短編及び中編集   作:ADONIS+

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(注)この話は『トリッパー列伝 風間ちとせ』の後日談的な話なので、先のそちらを読んだ方がわかりやすいです。


新任士官と銀河天使 その一

 ヴァーブル朝ブリタニア帝国。『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生したトリッパーによって建国されたその帝国は凄まじい勢いで発展を続けていた。それは帝都が存在する惑星全土を支配するだけではなく、その銀河に進出しつつ支配下において、更に53個の系外銀河にまで進出するほどだった。

 

 しかし、シドゥリ暦2100年代にはそのブリタニア帝国の勢力拡大も陰りが見えていた。その理由の一つはあまりにも拡大しすぎた国土に帝国政府の統治能力が対応できなかったからである。当時のブリタニアには帝都が存在する銀河系の開発だけで事足りており、系外銀河進出は時期尚早であったのだ。

 

 これはいいだろうが、もう一つの原因である宇宙海賊の跳梁跋扈はブリタニア帝国にとって非常に頭の痛い問題だった。

 

 そもそもブリタニア帝国は宇宙開発を推進して勢力拡大をしている。つまりテラフォーミング、開拓、移民という流れになるが、それには莫大な人、金、物が動くのは当然であり、それらを運搬している輸送船が必要なのは道理である。だが、それを襲撃して船や積み荷を奪う者たちが現れるようになった。これが宇宙海賊の始まりで、それ以降この手の犯罪者によってブリタニアの宇宙開発が大いに妨げられることになった。

 

 言うまでもないが、宇宙海賊の被害にあう危険が大きいとなると、物資などが滞り宇宙開発計画が遅延だけでなく船や積み荷にかかる保険金の高騰などによる輸送コストの高騰という問題が出てくる為に、宇宙開発の採算が合わなくなるのだ。

 

 勿論、ブリタニア帝国もこの目障り極まりない宇宙海賊たちを放置していたわけではなく、帝国軍を動員して宇宙海賊撲滅を推進していた。だが、この手の犯罪者は絶えることはなく、まるでモグラ叩きのように宇宙海賊を討伐しても、すぐに新しい宇宙海賊が出てくる有様であった。

 

 この結果、帝都を中心とした銀河ではある程度の治安維持ができていたものの、帝国軍の手が届きにくい系外銀河では宇宙海賊の活動を抑えきれずに開拓に大きな足かせとなっていた。

 

 

 

 そして、シドゥリ暦2405年

 

 とある辺境宙域で民間の輸送船が10隻もの海賊船の襲撃を受けていた。輸送船は必死にディストーション・フィールドを張りながら逃げているが、海賊船が撃ってくるビーム砲やレールカノンによって無視できない被害がでていた。

 

「くそっ、なんだってこんな宙域で宇宙海賊が出てくる!」

 

 ブリタニア帝国の士官学校を卒業したばかりのケイン・フィッシャーは非武装の民間船に乗り合わせている時に宇宙海賊に襲撃されるという不運に見舞われて怒鳴りつけていた。

 

「気持ちはわかるが、俺たちがうろたえてもどうにもならないだろうケイン」

 

 そのケインの友人にして同じく士官学校を卒業したばかりのブルーノ・ブレイズはケインをなだめる。彼らはブリタニア軍の新任士官であったが、この民間船には非武装で乗り込んでいた。というのもブリタニアではスペースジャック対策の為に武器を持ち込む事を禁じられていたからだが、今回はそれがあだとなってしまった。

 

 ケインとブルーノは帝国軍人ということもあって、この非常事態の解決の為にこの船のクルーに協力していたが、このないない尽くしの状態ではまともな対応すら不可能だったのだ。

 

「確かにそうだが、ブルーノお前は落ち着き過ぎだぞ」

「いや、もうこうなったら運に身を任せるしかないって」

「ブルーノ、お前運任せって、そんな適当な……」

 

 ケインがあんまりな言葉に文句を言おうとしたその時、突然一隻の海賊船が爆発した。

 

