「…東郷さん!」
「いやあ、さすがだったねえ東郷君!」
デュエルが終了してソリッドビジョンが解除されると、観戦していた2人が笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた。
「クソッ、クソ!!」
一方、偉井田は負けるとは思わなかったのか地団駄を踏んでいる。
「おい!黙って《竜騎士ガイア》をよこせぇ!」
「はぁ?お前負けただろうが」
「俺のパパはI2社の社員なんだぞぉ!お前たちなんて、その気になれば家族ごと潰せるんだ!」
そんな、三下ボンボンの典型例のような行動をしなくても…
しかし、I2社の人間の息子か…場合によってはアルカディア・ムーブメント式で大人しくさせることも考えていたが、ちょっと脅かしてやれば片付きそうだ。
「…一応確認しておくが、この人が会長をしているI2社か?」
「なっ…!?」
俺が財布から取り出した写真を見て、硬直する偉井田。
写真には3人の人間が写っている。1人目は数年前の幼い俺。2人目は、それと並ぶ俺の父。そして3人目は、赤いスーツに長い銀髪の男性――伝説のデュエリストたちに並ぶ知名度を持つ超VIP、インダストリアル・イリュージョン社名誉会長ペガサス・J・クロフォードその人だった。
「そのようだな。…で、
「ち、畜生ぉォ…!」
自分の父親の威光を振りかざして好き勝手やっていたのだろうが、それ以上の威光を持ち出されては何もできないようだ。
「「「「吹雪さま~~!!」」」」
屈辱に震える偉井田とにらみ合っていると、何人もの女性の声が聞こえる。
見ると、10人近い女性が小走りでやってきた。
「おや、どうしたんだい?」
「吹雪さまが、女の子を庇って嫌な男とにらみ合っていると聞いて、ファンクラブに緊急招集をかけたんです!」
「かよわい女の子を庇って、悪者を叩きのめす吹雪さまの雄姿…ああ、なんて素敵なんでしょう!」
彼女たちは天上院吹雪ファンクラブのメンバーたちである。
ここは吹雪さんの生活範囲ではないはずだが…この短時間で何でこれだけ集まってくるのだろう…
「はっはっは、そうだったのか!だがすまないね、件の男はこの通り、東郷君の手によって成敗されてしまったところなんだよ!」
「え~!そんな~~」
「でも、あっさり倒すなんてさすがは吹雪さんのお友達ですわね!」
テンションMAXなファンクラブの面々と普通に会話をする吹雪さん。
彼にはやはりプレイボーイとしての天性の才があるのだろう…こんな大勢の女性と一度に会話するなんて俺には無理だ。
これは相手にするには分が悪いと判断したのか、そそくさと偉井田が逃げ出そうとするが…
「おっと、今回はアンティデュエルなんだろう?キミは負けたんだから、カードを東郷君に差し出さないといけないよ?」
「そうよ!吹雪さまの前で約束しといて、踏み倒しなんて許されないわ!」
「女の子に無理矢理アンティデュエルさせようとしといて、自分は負けたら逃げ出すとか男として最低~!」
たちまち吹雪さんとファンクラブに囲まれた。
「…チッ!コイツをくれてやるよ!」
偉井田は吐き捨てるように言うと、床に《ヂェミナイ・エルフ》のカードを投げ捨てる。
「『幸運のカード』なんて言って俺を騙しやがって!コイツを入れなきゃ絶対俺が勝ったんだ!」
どこぞの石像主人公相手に手のひら回転しまくる男みたいなこと言いだしたぞコイツ…
というか、この状況でそんなことを言ったら…
「自分の力不足で負けたくせに、カードのせいにするなんて最低~!」
「こういう男が、将来DV夫になるんでしょうね!」
「そもそも『幸運のカード』なんてカードが自分で名乗るわけないんだから、アンタが勝手に呼び始めたんでしょ!?」
ほら、またファンクラブに燃料が投下されてしまった。
「…吹雪さん、ここは頼みますね」
「ああ、任せておいてくれ。じゃあ、宇佐美君もデートを頑張るんだよ」
「で、ですから、デートでは…」
《ヂェミナイ・エルフ》のカードを拾うと、この場を吹雪さんに任せて宇佐美さんと1階に戻る。
階段を降りる際、取り囲んだ女性陣による集中砲火を受けて倒れそうな偉井田の姿が見えたが…完全に自業自得なので放っておこう。
「…ともあれ、災難だったね宇佐美さん。大丈夫?」
「…ごめんなさい。私のせいで、東郷さんたちを巻き込んでしまって…」
自分がきっぱりと拒絶できず、俺と吹雪さんを巻き込んでしまったと気に病んでいるのか暗い顔をする宇佐美さん。
「気にしなくてもいいよ。吹雪さんは人助けとか好きだし、俺も女の子に頼られて嫌な顔するほど心の狭い奴じゃないつもりだよ?」
「…私、ご迷惑じゃない、ですか?」
「だから大丈夫だって。友達なんだから、このくらいの助け合いは軽いものだよ」
涙目の宇佐美さんに笑いかけてみせる。
涙目の美少女というのも良いものだが…ずっとヘコんでいられるのも困る。
「それはそうと、宇佐美さんはもうパックを買った?新しいパックを買いに来たんだよね?」
「あ…まだです」
「俺は残りのパックを開けてるから、買ってきたら?」
俺に促されて、パックを買いに行く宇佐美さん。
『男の人が苦手な子だけど、変なトラウマとかになってないみたいで良かったね。マスター』
『まあ、あれで結構芯が強いタイプだからな。さてさて、パックの方は…』
《エルディーン》、《月の女神 エルザェム》、《アルラウネ》…
1つ1つパックを開けていくが、デッキに入れたくなるようなカードは入っていない。
『あ、このパックからもそれなりに力を感じたよ』
『そうか?どれどれ……おっ』
これはたしか…アニメではドーマ編で出てきたカードだったか?
