『じゃあ、見てくるね』
『よろしく頼むぞ』
霊体化した状態で、店の奥へと消えていくエリアを見送る。
ここは近所のカードショップ。とはいえ遊戯王世界だけあってかなり大きく、2階はデュエル用のスペースとなっている。俺はデュエルディスクを持っているが、持っていない子供などはこういった場所で借りることができるのである。
今日は土曜日で、半日で学校が終わったのでかなり早い時間から訪れることができていた。
エリアが戻ってくるまでの間、のんびりと商品を眺めながら歩いていると…見慣れた後ろ姿が目に入った。
「…こんにちは。宇佐美さん」
「あ…こんにちは。東郷さん」
前世ではタッグフォースシリーズに登場していた恐竜好きのデュエリスト、宇佐美彰子である。
俺と彼女は父親が専門分野こそ違うものの同じ考古学者で、友人同士であることから親交があるのだ。
また、彼女は前世においては《ホーリー・ドール》登場までは下級最強の地位にあった、攻撃力1500の《ワイルド・ラプター》をエースモンスターに持ち、最近はあのダイナソー竜崎の魂のカード(2代目)である攻撃力1600の《二頭を持つキング・レックス》を手に入れたことから、彼女とはそれなりに白熱したデュエルを楽しめるのである。
…あ、言い忘れていたが俺の名前は
「えーっと、なになに…」
彼女が見ていた方向に目を向けると、《
「ああ、これに行くんだ?」
「はいっ。結構有名な学者さんがいらっしゃるそうなので…きっと、恐竜さんの面白いお話が聞けると思うんです!」
両手でぐっ、と握りこぶしを作る宇佐美さん。当人の愛らしさもあって何だか和む。
「え~っと…《暗黒恐獣》は出演するプロデュエリストの人のエースモンスターなのか。恐竜族使いなのかね?」
「そう、みたいです。……あの…その、よろしかったら、東郷さんも行きませんか?恐竜さんのこと、それなりにお好きなんですよね?」
「まあ、それなりに知識はある方だけど…」
後を継いでほしいのか、父が考古学関係の漫画を大量に家に置いているので身に着いた知識なのだが。
「ふふ。東郷君をデートに誘うとはなかなか隅に置けないねえ!宇佐美君!」
「ひゃっ!?」
「…しれっと会話に混ざらないでください。吹雪さん」
いつの間にか会話に参加していたのは皆さんご存知、後のデュエル・アカデミアのブリザード・プリンスこと天上院吹雪である。いや、ブリザード・プリンスは既に名乗っているようだが。
俺は単純に自宅から一番近いという理由でこのカードショップを利用しているが、この店はあの《獣神王バルバロス》が出たことがあるそうで、わざわざ遠くからやってきてカードを買っていく獣人族使いのデュエリストたちがいるのである。一度一等が出た宝くじ売り場に客が集まるようなものだろうか。
そしてGXでの明日香戦で使っていたように、ダークネス化する前の吹雪さんはやはり獣人族使いだったようで…彼はこの辺りの住人ではないが、自転車に乗ってここを訪れているというわけだ。
「そ、そんな、デートだなんて、そんなことは…」
「いやいや、恥ずかしがることはないよ。ラブロマンスは青春の華!『天に星を、地に華を』と言うじゃないか!」
「『華』はそういう意味じゃないと思うんですが…」
人の話を聞かないところと、現実からカッ飛んだロマンティック思考回路はこの頃からのようだ。まだ会ったことはないが、妹の明日香は頭を痛めているに違いない。
「と、ところで東郷さんはカードを買いにいらしたんですか?」
「ああ、そうだけど…」
そう問われて周囲を見回すと、こちらに手招きするエリアの姿が見えた。
「じゃあ、早速買ってくるから」
「それなら、どんなカードが出たか見せてもらってもいいかい?君は結構、引きが強いようだからね」
「はは、そうですかね…」
…前にも言ったが、この店に並ぶ無数のカードパックの中でもマトモなカードが入っているのはほんの一握りだ。いや、時期によっては1パックもないこともあるだろう。
どれが当たりのパックなのか、開封するまでは調べようもないが…カードの精霊であるエリアには中身の強弱がなんとなく分かるらしく、カードを買う際には良さそうなものを探してもらっている。
…卑怯?こうでもしないと《格闘戦士アルティメーター》に殴り負けるレベルのカードしか出ねぇんだよ!
しかも、それだけやって現在の俺のデッキの最強モンスターは《アクア・マドール》さんである。…いや、小学校では守備力2000のこいつを出すだけで相手が何もできずにデッキ切れになったりするくらいには強いのだが…前世のことを思い出すと悲しくなってくる。
『マスター、このパック!なんだか、これまでで一番力を感じるよ!』
『了解。ありがとな』
念話でエリアに礼を言うと、彼女が指差すパックを一緒にぶら下がったパックごと掴んでかごに入れる。
バラバラに置かれているあちこちのパックを1つずつ取っていくのは不自然なので、エリアが探してきた一押しのパックと、その周囲のパックを合計5パック前後買うようにしているのだ。
正直に言えば、もっとたくさん買いたい。だが
父が調査範囲としているのはエジプトを中心にヨルダン、レバノン、スーダンなどで、治安の悪い地域で身を守る為により強いデッキが必要になるのである。…デュエルで強盗やゲリラを撃退できることについては突っ込んだら負けだ。
レジで代金を支払うと、人のいない隅っこの方に移動してエリアおすすめのパックを開けた。
「どれどれ…」
1枚目…《プチテンシ》。
2枚目…《ミューズの天使》。
3枚目…《氷水》。
4枚目………!?
