「…私の、負けですか」
しょんぼりと肩を落とすアルフェ。
「しかし…エリア殿のデッキは我々のような並みの精霊のものより遥かに強力ですね。精霊としての格そのものも我々より上のようですし…」
「それは、毎日マスターにくっついて力を貰ってるからね!マスターさえいてくれれば、私はいくらでも力が湧いてくるの!」
誇らしげに胸を張るエリア。
「ほう、それほどのものですか。…ふむ、これはなかなか……」
「では私も。…なるほど。確かにこれは癖になりそうです」
「ってコラー!私の許可なくマスターにくっついじゃダメって言ってるでしょー!」
「落ち着けエリア!」
その後、しばらく俺に抱き着くアルフェとルイフェに、それを引っ張り離そうとするものの体格差もあってビクともしないエリアというカオスな光景が繰り広げられた。
2人に抱き着かれた感想は…エリアが怒りそうなのでノーコメントとしておこう。
「…………」
「いい加減機嫌直してくれよエリア。あの2人も謝ってただろう?」
それから数時間後。未だむくれているエリアと食卓を囲んでいる。
アルフェとルイフェはカードの中に戻っている。というか、エリアの方が珍しい例で普通の精霊というものはデュエル以外ではあまり外に出てこないものらしい。
「私の方がずっと一緒にいてお世話をしてきたのに…マスターもまんざらでもない顔して…」
ブツブツと不満を零しているエリア。
こういう場合に機嫌を取るには…そうだな。
「なあ、エリア」
「…何?マスター」
ぶすっとした顔でこちらを向いたエリアは、俺を一目見て身体を硬直させた。
「あ、あーん」
皿の料理を1つ箸でつまんで、エリアの方へと差し出す。
エリアが時々やってくることだ。恥ずかしいからいつもスルーしてるけど。
「っ!?」
ボン、と音が出そうな勢いで顔が真っ赤になるエリア。
「え?え?お前、俺に対してこういうことよくやってくるだろ?」
そんな反応をされると、俺も何だか恥ずかしくなってくるんだが…
「だ、だってマスターの方から、こういうことあまりしてくれないし…慣れてないの」
お互いに顔を赤くしたまま、どうしていいのか分からず見つめ合う。
「そ、それはそうと、宇佐美さんとイベントに行くなら新しいお洋服を買わなきゃね!明日は日曜日だし、2人で買いに行こうよ!」
沈黙に耐えきれなくなったのか、露骨に話を変えるようにエリアが大声で言う。
「え?この前買った奴でいいだろ?」
衣替えにはまだまだ早いはずだ。
「ダーメ!マスターに任せておいたら、本当に必要最低限の服しか買わないんだもん。こういう機会にしっかり買っておかなきゃダメなの!マスターってば、折角素材が良いのにもったいないよ?」
「…素材、良いのかねぇ…」
よく近くにいるのが(残念な)イケメンの吹雪さんだからよく分からないのだが。
「マスターは黒とか青の服ばっかりだから…明日は白い服を見てみようね!赤とかはあまり場所に相応しくなさそうだし」
「白だと汚れとかが目立つんじゃないか?」
「そういうことは私が心配することだからいいの。そんなことを一々気にしてたら、おしゃれなんてできないよ?」
…どうやら、明日服を買いに出かけることは確定事項のようだ。
エリアは買い物に時間をかけすぎるタイプではないが、たくさん買いたがるから小学生の身体では重いんだよなぁ…。かといってエリアを実体化させるのは、クラスメートとかに見つかると面倒だし。
「じゃあ、明日は駅前のデパートに行こうね!」
俺に拒否権はないらしい…
『会場は、ここでいいんだよね?』
『出る前にもネットで確認したから、大丈夫のはずだ』
そして当日、俺は霊体化したエリアと一緒にイベントの会場を訪れていた。
俺は本来服装とかには無頓着な方だが、今日は先週買いに行ったエリア監修のきちんとしたおしゃれをしている。
まあそれなりに名のある考古学者が来るそうだし、同じ考古学者の息子としてみっともない恰好をするわけにいかないと考えよう。
『あ、宇佐美さんだよ』
『ん?ああ、こんにちは宇佐美さん」
「あ、こんにちは」
ウロウロしていると、壁に張られたポスターを見ている宇佐美さんを発見した。
