あの日のナポレオンを覚えているか   作:岸若まみず

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おひさしぶりです。
佐藤心、本当の本当におめでとう。
ローソンのブロマイドガチャで僕と握手だ。


第19話

「……で、新幹線にいる間どうすんだよ☆」

 

「なにかしたいことがあるなら、どうぞ!」

 

「どうぞ! じゃねーだろ☆考えとけよ少しは!」

 

「もしかしてノープランなの? 何の中身もない企画になるんじゃない?」

 

「たしかに、電車で移動中にできる事ってないですもんね……」

 

「ぴにゃ……」

 

 

冷房のしっかり効いた新幹線のグリーン車に乗り込んだ我々は、レモン缶チューハイを片手にくだを巻いていた。

 

半時間前、美城芸能前でウサミンの投げたダイスは4の『新幹線で福島』。

 

今はそのダイスに従い、新幹線で福島へと移動中なのだった。

 

三列シートを回転させて作ったボックスの中で一息ついたのはいいが、やることは何もない。

 

とりあえずカメラは回しているが、多分このシーンで動画に使われるのは十秒ほどだろう。

 

あまり納得のいっていなさそうな顔をした佐藤はピーナッツを齧ってチューハイを煽り、簡易型ぴにゃを被ったヘレンは何やらスマホを操作している。

 

 

 

マッタリとした空気が流れ、くあっとアクビをした瞬間、車両真ん中の通路を歩いていた女と目が合った。

 

大学生ぐらいの年頃のその女の子は驚きに目を丸くして小さく「あっ!」と声を上げ、俺が口の前に立てた人差し指を見て、嬉しそうな顔でコクコクと頷いた。

 

 

「あの、応援してます」

 

 

横を通る時に小声でそう言ってくれた彼女に、俺は小さく手を振った。

 

逃げ場のない新幹線の中だ、騒ぎになったら恥ずかしいからな。

 

理性的なファンで良かったよ。

 

胸をほっと撫で下ろしたのもつかの間、また別の人間とバチッと目が合った。

 

制服を着た高校生だ。

 

平日に制服で新幹線に乗っているということは、修学旅行か何かだろうか?

 

さっきと同じように口の前に指を立てようとした瞬間、相手の口から絶叫が飛び出した。

 

 

「えーーーーーっ!? マジ!? スーパーバード!?」

 

「スーパーバード!? 何が!?」

 

「どうしたって?」

 

「こっちグリーン車だって~」

 

「えっ!! ベッキバン(鍍金じゃん)!!!!」

 

 

後から後からぞろぞろとこちらへと歩いて集まってくる女子高生たちの青い叫びを聞きつけて、他の客たちもこちらへと視線を向ける。

 

 

「おい☆」

 

 

渋い顔の佐藤がスニーカーのつま先で俺のスネをちょんと突き、川島さんは我関せずという感じで窓の外へ視線を向けた。

 

俺のせいじゃねーだろ!!

 

 

「あ、あはは……これはレモンジュースですよ」

 

 

高校生の無遠慮なスマホを向けられ、困った顔のウサミンは背中と座席の間にお酒を隠して頭をかいた。

 

 

「あのっ! 撮影中ですか!?」

 

「サイン欲しいです! お願いします!」

 

「ウサミン顔ちっちゃ~い!!」

 

 

女子高生は次々に車両へ入ってきて、俺達の席の周りを取り囲むように人だかりを作りはじめた。

 

 

「大きな声がしたそうですが、何かございましたか!?」

 

「いや、あのぉ……スーパーバードが……」

 

 

車両の入り口からは騒ぎを聞きつけてやってきたらしい乗務員と女子高生がそんな話をしているのが聞こえてくる。

 

もう、大迷惑だ。

 

そうか、新幹線だとこういうこともあるのか。

 

あんまり他の客の迷惑になるんじゃあまずいよなぁ……

 

