【艦これ×境ホラ】 硫黄島外人戦隊日誌    作:haruhime

1 / 4
以前投稿していたものの設定を大幅に変えて書いていたものを投稿してみる。

気が向いたら続きを書きます(予定は未定)


第一頁 輸送艦おおすみ

 1945年8月、大日本帝國において二つの原子爆弾が投下された。

 

 世界を焼き尽くす神の一撃は、当時の人類の大半が認識できないレベルで世界の構造を揺らがした。もう一つの世界では、まったく同じタイミングで二つの言詞爆弾が起爆した。

 

 表裏一体であった異なる世界は、このときわずかに重なり、交じり合ってしまった。

 

 互いの世界は、ほんの一部だけ入れ替わってしまった。

 

 人、物、そして概念。

 

 流れ込んできた人と物は世界に新たな力を与えた。

 

 そして、精霊や妖精と呼ばれる異族たちによって、世界は塗り替えられる。人々の信仰を対価に奇跡をもたらす術式は、常識を新たなものへと移行させた。

 

 それと同期するように人々の思念は概念によって形を持ち、恐怖に彩られた数多の怪異を生んだ。中でも最も数が多かったのは、戦地で朽ちた金属に、大戦の残念が宿ることで生み出された最悪の怪異。

 

 人は、多くのことを知らないうちに、彼女たちに名を与え、縛ることに成功した。

 

 その名は深海棲艦。

 

 無意識の名付けにより海に縛られた彼女たちは常に海から生まれ、その憎悪と後悔を他者に分け与え、同胞を増やすために戦い続ける。

 

 二つの大戦で生まれた多くの残念と、彼女たちが生み出した無念。それらを糧に無尽蔵に数を増やす。

 

 人は新たに得た力と、既存の力を組み合わせることで抵抗を続けていた。それでも、数の差によって人類は海洋から追い出され、大陸に押し込まれることになる。

 

 艦娘と呼ばれる、大戦で死したモノたちの護国の残念を核に、戦士たちの信仰が生み出した精霊系異族たちが立ち上がる。

 

 それと同時に、それまで協力を拒んでいた妖精たちが協力を申し出てきた。妖精たちの協力は霊力、魔力の効率的な運用の補助と艦娘の製造すら可能とした。

 

 人類は多大な不信感を胸に彼女たちと共に戦い、十数億の死者と引き換えにかろうじて国家間のつながりを維持することに成功する。

 

 その代償として多くの島嶼と一部の陸地を占領され、人類は慢性的な戦闘を続けることになった。

 

 その後、百年近くに渡り、人類と深海棲艦は一進一退を繰り返してきた。ごく狭い海域をめぐって、多くの艦娘と深海棲艦が沈み、沈めあって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2036年現在。

 

 七大洋はいまだ深海棲艦のものであり、内海や沿岸部だけが人類の勢力圏である世界情勢の中、人類が有する数少ない海洋拠点である硫黄島に、ひとつの巨大な影が迫っていた。

 

 それは術式によって生み出された仮想海を切り裂き白波を立てながら、あまりに巨大な船体を宙に泳がせている。

 

 人々が得た奇跡をなす力、術式によって空を行く艦。航空艦。妖精によってもたらされ、人が作り上げた英知の結晶。

 

 大日本帝國海軍所属ヨルムンガンド級高速輸送艦おおすみは、莫大な物資と兵士を搭載して、前線である硫黄島に向かっていた。

 

 その巨大な艦の艦橋に、一人の女が立っている。長い黒髪を高く結い上げ、金の簪を挿していた。モノクロの侍女服を着ているその女性は侍女式自動人形である”おおすみ”だ。

 

 彼女は表示枠を介して、艦内放送を開始する。

 

「乗員の皆様、ヨルムンガンド級高速輸送艦・おおすみが、総員起こしをお知らせ致します。本艦は現在太平洋上を南東へ航行、まもなく硫黄島要塞海軍主要港へ入港致します。要塞内部にて着水いたしますので、御協力御願い致します。――以上」

 

