2013年の7月。
夏の甲子園の前哨戦とも言える全国男子高校生野球大会が終わって早々、俺たちはイスラエルに飛んだ。
ぴにゃこら太のアニメ放送に合わせた自主制作アニメは海外からアップロードし、美城執行役員に怒られるのを避ける形となった。
とはいえ1クール分丸々イスラエルに滞在するわけにもいかない。
1ヶ月ほどで用事を済ませた我々は、ロンドンへと飛んだ。
狙いはドラムンベースの変化球、リキッドファンクである。
とはいえロンドンは音楽の都。
我らクルーはできる限りの人物にコンタクトを取り、ここで大いにアルバムの曲数を稼ぐことになる。
そうしてTVアニメの1クール分を丸々海外で過ごした我々は、秋の訪れとともに羽田空港へと凱旋を果たしたのだった。
そして帰ってきたその日、俺は荷物を解くこともなく美城執行役員に呼び出されていた。
「やってくれたな」
「すいません、ここまで大事になるとは……処分は如何様にも受けます」
「処分?できると思ってるのか?」
俺を鋭く睨みつけていた美城執行役員は、やれやれといった様子で眉間の皺を揉んだ。
「美城執行役員が望まれるなら、辞表を出します」
「はっ……バカバカしい。君の作ったふざけたアニメの影響を本当にわかってるのか?」
「なんか人気だなぁ、と……」
「美城の株は過去最高額でストップ高だ。経済誌のフェイブスは読んでいるか?」
「いえ、寡聞にして……プレイヤー誌とギターマガジンなら読んでますけど」
「世界一有名な経済誌なのだがな……まぁいい、君のアニメの話がアメリカのそれに載ってな。公式のアニメじゃないぞ、君が作ったあのふざけたアニメだ」
「はい……」
美城執行役員は机からキャビンを取り出し、震える手で火を付けた。
「今やぴにゃこら太は、世界のぴにゃこら太だ」
だいぶ疲れているご様子だ、吐き出す煙にも元気がない。
「そうなんですか?実感はありませんが」
「君に実感があろうがなかろうが、事態は動いている。私は常務に上がることになった」
「ええ!?おめでとうございます!」
いくら執行役員が直系の美城一族とはいえ、ここまで早く出世するのは普通じゃないだろう。
「ニューヨークへ行く。あちらにも我が社の窓口はあるが、あまりに規模が小さいのでな。行って事業を拡大し、ぴにゃこら太を本格的に英語圏に売り込むことになった」
「そう……ですか」
彼女はふっ、とシニカルな笑みを見せ、赤いルージュの唇から薄く煙を吐き出した。
「良かったな、君はしばらくフリーだ。私が戻るまでは、何かあれば今西部長に相談したまえ」
「いや、そんな……」
「……下がってよし」
力ない彼女の言葉に見送られ、俺は美城
常務と俺は都合一年ちょっとの関係だったが、なんだか少しだけ寂しい気持ちになったよ。
1週間の完全休養の後。
ハイパーメディアクリエイター事業部事務室に、俺とメンバー達は集まっていた。
「で、なんでこんなことになったんだよ☆再生数爆上がりだなとは思ってたけど、ずっと海外いたからイマイチわかんないんだよな。英語できないしさ」
「なんかゲーム配信者のSamuraiってやつと、女歌手のジャスティン・バービーってのがうちの自主制作アニメを『覇権アニメだ』って言い出してバズったらしい」
「へぇー」
「そのうち10話のジュリ扇ダンスを外人がまねしだして『あの緑のブサイクはなんなんだ』って話題になって、有名な雑誌でぴにゃが特集されたそうだ」
「ラッキーですね〜」
「そんなうまい話があるのかしら?」
ぴにゃ大出世のあまりのトントン拍子ぶりに、川島さんもさすがに思案顔だ。
「現に上司が常務にまでなっちゃってんだから、これが現実なんだよ」
そう、これが現実。
売れるも八卦、売れぬも八卦なのだ。
「でもはぁとらは出世してないじゃん☆」
「あなた達はタレントじゃないですか。私はハイパーメディアクリエイター事業部の長ですから」
会社的にはヒラ社員だがな。
「下に四人しかいない裸の王様じゃねーか☆」