これは……
「…………」
『…………』
…たしかに、これまでにない強力なカードだった。
《竜騎士ガイア》
星7/風属性/ドラゴン族/攻:2600/守:2100
「暗黒騎士ガイア」+「カース・オブ・ドラゴン」
「これは…すごいレアカードじゃないか!《竜騎士ガイア》といったら、あの武藤遊戯のデッキにも入っているカードだよ!まさかこの目で見る時が来るなんて…今度明日香を連れて来よう!」
「私も、テレビで見たことがあります!東郷さんが引くなんて…!」
「いやまあ、それは分かるんですが…」
たしかに滅茶苦茶レアだ。レアではあるんだが…
「でも、融合素材の《暗黒騎士ガイア》も《カース・オブ・ドラゴン》も超レアカードで手に入れようがないんですが…。《融合》だってありませんし」
「「…………」」
黙り込む2人。気まずい沈黙がこの場を包む。
「…そういえば、ずっと疑問に思っていたことがあるんですが…」
「な、何だい?」
話を変えるように話題を振ると、吹雪さんがすぐに反応してくれた。
「《カース・オブ・ドラゴン》って攻撃力2000ですよね?」
「ああ。そのはずだけど…」
「そして、この《竜騎士ガイア》は2600。つまり、ガイア本人の攻撃力は600ということでしょうか?」
「2600引く2000は、たしかに600だ…」
目から鱗が落ちたという顔をする吹雪さんと宇佐美さん。
「《暗黒騎士ガイア》は攻撃力2300だったはずですから…つまり、ガイアの乗っているお馬さんの攻撃力は1700あるってことですね」
「ふむ、たしかにガイアの馬だけのモンスターカードというのはどこかにあるかもしれないね!1700という数字はレベル4のモンスターであればおかしくないし…似合いそうな《一角獣のホーン》を装備すれば攻撃力は2400だ!」
「もはやガイアさん本人の存在意義はどこへ行ってしまうんでしょうね…」
重い空気を変えることには成功した。だが…何だか、手に持つ《竜騎士ガイア》のイラストが煤けて見えてきたのは気のせいだろうか…。
『なんかごめんね、マスター。余計にがっかりさせちゃうようなカードで…』
『いや、レアカードには違いないからな。それに、《竜騎士ガイア》に気を取られて忘れていたけど、5枚目は結構おいしいカードだ』
攻撃力は550しかないが…俺のデッキとは相性がいいモンスターだ。
「しかし、ガイアの愛馬の名前は一体なんだろうね?アース?いや、対となる名前としてスカイというのも…」
「こうやって、どんなカードがあるのか想像するのも楽しいですよ、ね…」
にこにこと楽しそうに笑っていた宇佐美さんが、何かに気づくと顔を青くする。
「どうしたんだい?…んん?」
それに気づいた吹雪さんと一緒に、宇佐美さんの視線の先に顔を向ける。
「ああ、そんなところにいたのか…探したぞぉ?」
底意地に悪そうな笑みを浮かべる、俺たちと同年代くらいの少年。
雰囲気としては万丈目ブルーサンダーに近いだろうか。…アレよりずっと
「…………」
吹雪さんと2人、宇佐美さんを庇うようにして前に立つ。
「君は、宇佐美君に何か用なのかい?」
「ああ、以前アンティデュエルの約束をしたのにどこかに行ってしまってねぇ。デュエルをしてもらうために探していたんだよ」
「アンティデュエル?」
言うまでもなく、アンティデュエルとはカードをかけて行われるデュエルだ。だが、宇佐美さんがそんなものをするとは考えにくい。
「確認しておくが、それは彼女が望んだことなのか?」
「いいや?だが、《二頭を持つキング・レックス》なんてそれなりのカード、雑魚デュエリストのデッキに入れておいては可哀そうだろう?俺のような強いカードを持つデュエリストが有効活用してやらないとな」
「はぁ?」
つまりは、こいつはブルー寮生徒のような選民意識を持つどこぞのボンボンで、強いカードは俺が使ってやるからありがたく思えとカードを脅し取ろうとしていたわけか。
「…ん?お前のそのカード……《竜騎士ガイア》じゃないか!おい、それを賭けて俺とデュエルしろ!」
この馬鹿をどうしてくれようかと考えていると、手に持ったままだった《竜騎士ガイア》に目を付けたらしくこちらにアンティデュエルを挑んできた。
「…いいだろう。だが、お前が負けたら今後俺たちに関わるなよ?」
「ふん、条件は好きに付けろ。どうせ勝つのは俺だからなぁ!」
ついて来い、と言わんばかりに2階への階段に向かうボンボン。
「東郷さん…」
「大丈夫なのかい?僕が相手をしてもいいが…」
「まあ、大丈夫ですよ。あんな馬鹿には負けません」
心配そうな表情を浮かべる2人に、ニカっと笑ってみせる。
『…マスター、気を付けて。あの人のデッキから、精霊の気配がしたよ』
『…精霊付きか。こりゃ、本気でいった方が良さそうだ』
デッキから何枚かカードを引き抜き、サイドデッキのカードと先ほど買ったカードを代わりに加える。
――さあ、
主人公の父親が考古学者というのは元々あった設定なので、原作(?)キャラを出すならジムか彼女かなぁと思ってTFより宇佐美彰子を登場させました。
吹雪さんは年上キャラとして解説役に良さそうだなぁと思ったのと、ボツにした他の遊戯王SSの名残です。
次はいよいよまともなデュエル…9割方出来ていますので、明日また投稿できると思います。
では次回、『パワーこそ正義!火力のブルジョワデッキ』にてお会いしましょう!