「天領さん! ドイツ国際映画祭で監督賞を受賞ということですが今のお気持ちは!」
「天領さん! 『SUPER BIRD』の日本公開は本当にないんですか! 天領さん!」
「美城芸能に対して何か思うところは!?」
なんとなく涼しいドイツからドチャクソ暑い日本へと凱旋してきたこの日、成田空港はなかなか見ない量のマスコミでごった返していた。
そう、俺たちの作った映画『SUPER BIRD』は見事にドイツ映画祭で入賞を果たしたのだ。
残念ながら主演女優賞ではなく監督賞ということになったが、受賞は受賞だ。
佐藤には「ずっこいぞ☆」と肩パンをされたが、まあ目的がきちんと果たせたんだからいいだろ。
「あーあ、主演女優として帰ってくるつもりだったのにな☆」
「監督賞が取れたことだって凄いことなのよ」
「そうですよ~」
「キャラクター賞があればぴにゃが取ってたかもね」
そんなことをくっちゃべりながらタクシーで会社へと戻り、アイドル事業部にお土産だけ渡してこの日は解散となった。
ドイツの芋料理とホテルも良かったけど、やっぱり日本の超鳥貴族と自分の部屋が一番だ。
一杯ひっかけてちょっとだけ仕事して、泥のように眠った。
時差ボケってわけでもないが、いつでも海外から帰ったその日は疲労困憊だ。
明日は社長に直談判だしな、よく寝ておくに越したことはないだろう。
「……で、社長の説得駄目だったって? マジかよ?」
「まさか映画祭で賞を取ってもぴにゃの使用を拒否されるなんてね……」
「朝から社長室を叩き出されるまで四時間粘ったけど駄目だった」
「粘りすぎですよ〜」
ドイツから帰った翌日、ドイツ映画祭監督賞作品という巨大な交渉材料を手に意気揚々と社長への直談判に向かった俺は、結局NOを突きつけられて帰ってくることとなった。
思った以上に社長の態度は頑なで、交渉の余地なしといった感じだ。
これは社長がはっきりと言ったことだが……
今や超巨大ビジネスに成長したぴにゃこら太事業は、たとえどんな賞を受賞していようがたかが映画一本とは比べ物にもならないのだそうだ。
美城芸能はこれからぴにゃこら太をハローキティのような巨大IPに育てていく計画を立てているらしい。
ぴにゃこら太のイメージを固めるためにも、ヘレンのぴにゃは今後テレビと銀幕に出させるつもりはない……ときっぱりそう言われてしまったからにはもうどうしようもない。
俺だってサラリーマンだ、上の命令には真っ向からは逆らえない。
デカいシノギだ、社員の生活がかかっているというのも、まぁわかっているつもりだ。
しかし、しかしだ。
会社のやり方にムカついているのも確かだ。
俺たち5人と同じように、ぴにゃこら太もまたスーパーバードなのだ。
その晴れ姿を皆に見てほしいと思うのは、俺のわがままなのだろうか?
「で、どうするの?」
ぴにゃの着ぐるみをブラッシングしていたヘレンが聞く。
「どうしよっかな」
「と言っても、今回ばかりはもう無理じゃない? せっかく賞まで貰ったけど、お蔵入りかしらね」
マッサージ機にかかりながらレモンのシャーベットを食べている川島さんがそう言うと、床のゴザに寝そべってホームランバーを頬張る佐藤が話を混ぜ返す。
「でもさぁ瑞希ちゃん、予告編が1.5億再生もされてるのにもったいないって☆」
そうなんだよな。
映画の予告編がいつの間にか凄い再生数になってて、ファンたちが署名活動までしてくれていたらしい。
まぁ、その批判を受けてでも配給しないっていうんだから、社長も大概腹が据わってるよな。
「ミニシアターなら伝手がありますけど……また人が詰めかけて大変なことになっちゃいますよね」
アイスまんじゅうを頬張るウサミンが言うとおり、小規模劇場でさっさと上映するって手もないではない。
でもまぁ、今のスーパーバードの人気だと公共交通機関が麻痺するレベルで人が集まるからな、劇場側から拒否されるかもしれん。
「もうUtubeで流しちゃう?」
「いや、うーん……」
ヘレンの言うそれが一番現実的な線だ。
実際社長にもそうしろって言われたんだよな。
でもなぁ……
「それも手なんだけど……どうせならでっかいとこで上映したい」
せっかく音響も映像も色々作り込んだんだ、最終的にはネットに上げるかディスクで売るとしても、最初の一回ぐらいは大きい画面でみんなで見たい。
俺たちがどんな旅をしてあのCDを作ったのかを、きちんと発表したいのだ。
「でっかいところってどこよ?」
「TOH○シネマですか?」
T○HOシネマに配給できないから困ってるんだよ、とウサミンにツッコミを入れようとしたその時、俺の頭にひとつのアイデアがよぎった。
そう、前世で行った、TO○Oシネマで行われたロックアーティストのライブビューイングだ。
あれの逆で、ライブで人を集めて、そこで映画を上映したらいいんじゃないのか?