「なんだ。帝国軍の救援か!」

 

 非武装の民間船が海賊船を撃沈できたとは考えにくい為にケインはそう判断したが…

 

「いや、あれは帝国軍じゃない。監察軍だ」

 

 そんなケインの判断をブルーノが否定した。

 

 ブルーノが見ていたモニターに映っていたのは帝国軍が使用している可変戦闘機や対艦攻撃機とは明らかに異なる見たこともない美しい白い翼を生やした六機の大型戦闘機だった。そのような機体を運用している勢力は監察軍しかないし、この辺境宙域に監察軍本部があることもその考えを補強していた。

 

『こちらは、三千世界監察軍本部第22防衛隊です。そちらの救援にまいりました。これより宇宙海賊を撃破します』

 

 それに答えるように大型戦闘機から通信が入った。

 

「おおーー!!」

「やったー! 助かったぞ!」

 

 民間船のクルーたちは救援が来て助かったことで大喜びして、ブルーノとケインも喜んだ。

 

 翼を出現させている六機の大型戦闘機はまるで物語の天使のように宇宙を駆けながら海賊船を次々に撃破していく。海賊船もディストーション・フィールドぐらいは展開しているが、大型戦闘機の攻撃はそれを容易く貫き、艦船の装甲も紙のようにぶち抜いていく。

 

「おお、一撃か。すごい攻撃力だな」

 

 いくら海賊船が正規の軍用艦に大きく劣るとはいえ、戦闘機が艦船を一撃で沈めるなどそう簡単にできることではない。それができるということは、あの戦闘機の性能がそれだけずば抜けていることに他ならなかった。

 

「あれ、帝国軍の可変戦闘機ルシファーを上回っているんじゃない?」

「ああ、確かにな」

 

 ブルーノの言葉にケインが頷く。彼も監察軍の大型戦闘機の戦闘力の高さが際立っている事を理解できた。というか、10隻もの海賊船が僅か三分もせずに全滅した光景を見れば誰が見ても一目瞭然だろう。

 

『こちら三千世界監察軍本部第22防衛隊隊長、風間ちとせ大尉です。宇宙海賊の撃破を確認いたしましたので、これより貴船を監察軍本部に誘導いたします』

「ああ、よろしく頼む。いやあ、こんな美人に助けてもらえるなんて嬉しいね」

 

 ブルーノはモニター越しに風間ちとせに軽口のようにいうが、実際モニターに映るちとせは長い黒髪の美しい少女で、その美しさはお世辞抜きでブルーノが思わず見惚れる程であった。

 

 

 

クルガンside

 

「失敗しただとーー!! てめぇふざけているのか!」

 

 宇宙海賊クルガン一家の首領であるクルガンは失敗の報告をした部下を怒鳴りつけたが、それも無理もなかった。10隻もの艦船を失ったというのだから誰だって怒るだろう。

 

「しかし、監察軍の防衛隊が相手では、うちらの装備じゃ手に負えませんよ」

 

 怒鳴りつけられた部下も反論する。そもそもブリタニアでは兵器の管理がとても厳しい。特にテロや反乱防止の為に宇宙船にもなると、軍艦と民間船では使用されている技術そのものが違う。

 

 勿論、監察軍や帝国軍でなければ軍艦を使用することなどできないので、宇宙海賊が使用している海賊船はどうしても民間船を改造して武装を搭載したちゃちな代物になってしまう。

 

 そんなブリタニアの海賊船は帝国軍艦艇が採用している縮退炉ではなく相転移エンジンを使用しているために機関出力が低い。その結果、ディストーション・フィールドの出力はブリタニア各地に点在しているボソンジャンプを利用したゲートを安全に使用できる程度の低出力になり、装甲材質もコストパフォーマンスを優先した質の悪い物であった。

 

 それでも民間船ならばこれで十分であるが、これでは帝国軍艦艇の攻撃を到底防げるものではない。

 

