「戦うのはいいけど……ホントにダイジョーブ?」
「はい。立ち止まるのは嫌ですから!」
◇◇◇
アル達が起きたのは昼過ぎだった。昼食を食べ、これからどうするかとシロナとヒカリが放しているところへ、アルが再戦の申し込みをしたのだ。
最初は渋っていた二人だったが、アルとポケモンたちの目を見て考えを変えた。
「まさか、この歳であんな目をできるようになっているとはねぇ……子供が大きくなるのは早いわ」
「そういうものだと思いますよ。まあ、それだけシロナさんも歳と――イタァ!?」
容赦の無いからてチョップだった。シロナは格闘タイプなのかと、冗談半分にヒカリは考える。
というか、こぶが出来ているかも。
「あのねぇ……まあ、昨日の敗北がいい方向へ向かってくれてよかったけど、本当に大丈夫なのかしら」
「トレーナーとして大成するなら、ここで負けたまま立ち止まっちゃだめです。第一関門は突破しましたけど、敗北から学んで強くならなきゃ」
「昔のあなたや、私みたいにね」
誰だって負ける時はある。勝ち続けるのは容易なことではない。
どんな人にも、失敗や挫折は待ち構えている。経験したことが無いというのならば、それは一つの弱点だ。誰にだってその可能性はあるのだから。
失敗や挫折を経験しないで大人になったのなら、いざ躓くとそれを信じられない。
そういう意味ではアルにとって、一つ成長したということだ。
だけども、同じ失敗を繰り返すのならば意味がない。自分の失敗から学び、次に生かさねかればダメなのだ。
ヒカリが繰り出したポケモンはズガイドス。対して、アルが繰り出したのは……
「いけ、ジョーカー!」
「リオゥ!!」
「またリオル!?」
「ズガぁ?」
一度は負けたはずのリオルだ。だが、リオルの攻撃は通用しなかったのを忘れたのか?
いくらなんでも昨日の今日でなんとかなるとは思えない。これは、見込み違いだったのだろうか……ヒカリがそんな考えに囚われたと同時に、審判をつとめているシロナから合図が下る。
「両者、はじめ!」
途端に後ろへ飛ぶリオル――ジョーカー。あの動きは昨日と同じ、つるぎのまい。
「させない! ズガイドスとっしんよ!!」
「ガァアア!!」
気合も十分、ズガイドスは昨日よりもはやくリオルへと迫る。
だが、昨日とは明らかに違うモノがあった。
「舞いのスピードが速い!?」
「隙がでかいと話になりませんからね。一晩で効率のいい動きを模索していたんです!」
そう、拳の威力、つまり攻撃力を上げることこそが今のジョーカーに必要なこと。
ならばつるぎのまいの錬度を上げるのも当然だ。
「だけど私のズガイドスのとっしんが当たるよ」
「それは――どうかな?」
舞いを終えて、ジョーカーは再びズガイドスへと向き直る。すでに眼前へと迫ってきたのだが、一切取り乱す様子はない。それどころか次の攻撃へ転じようとしていた。
ありえない。とっしんを喰らってキャンセルされるのに何故。ヒカリは少々アルのことを甘く見ていた。
それこそ赤ん坊の頃からシロナというトップクラスのトレーナーの姿を見てきた。テレビ放映が多かったが、シロナの戦いは殆ど見てきた。
それだけでなく、シロナが普段ポケモンたちとどういったトレーニングをしているかも知っていたのだ。
そして、シロナのポケモンにはルカリオがいる。その進化前であるリオル。つまり――
「でんこうせっか!!」
「そうかッ、攻撃じゃなくて回避だったのね!?」
――力だけでなく、スピードを生かした戦い方をする。それがジョーカーの力を最大限に引き出す戦い方。そのトレーニング、何をすればいいのか分かったのだ。
今はまだ、はどうだんを覚えていないからこそ接近しながらも相手の攻撃を喰らわないように、高速で離脱できる技で距離をとる。
本来は攻撃用の技だが、すばやさに関係なく高速で動けるこの技だからこそ、とっしんをかわせたのだ。
「もう一度でんこうせっかで近づいてからのはっけい!!」
「リ、オオオオオ!!」
「ガァア!?」
「ズガイドス!? クッ……昨日とはまるで違う。動きも、気迫も、全部」
「負けたくないんだ。勝ちたい、みんなと一緒に勝ちたいから、僕はみんなが一番戦いやすい戦い方を考えるんだ。いくよ、もう一度つるぎのまい!」
「リオッ」
「させない。しねんのずつきよ!」
「ズガッ――ガ!?」
ジョーカーは再びつるぎのまいを使い、攻撃力を高めていく。だが、ズガイドスは攻撃が出来なかった。
からだが痺れるように、動かないのだ。
その様子を見てヒカリは驚愕した。まるで天運すらも彼に味方しているようだと。
「まひ……まさか、たった一度のはっけいで状態異常になるなんて」
