですが…内装は変わりませぬので。次は武藤遊戯殿、城之内克也殿が初めてタッグデュエルを戦ったデュエルリングへと案内してさしあげましょう」
ペガサス城から出ると、そのまま階段を下って地下へと潜り、しばらく進む。
やがて、中華風の装飾が施された大きな部屋に出た。
「ここはかつて武藤遊戯殿と城之内克也殿が、プレイヤーキラーである迷宮兄弟とタッグデュエルを戦った迷宮ステージですな」
「迷宮兄弟?」
「あの、武藤遊戯を苦しめたという伝説のデュエリスト…だったかしら?」
「まあ、善戦できたのは迷宮ステージという特殊なルールと、ペガサス会長に特別に作ってもらった《ゲート・ガーディアン》のおかげらしいけどね…」
たしかここはまず参加者が足を踏み入れない、隠しステージの墓場フィールドのそのまた奥、一度入ったら戻ってこれなさそうなので引き返しそうな迷路を越えた先にあるんだったかな?
どうやら遊戯一行しか訪れていない、というかキースに入り口を塞がれなかったら誰も訪れなかったであろう場所に配置されたあたり、ペガサス会長からの扱いは実はかなり悪かったのでは…
「折角ですから、当時のルールで遊ばれていきますかな?」
「え?出来るんですか?」
迷宮兄弟はいないけど。
「このデュエルリングは特別製ですからな。1ヶ所のみ変更されておりますが、それ以外は当時のままとなっております。《迷宮壁-ラビリンス・ウォール-》発動!」
グリモが部屋に置かれていた《迷宮壁-ラビリンス・ウォール-》をデュエルリングの中央あたりに追加された部位にセットすると、フィールド上に迷路のような仕切りが出現した。
「これは…!」
「これが、迷宮ステージなんですか?」
「その通りですぞ。説明させていただくと…」
ルールは遊戯たちが迷宮兄弟と戦った時とほぼ同じようだ。…つまり、TRPG的な言ったもん勝ちの俺ルールも有効というわけである。
変更点は、《迷宮壁-ラビリンス・ウォール-》が5D'sの《スピード・ワールド》のような扱いになっていることだろうか。
「ちょうど4人ですし、2対2に分かれてやりますか?」
「そうだね。じゃあ明日香、僕と組もう。東郷君は宇佐美君と組むんだろう?」
「まあ、そうなりますよね。…宇佐美さん、それでいいかな?」
「は、はいっ!」
そして、吹雪さんと明日香が攻撃側、俺と宇佐美さんが守備側となってプレイしてみた。
「私は《屍を貪る竜》を3マス前進して、《女豹の傭兵》を攻撃します!」
「ふふっ、だが途中のマスには《落とし穴》が仕掛けられている!」
「ああっ!?」
「よし、僕のターンだね!《女豹の傭兵》を4マス前進だ!」
「あ、そこはこっちの《落とし穴》がありますね」
「なんだって!?」
宇佐美さんと吹雪さんのモンスターが仲良く《落とし穴》に落ちる。
「大丈夫よ、兄さん。別方面から進んでいる《インフェルノ・ハンマー》を6マス前進させて、《マーメイド・ナイト》を攻撃するわ!」
「永続罠、《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》発動!重力の枷に囚われて、4つ星以上のモンスターは移動できない!」
「ええっ!?」
「い、いくらなんでもこのルールでそのカードは凶悪すぎないかい!?」
俺ルールの横行もありかなりカオスなことになったが…これはこれで皆楽しめたようだ。
《デーモン・テイマー》が仲間に加わりましたが、ぶっちゃけ出番はずっと先です。そう簡単に精霊は目覚めませんし。
何でグリモのデッキの中から《デーモン・テイマー》を選んだか?……アニメで見た《デーモン・テイマー》のソリッドビジョンの魅力に抗えなかったんや…エリアと同じ青のストレートロングなのが悪い(責任転嫁)
では次回、『ついに登場!DMの創始者』にてお会いしましょう!