「「「「…………」」」」
迷宮ステージからペガサス城に戻ってきた俺たち4人は、無言で椅子に座っていた。
比較的余裕があるのは俺だけで、他の3人は緊張した表情でドアの他をチラチラと見ている。それが面白いのか、後ろの方に座っている父はニコニコと笑っているようだ。
『やっぱり、皆緊張してるみたいだね』
『まあ、俺も2回目じゃなかったらかなり緊張してただろうな。デュエリストからすれば、ほとんど神様みたいな人だし』
『本当に雲の上の人だもんね。実を言うと、私も会うのが楽しみなんだよね』
エリアと雑談していると、ドアが開く音がした。
「「……!」」
宇佐美さんと明日香が弾かれたように立ち上がる。それに少し遅れて吹雪さんと俺も立ち上がった。
「久しぶりですね、義人ボーイ。そして、そのお友達たちは初めましてデスネ!知っているでしょうが、念のために自己紹介を。私はペガサス・J・クロフォード。I2社の名誉会長をしていマース」
部屋に入ってきたのは銀髪の美丈夫。言うまでもなくこの城の主、ペガサス会長だ。
「そのように立っている必要はありまセーン。楽にしてくだサーイ」
気さくに微笑みながら座るように促され、再び席に着く。
しかし…
『前に会った時も思ったんだが…ほんの少しだけ精霊の気配がするな』
『うん。少しだけだけど、きちんと精霊の気配がするね。生まれたて?でも私くらいべったり一緒にいないと、デュエリストの方から気配がするなんてことはないはずだし…』
エリアにもよく分からないようだ。これについてはペガサス会長本人もよく分かっていないだろうし、諦めるしかないだろう。
「義人ボーイ、彰子ガール。ユーたちはプロデュエリストと戦い勝利したそうですね。ミスター東郷から話は聞いていマース」
「は、はいっ!」
「ハンデあっての勝利ですので、あまり自慢できることではありませんが…」
世界レベルの試合をよく目にしているであろうペガサス会長からすれば、まだまだな内容だっただろうし。
「そのビデオは私も見せてもらいました。不利になろうとも仲間を責めることなく、励まし合う様はとてもビューティフル。素晴らしいものでした」
「えっ?あのデュエルの映像をご覧になったんですか!?」
犯人であろう父に視線を向ける。
「ああ、レックス竜屋さんのマネージャーに話を通して、向こうで撮影していた映像をコピーさせてもらったんだよ。向こうもペガサス会長に顔を売れるからって快く応じてくれたよ」
ああ、レックス竜屋の方で撮影していたのか。
「ああも追い詰められていながら、貴方たちは手を取り合い勝利を勝ち取りました。やはり、結束が生み出すミラクルはワンダフォーデース!」
「あ、ありがとうございます…」
宇佐美さんが恥ずかしそうに顔を赤らめて俯く。
そういえば、遊戯と仲間たちの絆によって敗北して以降は、ペガサス会長は友情の力で勝利!という展開が好きになってるんだったか。
だとすれば、以前のレックス竜屋相手の逆転勝利はとてもお気に召したのだろう。
「そちらの吹雪ボーイも、ミスター東郷をあと一歩まで追い詰めたと聞いていマース。貴方たちのように優れたデュエリストの卵が生まれ続けていることは、私としてもとてもハッピーデース」
「光栄です。ペガサス会長!」
吹雪さんが目を輝かせて頭を下げる。
ペガサス会長から直に声をかけられ、『優れたデュエリストの卵』とまで言われるのはこの世界の子供にとっては感涙モノだろう。きっと彼は今日のことを一生忘れないに違いない。
「そして明日香ガール。ユーはまだ彼らのような実績はないそうですが、気にすることはありマセーン。誰しも、技を磨きながら強くなっていくものデース。見たところ、貴女もまた磨けば光る才能を持ってイマース。他ならぬ、私が保証シマース!」
「そのような言葉をかけていただき、感謝します。ペガサス会長」
嬉しそうに感謝の言葉を述べる明日香。
実際、彼女もデュエル・アカデミアの女王と言われる腕利きに成長するのだから、ペガサス会長の眼力は確かなのだろう。アニメでもすぐにヨハンの天分を見抜いて宝玉獣デッキを託したりしていたし。
「…さて、貴方たちを招いたのはミスター東郷から頼まれたからですが、実はユーたちにお願いしたいことがあるのデース」
「…僕たちに出来ることがあるんでしょうか?」
吹雪さんが少し困惑したように訊ねる。たしかに、ただの子供である吹雪さんたちに出来ることはそう多くないはずだ。
「私は世界中から身寄りのない子供を集め、デュエリストやカードデザイナーとして育ててイマース。今I2社で活躍している者も少なくありまセーン」