残念ながら俺のデッキでは不採用だが…使い道はあるな。
「…買ってきました。東郷さんは、どうでしたか?」
カードを眺めていると、買い終わったらしい宇佐美さんが戻ってきた。
「まあ、なかなかだね。ところで…宇佐美さんは《融合》持ってたよね?」
「え?あ、はい。持ってますけど…」
「じゃあ、これをあげるよ」
そう言って、宇佐美さんに1枚のカードを差し出す。
ヘルホーンド・ザウルス
レベル6/闇属性/恐竜族/攻撃力:2000/守備力:1500
「俊足のギラザウルス」+「ヘルカイドプテラ」
このモンスターが特殊召喚に成功した場合、エンドフェイズまでこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
「え、えええええ!?こんな強いカードを、私に、なんて…」
「いや、今回の件で被害を受けたのは主に俺と宇佐美さんでしょ?で、俺はアンティで《ヂェミナイ・エルフ》を貰ったから、宇佐美さんにも何か得るものがないとって思ってね」
「いえ、でも、私は何もしてませんし…」
「気にしなくていいから。俺だけカードを貰ってるのが心苦しいんだよ。俺を助けると思って貰ってくれ」
「そ、そうですか……じゃ、じゃあ私が今買ってきたカードの中で、良いものがあったら1枚差し上げます!」
「え?でも…」
「ただもらうのは、私も心苦しいんです。私も買ったパックの中から1枚差し上げればおあいこ、ですよね?」
『…これはちゃんと受け取ってあげなきゃダメだよ?マスター』
「…そういうことなら、貰おうかな。じゃあ、カードを見せてくれる?」
「はいっ。少し待ってくださいね…」
1つ1つ丁寧に開封し、小さな台の上にカードを並べていく宇佐美さん。
《アーメイル》、《屋根裏の物の怪》、《青眼の銀ゾンビ》、《
「…東郷さん、このカードが欲しいんですか?」
俺の目つきが変わったことに気づいたのか、《聖なる魔術師》のカードを手に取る宇佐美さん。
「どんなデッキにも入れられるようなカードだけど…いいのかな?」
「私のデッキは、あまり重要な魔法カードがありませんから。東郷さんのデッキの方が、この子も活躍できると思いますし…」
「じゃあ、このカードを…」
他のめぼしいカードも無かったので、《ヘルホーンド・ザウルス》を渡して《聖なる魔術師》を受け取る。
「それで、ですね…東郷さんは、その……」
何やらもじもじしている宇佐美さん。
『マスター、ほら。きっとあのイベントの…』
『ああ、あれな』
そういえば返事をしていなかったか。
「次の次の日曜日だったよね?…特に予定もないし、行こうかな」
「本当ですか!?…良かった。恐竜に興味を持ってくれる人、学校にはあまりいなくて…」
まあ女の子は勿論のこと、男の子たちもドラゴンの方が人気で恐竜族はあまり子供たちに人気がない。
タッグフォースでも妹たちが恐竜に興味を持ってくれないと嘆いていたし、同好の士と言えるのは父親以外には俺くらいしかいないのかもしれない。
「じゃあ、そういうことで。俺はもう帰るからね。吹雪さんのファンクラブの人が戻ってきたら色々聞かれそうだし…」
「あっ。そ、そうですね。じゃあ、また…」
微笑みながら手を振る宇佐美さんに手を振りながら、俺はカードショップを後にした。
某声優が小学生の頃に美声で保護者のマダムたちをメロメロにしていたといいますし、吹雪さんなら子供の頃からファンクラブが出来ていてもなんら不思議ではないと思います。
しかし、ショタの頃からあの謎の尻振りポーズをしていたのでしょうか…
では次回、『新たな精霊 ヂェミナイ・エルフ』にてお会いしましょう!