「赤白歌合戦は厳しいかもわからんな」
夏真っ盛りの、うだるように暑い夜。
楽曲制作を頼みに行った関西の飲み屋で、昔なじみのヴィジュアルバンドの女がそう言った。
緑に染めた髪を片側に流し、その反対は刈り上げにしている彼女は、暗黒歌謡祭出身の赤白出演アーティストだ。
「なんでだよ」
「自分とこの歌手な、三人おるやろ?」
「四人だよ」
「ほなこの緑の着ぐるみも数に入れよか」
彼女はレモンサワーをぐびっとやりながら、スマホで表示したスーパーバードの画像を、一人ずつ指さした。
「下手、下手、下手、一人飛ばしてド下手や」
ちなみに、飛ばされたのは俺だ。
「うーん……言われてみれば」
「言われんでもわかっとかんかい! あんたこの子らのプロデューサーやろ!」
たしかにうちのメンバーは、歌の訓練をあまり行えていなかった。
ライブを重ねてこなれて来たとはいえ、その実力はあくまでもアイドルとして及第点といったところ。
これまでそれで困らなかったのは、ほとんど……いや全く歌の仕事がなかったからだ。
「でも赤白って、あんまり上手くないアイドルとかも出るだろ?」
「それでも最低限は歌える子らや。少なくとも、素人が上手いと思える音源が作れるぐらいにはな」
「スーパーバードはそこに達してないと?」
「言い方は厳しいけど、才能の問題もある。なんぼようやっても来年の赤白には間に合わんのちゃうか。……あっ! 何すんねん!」
俺はヴィジュアル女の刈り上げを指でザリッと擦った。
特に意味はない。
赤白出演の最低の歌唱力もないという事は、武道館、ひいてはマジソン・スクエア・ガーデンに立つ歌唱力もないという事だ。
わかってはいた事だが、スーパーバードはまだまだ前途多難だな。
まぁ、とりあえずは赤白だ。
ロードマップはできている、後は障害物を蹴散らすだけだ。
「来年の赤白、なんかうまい方法ないか?」
「話題の映画とかアニメとか、そういうのから出てくるのもおるけど……あんたら会社で嫌われとるんやろ? そんな話も回ってこんか……」
ん? アニメ?
「アニメが売れれば赤白出れるのか?」
「まぁ、話題になればやけど。あ! 言うとくけどネットのアニメはあかんで? あくまで赤白はテレビの祭典なんや、テレビの人気者が出る番組や」
「なるほど、テレビアニメね……」
どうせどの道、歌唱力もパフォーマンスも鍛えなければいけないのだ。
そういう仕事がないならば、作ってしまえばいい。
全国をドサ回りするわけでもないから、メンバーからの不満も少ないはずだ。
その上で俺の目標までのロードマップに組み込めるのであれば、最早考えるまでもないだろう。
「まぁ赤白はあかんけど……あんたらならお笑いステージがあるフェスに……」
「やるか、アニメ。企画書できたら送るから、曲作ってくれよ」
「……は? ちょい待て!」
俺はヴィジュアル女に礼を言い、すぐに新幹線に飛び乗って東京へと帰った。
こんな事もあろうかと、ノートパソコンを持ち歩いていて良かった。
東京駅に降り立つ頃には、俺は上司である美城執行役員に企画書のメールを送信し終わっていた。
「と、いう事で……我々は再びアニメーション制作に入ります!」
「鍍金くん、百歩譲ってそれはいいとしても……」
「なんでりっちゃんがいんだよ☆」
「人が来るなら言っといてくださいよ~! 片付けたのに~!」
「…………」
美城芸能の地下の鳥の巣。
川島さんのマッサージチェアを筆頭に、佐藤のミシン、ウサミンの布団、ヘレンの筋トレ器具などで雑然としたこの部屋に、今日は元トップアイドルの秋月律子がやって来ていた。
彼女はアイドルアカデミーというアイドル界の一等賞を決める賞レースでトップを取り、そこからアイドルプロデューサーに転向し……
なんだかんだと独立して、今や自分の事務所を構えている叩き上げのスーパーウーマンだ。
そんな律子はヘレンの回すビデオカメラをちらりと見てから、なんだか不安そうな瞳でこちらを見た。
「あのう……鍍金さん、アニメって……ほんとにやるんですか?」
「やります。お先真っ暗なぐらいコミュ障な陰キャ女子高生がひょんなことからアイドルになり、爆発力とハッタリと運だけでスターダムを駆け上がる話です」
「うっ……」
なぜかウサミンが胸を押さえて座り込んだ。
朝だからな、低血圧が出たんだろうか。
布団で寝ていてもいいぞ。
「その、内容は別にいいんですけど、どこの局とか、スポンサーとか……」
「局は未定、これから売り込みます。そしてスポンサーは……あなた達です!」
俺はヘレンの回すビデオカメラに向けて、ビッと指を指した。
「これを見ている会社の偉い方! あなたが出資して頂ければ、スーパーバードと私でCMなどもビッと作らせて頂きます! 物にもよりますが、商品などのアニメへの登場も可!」
「つーことは……アニメの主人公は美城芸能所属になるわけだな☆」
「美城芸能には、スポンサードを断られました! 我々には基本給以外一円も出ません!」
佐藤はそんな俺の言葉を聞いて、あんぐりと口を開けて固まった。
「ですので……アニメに声優としてタレントを出したい芸能事務所の方! 企業名を使ってほしい芸能事務所の方! 大チャンスです!」
「大チャンスじゃねーよ!! 孤立無援って事じゃねーか!」