「この暗くて狭くて不便な王宮にも、もう慣れちゃったわね……」
我々ハイパーメディアクリエイター事業部の部屋は美城芸能ビルB2Fの奥部屋だ。
災害備蓄用の物資や、書類の収納部屋に囲まれて埃っぽいのだが、その分何をやっても誰からも文句は言われない立地だった。
「まぁまぁ、その代わりこの部屋はサンダーかけても塗装したりしても文句言われないじゃないですか〜」
「周りの部屋全部物置だものね……」
このあまりにプレミアムな環境に、さすがのヘレンもうんざり顔だ。
これだけ美城に貢献したんだから、もっといい部屋くれてもいいのに。
いや駄目か、色んな人の面子潰しちゃったからな。
「別に工作とかがやりたいってわけじゃないんだけど……」
「まあまあまあ、今日のところは楽しい鍋パーティーなわけですから」
肉体労働が嫌いな川島さんがブルーになり始めて、ちょっぴり暗い雰囲気になってしまったが……
今日の企画は食欲の秋に嬉しい鍋料理の企画なのだ、終わる頃にはみんな笑顔になってるだろう。
「そうですよ〜瑞樹さん、そんな暗い顔しないでください」
「ていうかこの部屋でやっていいのかよ、火災報知器とか鳴るんじゃないか?」
「ちゃんと届け出だしてますから」
怒られすぎて色々と手続きを覚えてしまったからな、このビルの施設に1番詳しいヒラ社員は俺だろう。
「そういうところだけは用意周到なんだよな☆」
「一応闇鍋って企画だけど、変な物入れられたら嫌だから全員の具材チェックしますんで」
「そんな変なもの持ってくる人いないわよ」
「失礼しちゃうわ」
ほんとかなぁ。
佐藤やウサミンあたりあやしいぞ。
「まあまあまあ、じゃあサクッといきましょうか。1番、川島瑞樹のチョイス!」
「私はこれ、油かすね。実家から送ってもらったの」
川島さんはダッフルバッグから、お麩だか干し椎茸だかわからないようなもののパックを取り出した。
懐かしいな、俺は昔よく食べた。
「これなぁに☆」
「見たことありませんね〜」
「お麩かしら?」
「これは関西の名物で、ホルモンから油を抜いたあとの物ですよ。水を吸うとくにゅくにゅカリカリの不思議な食感になるんです」
「へぇ〜☆」
「鍍金君詳しいわね〜食べたことあるの?」
知っている人間がいて川島さんは嬉しそうだ。
「昔大阪の女のヒモだったんで」
「ありゃりゃ……」
「そういうのだめですよ〜コンプラですコンプラ」
「コメントしづらいわよ」
軽く流されてしまった。
彼女達ももう多少の逆セクハラでは動じなくなってきているのだなと、確かな成長を実感した俺だった。
「じゃあ2番、ウサミンのチョイス!」
「えへへ、ナナはウサミン星名産のイワシで作ったつみれです」
つみれの入ったタッパーをトートバッグから取り出すウサミン。
「なめろうじゃなくてつみれなのね」
「作り方はほとんど変わらないですけどね〜」
「ナナ先輩らしい渋いチョイス☆」
「そのままでも、ちょっとお醤油垂らしたらお酒に合いそうね〜」
川島さんは持参したマイ黒霧島を、いそいそとダッフルバッグから取り出した。
氷も買ってきてあって準備万端だ。
「それでは3番、ヘレンのチョイス!」
「これ、秋田の親戚から送ってもらったんだけど……きりたんぽ」
ヘレンが持ってきたのは秋田名物きりたんぽだ。
パック入りのでかいうまい棒にも見える。
「これは美味しいやつ☆」
「いいわね〜」
「食べたことないんですけど、材料はご飯なんですっけ?」
「味付けしてない五平餅みたいなもんだよ」
「ああ〜、なるほど〜」
ここまでのラインナップで安心しきっていた俺は、気分良くカメラの後ろ側で自分の飲む梅酒の準備なんかをやっていた。
「最後に4番、しゅがーはぁとのチョイス!」
「はぁとはこれ☆」
「ん?なんだこれ」
自信満々の佐藤が取り出したのは、ラップにくるまれた小麦粉の塊みたいなものだった。
「こっち来てイタリアンの店で修行してる同級生にパイ生地練ってもらったんだ」
パイ生地!?
ちゃんこ鍋に!?