俺は何の抵抗もできずに女子高生に写真を撮られながら、心の中で今後の旅の中の鉄道移動の選択肢に横線を入れたのだった。

 

 

 

福島駅に滑り込んだ新幹線の周りは、スマホを構えた人々でごった返していた。

 

恐らく誰かがSNSで拡散したんだろう。

 

福島中のファンが集合したんじゃないかというぐらいに、ホームにはむっとする熱気とざわめきが立ち込めている。

 

 

「おいおいおい☆ すげーことになっちゃってるって!」

 

「これ、ヤバいんじゃないかしら?」

 

「パニックになっちゃってますよ!」

 

「着ぐるみのぴにゃじゃなくて良かったわ」

 

 

開いた新幹線のドアから我々が顔を覗かせると、集まった人々からどよめきが起こる。

 

おかしいな、まるで国際線を降りた外タレのような扱いじゃないか。

 

 

「これ……なんで? 前まではここまでじゃなかったよな?」

 

「バカお前、映画の賞取ってから延々ニュースに出てんだから前と比べもんになるわけないだろ☆」

 

「今はUtubeのお気に入り登録者も1500万人超えてるのよ。海外の人も多いけど、七割ぐらいは日本人なんだから」

 

「そうですよ~凄い人気なんですから」

 

「全国7000万の日本人の二割に見られてるってことか……」

 

 

登録者数なんて気にしてなかったけど、そんな状況でこの企画はたしかに無茶だったのかもしれない。

 

 

「佐藤ーっ!」

 

「ぴにゃーっ!」

 

「降りられるお客様がいらっしゃいますのでお下がりくださーい!!」

 

「ドアの前に立たないでーっ!」

 

 

ファンたちの歓声と駅員の制止の声が響き、俺たちはロックスターというよりは動物園のパンダのような気分で新幹線を降りた。

 

四方八方から向けられたスマホのカメラからはマシンガンのようなシャッター音が響き続け、駅から出てワゴンタイプのタクシーに乗り込むまでその音が鳴り止むことはなかったのだった……

 

 

 

それから十日後。

 

旅から戻ってゆっくり休息を取った俺達は、暑い地上を逃れて地下の涼しい鳥の巣で次の企画の打ち合わせを行っていた。

 

 

「もう旅系の企画は禁止! 決定な☆」

 

 

三人掛けのソファを一人で占領してあぐらをかいた佐藤が、食べ終わった後のアイスの棒で俺を差しながらそう言った。

 

 

「やむなしね」

 

「サイコロの旅はほんとにひどかったですからね……」

 

 

コーヒー片手にマッサージ機に座りっぱなしの川島さんと、床に敷かれたござの上にちょこんと座ったウサミンも佐藤の意見に同意のようだ。

 

 

「ウサミン腰痛湯治の旅とか駄目?」

 

「ナナ先輩には申し訳ないけど……しばらくはほんとにやだ! お前がサイコロの目全部深夜バスにしたせいでマジでしんどかったんだぞ☆」

 

「深夜バスならみんな寝てるし人数も少ないから混乱は起きない、なんて自信満々で言ってた割にきちんと大混乱だったしね……」

 

「まさか深夜バスの乗客の人が行き先をネットに流しちゃって、ファンの人たちがバス停で出待ちしてるとは思いませんでしたね」

 

 

たしかに現場は大混乱だった。

 

今回の旅の件で何通か美城芸能に苦情のメールが届いたらしいし、このまま何度も騒ぎを起こせば佐藤どころか会社から国内の旅の禁止令を出される可能性だってある。

 

やっぱり、もう国内で好き放題撮影するってのは厳しいか。

 

 

「そもそも武道館でライブするのが当面の目標だったんでしょう? なんで旅なんか出たのかしら」

 

「実は夜寝る前に急に思いつきまして。これはと思う企画でしたので」

 

「思いつきであんなえらい目にあわしたんかい! いい加減にしろよな☆」

 

