【艦これ×境ホラ】 硫黄島外人戦隊日誌 作:haruhime
大淀に案内された執務室兼将来の司令部施設兼艦娘待機所で、私と司令官がテーブルを挟んで向かい合っている。
何度見ても良い印象しか受けない雰囲気だ。これが妖精誑し艦娘誑しといわれる特性なんだね。
「改めてよろしく、ヴェールヌイ」
「ああ、よろしく司令官」
司令官の差し出す手を握る。
あまり男性らしさのない細い手。けれどその力はかなり強いものだった。
握手を終え、彼に与えられた執務室の椅子に座る。
「いくつか聞いておきたいことがある」
「私にもあるよ」
「なら君の疑問から片付けようか」
彼は真剣な表情で聞きたいことがあるといってきた。私の経歴はかなり珍しいのは確かだ。けれど、ここに着任するにあたり説明されていないとは思えない。
けど確認しておいた方がいいだろう。あとで面倒事はごめんだ。
「私の状況について、聞いているかな?」
「君が白ロシア帝国出身で大日本帝国海軍に出向していること、君の祖母が大日本帝国海軍初代響の艦娘だったこと、君が世界初の練度1改造艦であることくらいは」
「なんだ、重要なことはみんな知ってるじゃないか」
私の特異性をある程度の機密まで含めて全て押さえている。これと彼の個人的な優秀さ、中将や皇族とのつながりを含む人脈を考えれば、政治的謀略で本国に戻されるようなこともないだろう。
流石に解体を含めた解剖を要求してくる連中がいる場所に戻りたくはない。
「君個人のことは何にも知らない。私は君のことをもっと知りたいんだ。これからの二人の関係のためにもね」
「……指揮官、まさかとは思うが
……ちょっと言い回しが気障すぎるよ司令官。君の顔と声でやったら危ない。まさか他の艦娘にやってないだろうね。
わが身を抱きしめ引いてしまう。自分から引かないとあっさり転んでしまいそうだ。
「引くな、その誤解はやめろ。仮にも婚約者がいる身だぞ」
「ほんの冗談さ。なれない小娘にそんなこと言ってたら、大やけどじゃすまないよ」
本当に火傷じゃすまなくなるよ。ただでさえ艦娘や妖精から好かれる体質なんだから、次から気を付けてほしい。
「光爆術式なら灰も残らん、肝に銘じよう」
「……婚約者さん、何者なの」
真顔の司令官から信じられない発言が出てきた。アマテラス系でも特に使うのが難しい光爆術式を使える婚約者? まさか噂でしかない話は本当なのかい?
「嵯峨野宮加奈子殿下。皇族で神威系術式の天才、なおかつ非常に素直で活発な方だ」
「お転婆か、尻に敷かれそうだね。見てみたいな」
重油のように重くねばついたため息を吐き出しながら表示枠を向けてくる司令官。表示枠に映ったのは、桜の木の下に並ぶ二人の人物。二人とも海軍の第一種礼装を身にまとっている。一人は司令官。つまりもう一人が加奈子殿下というわけだ。
腰まである長い黒髪を下ろしたキツめの美人。身長も女性としては高く、胸が全くないことを含めてもスタイルがいい。
これは強敵だ、けど私も顔は良い方だし、なにより胸は現時点ですら勝っている。勝負はまだわからないはずだ。
「このまま成人まで勅許が下りなければ、殿下の戯言で終わる話だ」
「きっと終わらないよ」
「しんどい」
「がんばれ」
彼は随分と希望的観測をしているけれど、きっと彼女はなりふり構わず動いてくるだろう。写真の表情から読み取れるのは、決して獲物を逃がすつもりのない狩人ってことだし。
その辺は司令官も散々認識させられてきただろうし、改めて言うことでもないだろうけど。
その肩の落とし方一つとっても、認識の深さが伺えるね。
「まぁ、私のプライベートなど話しても面白くないだろう、君の話を聞かせてくれ」
「私の話も面白いものではないけどね」
気を取り直した司令官が、私の歴史を聞いてくる。どこにでもあるつまらない話を聞きたいなんて、司令官は物好きだな。
「第二次日本海海戦で轟沈したはずの初代響が漁村に流れ着き、子供を作って、そして生まれた孫の一人が艦娘還りを起こした」
と、聞いているけどどうにも祖母は脱走兵のようなんだよね。言葉の端々に帝国海軍への憎しみが出てたし。
銀髪が生まれたものだから、母は浮気を疑われだいぶ責められたらしい。私が大きくなって祖母にそっくりであることが分かるまでは相当荒れていたようで、父は母に頭が上がらなかったとは聞いている。
私が物心つく頃には二人とも死んでいるから、直接見聞きしたわけではないけれど。
「徴募兵団に随行していた妖精に反応した私は白ロシア帝国海軍に入隊したものの既存の艤装には不適合、それどころかロシアでは術式を起動できなかった」