「プロデュエリスト、『レックス竜屋』ね…」
ポスターによると、今回のイベントに出演する彼はダイナソー竜崎の一番弟子だそうだ。
…アニメでは城之内に負けたことで落ちぶれ、ドーマの手先になって魂を封印されたり、没落貴族に2対1で挑んで返り討ちにされたりと酷いことになっていた竜崎だが、現在は心を入れ替えて真っ当なプロデュエリストとして活動している。
まあ、エグゾディア抹殺だのアロマ・タクティクスだのと反則行為や俺ルールが横行する決闘者の王国編において、唯一真っ当にデュエルしていたデュエリストなのでおかしくはないんだろう、多分。
…HA☆GA?ああ、いたねそんな奴。
「ランクはそんなに高くないけど、こういったイベントには積極的に参加するプロみたいだね」
「恐竜のことが大好きな人なら、いいんですけど…」
「まあ、恐竜族使いを公言しているなら恐竜が好きなんじゃないかな?…っと、もう開場みたいだよ」
入り口が開いたので、すぐ中に入って席を確保する。
「そういえば…これを、見てもらえますか?」
宇佐美さんが自分のデッキから何枚かカードを抜きだして、こちらに差し出してきた。
「どれどれ…こんなカード入ってたっけ?」
どれも見覚えのないカードだ。《俊足のギラザウルス》とか、彼女のデッキには入ってなかったはずだし。
「先週の日曜日に、お父さんからカードを何枚かもらったんです!この《俊足のギラザウルス》も、東郷さんから《ヘルホーンド・ザウルス》をもらったから素材があった方がいいだろう、って…」
「うんうん。宇佐美さんのデッキも大分強化されたみたいだね。今度、俺の本気のデッキとデュエルしてみる?」
「い、いえ、さすがに勝てそうにないので…あ、始まるみたいです」
宇佐美さんと雑談していると、時間になったのか司会のお姉さんがマイクを手に壇上に立っていた。
「…というわけで、最近の研究ではブラキオサウルスのような竜脚類は愚かでものろまでもなく、その巨体を最大の武器に恐竜時代をたくましく生きていたことが分かってきました」
「ブラキオサウルスのように、それがモデルな《ブラキオレイドス》もパワーがあって頼もしいモンスターなのサ!」
「レベル6の恐竜族融合モンスターですね。レックス竜屋さんもお持ちなんですよね?」
「その通りサ。融合素材も《二頭を持つキング・レックス》と《屍を貪る竜》で、どっちも優秀な恐竜族モンスターだからネ。恐竜族使いには是非とも使って欲しいモンスターなのサ!」
ステージでは若い女性の司会に初老の女性考古学者、プロデュエリストの3人が椅子に座って解説を行っている。
プロジェクターを使ってCGの映像を流したり、恐竜族モンスターで例えてみたりと分かりやすく説明しているが…たしかに予備知識がない小学生には厳しいかもしれない。
「この《ブラキオレイドス》は融合素材の属性とは異なり水属性ですが、こうではないかな、と理由が推測できる方は手を挙げてもらえますか?…では、そこの女の子の方、どうぞ」
「は、はいっ!大型の草食恐竜は、自分の体重を支えるために水中生活をしていたという学説が、理由だと思います…」
「いい答えですね。本当の答えは製作者しか知らないことですが、私も同意見です。しかし、現在の学説においては…」
だがまあ、十分に知識のある宇佐美さんにとっては十分楽しめる内容のようだ。
相手が女性ということもあってか自ら手を挙げて発言したりしているし、かなりテンションが上がっているようだ。
『宇佐美さんがこんなに積極的になってる姿、滅多に見られないよね』
『だな。宇佐美教授も恐竜が関わると子供みたいな人だけど、しっかりその血は受け継いでるみたいだ』
キリッとした真剣な表情の宇佐美さんはかなり珍しく、これを見れただけでも来た甲斐があったような気分になる。
『でも、あのプロデュエリストの人は何ていうか…』
『チャらい、という奴か?口調も独特だし…』
司会も、考古学者も落ち着いた感じの女性だが…レックス竜屋はかなり軽薄そうな男性だった。