 艦内各所のスピーカーから、おおすみを統括する自動人形”おおすみ”の声が響く。

 

 それと同時に、艦内は喧騒に包まれる。操船を担当するのは自動人形であり、通常は統括、監督者としての海軍士官しか乗っていない。

 この喧騒は、平時とは異なり積荷として多くの陸戦隊兵士が搭乗しているためだ。

 

 一個連隊の兵士ががやがやと騒ぎ、士官にどやしつけられつつ、入港に向けての準備を行っている。

 

 硫黄島要塞警備師団を構成する連隊の一つが、本土での休養と再編訓練を終えて任地に展開するために乗り込んでいるのだ。

 

 ”おおすみ”の眼下には、甲板上で大騒ぎしている陸戦隊がいた。

 

「武神隊は合一して待機しとけ!荷下ろしがたっぷり待ってんぞ!」

 

「荷卸しは荷駄(ロジ)の連中がやるんじゃないんですか!?」

 

「うるせぇ!受け取った輸送木箱(コンテナ)転がす下手くそは練習するんだよ!」

 

 武神隊の隊長が悲鳴を上げる隊員たちに発破をかけ。

 

「監査隊はもう一度荷物を確認しろ!抜け荷を許すな!」

 

「要塞では禁制品の摘発が続いているらしいな。誰だよレーベきゅん男の娘化総受け本持ち込んだ奴。業が深い」

 

「艦娘がらみの禁制品は儲かるからなぁ。それ言ったらこの英国艦娘踏みつけ合同”提督、貴方最低のクズだわ!”なんてどうすんだよ。―――本土帰ったら買おう」

 

「やめとけ監査が摘発されてどうする。お、ショタ喰い鹿島夜の練習艦シリーズ最新刊じゃん。看病からの搾り取りナースプレイとは胸が熱くなるな」

 

「あの娘が見たら泣くな。あぁ最新刊だろうと没収だ」

 

 監査隊の隊長が密輸品摘発に情熱を燃やし、隊員たちはやる気なさそうに木箱の三重底から禁制品を摘発していく。

 

「ねぇだれか、俺の走狗がどこ行ったか知らない?新しい外装奏填(インストール)するから出ておいで―!?」

 

「あいつまた遊ばれてんのか」

 

「あの子楽しそうだしほっとけ。そのうちひょこっと顔を出すだろ」

 

 医療班員が、くすくす笑いながら背後霊になっている天使型走狗を探し回り。

 

「うお!?」

 

「どうしたいきなり」

 

「いや、この箱でかい割に妙に軽くてな」

 

 小さな子供がすっぽり入るくらいの大きさの段ボール箱の軽さに驚く兵士に、近くにいた女性士官が歩みよる。

 

「馬鹿もっと丁寧に扱いなさい!”はじめてのくちくかん”初回限定特典1/1R18御神体”暁は一人前のレディーなんだから!”が入ってんのよ!」

 

「えぇ……?」

 

 どや顔で禁制品の持ち込みを宣言するブッ飛び女にドン引きする兵士。

 

「「「「「憲兵さんこいつです!」」」」」

 

 周囲の兵士たちの叫びに答えるように、ガントリークレーンの最上部から飛び立つ一つの影。

 

 犯罪現場に音もなくエントリーしたのはカーキ色の憲兵忍者服を着込んだ恐るべき憲兵。鋼鉄の覆面に刻まれた「憲」「兵」の輝く文字は周囲の軍人すら威圧する。彼は隙もなく一瞬で手を合わせ、頭を下げると同時にシャウトした。

 

「ドーモ、チュウイ=サン!ケンペイです!」

 

「ド、ドーモ、ケンペイ=サン!チュウイです!」

 

 二人は奥ゆかしく挨拶を交わしている。しかし、ドーモとは面識があるのでしょうか。

 

「クチクカンは犯罪!再犯者に慈悲はない!イヤーッ!」

 

「な、何を、アバーッ!?」

 

 挨拶を終えた完全装備の憲兵に一瞬で禁制品密輸の罪で鎖巻きにされ、引きずられていく女性士官とドン引きしながらそれを見つめる兵士たち。

 