 それなら軍用艦艇を作ればいいだろうと言いたいだろうが、その手の軍事技術は帝国が厳しく管理しており民間人では到底入手することはできなかった。

 

 このような対策の結果、宇宙海賊は劣悪な装備を用いる羽目になり、これこそが帝国軍が何とか宇宙海賊を討伐できていた大きな理由だった。

 

「だが、これじゃ計画が台無しだぜ」

 

 クルガンはブリタニアでも有数の宇宙海賊だ。そんな彼があの民間船を狙ったのは監察軍が秘匿している不老長寿の技術を欲したからだ。

 

 ブリタニアでは不老長寿は皇族と貴族の特権となっていて、平民が不老長寿を得ることを禁じられていたし、その手の技術を帝国政府の許可なしに研究するだけで重罪となってしまう。というのも技術の発展で覚醒者の優位性が揺らいでしまった為だ。

 

 以前は不老長寿を得ようとするなら覚醒の法で覚醒者(吸血鬼)になるしかなかったから、定期的に血液を補充しないといけない事や紫外線に弱いというデメリットが受け入れられていた。

 

 しかし、監察軍がゴッド・ブレスのようにデメリットなしに不老長寿を実現させてしまう技術の確立してしまったことで、相対的に覚醒者の価値が暴落してしまったのだ。

 

 勿論、覚醒者には常人を超越した身体能力や特殊能力という利点もあるが、それもデメリットによってかすんでしまっていた。

 

 これは貴族たちのアイデンティティにも関わる微妙な問題であったためにブリタニアでは覚醒者になる以外での不老長寿の実現はタブーとなり、その手の技術は監察軍が門外不出の技術として隠匿する事になった。

 

 そんな曰く付きのものであるが、監察軍に所属する異世界人はブリタニア人ではないからその規制から外れた存在である為にトリッパーたちは不老長寿を手にしていた。

 

 こうして、不老長寿を得ることを禁止されたブリタニアの平民を尻目に不老長寿を手にした監察軍の異世界人がいるという構造になってくると、それを不満に思う者は当然出てくる。

 

 たとえ禁止されていても密かに不老長寿を手に入れたいと願う平民の富裕層など腐るほどいる。その為、クルガンは監察軍から不老長寿の技術を奪って彼らに高く売りつけることを企んでいたのだ。

 

 これは成功すれば、ちゃちな物資強奪よりもよほど旨みがある為に本腰を入れていたのであるが、監察軍本部は防衛戦力が極めて高く直接侵攻するのは自殺行為であった。そこでクルガンは監察軍に出入りしている民間船を襲撃して情報を得ようとしたが、これがものの見事に失敗してしまったのだ。

 

「くそ、何とかしないといけねぇな」

 

 手ひどい失敗をしたクルガンであるが、彼はそれで諦めることはなく、次の策を練ることにした。




解説

■風間ちとせ(かざま ちとせ)
『トリッパー列伝 風間ちとせ』に登場した転生型トリッパー。紋章機のテストパイロットから紋章機を運用する部隊の隊長になったことで階級が大尉に上がっている。外見はギャラクシーエンジェルの烏丸ちとせであるが、本人ではなく転生特典で彼女の外見と能力を得ているだけである。

■覚醒の法
『ブリタニア帝国記』でシドゥリが編み出した吸血鬼化の古代ベルカ式魔法。これによってデメリットはあるものの不老長寿と超人的な身体能力を得られるようになった。ブリタニアではこの魔法を施された者を覚醒者と呼び皇族や貴族として遇しているが、ゴッド・ブレスなどの技術によりその優位性が大きく揺らいでいる。

■ゴッド・ブレス
 元々は『BLACK CAT』の世界で開発された不死のナノマシン。これを投与された人間は老化が停止して手足が千切れるような怪我でも即座に再生する凄まじい自己修復能力を得る事ができる。ただし脳を損傷すると再生できないという欠陥もあり、本当に不死身というワケではないが、比較的容易に不老長寿を得られることから三千世界監察軍に所属するトリッパーはこれを投与する者が多い。
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