【艦これ×境ホラ】 硫黄島外人戦隊日誌    作:haruhime

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久しぶりに書いたわ…


第2頁 着任挨拶と初期艦

 今日の硫黄島は、いつもどおり暑い。

 空に視線をやれば遮る雲ひとつない快晴であり、南洋の日差しが何もかもを熱している。海が近いゆえに潮風は吹いているが、湿気を含んだそれは涼を与えてくれるものではなかった。

 私が送迎車として用意できたのが壊れた妖精工廠製トヨタAB型だったのも良くない。これしか司令部に残っていなかったとはいえ、幌は壊れているし妖精さんが追加したはずのクーラーからは熱風が吹き出してくるのだから。

 

「南洋は暑いと聞いていたが、これほどとは」

 

 うんざりしたような声色に車内鏡へ視線を向ければ、今日”あの”おおすみに見送られるという驚くべき着任をした新任士官が手ぬぐいで額の汗を拭っていた。

 

「六条大尉は、南方は初めてですか?」

「ああ、そもそも内地どころか帝都から出た経験が少なくてね。大淀君、汗を拭おうか?」

 

 彼は不愉快そうにそうこぼしながら、手荷物から新しい白のハンカチーフを取り出してくれる。私としてはその手ぬぐいのほうが嬉しいと思いましたが、それは流石に婦女子の行動としてどうかと思い直します。

 

「額だけお願いできますか。大尉は肌がお白いですものね。羨ましい限りです」

 

 港で挨拶したときに思わずまじまじと見つめてしまったけど、本当に羨ましいくらい白いしきめ細やか。本土で多くの女性に嫌がられたのではないだろうか。

 そっと額に触れるハンカチーフから香る爽やかなフレグランスと、絹の優しい肌触りを感じた。私の額の汗を拭うというより押さえるような手付き。化粧を崩さないように、私に不快感を与えないようにと注意を払っていることがわかる。

 この大尉のさりげない優しさと気遣いは、この要塞にいるがさつでデリカシーのない士官たちに見習ってほしい。

 

「それは嫌味かね?」

 

 私の額の汗を拭いながら、耳元で大尉は問いかけてくる。その声色には軽やかさがあった。会話で多少は暑さから気が紛れたのでしょう。

 

「単なる羨望ですよ。司令官の秘書艦とはいえ、演習や掃海任務で海焼けはしますから」

 

 他の艦娘に比べて内勤が多いとはいえ、日々の業務でどうやっても焼けてしまうものなのだ。たとえ妖精印の艦娘用日焼け止めを塗っていても。

 

「女性は大変と聞く。姉妹や母も毎日大騒ぎしているからな」

 

 大尉はどこか疲れたような、諦めたような声を出した。家族の相手は相当大変だったのだろう。

 

「女性は美しく有りたいと願っていますからね、たとえいくつになっても」

「ああ、肝に銘じよう」

 

 私の言葉に生真面目な顔で返事をする大尉が妙にツボに入って、思わず吹き出してしまった。

 

「フフッ、あ、し、失礼しました」

「気にしなくていい」

 

 そうは言うものの、大尉は横を向いてしまいました。ちょっと耳が赤いので気恥ずかしいのでしょう。そういう私は粗相で顔が暑いですが。

 

 そうこうしているうちにちょっと気まずい空気を打破できないまま、目的地である硫黄島要塞海軍司令部に到着しました。

 正門脇の日よけ小屋から若い憲兵が飛び出して敬礼してきます。私も大尉も答礼を返します。

 礼の交換が終わると、軍曹は身分証の提示を求めてきました。

 

「大淀司令秘書艦どの、大尉どの、失礼ですが身分証を拝見いたします」

「ではこちらを、私と六条大尉の身分証と許可証が挟んであります」

 

 助手席に置いていた書類カバンから、各種書類を挟んだクリップボードを渡します。軍曹は中の書類と私達の顔を見比べました。

 

「司令秘書官どの、ありがとうございます。大尉殿、失礼ですが官姓名をお願いいたします」

「六条子爵家が三男、六条実行海軍大尉。恐れ多くも従六位下陰陽博士を拝命している」

「ありがとうございます。司令部内でなにかありましたらこちらの身分証と許可証をご提示願います」

 

 そう言いながら、軍曹は私にクリップボードを渡してきました。

 

「わかっている」

「では行きましょうか」

 