「前のレコ初ツアーも大変だと思いましたけど、今思えば深夜バスよりは全然良かったですね……」

 

 

そう言いながら遠い目をしたウサミンは、辛そうに腰をさすった。

 

今回は俺の見様見真似のカイロプラクティックでなんとかごまかしたが、ウサミンの腰痛はどこかで改善が必要だな。

 

だいたい体が細すぎる、筋肉量が足りてないんだろう。

 

 

「そういやレコ初やったはいいけどさ、ファーストアルバムがまだまだ全然売れ残ってるんだよな☆」

 

 

そう言いながら佐藤がアイスの棒で差した先には、CD入りの段ボール箱の山があった。

 

英語歌詞の曲ばかりだからちょっとセールスに苦戦するかなとは思ったが、まさかここまで売れ残るとは俺も予想していなかった。

 

まあ、このアルバムを作る過程を撮影した映画が公開できれば作った分は売れるとは思うけどな。

 

 

「正直3万枚は作りすぎたわね」

 

「でもさぁ、Utubeの登録者1500万人もいるのに3万枚捌けないなんて思わないって普通☆」

 

「ですよねぇ」

 

 

知名度と物販の売り上げが比例しないのはUtubeの不思議なところだ。

 

まあ知名度だけで何でも売れるならテレビの情報番組も苦労しないんだろうが……

 

 

「そういえばライセンス事業部の方のぴにゃこら太のCDは、もう10万枚も売れてるらしいわね」

 

「まぁまぁヘレンさん、あれはコラボじゃないですか……」

 

 

爪をヤスリで磨きながら苦々しげな顔をするヘレンをウサミンが宥めた。

 

そうなのだ。

 

実は我がスーパーバードじゃない方(・・・・・)のぴにゃこら太は最近本気で絶好調で、朝の子供向け帯番組レギュラーを獲得し、バラエティのタイアップで某有名演歌歌手とコラボしてCDも出してと乗りに乗っていた。

 

風の噂では、もうぴにゃに年末の赤白歌合戦出場の打診が来てるとか来てないとか。

 

……ん? 赤白?

 

そうか、そういう手もあるのか。

 

知名度はあるがアーティストとしてCDが売れてない今の俺達じゃあ、逆立ちしたって会社は武道館ライブの資金を出さないだろう。

 

だが、その知名度に武道館とはまた別の大舞台の裏付けがあればどうだろうか?

 

 

「赤白って、出たら武道館ライブできますかね?」

 

「突然何だよ☆」

 

「……鍍金君、それって順序が逆じゃないかしら? 普通は武道館ライブをやってから赤白でしょ」

 

「そうですよ~」

 

「逆に言えば、赤白出るぐらいなら武道館に出れる格があるって事ですよね」

 

「まあ、そう言われればそうなのかな☆」

 

「今年はぴにゃこら太も、赤白歌合戦に出るのかしらね……」

 

 

なんだかつまらなさそうな顔でそう言ったヘレンに、俺は指を差して言った。

 

 

「それいいですね。出ましょうか!」

 

 

ヘレンはギョッとした顔で俺の方を見て、ぽとりと爪ヤスリを取り落とした。

 

 

「赤白歌合戦に出れば、余ったアルバムは売れる、武道館への足がかりもできる、いい事ずくめです」

 

「鍍金お前そんな事言ったってさぁ☆ 出ようと思って出れるもんでもないでしょ」

 

「私達、歌手としてはどうしても実績がないものねぇ」

 

「でも出れたら凄いですよねぇ、故郷に錦ですよ、錦」

 

 

俺はスマホを取り出して、昔主催していた暗黒歌謡祭というイベントの参加者達の連絡先を開いた。

 

俺はスーパーバードを世界に羽ばたける、マジソン・スクエア・ガーデンに立てるアーティストにするために、世界中から本物(・・)の楽曲を集めてファーストアルバムを作った。

 