「いつもの事だけど、もうちょっと考えてから動かない……?」
「そんなアニメにスポンサーになってくれる人なんかいませんよ〜!」
スーパーバードの面々が騒ぎまくる中、律子はおずおずと手を上げた。
「はいどうぞ秋月さん!」
俺はそれにビッと人差し指をさした。
「あの、それで……私はなぜ呼ばれたのでしょうか……?」
「我々には企画の立案力と実行力はありますが……テレビ業界へのコネクションが薄いのが弱点です」
真剣な顔で俺がそう言うと、ガヤからヤジが飛ぶ。
「我々っつーかお前だろ! お前!」
「なまじ実行力があるから余計にタチが悪いのよ……」
「会社の中ですらハブられてんのに、よそに紹介して貰えるわけないんだよな☆」
「うちの部、会社の組織図でも提携企業の隣にポツンと置かれてますもんね……」
俺は文句を聞き流し、律子の肩をポンと叩いた。
「今日秋月さんをお呼びした理由を、あえて言うならば……あなたこそが私の持ってる一番のコネクションだからです! なのでお願いします! テレビ関係の人、誰か紹介してください!」
俺は深々と頭を下げた。
後で動画で確認をしたところ、この瞬間の律子はこれまでテレビで一度も見せた事のないような苦〜い表情で顔をしかめていたのだった。
…………………………
おまけ
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美城芸能のお家騒動! 秋月芸能に移籍確定!? 人気お笑い芸人『スーパーバード』プロデューサーの語るTVアニメ企画「会社からはスポンサードを断られました」の真意とは!?
8/18(日) 19:06 配信 (コメント) 992 (・v・) (•∋•) (F)
のコメント欄
(・v・) bba*****
動画を見たが、動画の中では移籍等と一言も言って居ない。面白可笑しく書き立てて責任を取らない記者が居るから、報道の信頼性が失われて居る。彼らの事は寡聞にして知らなかったが、元気のある若者だと想う。これまでにも報道のこう言う姿勢でイメージを下げられ、引退に追い込まれた者も居るはず。職業倫理にも取る物が他車を叩きめうぃを喰うのは許されない話、必ず
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▽返信 0件 b5 q39
(・v・) aho*****
残念ながら当然。本来こんな好き勝手してる会社員は給料を貰う資格すらないはず。
美城芸能さんもよく我慢してる方でしょ。
△返信 3件 b20 q390
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|(・v・) kkk*****
|結果出してるスパバに対して美城芸能は報いなさすぎだと思う。
|こいつらがどんだけ美城の株価を上げてきたか。
|今回下げたけど。
|
|(・v・) mar*****
|ていうかアニメ制作でバッチリ実績あるんだから普通の会社なら予算付けるだろ。
|この記事は飛ばし記事だけど、ほんとに移籍と言わず独立してもおかしくない。
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|(・v・) pap*****
|独立は無理だとぉもぅ。。。
|動画見たけどつまんないし。。。
|プロデューサー?の男はかっこいいから、ドラマとか出たら見るけど。。。
(・v・) ppk*****
今回の鍍金の失言で美城の株価下がったの、上層部はどう思ってんだろ。
さすがの鍍金もそろそろクビなんかな。
▽返信 2件 b67 q552
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|(・v・) thu*****
|映画の事件では今回の比じゃないぐらい乱高下してたから大丈夫でしょ
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|(・v・) fri*****
|正直株主としてはマジで胃に悪いからこういうのやめてほしい
|ぴにゃこら太ブームではめちゃくちゃ儲けさせてもらったけど……
(・v・) ufo*****
自分でスポンサー見つけて自分でアニメ作るってめちゃくちゃ夢ある話だけど、ぶっちゃけスポンサーになってくれる会社いるのかな?
ぴにゃこら太を作った名物プロデューサーで映画の賞も取ってる人らしいから当たればデカいんだろうけど、なんか全部思いつきでやってそうな感じがして……
▽返信 2件 b266 q34
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|(・v・) llk*****
|この人常に思いつきで勝ち続けてるので……
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|(・v・) mik*****
|インドで燃える店に突入して中の人助け出した件とかもそうだけど、即断即決の人なんだろうね
(・v・) opk*****
久しぶりに見たりっちゃん、アイドル引退してた上に凄い顔しててショックだった。
▽返信 0件 b918 q421