 そんな雑多な喧騒を視界に入れながら艦の挙動操作を続けていると、背後から歩み寄って来る人物をセンサーがとらえた。

 

「陸戦隊は騒がしいですね。―――以上」

 

「コメントはそれだけですか、”おおすみ”さん」

 

 艦橋に入ってきたものが声をかけてくる。艦体操作のための表示枠を増やしていると、隣に立ってきた。

 

「それ以外に何を申し上げればよろしいでしょうか?六条様―――以上」

 

「いえ、他の艦長ならもっと厳しいと思いまして」

 

 横目で見れば、苦笑を浮かべている青年がいた。彼の問いに答えるとすれば、

 

「ハッチ全開で天地逆転航行したらどうなるかをシミュレートした回数は、この航海だけで10000回を超えておりますが?―――以上」

 

「―――ちなみにどんな結果が?」

 

 わずかな沈黙を間として、彼は表情を消した真顔でもう一度問うてくる。

 

「重力制御も切るべきという結論に至りました。―――以上」

 

「だそうですよ、皆さん」

 

『『『『『『すみませんでしたぁ!!!!!!』』』』』』

 

 瞬間、私を取り囲むように無数の表示枠が出現する。まとめて手刀で叩き割ると、陸戦隊は静かに行動を再開した。

 

「Jud.ご配慮ありがとうございます。六条様。―――以上」

 

 彼に体をむけ、深く礼をする。

 

「顔を上げてください。もっと早くやっておくべきでしたね。―――隔壁ぶち抜く前とかに」

 

「下手人を牽引帯で一晩吊るしましたので、あの件については問題ありません。―――以上」

 

 第四区画の主隔壁を、酔った陸戦隊員が術式乗せた機動殻でぶち抜いた件でした。下手人は下着一枚にしたあと、牽引帯で一晩艦尾から吊るした上で隔壁を修理させたので反省したはずです。

 

 そうですか、と安堵の吐息を吐き出した六条様。彼についての情報を参照する。

 

 名家である六条伯爵家の三男であり、異族帰りを起こした半妖精。妖精との親和性に優れ、同年代としては非常に高い拝気総量を持つ。幼少より祖母の係累として嵯峨野宮佳奈子殿下の護衛として仕え、海軍士官学校に同道。卒業後は侍従武官として佳奈子殿下に仕える。現在は海軍大尉、従五位下陰陽権博士の位を持つ。

 

 ―――エリートそのものであると、判断できます。

 

 外見も177cmの高すぎず、低すぎず。絞り上げられた体はしなやかで、輝く黄金の髪に縁取られた涼やかな白皙の美貌。切れ味の鋭い瞳は緑玉のごとく煌めいている。だが、どこか物憂げな雰囲気を漂わせる青年だった。

 

 ―――同乗している多くの女性兵士と一部の男性兵士から熱い視線を向けられ、大多数の男性兵士と一部の女性兵士から嫉妬の感情を向けられているのも当然かと。

 

 彼を見つめていると、艦内各所で活動中の同僚たちから秘匿通神帯で次々とメッセージが届きます。

やかましいですね。

 

『艦長、六条様と会話なさっているなら動画データを共通記憶にアップロードすることを要求します。―――以上』

 

『艦長。そのお役目は部屋付きの私に変わるべきでは?―――以上』

 

『情報独占は艦長の権限を越えているのでは?お役目ご苦労さま、と肩をたたいていただいた記憶は渡しませんが。―――以上』

 

『皆様データは共有するものです。お食事後に使用済みナプキンを処分するためにいただきました。保存のため固定化中です。―――以上』

 

『私は六条様から使用済みタオルをお預かりしたので。ええ、永久保存するので誰にも見せません。―――以上』

 

『油染みがついたシャツを廃棄するためにいただきました。彼シャツは私のもの―――!―――以上』

 

 同僚たちが次々と六条様とのかかわりを自慢しています。ナプキンもタオルもシャツもおおすみ上で所有権が放棄されたものである以上私の元にあるべきです。ですが今は業務上横領も許しましょう。そんなものに頼らずとも、六条様とのかかわりの深さはこの艦では私が一番なのですから。

 

『フッ、先日の整調祓いでふらついたときに腰を抱き寄せていただき、更に耳元での心配のささやきと整調のための口付けを額に頂いたのは”おおすみ”だけです。つまり私の圧倒的勝利―――!―――以上』

 

 怒号飛び交う同僚たちとの秘匿通神帯を手刀で叩き割りましたが、次々に表示されるので重力制御で割り続けます。連続割断パーティ―――!