口調もイントネーションが独特で、かなりクセがある。…いや、ザウルスとかドンとか言ってないだけ恐竜使いとしてはマシな部類なのか?スペースザウルスに変身して宇宙に飛び立つわけでもないし…
「…では、質問のある方はいらっしゃいますか~!?」
そんなことを考えていると、イベントは大体終わって質問タイムに突入していた。
「カンブリア大爆発?って聞いたことがあるんですけど、その頃に恐竜はいたんですか?」
親に連れられてきたらしい小学生が質問している。たしか魚すら碌にいなかった時代だから、さすがにいないだろう…
「ハハハ、残念ながらまだいなかったネェ。でも、その頃の恐竜のご先祖サマじゃないかって言われてる生き物は有名人だヨ。…何度か質問に答えてくれた女の子は、何か分かるかナ?」
「え?ええっと、そのぅ……」
突然話を振られてマイクを向けられた宇佐美さんがオロオロしている。まあ恐竜と関係ない話だし、今回は相手が男だからな。
「分からないカ~。じゃあその隣の男の子はどうだイ?」
隣に座ってるだけの俺に振るのかよ…
「ええっと、最初の脊索動物と言われるピカイアでしょうか?」
「フフ~ン。キミは結構勉強しているようだネ。ガールフレンドに良いトコ見せたくて、前勉強してきたのかナ?」
「いえ、単なる友達で別に彼氏ではないのですが…彼女、そういう冗談には耐性がないので勘弁してあげてください」
「そうなのかイ?これは失敬」
当の宇佐美さんは顔を真っ赤にして沈黙している。いい加減、このネタでからかわれるのに慣れ…られないか。性格的に。
「しつも~ん!翼竜みたいなモンスターっているんですか!?」
「勿論だヨ。《ヘルカイドプテラ》ってカードがあってネェ…」
観客席からは、恐竜そのものより恐竜族カードについての質問が次々と飛ぶ。
まあ、プロデュエリスト目当てで来ている人が多いんだろうしな。
「…質問タイムはこれで終了かナ。予定表ではこれで終わりってコトになってるけド、実は特別企画が1つ残ってるんだヨ!」
「そう、実はレックス竜屋さんが観客の方とデュエルして下さるそうなんです!」
突然のことに、観客席がざわめく。
「まあ、さすがにボクに真っ向から挑めなんて言わないヨ。相応のハンディはつけさせてもらうつもりサ。さあ、我こそはって人はいるかナ!?いないようならボクから指名しちゃうヨ?」
観客席では興奮した様子で会話をする者もいれば、顔を見合わせる者もいるなど大騒ぎだが、さすがにプロに挑む勇気のある者はいないらしい。
『マスターは名乗り出ないの?』
『いや、こんな大勢の前で勝てそうにない相手とデュエルするとか何の罰ゲームだよ…』
「ウ~ン、いないみたいだネェ。なら……」
おい、こっちみんな。
「さっき何度か質問してた女の子、ボクとデュエルしようヨ!」
「え、ええぇっ!?わ、私ですか?」
無茶ぶりされて宇佐美さんは困惑…というか怯えている。
「キミからは恐竜たちへの愛を感じたからネ。是非デュエルしてみたいのサ!何なら、隣の子とのタッグでもかまわないヨ!」
「と、東郷さんとタッグデュエルですか…」
宇佐美さんがチラチラこちらを見てくる。
「…どうするの?」
「私、自信なんて全然ありませんし、こんな大勢の人の前でデュエルするなんて、想像するだけで足が震えてしまいそうですけど…でも、東郷さんが一緒にデュエルしてくださるなら、頑張れる気がします…!」
「…そう。……では、デュエル前に相談やデッキの調整くらいはしてもかまいませんか?」
「勿論サ。数分くらいはアドリブで場を繋げるしネ」
「では、数分で良いので準備時間をください。…宇佐美さん」
「はい?」
タッグデュエルとなれば、通常では活用するのが困難なカードが活躍する場合がある。
俺はトレード用に普段デッキに入れないカードも持ち歩いているが…今回はデッキに入れるとしよう。できれば宇佐美さんのデッキにもだ。
デュエルの方は休みの間に制作を進めてましたから、上手く手直しが終われば明日投稿できるかもしれません。ただし、1万字を超えてしまったので前後編にします。
では次回、『VSレックス竜屋! 恐竜デッキの脅威』でお会いしましょう!