「はぁ!?バカかお前、鍋だぞ鍋!」
「ほら、グラタンとかの上にパイでドーム作るじゃん、あんな風にさ☆」
「あれはオーブンで上から焼くからああやってパリッとなんだよ。どうすんだ鍋の上に貼って、下からの蒸気でシナシナになるだけじゃねぇか」
「じゃあ上からバーナーかなんかで焼けばいいでしょ☆」
「よしんばバーナーで焼いてパリパリっとさせたところで、お前それちゃんこ鍋の中に突き落として食って美味いと思うのか?」
「美味しいかもしれないじゃん」
「じゃあお前の分にだけ切り餅みてぇにパイ生地切り分けて入れてやるか?中でホロホロホロホロ崩れてパン粥みたいになるぞ。お前それ全部食えよ」
「うるさいな!はぁとは良かれと思ってパイ持ってきたんだろー!!どうせ誰もオシャレな具材なんか持ってこないと思ったから、朝っぱらから新宿まで行って友達叩き起こしてパイ練って貰ってきたんじゃんか!!」
佐藤はムキになって怒っているが、さすがにこれはない。
「お前……鍋って言ったろうが!闇鍋って!せめて鍋に入れて原型が残るものにしろよ!!」
「ま、まぁまぁ鍍金君もはぁとちゃんも落ち着いて」
ウサミンが柔らかく俺と佐藤の間に入ってくれて、熱くなっていた俺と佐藤もちょっとだけ冷静になれた。
癒やしのウサミンだ、ぴにゃこら太じゃなくてウサミン星のUNちゃんとかにしておけばよかったか。
いや、それはないな。
「パイはパイで作りましょ」
ヘレンはそそくさとパイ生地をどこかへ持っていった。
「そういえばプロデューサーは何を持ってきたの?」
「俺?シャウエッセン。好きだから箱で買ってきた」
「箱で!?」
「箱で買う人初めて見た!」
「お前パイ生地バカにできねーぞ☆」
「あは、あはは……ソ、ソーセージのパイ包みも作りましょうか……」
俺の本気チョイスはあまりメンバーにはウケなかったようだ、シャウエッセン、俺はいくらでも食えるのにな……
もしかして、俺も佐藤と同レベルなのか?
ウサミンの苦笑いが心に鈍く響いた。
……………………
おまけ
ぴにゃこら太 THE ANIMATION 第1話 「地獄から来た男」
346,114,514回視聴
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Mishiro Idol
2013/07/11 に公開
2013年初頭、我々スーパーバードはぴにゃこら太のTVアニメ企画からハブられてしまった
企画への参加はもちろん、声優としての出演までをも無下に断られた我々は、静かに復讐を誓ったのだった
というわけで勝手に自主制作でぴにゃこら太のアニメを作りました
全12話で毎週更新されるよ!
楽しんでね!
あらすじ
新宿で当たり屋として生計をたてていたぴにゃこら太の生活は、ある日1台の黒いフェアレディZにぶつかった時から激変した。
淫魔のZと呼ばれるその車にどうしようもなく惹かれていくぴにゃこら太は、父親の形見のバブ2に跨り、夜な夜な危険な街へと繰り出していく……
企画 作画 脚本 編集 メッキ
音楽 メッキの母
OP曲 Alwi
ED曲 אופיר
しゅがぁはぁと役 佐藤心
ウサミン星人役 安部菜々
みじゅき役 川島瑞樹
ヘレン役 ヘレン
ぴにゃこら太役 ヘレン
ぴにゃ美役 チヒーン
ぴにゃ兵衛役 ジャック
のコメント欄
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はすはす 1時間前
イントロ長すぎて歌詞3文字しか入ってないFUNKOTオープニング、狂おしいほど好き。
返信 b56 q2
ぷんちゃ 1時間前
+はすはす EDのゴリゴリのサイケデリックトランスは歌詞すら入ってないのもっとすこ。
返信 b44 q1
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medaka 4時間前
マジで天領鍍金って何者なんだ?
多才すぎないか?
こんな動く動画一人で描ける人いるか?
返信 b334 q
Canal 4時間前
+medaka これぐらい誰でもかけるし、歌はド下手だし。
返信 b q1266
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665544 6時間前
ぴにゃ達が封鎖された高速道路を旧都心の爆心地に向けてバイクで走っていくとこ、アニメの歴史に残るレベルだと思うんだけど。
うちずっとあそこばっかりリピートしてみてる。
返信 b648 q4
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bell 9時間前
Cool
返信 b89 q1
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コブラ 10時間前
結局考察班(笑)はどうなったんだろ、ギブアップしたのかなw
返信 b5 q67
ramda 6時間前
+コブラ 考察も何も超絶作画のオムニバスギャグアニメ以上のものではないだろ
返信 b79 q5
Joker 4時間前
+ramda ○イ○か?明らかに全話に根底した闇の深いテーマがあると思うんだが
返信 b3 q670
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ナカトミ 12時間前
BBCにスパバ映った記念w
返信 b902 q24
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Maple 14時間前
無事に帰国されたようで安心しました。
ロンドンでは1回目が合いましたね、もっとドンドン合わせてくれてもよかったんですよ?
また海外に行くときはご一緒できるように、パスポートを更新しておかないと。
UK土産のジョニー・ウォーカーを飲みにゆーけー、なんちゃって、ふふ。
また日高屋で日の高いうちから飲みたいですね、私もそのとき
詳細
返信 b45 q7798
厶〜ん 11時間前
+Maple 本人どころか視聴者ほぼ全員に顔割れてるのに普通にストーカー続けるって、メンタル強すぎません?
返信 b3345 q2
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Mochi 20時間前
ウサミン台詞1行で草
返信 b4476 q385
ちょっとこの回、主人公に髭を生やしすぎた気がします。
どう書き直してもうまくいかないのでこのまま投稿します、違和感があったら申し訳ありません、