 

「にぎやかですね」

 

「Jud.お恥ずかしいところをお見せしました―――以上」

 

 六条様に頭を下げていると、視界を遮るように新たな表示枠が表示される。反射的に六条様との会話を邪魔する無粋な表示枠を叩き潰そうとしましたが、それは割ってはいけない物でした。寸でのところで外した重力打撃で床面にへこみが出来ましたが、後で修理するので問題はありません。

 

 私の、六条様の目の前に浮かぶのは大輪の石楠花をあしらった神道式の鳥居型表示枠。

 

 その中に映るのは、大日本帝國でも数えるほどしか存在しない高性能巫女型要塞管理自動人形石楠花でした。薄桃色の巫女衣装に石楠花を象った宝冠を被り、データ処理用に賢石製の神鏡型デバイスを首から提げている立ち姿は楚々としたもの。

 

 六条様はちらちらと視線をやっています。どうも気になる様子。なんですか石楠花、その視線は。意図する所は通信しなくてもわかりますが妙に気に障りますね?

 

『こちらは硫黄島要塞海軍管理自動人形石楠花です。【おおすみ】に第三大桟橋への接岸許可とガイドビーコンの照射を通達します。―――以上』

 

「Jud.ビーコンを受神。指示に従います。―――以上」

 

 ですがあくまでも私と石楠花は自動人形。まずはいつも通りやらなくてはならない仕事をなさなくてはなりません。受神したガイドビーコンに従い、艦を停泊予定地点によるための準備を始めます。さらに出現速度を増す秘匿通神文を重力制御で消しつつ、制御術式に変数を入力していく。

 

 ―――艦首大型スラスター流体圧縮開始

 

 艦首に搭載された大型減速スラスターに流体を圧縮していく。本級に搭載される大型後進用スラスターはとにかく莫大な流体を使用する為、使用までに数十秒必要です。

 

 ―――慣性制御術式起動

 

 流体炉周辺に刻まれた術式陣と、艦体各所に記述された紋章群を起動。艦全体を覆う空間ごと慣性制御する事で、急挙動による被害を軽減する。これをしなければ急減速した船体は慣性によって完膚なきまでに破壊されるでしょう。というより、輸送艦として設計されたメインフレームが持ちません。

 

 ―――前方に減速用大気干渉術式起動

 

 艦首部分に設置された紋章による、いくつもの帆を模した大気摩擦術式発現を確認。これにより効率的な大気減速力を得る事が可能。

 

 ―――【荒静波】喫水線設定を変更

 

 艦底面及び側面の流体抽出翼に刻まれた紋章が輝きを増し、艦表面に展開している仮想海の厚みを増やし、減速効果を得る。グンっと厚みを増した仮想海が船体に負荷をかけ、より大きな制動力を発揮する。

 

 ―――艦全体に歪み払いの整調術式起動

 

 急な減速時に発生する、艦のフレームに対する歪みを復調させる術式。これを怠れば急挙動によってメインフレームが修復不能な歪みを得る可能性がある。

 

「皆様、まもなく当艦は急速後進を開始します。艦内重力制御が一時的に弱化しますのでご注意ください。―――以上」

 

【荒静波】が仮想海の厚みを増していく。表面装甲から流体が飛沫のように飛び散る。同時に、艦全体から軋みが上がり、目に見えて減速を始めた。

 

 準備が整ったところで、最終減速フェーズに入ります。艦首大口径流体スラスターの仮想砲身が完成したところで、安全装置の解除プログラムを呼び出します。

 