あの時はしんどかった。艦娘になれると聞いていたのにどの艤装にも適合しないんだから。艦娘適合者だから自由の身にはなれないし、体が育っていないから軍人としての訓練を積める訳でもない。
周りからの煩わしい視線に辟易し、他の艦娘からの慰めの言葉にいら立ちを感じる日々だった。
「そんなある日、日本から派遣され、結婚退役して解体されたヴェールヌイの艤装に適合したんだ」
工廠の端で埃を被っていた、錆びた艤装に触れたら妖精たちが湧き出るんだもの、びっくりしたよ。当の妖精たちもびっくりしていたし、工廠妖精たちも驚いていた。
「大騒ぎだったね。まさかの練度1改造艦だったんだから。解析の結果、日本の妖精と術式に適合があることが分かった。戦力化できず扱いかねた白ロシア帝国海軍に、対日派遣艦隊の一人として送り込まれてここにいるわけ」
けれども、艤装妖精によれば日本以外では艤装の初期起動に持っていくことができないということだった。
日本の妖精による精密検査を改めて受けたら、日本でなら術師としての才能もあることが分かったし。
「そもそも、なぜ志願を?」
「父も母も事故で死んで、元艦娘の祖母に育てられていたからね。負担を掛けたくなかった。一人で生きていく術があるなら、そうしたかったんだ」
神妙な顔の司令官に本心をあっさりと答える。祖母との生活は幸せであったが、それでも負担をかけていたのはわかっていたし、恩を返したかった。
彼の表情がゆがんだが、あまり見たいものではないね。私が従軍を決めた時の祖母を思い出す。
「そうか」
「今の世界じゃどこにでもあるつまらない話だよ。祖母の故郷を見たかったというのもあるけどね」
祖母を説得するための言い訳でもあり、興味があったのもまた事実だ。少なくともいつ襲撃があるか分からない物不足の漁村で一生を過ごすよりはいい。
「一兵卒から将軍まで、海に面していればいつ死ぬかわからん時代だ」
司令官の言う通り、今のご時勢沿岸部に住んでいればいつ死んでもおかしくはない。
将軍だって基地に詰めていれば強襲される恐れは十分にある。実際帝国海軍ですら数年に一度は外地の拠点が襲撃されてるし。
といっても
「大陸じゃ内陸にいても危ないけどね」
「陸戦ユニットか。日本はまだ陸上拠点を構築されていないからな」
陸戦ユニット。深海棲艦の一部陸上級が、自身の防衛と人類の駆逐のために展開する陸上戦力。深海棲艦のように術式と艦娘以外からの攻撃をほぼ無力化しながら進撃してくる、人類の3割を殺害した大陸の絶望。
その点、本土に陸上拠点級の展開を許していない日本はまだましだ。
「はぐれだけでも危険だよ。むしろ海よりもはぐれは危険さ」
「抵抗できる戦力がまずないからか」
そのとおり、海のはぐれ艦は駆逐艦程度、それも生まれたてか傷ついた個体ばかりだ。建造したての駆逐艦だって、1対1で戦える程度の脅威。そして、護衛もつけずに今の海を移動する船など存在しない。
それに比べて、戦闘系術師か術式兵装でなければ有効打を与えられない陸戦ユニットの脅威は大きい。
「ましてや内陸深くまで侵攻できる積載量となると大型種だったりするし、一般人じゃ逃げるのも難しい」
「森や谷に隠れられたら、航空偵察じゃまず見つからんしな」
しかも、大きさあたりの航続距離が短い分、遠方まで移動できる個体は必然的に強力だ。多少武装した市民じゃ抵抗も難しい。隠れようとする知能もあるし、大型個体なら偵察機も撃墜できる火力がある。集団ならともかく、比較的小さく隠れやすいはぐれを全て見つけるのは難しい。
「偵察衛星が残っていればだいぶ違うんだろうけど」
「定期的に打ち上げては軌道投入する前に撃墜されているから無理だろう。運用するには」
「各地の要塞棲姫を全滅させるしかない、か」
「そうだ、要塞棲姫の対宙砲を潰さない限り制宙権は奪われたままだろう」
「厄介だね」
本当に厄介だ。深海との戦争が始まった当初、人類が打ち上げていた衛星は各地に現れた要塞棲姫によって全て撃墜された。宇宙空間を利用しようにも、世界全てをカバーできる対宙砲が撃墜する。
「太平洋戦域にはシンガポールとハワイの二基が居座っているからな。帝国軍としては一刻も早くシンガポールを落とし、マレー半島以北の制海権を奪取したい」
「資源の確保を行い、国内情勢と戦力を整えてハワイを目指すわけだね」
大日本帝国が担当する戦線には、ハワイとシンガポールに要塞棲姫が存在する。