「…………武道館」
完全に思いつきだったが、口に出した瞬間「これしかない」という気持ちになった。
「武道館でライブをして、そこでゲリラ公開だ!」
「はぁ? 武道館?」
佐藤は驚いた拍子にゴザの上にホームランバーを落としてしまったようだ、後でちゃんと掃除しておけよ。
「武道館ってあの千代田区のとこですか~?」
「そうです、東京ドームに近いあそこです」
「そんなでっかいところ、そもそも私達が出れるわけ?」
「なんとかします」
川島さんは怪訝な顔だが、俺はやると言ったらなんでもやってきた男だ。
まぁ準備に多少時間はかかるだろうが、今回も必ずやり遂げて見せるぞ。
「ていうかそれって、社長に怒られないの?」
「配給しない、と宣言されただけなんで、こっちが勝手にやるのは大丈夫じゃないですかね」
心配そうな顔のヘレンには悪いが、多分怒られる。
まあ、どうせ面と向かって怒られるのは俺だけだしな。
よし、やるぞ!
次の目標は武道館デビューだ!
「まぁ、鍍金くんがやるって言うならいいけど……」
「私は楽しみですよ!」
「武道館かぁ☆ほんとなら夢みたいだよなぁ」
「そういう目標があるなら、私ももっとダンスを磨いておかないとね」
「今でもキレキレのぴにゃのダンスがもっとキレんのかよ☆」
とにかく一つ大きな目標のできた我々は、この日からまた精力的な活動を再開したのだった。
美城芸能前の駐車場に、我々はまた集結していた。
みんなリュックの旅装束だが、美容にこだわる川島さんだけはでっかいスーツケースを引いている。
佐藤とウサミンに至ってはもう最初からジャージとスニーカーだ。
いつの間にか我々もすっかり旅慣れてしまったな。
「さて皆さん! ドイツ旅行は楽しかったでしょうか?」
「おー!」
「涼しくていいとこでしたね~」
「ああいう海外ならいいわよねぇ」
「インドとかイスラエルとかはもう勘弁してほしいわ……入院したくないし」
ヘレンはどうも旅運がないんだよな、ドイツにも忘れ物をしてきたし。
「今回皆さんには旅をするということはお伝えしていましたが、行き先は言っていませんでしたね」
「そうだよ、どこ行くかわかんないからジャージになっちゃっただろ☆」
「それで、どこ行くんですか~?」
「逆に聞きましょう! 皆さんどこに行きたいですか?」
「えっ?」
「どこでもいいですよ、今回は皆さんの行きたいところに行きましょう!」
皆にそう言うと、最初はポカンとした顔をしていたのだが……
次第に状況が飲み込めてきたのか、すぐに全員が嬉しそうな表情になった。
「やった~!」
ウサミンは両手を上げて喜びを表し、隣の川島さんと手を合わせて喜んでいる。
俺はフリップとマジックを取り出し、皆の意見を待った。
「どこでもいいのかよ☆」
「いいですよ。たーだーし、日本国内限定です」
「もう海外はしばらくいいわよ……」
「なるほどね、どこにいくかわからないから今回は簡易ぴにゃだけ用意したのね」
「下呂温泉☆」
「京都~!」
「暑いから札幌、前みたいにバイクで帰ってくるのは勘弁よ」
「私厳島神社、一度見てみたかったの」
「はいはいはい、あと二つどうぞ」
「鎌倉~!」
「普段あんまり行かないから横浜中華街☆」
「はいそこまで! ちょっと待っててくださいね~」
俺は皆の言った目的地をフリップに書き込み、佐藤に持たせた。
そしてウサミンにはサイコロを持たせる。
「なんだよこのフリップ☆」
「サイコロ~?」
「皆さんには、このサイコロで行き先を決めてもらいます」
「なるほどね、たしかにこれなら恨みっこなしね」
そうでしょうそうでしょう。
勘の鋭いヘレンがなんだか嫌そうな顔をしているが、無視して先に進めよう。
「振りますよ~」
「おっ! 三番! 札幌かぁ☆」
「やったわ、またあの美味しい回転寿司行きましょうね」
浮かれる三人には悪いが、この企画、それだけじゃない。
「じゃあ、どうやって行くか決めましょうか」
「えっ?」
「はぁ~?」
「まさか歩いて行けとか言わないでしょうね」
「大丈夫、体を使う企画じゃございません」
俺は予めリストアップしておいた経路と行き先をフリップに書き込んで、また佐藤に渡した。
1 飛行機で札幌
2 フェリーで札幌
3 飛行機で福岡
4 新幹線で福島
5 新幹線で大阪
6 フェリーで徳島
六つの選択肢のうち、二つが札幌行き。
その他はてんで別の場所への道行きとなっている。
「おいなんだよこれ☆全然関係ない場所も書いてあるじゃんか」
「今回の企画はそういう企画です、サイコロを振って、出た目に向かって頂きます」
「はぁ~!? なんでだよ!」
「普通に旅行させてくださいよ~」
「こんなことじゃないかと思った……」
「悪い予感がしたから着替えを多めに持ってきたんだけど、よかったわ……」
騒ぐメンバー達を落ち着け、再びウサミンにダイスを渡す。
このメンツ全員一週間はこの他に仕事を入れてないからな、ハズレまくれば最悪六泊七日だぞ。
「さあ! 運命の第一投目を……どうぞ!」
「あの、これって札幌についたら終わりですよね? 帰り道もなんて言わないですよね?」
「どうぞ!」
こうして、メンバー全員が憔悴し切るまで続くことになる悪魔の企画「サイコロの旅」の最初の賽は、ウサミンによって投げられたのであった。
Ghost of Tsushimaが面白すぎて生活がぶっ壊れそうです