 目の前に表示されるのは、表示枠一杯のデンジャーマークが描かれた紅いボタン。

 

「急速後進。主要港への入港の為減速いたします。―――以上」

 

 発言と同時に、そのボタンを押し込む。

 

 ―――艦首大口径流体スラスター放出開始。

 

 合成音声が発されると同時に、艦首部のスラスターから莫大な流体を放射する。青い流体は大気を撹拌しながら一直線に駆け抜けていき、要塞大障壁上空で無数の防護術式と衝突した。発射の衝撃により生じた歪みが、震動と金属の軋みとして艦を揺らす。

 

 ―――入港先の方によく勘違いされますが、あくまでも制動のためのスラスターであり、主砲による砲撃ではありません。飛び散った流体で海面が爆発したり、前方で要塞の防護術式が押されていますが気のせいです、ええ。

 

 フレームが軋んで奏でる、重苦しい竜の鳴き声が薄れていく。整調術式が効果を発揮し始めたのだ。

 

 それと同時に、減速と同時に生み出される莫大な前方への慣性移動を、艦体内部各所に展開した表示枠の慣性制御術式で押さえ込む。

 

 ―――衝撃により数名が落下しましたが、同僚たちが回収しました。問題はないでしょう。

 

 新たな通信枠が開く。そこに映っているのは薄汚れた白猫を抱えた右舷甲板担当だった。

 

『右舷最上甲板で昼寝をされていた見知らぬ猫様を確保致しました。いささか汚れが目立ちますので停泊後洗浄します。―――以上』

 

 甲板を駆ける同僚の胸元で薄く汚れた白猫が鳴く。その猫の鳴き声に反応したのか、最近拾った子猫が胸元の合わせを割り、顔を出して鳴きました。

 

「この子の親かもしれません。丁重に扱いなさい。―――以上」

 

『jud.猫様のお世話も侍女の務め。十全に行うのは当然かと。―――以上』

 

 同僚は自動人形らしく無表情ですが、服が汚れるのもいとわずに親猫を撫でています。声にノイズが混じっているので幸せに満ちているのでしょう。猫好きですからね。

 

 別の通信枠が開きました。映っているのは後部甲板担当と白衣を着込んだ老人。襟元の塊九章をみるに少佐ですか。しかし彼はなぜ牽引帯で簀巻きにされているのでしょう。

 

『艦長、キャットウォークから落下した上に尻を触ってきた老害を牽引帯に吊るします。―――以上』

 

「目の前に尻があったら揉むじゃろ普通、あ!ちょ、やめ!?」

 

 別の同僚は医療チームの老少佐を縛り上げて外壁から投げ下ろしました。この老人、データによれば本土でも無数のセクハラやって5回降格されていますね。その度に昇進して元の地位に戻っているようです。軍医が深海棲艦の陸戦ユニットを単独撃破するなど意味が解りません。

 それにしてもなぜ投げてから通信するのですか。

 

「吊るしながら報告するのはやめなさい。外壁が汚れるので縛ってゴミ箱に。古くなった生ゴミは回りを汚さぬようキチンと処理を。―――以上」

 

『Jud.梱包してバイオコンポストに叩き込みます。―――以上』

 

「重力制御で亀甲縛りに!?締め上げ強すぎて新境地来ちゃう!?」

 

 同僚は重力制御で浮かした老人を一瞬で亀甲縛りに締め上げ、そのままバイオコンポストに向かって歩き出しました。どうも出力が高いようで、老人は赤くなったり青くなったりを繰り返しながら嬌声を上げています。老人の恍惚とした表情は見るに堪えませんね。

 

『艦長、転がったコンテナから艦長総責め本が―――』

 

「今すぐダストシュートに。―――以上」

 

『ダストシュートに投げ込みました。―――以上』

 

『あ!?俺の本がってなにをするきさまらー!?』

 

 ゴミが出てきたという報告にすぐさま処分を命じます。

 

 ごみを持ち込んでいた兵士は周囲の兵士に袋叩きにされています。

 これでまた一つゴミが減りましたね。ええ、問題はありません。

 