漫画版に登場したペガサス・ミニオンのことだろうか。
「貴方たちほどの年で、有望な子が2人ほどイマース。仲間とのデュエルでは負け知らず、上級生とのデュエルでも連勝を続けているのデース」
「僕たちくらいの年で、そんな人が…」
「す、凄い人がいらっしゃるんですね」
ただのお山の大将とはワケが違う。ペガサス・ミニオン内で無双しているとなれば、かなりの腕利きだろう。
「ハイパワーなモンスターを並べてのパワフルなデュエルが持ち味ですが、そのせいか少々高慢になってしまいました。自らが負けるなどないと思っているのデース」
「それは…」
「一生敗北しないデュエリストなどいまセーン。デュエリストキング・武藤遊戯すら、デュエルに敗れたことがありマース。彼らは、今の内に敗北の味を知っておかなくてはなりマセーン。さもなくば、1度敗れただけで立ち上がれなくなってしまうでしょう」
なまじ負け知らずだったせいで、1度エドに負けただけで転落していったカイザー亮がそのパターンだな。
彼は最下位ザーからヘルカイザーへと斜め上の方向にクラスチェンジして復活したが、引退に追い込まれた可能性も少なからずあっただろう。
「義人ボーイ、吹雪ボーイ。貴方たちはロックデッキの使い手と聞いていマース。是非ともあの2人に、コールドウォーターを浴びせてあげて欲しいのデース」
「僕たちが…ですか?」
「…絶対に勝てるとは保証できませんよ?冷や水を浴びせるなら、我々より腕が立つデュエリストに依頼した方が確実だと思いますが…」
ペガサス会長なら王国編でのプレイヤーキラーのように、腕の立つデュエリストはいくらでも連れてこれそうなものだが。
「勿論、彼らに勝てるデュエリストは用意出来マース。ですが、やはり同年代の子供に倒された方が、ショックが強いでしょう。自らがスペシャルな存在ではないと、理解させることが出来るはずデース」
「同じパワーデッキではなく、ロックデッキで勝ってしまって良いのですか?」
「ロックもまた立派なタクティクスデース。そもそも、ステータスの高いモンスターばかりが持てはやされることは、私にとって本意ではありまセーン。ステータスの低いカードも、同じ価値を持つカードなのデース。パワーで押すだけがデュエルでないということも、彼らに学んでほしいのデース。…お願いできないでしょうか?」
…ペガサス会長にそこまで言われては断れないな。
「…僕に任せていただけるなら、喜んで」
「…全力を尽くします」
『…《デーモン・テイマー》は入れる?』
『いや…今は入れないでおこう。悪魔族使いと戦うわけでもないし』
夕食を終え、しばらく皆の過ごした後。俺は与えられた部屋でデッキ調整をしていた。
予想通りというべきか、遊戯が泊まった部屋が一番人気、城之内が泊まった部屋が2番人気で取り合いになったので、それに参加せずに舞が泊まった部屋を確実に確保した。…だって応援団の面々がどこに泊まったかまでは分からなかったからだ。獏良が泊まった部屋とかあまり使いたくないし。
『舐めてかかれる相手でもなさそうだからな…』
ペガサス会長から渡された、明日戦う相手について簡単に書かれた紙に視線を向ける。
俺が戦う予定のドラゴン族使い、ドラゴミール・ゴンザーロ。吹雪さんが戦う予定の機械族使い、ニコラス
どちらもグリモと同じように高火力のモンスターを並べて相手を殴り倒す、ビートダウン型のデッキのようだ。シナジーのない低ステータスモンスターを意味もなく投入するのは危険すぎる。
『でも、マスターならきっと勝てると思うよ。そうじゃなかったら、会長さんだってマスターにお願いしなかっただろうし』
『まあ、そう信じてもらえているのは光栄だし、その期待に応えたいとは思うんだが…』
『……』
その期待を裏切ってしまったらと思うと不安になる。
不安と悩みで手が止まっていると、突然エリアが後ろから抱き締めてきた。
『エ、エリア?』
『大丈夫。マスターが勝てるように私も頑張るから。吹雪さんだって一緒に戦うんだから、マスター1人で気負う必要なんてないんだよ?』
『…悪いな』
何だか情けない。
『いいのいいの。私とマスターの仲だもん。それより、そろそろ眠った方がいいよ。寝ぼけた頭で良いデュエルなんてできないでしょ?』
『そうだな…』
調整を終えたデッキを仕舞うと、照明のスイッチへと手を伸ばした。
ペガサス会長からのデュエル依頼は、ボツにしようか悩みましたが結局入れました。ここでボツにするとデュエル回の間隔が結構空きそうだったので…
では次回、『神童コンビ!竜&機械デッキの猛攻』にてお会いしましょう!