「バトルに絶対は無い。だからこそ、今の自分に出来る一番いい方法を導き出すんです」
「うん、その通り。ズガイドス、ごめんね……今回はトレーナーは道具でサポートできないし、交代も禁止……でしたよね、シロナさん」
「ジムに準じたルールだから貴女は、ね。なんかまひ状態もひどいみたいだし、あなたは信じることしか出来ないわ」
「……それもた、トレーナーの役目ですよ。ズガイドス! まだ負けていないんだから全力で受け止めなさい!」
「ず、ズガぁ!」
たとえ、思うように動かなくても、背中は向けない、ズガイドスは真正面からジョーカーの攻撃を受け止めようと、その両足でしっかりとふんばる。
あと一撃で決まる。だけども……最後まで戦い抜く。
「ジョーカー、もう一度、はっけいだ!」
「リオオオオオオ!!」
ジョーカーがズガイドスへと迫り、そして――片方が倒れた。
「ズガイドス、戦闘不能!」
◇◇◇
ヒカリはボールへとズガイドスを戻し、次のボールへ手を伸ばす。
もちろん、ズガイドスにお疲れ様と言ってから。
「じゃあ、どうする? まだその子で戦うの?」
「いえ、次は――コイツです!」
アルはジョーカーを戻し、次のボールを投げる。
そこからでてきたのは当然、ウールだ。
「メリィ!」
「やる気十分、気合十分! 行くぞウール!」
「なら、私たちもいくわよ! エネコロロ!」
「エーネ」
エネコロロ……アルの記憶の中では、エネコロロの持つ特性はメロメロボディもしくはノーマルスキン。ミラクルスキンなんてものも存在するとか聞いた事はあるが、見たことはない。
「さぁ、いってねこだまし!」
「エネッ!」
「メッ!?」
「落ち着け、次の攻撃が来るぞ!!」
今度はせいでんきの特性は発動しなかった。
やはり、そう何度も都合よくは行かないようだ。
エネコロロがもしオスで、特性がメロメロボディだとしても、ウールは物理技を覚えていない。ならば、その特性は無視してもいい。
ノーマルスキンだとしても、地面技がノーマルタイプになれば弱点は突かれない。むしろコチラにメリットがある。
ミラクルスキンだとするならば厄介だ。なにせせいでんきの特性が効き難いからだ。たしか、状態異常に対する回避率も上がるはずだ。
「結局は、相手の攻撃を先読みするしかない。エネコロロならノーマルタイプの攻撃、一番強力なのは……とっておき!」
「さあ、でんじは!」
「メリィィ!?」
ひるんで動けないところにでんじは。当たれば必ずまひ状態になる技だ。アルもくちびるを噛むが、考えることを止めてはダメだ。
この場合、ウールにまひ状態の悪影響が一気に出ないことを祈るしかないのだ。
ならば、自分達が勝てる方法を模索するべきだ。
「ウール! じゅうでんだ!」
「め、メリィィ……イイ!!」
「エネコロロ、ふいうちよ!」
「な!?」
ふいうち、専制攻撃技。
エネコロロはウールの後ろに回りこむように入り、前足で一気に殴り飛ばした。
「メリッ!?」
「さあ、準備完了。エネコロロはシルクのスカーフを持っているからね……特性の正解はノーマルスキン。今までの技は全部威力が上がっているのよ。さすがに、この技を受けてもたっていられるかしら?」
今度もまひにはならなかったエネコロロ、出した技は3つ。
なんだよ……結局、僕は、僕には何も…………
「メリッ!」
「ウール……そっか、まだ、諦めてないのか」
「メリ、メリメリ!」
「ああ……大丈夫だ。信じてくれるなら、僕も諦めない。ウール! コットンガード!!」
「メェエエエエエ!!」
膨れ上がる毛、防御を一気に上げるこの技なら、一縷の望みをかけた勝負だ。
まひで動きが鈍い。次に来る攻撃はかわせない。なら、信じるだけだ。ウールを。昨夜の特訓を。
「いっけぇ! とっておきよ!!」
「コ、ロロロロロロロ!!」
強力なオーラをまとっての一撃。ノーマルタイプの中でも屈指の威力を誇る技、とっておき。他に覚えている技を出し切ったでないと使えない特殊な技。
だからこそ、その威力であるのに他のデメリットを持たない。
少し溜めに時間がかかるが、十分に凶悪だ。
「メリィ!?」
「耐えろ、まだ負けていない。勝つんだ。だから、体の電気、全部、全部、ぶちまけろォォォォォォ!!」
「メ――リィィィィィィ!!」
そのとき、特訓を終えたときのようにウールの体が極度に輝き始めた。
まるで、大きな電気の塊のように。
暴走しているかのように見えるが、今なら分かる。このまま、もっと電力を上げるんだ。もっと、もっと、もっと力を上げろ。
「もっと、もっとだぁあああ!」
「こ、これ以上は危険――いえ、コレは!?」
