4月入社の新社会人たちが胸を踊らせる、大型連休ゴールデンウイーク。
しかし芸能界は、そんなものとは全くの無縁なのであった。
新入社員達は毎日毎日休日返上で挨拶回りに付き合わされ、タレント達は特番で大忙し。
そして俺は動画編集の合間を縫って、必死で自主制作アニメの準備をしていた。
「天領さん!どうしてなの!?養成所を辞めるって……」
声優養成所のおばさん教師が、ビルから出ていく俺に追いすがってくる。
「
「あなたならすぐにでも声優としてデビューできるわよ!そりゃ歌は歌えないだろうけど……」
このおばさん、教え方は上手いが、いつも1言多いのだった。
「ここに来たのも社会勉強のためなので、デビューとかは考えてないんです。歌も関係ありません」
「みんなデビューを目指してここへ来るのよ?ありえないほど音痴なことをそんなに気にしてるの!?」
「いや別に……音痴は関係ありません」
「音痴な声優だっているわ!そりゃ誰もあなたほど酷くはないけど……でも自信を持って!!」
「違いますって、歌は関係ないんです」
「たしかにあなたが歌うと誰かが体調不良になったり、カラスが集まってきたり、急に雷が鳴り出したりするけど、誰もそんな事気にしてないわ!声優に必要なのは顔と声よ!」
「帰らせてもらいます!」
俺は都合3週間で声優養成所を自主卒業した。
声優としてのテクニックというよりは、先生の教える方のテクニックを盗んでいたので結構時間がかかったのだ。
動画の方はもう6話分完成していて、後は本編の残り半分と、オープニングとエンディングを曲に合わせて作るだけだ。
ここまで順風満帆だ。
そしてうち同様に、本家ぴにゃこら太アニメも快調に制作が進んでるらしい。
この間本家アニメのCM撮りの仕事に呼ばれて行ったとき、こそっと台本を見せてもらった。
なにやら教育番組のような、毒にも薬にもならない内容だった。
これではつまらない。
スーパーバード版のアニメは、もっと過激で、子供も大人も振り落とすぐらいの内容にしよう!
俺はそう決意を固めたのだった。
「武内く〜ん、6時だよぉ〜」
「迎えに来たわよ〜ん」
「ひっひっひ☆おい部活やらねぇかぁ」
「すいません……ほんとすいません……」
俺たちは週に3回ぐらいのペースで武内君とちっひを拉致していた。
うちのメンバーも含めて根本的に声が出ていなかったり、棒読みだったりするので色々と指導をしているのだ。
トレーニングやエチュードを使っての演技指導なんかをしたりして、一歩づつ地力を上げていっている。
「部長……」
「ああ、すまないな武内。うちにもっと力があればあいつらにお前を差し出すような真似は……」
「そんな、僕はこれもいい経験だと思っています」
「すまない……行ってこい」
「はいっ!」
ギャングみたいな扱われ方に若干不安を感じるが……まぁ人員を勝手に使わせてもらってるのは間違いないので、仕方がないのかもしれない。
しかし、稼ぎ頭のはずなのに扱いがひどい。
いつか会社の人が我々のビデオに笑顔で出てくれる日は来るのだろうか……
ーーーーーーーーーー
「その時、空に浮かんだ神の身体から、4本の『オールド・エッケザックス』が落ちてきました。王を決める選定の剣です」
「うおーっ!!
「きゃっ!」
「ひいっ!」
「うおっ!」
「ぴにゃこら太はその場にいた他の3人を押しのけ、すべてのオールド・エッケザックスをその手に収めました」
「へっへっへっ……
「ぴにゃ……」
「貴様……」
「許さないぞ☆」
「他の王子、王女たちは怒りました。力を合わせてここまでやってきたうちの一人が、欲に溺れて裏切ったからです」
「許さなければどうだ!ボクは王になる!