 大尉が頷くのを見ながら助手席にクリップボードを置き、車を発進させます。

 そのままロータリーを周り、正面出入口につけてよってきた当直兵に車を渡します。

 

「上等兵、この車を片付けてくれますか? 鍵は秘書官室に届けてください」

「了解しました司令秘書艦殿。コラッ! ボサっとするな二等兵! 大尉の荷物をお持ちしろ!」

 

 六条大尉が旅行かばんを持ち上げるのを見た上等兵が、同じ立哨していた二等兵をどやしつけました。

 

「配慮には感謝するが、手伝いは不要だ」

「失礼いたしました、大尉殿」

 

 走り出そうとする二等兵を手で抑え、大尉が上等兵を止めました。ここの士官ならやらせるところですが、本土は違うのでしょうか。まぁ、そんなことはどうでもいいことです。

腕時計に目をやれば、待ち合わせの時間まで余裕はありません。

 

「六条大尉、行きましょう。中将がお待ちです」

「ああ」

 

 大尉を促し、私が先導して要塞司令部へと入っていきます。

 

 

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 ノッカーでドアを叩く。分厚い木の板が重苦しい音を響かせた。数瞬の間を置いて、部屋の主の声がする。

 

「なにかね」

「司令官閣下、執務中に失礼します。秘書艦大淀、着任した六条大尉をお連れしました」

「入りたまえ」

「失礼します」

「失礼いたします」

 

 落ち着いた配色の執務室で部屋の主である恰幅の良い男性が、夏季軍装を身に着けて応接セットに掛けていました。

 眉間にシワを寄せるとヤクザにしか見えないと、何度も注意しているのですが治りませんねこの人は。

 手には紫煙を上げる巻きたばこがあり、六条大尉を迎えに行く前に変えたガラスの灰皿にはすでに小さな山ができています。だいぶお待たせしてしまったようです。

 

「本日付で硫黄島要塞駐留艦隊へ移動となった六条伯爵家が三男にして従六位下陰陽博士、六条実行海軍大尉であります」

「四辻子爵家当主にして正五位下近衛中将、硫黄島要塞駐留艦隊司令官を拝命している四辻兼禎子爵海軍中将である。よく来てくれたな、大尉。さぁ、掛け給え」

「失礼します」

 

 優雅に、しかしキビキビとした動きで敬礼をしながら着任の挨拶をする大尉と重厚さと威を感じさせる重々しい動作で答礼を返す中将。

 二人共俳優と見紛うばかりの存在感をお持ちなので、どこか映画のワンシーンのような非現実さがあります。美形は絵になりますね。

 中将に対面する席についた大尉は、持ち込んでいた旅行かばんからかなり分厚い書類袋を取り出すと、中将の前に差し出しました。

 

「こちら、第一連合艦隊司令部から中将宛の書類となります」

「うむ、大淀」

「お預かりします」

 

 大尉が出してきた書類袋を預かり、執務机に置きます。さて、私はお茶を入れるとしましょう。間宮羊羹もありますし、これから来る娘の分も用意してあげませんと。

 

「それにしても大尉がこんな辺境に来るとはな。てっきり殿下のお側に張り付けられていると思っていたが」

「つい半年前まではそうでした。提督としての適性が急に見つかりまして。翌日には妖精による診断と面接を受けて提督要請コースへ編入、4ヶ月の促成で追い出されてここに」

 

 殿下というと皇族お付きの侍従武官だったんですか! 

 

「それは災難だったな」

「殿下から離れられたのを良しとするべきでしょう。流石に今の状況で、軍務でもなしに硫黄島に来るのは不可能ですから」

 

 肩を落としながら語る大尉は随分と振り回されておられた様ですね。ですが侍従武官といえば大変名誉なことですし、ホッとしたような声色で言うことではないと思いますが。

 

「ははは、流石の佳奈子殿下であっても外洋に出ることは許されんか」

「つい先日大佐に昇進され、伊勢神宮の斎皇女兼ジズ級航空戦艦いせの艦長へ親任されました。休暇であっても伊勢神宮から離れるわけにも行きますまい」

「そうなると外部との通神も簡単には許されんな。道理でキミの顔色がよくなったと思った」

「本土の通神域から離れるまで常に着神がありましたから。24時間以上殿下の声を聞かずに過ごすのは、殿下付きとなって以来初めての経験になります」

「……まずはゆっくりと英気を養うと良い」

「ご配慮ありがとうございます」

 