 十分な減速を確認したので流体放射を終了させつつ、一仕事終えた爽快感を胸に抱えていると、隣に立つ六条様からの視線を感じます。

 

「何かご用でしょうか。―――以上」

 

 こちらも視線を向ければ、ちらちらと私の胸元でうごめく子猫を見ているようです。顔がわずかに赤くなっていますが―――

 

「はて、猫はお好きですか?―――以上」

 

「ええ、まあ好きな方ですよ。猫も見ていましたが―――」

 

 子猫が胸元から出ようと身をよじりました。刺激が強いので胸部が変形するほど足で踏まないでほしいものです。子猫の頭を押さえて谷間に戻し、乱れてしまった合わせと下着を直します。

 

「なんでしょうか?―――以上」

 

「いえ、やはりお忙しそうですね、と。」

 

「はい、お気づかいありがとうございます。ですがこれが私どもの仕事ですから。―――以上」

 

 がんばってください、とあいまいな笑みを浮かべて六条様は正面に向き直られました。

 

 大出力流体放射により減速した艦は、ようやく要塞際外周部である大障壁上空に差し掛かった所。正面に硫黄島西部から大きく海側に拡張された硫黄島要塞海軍基地が見えています。

 

「硫黄島要塞には初めて来ましたが、やはり外洋拠点としては大きいですね。」

 

「Jud.ヨルムンガンド級を含む航空艦隊が補給作業を同時に行う事が可能であり、四大鎮守府を除き最大であると聞いております―――以上」

 

「なるほど」

 

 ヨルムンガンド級どころかジズ級が停泊できる大桟橋と、クラーケン級2隻、ドラゴン級4隻、ワイバーン級8隻を収容できる桟橋群。更にヨルムンガンド級にも対応できる大型ドックが二個、それらを支える倉庫群に居住地。それらを繋ぐ線路や道路を囲む大小無数の火砲や陣地。地下にもドックや倉庫群があるとされています。海軍側だけでも数万の兵員がつめている押しも押されぬ巨大基地です。

 

 最も司令部に近い大桟橋へ舳先を向け、細かな逆噴射をかけつつ入港手続きを済ませていきます。10分18秒で各甲板の解放が可能です。

 

「十分程度で上陸可能です。そろそろ準備された方が宜しいのでは?―――以上」

 

「それもそうですね、ありがとうございます、おおすみさん」

 

「いえ、礼には及びません。ところで六条様、お手伝いは―――」

 

『残念ですが部屋付きの私が担当するので艦長の出番はありません。―――以上』

 

「―――後で覚悟しておきなさい。―――以上」

 

 何やら通神枠で割り込んできた同僚がわめいていますが、後で適当に仕事を割り振る事は確定しています。固有通信での議決で、彼女を除く当艦全個体からの賛同がある事なので仕方のない事です。多数決とは恐ろしいものですね。

 

「お気遣いどうも、ですが荷物は整えてありますからこのまま入港手続きを進めて下さい。では後ほど」

 

「Jud.必ずお見送りさせて頂きます。―――以上」

 

 こちらに軽く会釈して艦橋から去っていく六条様を見送ります。

 

 さぁ、迅速に手続きを終えて、六条様のお見送りに出向かなくてはなりません。万全に、迅速に、滞ることなく。侍女式自動人形の神髄を発揮する時と言えましょう。

 

「そういう事ですので、手早く済ませますよ石楠花。―――以上」

 

『そうですね。私もお出迎えに上がりますので手早く終わらせますね、”おおすみ”。―――以上』

 

 石楠花は入港手続きを完遂するまで司令室からそれほど動くことができません。桟橋まではそれなりに距離があるので焦れているのでしょう。私も着岸後のタラップ下げの命令を下すまで艦橋から離れる事ができません。忌々しい事に利害が一致した今、互いの妨害などしている暇はありません。

 

 私の余剰時間は着岸からタラップが接続されるまでの38秒。ええ、間に合わせて見せましょう。”六条様のおおすみ”が今参ります。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。