「ぴにゃこら太の瞳は黒く淀んでいました。我欲に飲み込まれたその姿に、清き翠の王子と呼ばれた面影はどこにもありません」
「ぴにゃ、さようなら」
「ぴにゃ美は青く輝く剣を抜きました、そう、彼女は
「成敗するぜ」
「ぴにゃ兵衛は濃紫の短剣を構えました、そう、彼は
「ぶったおす☆」
「しゅがーはぁとは竜の大剣を担ぎました、そう、彼女は
「かかってこいや、アバズレ童貞どもがぁー!!オッケを持った
「今ここに、真の王を決める最終決戦が始まったのです」
ーーーーーーーーーー
第3話 ぴにゃンブルーファンタジーの台本の読みあわせ中に、武内君がぽつりと漏らした。
「この話……いや、このアニメ自体なんですが、ぴにゃファンが怒りませんか?」
「なんで?」
「ちょっと、ぴにゃのイメージとかけ離れすぎていると思うんですが……」
「ぴにゃのイメージって言っても……スーパーバードのぴにゃと、会社の売りたいぴにゃってほとんど別物だからねぇ」
会社の売りたいぴにゃは緑のタイツにもならないし、酒も飲まないらしい。
森の妖精なんだそうだ。
なんだそりゃ。
ちょっとムッとしたので、俺はアニメの中でぴにゃをずんだ餅の妖精ということにした。
ピンクぴにゃは桜餅の妖精。
ブラックぴにゃはピータンの妖精だ。
「アニメーションはもの凄く凝っていて素晴らしいんですが……毎回ぴにゃが色んな形で酷い目にあうのがかわいそうなんですよ。もちろんぴにゃも悪いことを沢山するんですけど……」
「ていうか、全体的にものすごく不謹慎ですよ……」
ちっひも武内君の肩を持つ。
「そうかな?まぁ基本ぴにゃはド畜生キャラにしてるからかな」
「自分の母親にオレオレ詐欺を仕掛ける話とかもそうですけど……」
「あれはひどいわね」
「特にこの4話予定の、契約更改で美城執行役員に『マスコットに契約金は出ない』って言われて勝手にUtuberデビューして小遣い稼ぎしちゃう話、これはまずいですよ……」
「でも面白くない?武内はクスリともしなかった?」
「面白いのは面白いんですけど。こう、なんていうか……」
「まぁ武内君、私達が何を言ったってしょうがないじゃない」
「そうですが……」
「時にはこういう変な人の意味不明な要求を淡々と熟す事も必要なのよ、芸能界ではね」
「そういう……ものですか」
ひでぇ言われようだ。
ちっひは言いたい放題言ったあげく『安くて美味しい店を教えてあげようか?』と武内君を誘惑して連れて帰ってしまった。
あの二人、上手くいってるんだろうか……
杞憂だった。
6月にまた2週間ほど海外ロケに行って疲労困憊で帰ってきた俺たちに、笑顔のちっひと苦笑いの武内君が交際を報告してくれた。
手が早すぎる。
これからは彼女の事をスローハンドと呼ぼうと思う。
……………………
スーパーバード関連の掲示板まとめ
【悲報】Utuberさん、自分のストーカーにストーカー対策を教わってしまう
1 名無しの視聴者
魅力溢れるあなた
ストーカー対策、してますか?
今日は本物のストーカーを4人招いて徹底検証
本当に効果のあるストーカー対策プロの技とは?
↓以下リンク先
2 名無しの視聴者
真の博愛主義者
16 名無しの視聴者
ストーカーニコニコで肩組んでて草
22 名無しの視聴者
「日ごろから私のことをストーキングしてる人がいるそうなので、今日はそのプロの方に話を聞くことにしました」
メンタル強すぎない?
57 名無しの視聴者
またこいつか、売名だろ
134 名無しの視聴者
割と内容しっかりしててほんと草
13 名無しの視聴者
好感度しか稼げない男
66 名無しの視聴者
「これでガラスの音を集音できます」
って普通にレーザー盗聴器出してたけどガチの人達じゃん、逃げて〜
156 名無しの視聴者
ストーキングしときゃよかった……
【超絶朗報】Utuberさん、脱いでしまう
1 名無しの視聴者
今週は有名Utuberスーパーバードの寒中水泳企画に密着取材
プロデューサーまで服を脱いで海へ入り、一年の健康を願った
↓以下リンク先
2 名無しの視聴者
エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ
16 名無しの視聴者
思わずモニター拝んだわ
45 名無しの視聴者
昼休みに会社のモニターで見てたら上司どころか隣の部屋の部長まで見に来た
48 名無しの視聴者
>>45
想像したら草
55 名無しの視聴者
釣りかと思ったらほんとだった
78 名無しの視聴者
若干腹プニッてんのがマジでエロい
170 名無しの視聴者
動画見ながら〇〇〇〇捗るわ
99 名無しの視聴者
やっぱスーバーのメンバーとやってんのかな
103 名無しの視聴者
>>99
死にたくなるからやめてくれ
【悲報】 Utuberさん、インドでお尋ね者
1 名無しの視聴者
現地警察の捜査によると、厨房から出火したゴアの飲食店から日本人男性がインド人女性3人を救出したと見られています。
男性は右肩にカメラを担いだまま逆の肩に女性を担いで救出しており、現地では「スーパーマン」と呼ばれているそうです。
男性はその後連れの女性と共に現場を立ち去っており、インド政府は男性の情報を求めています。
↓以下リンク先
2 名無しの視聴者
ニュースで映像見たけど完全にメッキだったわ。
33 名無しの視聴者
撮る方と撮られる方を致命的に間違えた男
134 名無しの視聴者
人を笑顔にしかできない男
382 名無しの視聴者
割とマジで凄くて草
4 名無しの視聴者
なんでカメラ降ろさないんだ?
8 名無しの視聴者
>>4
撮れ高が欲しいからだろ
99 名無しの視聴者
かっこええやん
198 名無しの視聴者
映画みたい
153 名無しの視聴者
これも動画にならないのかな、最近インドネシア行ってたけどその動画も出してないし
色々考えたんですけど、ストーカーの人とかは本編に出さない事にしました。