だが、もう急ぐ必要はないんだ。

 

マジソン・スクエア・ガーデンには、ゆっくりと遠回りをして行くことにしよう。

 

 

「全て日本の楽曲でセカンドアルバムを作る。そいつで赤白に殴り込みだ」

 

 

手の中のスマホからは、軽快な呼び出し音が流れ始めていた。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

おまけ

 

日本全国サイコロの旅 三日目

 

51,514,810回視聴

 

ーーーーーーーー

Mishiro Geino

2014/07/10 に公開

 

札幌の目を出すまで絶対に帰れない地獄のサイコロ旅!

全く眠れない深夜バスにやられにやられたスーパーバードの顔は必見です!

 

 

 

のコメント欄

 

 

 

ーーーーーーーーーー

たいこ 2時間前

 

マジでどんな番組出しても視聴率取れるスパバがこんなバス乗って降りて辛そうな顔するだけの虚無企画やってるのヤバすぎでしょ

 

返信 b105 q88

 

 りんちょ 1時間前

 

 バス乗って降りて辛そうな顔してぼやくだけなのに死ぬほど面白いんだが

 

 返信 b88 q1

 

ーーーーーーーーーー

Hope 5時間前

 

これ’’つぶやきサービス’’でお祭りになってたやつじゃん。いくら企画だからって他の乗客に迷惑かけるの駄目でしょ。

 

返信 b652 q353

 

 鋼系 3時間前

 

 芸能人が乗ってきたからって’’つぶやきサービス’’に本人画像付きでバスの名前まで上げる側にも問題があると思う

 

 返信 b225 q34

 

ーーーーーーーーーー

チョピ 6時間前

 

鍍金のストーカーが普通の顔して隣の席に座ってるのマジでホラーだろ

 

返信 b724 q6

 

 PTA 5時間前

 

 しかもバス降りて二時間後には普通の顔して生放送出てた

 

 返信 b132 q83

 

 わたべ 5時間前

 

 バスの中で飲んでたし絶対酒抜けてへんやろなぁ……

 

 返信 b63 q84

 

ーーーーーーーーーー

黄実 7時間前

 

ずっとちゃんとした服装だった川島さんも三日目にしてついにジャージになったな

 

返信 b593 q52

 

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猫ちゃん♡大好き 8時間前

 

夜通しのハードなバス旅でも、あなたと一緒なら楽しめそう。

あなたも私も温泉が好きだし、いつか落ち着いたら熱海なんてどうかしら。

ゆっくりしっとりお風呂に入って、時間が余ったら卓球なんかしちゃう?

どうしても外せない仕事があって今回は友達に席を譲ったけど。

あなたとのバス旅行、次があればきっ

 

詳細

 

返信 b4111 q5402

 

 ポリン 7時間前

 

 バチクソやべーwwwwwww

 

 返信 b633 q84

 

 NEET 7時間前

 

 こんなやばい人でもちゃんと働いてるんだなぁ

 

 返信 b551 q324

 

ーーーーーーーーーー

♡MIYU♡ 8時間前

 

出演者の腰痛を気遣ってマッサージしてあげるなんて優しいですね。

でも女達はそんなあなたの優しさにつけこんでいるのですから気をつけて。

マッサージのためとはいえ手を握るのはやりすぎかもしれません。

あなたには魅力がありすぎるのだから、勘違いさせてはかわいそう。

いつでも相談に乗りますから、電話

 

詳細

 

返信 b2485 q5551

 

 OHP 7時間前

 

 納涼ホラーありがてぇ

 

 返信 b972 q5

 

ーーーーーーーーーー

いらぐさ 9時間前

 

ウサミン寝言でうなされてて草

 

返信 b811 q

 




サイコロの旅を飛ばしてしまってごめんなさい。
どうでしょう二次としては必然性のある企画なんですが、どうしても冗長かつ荒んだ空気になってしまって面白くできませんでした……
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