共に単独での戦いではないものの、激戦地が多い太平洋では多くの鬼姫級が展開しており、配下の深海棲艦も数質共に高い。
かつての資源地帯を制し、返す刀でハワイを制圧する。それが大日本帝国が取っている戦争計画だ。
「ハワイ奪還は合衆国の悲願でもある。協力は確約されている。ただ、我が国の準備が整うのは相当先だろう」
「南方拠点の展開は進んでいても、まだまだ一進一退だしね」
最初期の深海棲艦被害を受けたハワイ奪還。世界最大の戦力を有する合衆国ですら単独攻略をあきらめるほど強大な戦力がひしめいているあの場所は、おそらく人類と深海棲艦の戦いにおけるターニングポイントになるだろう。
しかし、そのためには南方や中部太平洋の深海棲艦を黙らせなきゃならない。大規模攻勢の最中に、横槍や本土奇襲されたら元も子もないしね。
南方は鎮守府や拠点が次々に整備され、激戦を繰り広げている。じわじわと人類圏は拡大しているが、オーストラリアとの連絡線を保全するまでには至っていない。風が吹けば切れる程度のか細い糸だ。
「それに中部太平洋戦域は深海棲艦の手中だ。圧力が強すぎてシンガポール攻略に戦力を投入できる状態ではない」
中部太平洋戦域は定期的にあふれ出してくる部隊の撃滅で手一杯。南方作戦のために艦娘が抽出されており、その補充が急がれているのが現状だ。
「そこで一人でも多くの艦娘を作戦に投入するため、招集された提督のうちの一人が司令官というわけだ」
前線に有力な艦娘を送るために、提督の増産が急がれている。これまで整備兵や憲兵送りになっていた第二種妖精適正(妖精が視認でき、なんとなくの意思疎通が図れる)ですら、提督候補生として養成施設に叩き込まれていると聞く。
駆逐艦や軽巡洋艦数隻程度の同調指揮能力しか持たない彼らは、複数名で戦隊を編成することになるそうだ。
「私の場合はそれとはかなり違う政治的理由も含まれる気はしているがね」
「どちらにしろ、能力の高い人間が指揮官であることはありがたい限りだよ」
だが司令官の場合は違う。絶大な霊力量と才能、連合艦隊の指揮も可能とされる許容量を併せ持った逸材だ。順当にいけば一人で基地を任されることだろう。
ロシア皇族との血縁で、大陸出身の私と霊的相性がいい司令官であることは確かだ。
「そう言ってくれると助かるよ」
そういって肩をすくめる司令官。お世辞でもなんでもなく、私に提示された候補の中で一番の優良株だった。なにより私の艦としての魂が彼の元でなら戦い抜けると直感したんから選んだんだ。
実際にあってみて、やはり彼の人当たりのよさと善性の強さは疑う余地もない。艦娘として十全を発揮できると確信している。
「まぁ、私の名を信じて欲しい。必ず司令官に勝利を捧げるよ」
「ああ、協力して勝利を掴むとしよう。信頼しているぞヴェールヌイ」
お互いまじめな顔をして、そんなことを言い合う。
ただ声を掛けられただけなのに、胸の奥がポカポカしてくる。
我ながらチョロイ女だ。
けど仕方ないだろう。それが艦娘と言う生き物で、好意を持つ相手に信頼を示されたんだ。嬉しくないはずもない。
「ああ、任せて欲しい。信頼の名は伊達ではないよ」
駆逐艦ヴェールヌイは、必ずあなたの信頼に応えてみせる。
そんなやり取りをしていると、彼の前に表示枠が現れた。
立ち上がる彼に続きながら、声を掛ける。
「誰からだい?」
「ああ、司令秘書艦どのからだ。辞令とともに、君を正式に艦娘にする準備が整ったと」
「ついにか、感慨深いな」
母国から抱えてきたコンプレックスを解消する機会がようやくやってきた。なんとも感慨深い。
「では行くとしよう」
「顔に出ているよ司令官。そんなに楽しみかい?」
「そうか?」
「そうだよ」
廊下に出た彼の顔は笑み崩れていた。私のことで楽しいと思ってくれるのはうれしいね。
「楽しみだよ、君がどんな艦娘になるのか、楽しみでしょうがない」
「そうか、なら早く行ってご期待に応えるとしよう」
彼の言葉に、足取りが軽くなる。
「先走るなよ、ヴェールヌイ。道も分からんだろう」
駆け出そうとした私の手を、彼がしっかりと握ってきた。
彼が私に触れている。彼はきっとはしゃぐ子どもを抑えた程度にしか感じていないだろう。
それでも、私は幸福でいっぱいだ。
いつかはきっと、この先も。
大本営の艦娘達がしていた、あの指輪を司令官から最初に貰う。
まずはそれを目指そう。
そして最後はケッコンカッコガチだ。
肉食系ロリヴェールヌイちゃん13歳
なお艦娘になった時点で法的にケッコンカッコガチ可能になる()