そして、エネコロロのとっておきと、ウールの放つ電力、二つの力がお互いにぶつかり合い続けて、爆発した。
◇◇◇
「けほぅけほっ……ダイジョーブ?」
「エネェ」
「まったく、あの子も無茶するわね……」
流石に、やりすぎたかとヒカリは考える。
まだ小さい子だし、目を回して倒れていないか心配して歩み寄ろうとするが、シロナに制される。
「なんですか、もう決着は――」
「ついてないわよ。いくらなんでも油断しすぎ」
「――へ?」
そして、煙が晴れた。そこにいたのは光り輝くウールだった。
いや、今までの姿から、少しずつ変化している。
毛は少なくなり、皮膚が見え始め、四足歩行から二足歩行へ。
体の色もピンク色へと変わっていく。
「メ――モコォ!!」
「も、モココ!?」
メリープの進化系、モココ。
アルたちとの特訓の最後で見せた暴走に近い電力は、進化の兆し。
モココの皮膚に一部毛がまったく生えないのは膨大な電力を溜めたからである。
「流石の私もコレはビックリだけど……それでも体力が回復したわけじゃない。エネコロロ、もういちどとっておきよ!」
「エネッ!」
「モコ!」
「ああ、分かったよモココ。やりたいようにレッツゴー!」
進化したことで技に何か変化があったのかもしれない。ウールはそのことを伝えるかのようにアルのほうを見て一声鳴いた。
ソレを感じ取り、アルはウールの判断に任せた。時には、ポケモンたちのしたい行動をとらせるのもまた必要。今はそのときだった。
「モコォ!」
光らせるのは尻尾。怪しく点滅する光はまるで見るもの全てを惑わせるようだった。
「あ、エネコロロ見ちゃダメ!」
「エネ? エ、エネ?」
「これは、混乱状態ね……」
「だけど、それが最後の技。四つ目があやしいひかりなら攻撃技は10まんボルトだけ」
ヒカリがそういったとき、アルとウールは視線を合わせる。
最大火力の10まんボルトも忘れるわけが無い。
そうだ、あやしいひかりは今まで覚えていなかった。ならば、何かしらの技を忘れているはずだ。
アレだけ苦労したパワージェムは忘れるなんて無い。
コットンガードは必要だ。エネコロロは物理技しか使ってこなかったから有効なのも分かっている。
なら、残る選択肢は一つだ。
「ウール! コットンガード!」
「モコッ!」
「ええい、ねこだましで邪魔して!」
「エネッ!?」
「ああぁ?! 混乱状態で最悪!」
エネコロロは自分を攻撃してしまい、フラフラと足取りもおかしい。
混乱状態はとてつもなく厄介な代物だ。ボールに戻せばすぐに治るが、交代は禁止であるし、そもそも交代できるポケモンがいない。
「10まんボルト!」
「モコォォォ!!」
「エ、エネ!?」
「ああ、ダイジョーブ!?」
「……エネッ!」
「よし、混乱とけた! ふいうち!」
「エネネ!」
再び回り込むように接近するエネコロロ、防御が上がっている今、コレだけではやられはしないが、次の技への連携が怖い。
ならば、自分達が取るべき作戦は……
「ウール、残った技を準備だ!」
「モコォ!」
「じゅうでんなんて、意味無いんだから!」
この時、ヒカリには残っている技はじゅうでんだという先入観があった。
シロナはこの言葉の違和感を感じていたが、誰もパワージェムという技をモココが覚えているとは知らないのだ。
先ほど不発に終わったじゅうでんが残っている技だと信じていた。ゆえに――
「モコッ!?」
「ふいうちからの、ねこだま――」
――モココの周囲を浮いていた光る石に気がつかなかったのだ。
「え?」
「パワージェム、発射!!」
「モコォ!!」
「ロロォ!?」
「な、なんで!?」
「どうやら、相手の作戦にはまったようね……進化したことで技が変わっていた。あやしいひかりなんて便利な技があったら昨日のうちに使っているはずだもの。パワージェムの精度をみると、特訓していたのはあの技だったのね」
そう、みっちり鍛えたパワージェムは進化したことも合わさり、エネコロロを吹き飛ばすほどの威力を発揮したのだ。
岩タイプの技だからか、効果は抜群とはいかないが、相手に大きな隙を生み出すことには成功した。
「10まんボルト!」
「モコォ!!」
「エネコロロ戦闘不能! よって勝者、アル!」
「よっしゃぁぁあ!!」
「モコォ!!」
力を合わせての勝利、コレがアルとポケモンたちの戦いと冒険の記録の第一歩だった。
そろそろバースデーに入らないとまずいな。
前回の話でアル君が止まれ止まれやったのは、無意識的に進化キャンセルをやっていたということです。
キャンセルされたのが、今になって再度発動という感じで。