 傍若無人の権化とまで言われた嵯峨野宮佳奈子殿下ならその反応も仕方ありませんね。こんな辺境でも彼女のエピソードが聞こえてくるほどですから。

 さて、お茶の用意が整ったところで通神が入ります。ドアの前に待ち人が到着したようです。

 歓談中の閣下の傍に寄り、耳打ちします。

 

「閣下、彼女が到着しました」

「ん? ああ、入ってもらえ」

 

 中将の指示に従い、彼女に入室許可の通神を送る。

 

「どなたかいらっしゃったのですか? でしたらすぐに切り上げて……」

「あぁ違う、むしろ君の客だ」

 

 来客の報せを受け、すぐに立ち去ろうとする六条大尉。通常の来客であればその対応が正しいのでしょうが、中将が押しとどめます。

 

「私に、でありますか」

「そう、君にだ。入りたまえ」

 

 中将の呼び声に答え、一人の少女が入室してきました。

 上から下まで真っ白な装束に身を包んだ少女。

 

【にいさ……「失礼しました、駆逐艦ヴェールヌイ、出頭いたしました」

 

 なにか言いよどみましたが、ロシア語のようで聞き取れませんでした。時折つぶやいているのは聞いたことがあるのですが……

 

「君も彼の横に掛けたまえ、大淀準備を」

「失礼します」

「もう出来ています。では皆さんもどうぞ」

 

 皆さんが座ったところで、用意しておいたお茶と間宮羊羹をサーブします。

 私も中将の横に座り、卓に急須と追加の羊羹を準備しました。

 

「これでも食いながら話をするとしようか」

「間宮羊羹は久しぶりに口にしますね」

「本土でも物不足か」

「違います、殿下が虎屋のものばかり所望するものですから」

「なるほど、それでは他のものを口にする機会は少ないだろう」

 

 大きく切り分けた羊羹を一口で放り込む中将と、細かく切って口に運ぶ大尉。

 好対照と言うか、中将の行儀が悪いと言うか。駆逐艦の子の前では咎めざるを得ません。

 

「中将、行儀が悪いですよ」

「お前は私の母親か!」

「閣下も秘書官の前では形無しですな」

「貴様も辞めんか!」

【おいしい……】

 

 そんな私たちのやり取りを気にするそぶりも見せず、ヴェールヌイちゃんは羊羹を口にしては顔を綻ばせていました。かわいい。

 羊羹を一番に平らげ、茶を飲み干し一服した中将が、正面に座る二人が食べ終わるのを待って視線を投げます。

 二人は姿勢を正しました。

 

「では改めて紹介しよう。六条、彼女が貴様の初期艦となるヴェールヌイだ。ヴェールヌイ、その男が君の指揮官となる六条大尉だ」

 

 中将の紹介と同時に、二人は立ち上がって正対した。ヴェールヌイちゃんは普通の響と比べて長身ですが、大尉も身長があるのでかなりの身長差がありますね。

 

「六条実行だ。これからよろしく、ヴェールヌイ」

【ヴェールヌイだよ、よろしく司令官】

【ロシア語に慣れているなら、こちらに切り替えようか?】

「!いやいい、日本語になれないといけないし。僚艦との伝達に齟齬が出るのはいけないから」

「君が良いなら、日本語で行くことにしよう」

 

 ヴェールヌイちゃんがロシア語で話し始めたときは驚きましたが、六条大尉がロシア語で返したのにもびっくり。

 けれどもその後は和やかに会話が進んでいます。初対面の印象が悪いと後に響きますから。 

 時折笑みが浮かんでいるなら心配はなさそうです。

 

 しばらくの間歓談している二人を眺めていた中将が、私に耳打ちしてきます。

 

「うむ、問題はなさそうだな。大淀、時間も時間だ、二人を宿舎に案内しておけ」

「かしこまりました、閣下」

 

 基地内旅行は後日になりそうですね。

 中将が立ち上がると、二人は会話をやめて向き直ります。

 

「後日戦隊編成命令が下る、それまで自室で待機し、親睦を深めておけ」

「了解しました!」

「了解」

「では退出してよし」

「「「失礼いたします」」」

 

 中将からの指示を受け、私を含めた三人は執務室から退出しました。

 

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