俺とケインが三千世界監察軍本部第22防衛隊所属のエルシオールに配属されてから一か月が過ぎた。その間、エンジェル隊の女の子たちとも仲良くなった。
これはちとせさんが親身に手助けしてくれたのが大きかった。まあ、彼女としてはエンジェル隊のテンションを高めておく為、俺とミルフィーたちが仲良くできていないと困るのだからそれも当然だろう。
そんなエルシオールはパトロール中に救難信号をキャッチした。帝国軍は無論のことだが、監察軍でも救難信号をキャッチしたらちゃんと対応しなければならない。勿論、戦時や緊急時などで対応できない場合もあるが、今は戦時でも緊急時でもない為、エルシオールは救難信号が発信地点に向かった。
そして、そこでは宇宙海賊に襲撃されて破損したと一目でわかる民間船を発見した。救難信号はその民間船から発せられていたが、あの民間船の船籍をチェックしてみてもこの宙域に来る予定はなかった。実は監察軍は民間船がくることがあるが、警備上の理由から船籍とスケジュールなどがデータに入っており、調べればその辺りの確認が取れるのだ。
単にたまたまこの辺りに来た民間船が宇宙海賊に襲撃されて救難信号を発した可能性もあるが、やはり引っかかる。どうも嫌な予感がするのだ。
「さてと、どうしたものか」
「確かにお前の言う通り不自然だが。無視はできんぞ」
いくら不自然だからといって救難信号を無視したら問題になるので、ケインの意見は最もだ。
「そうだな。」
取り越し苦労かもしれないが、念の為に手を打っておこう。そう思い、俺は民間船を捜索するメンバーにある命令を出しておいた。
「やはり罠だったな」
「そうだな」
件の民間船に捜索隊を送り込んでしばらくして、民間船がいきなりディストーション・フィールドを展開して、同時に周囲から謎の艦隊の反応をキャッチしたのだ。どっからどうみても罠である。
『監察軍に告げる。俺たちはお前たちの仲間を捕えた。仲間を開放してほしいのなら、不老長寿の技術をよこせ』
そこに宇宙海賊クルガン一家とやらが、そう要求してきた。通信には民間船の捜索隊に参加して宇宙海賊に捕えられた赤い制服をきたエルシオールクルーの姿が映っていた。
「折角だけどその要求は受け入れられない。エンジェル隊出撃せよ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
エンジェル隊は俺の命令にしたがって出撃した。
『貴様、仲間がどうなってもいいというのか!』
出撃したエンジェル隊が敵の迎撃をしている。宇宙海賊は例の民間船を含めても民間船を改造した武装船が30隻程度しかなく、エンジェル隊とまともに戦える戦力ではなかった。といっても相手が海賊一家にすぎないことを考えればそれも仕方がないだろう。
エンジェル隊の猛攻撃の前に次々に海賊船が撃墜されていく中で人質に銃口を突き付けたままの宇宙海賊が怒鳴り込んでいたが、それを相手にする必要などなかった。
「残念だがアンドロイドを人質にしても意味はないよ」
『アンドロイドだと、バカなこいつらは赤い制服を着ているんだぞ。監察軍のエリートだろうが!』
海賊の言う通り監察軍で赤い制服を着ている者はエリート(トリッパー)だけだが…。
「そうだね。俺が赤い制服を着せておいただけのアンドロイドだよ」
『き、貴様はかったな!』
そもそもエルシオールのクルーは俺とケイン、そしてエンジェル隊の六人を除けば全員アンドロイドだ。監察軍のアンドロイドは人間そっくりで見分けがつかないために山吹色の制服を着ているが、逆を言えば制服の色以外では見分けがつきにくいのだ。そうなれば、制服を偽装するだけで相手を騙すことも不可能ではない。
そこで、俺は念のために捜索隊に参加したアンドロイドたちに本来ならば監察軍のエリート(トリッパー)が着る赤い制服を着せて偽装させておいたのだ。案の定、敵はまんまと騙されてアンドロイドを人質に取って尻尾を出してしまったわけであった。
言うまでもないが、監察軍ではアンドロイドなど消耗品扱いでしかない。といっても意味もなくアンドロイドを破壊すれば始末書ものであるが、今回のように敵を倒すためならば敵ごと始末しても何ら問題なかった。
『畜生ーー!』
エンジェル隊の放った攻撃で例の民間船、というよりも民間船に偽装していた海賊船はアンドロイドごと撃沈されるのであった。
シドゥリside
「ふむ、宇宙海賊が不老長寿の技術欲しさに監察軍を襲うとはな」
エンジェル隊が宇宙海賊クルガン一家を壊滅させた一件で、ブリタニア帝国皇帝シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブルは監察軍総司令官トレーズ・クシュリナーダから報告を受けていた。今回の事だけでなく近年では、この不老長寿の技術は何かと問題になっていた。
ブリタニアでは貴族以外の平民たちが不老長寿を求めていたが、シドゥリとしては貴族たちの兼ね合いもあって安易にそれに応じられずに禁止したままで放置していた。とはいえ、さすがに無視できなくなった。
「トレーズ、あなたはどう思う?」
『そうですね。やはり不老長寿の規制緩和と技術開放しかないでしょう』
「やはり、そうなるか。貴族たちの説得が面倒だがやるしかないか」
トレーズの言葉にシドゥリが面倒そうに言う。実のところシドゥリは政務の殆どを宰相や重臣たちに任せきりにしていたが、今回の問題は貴族の権益に抵触するかなりデリケートな問題なだけに彼らには荷が重い。故にシドゥリ自身が貴族たちを説得しなければならないのだ。
しかし、平民たちの間でこうした不満があるのは貴族たちも当然理解しているから私が説得すれば受け入れるだろう。彼らだって平民たちの不平不満を爆発させたいわけではない。私にとっても平民たちにこうした不満があるということを口実にすれば規制緩和に乗り出しやすいし、貴族としても私が説得するならば面子を潰すことなくそれを了承することができる筈だ。
勿論、規制緩和は限定的なものにする。求める技術が不老長寿なのだから若返りと後天的な遺伝子操作による老化抑制技術程度で十分だろう。監察軍のように強力な再生能力や生体強化による身体能力の向上などは必要ない。というか、そこまでやると本当に貴族(覚醒者)の立場がなくなるからできない。
その後、シドゥリは貴族たちの説得して規制緩和を行った。その結果、ブリタニアの民は希望すれば誰でも若返りと後天的な遺伝子操作による老化抑制の恩恵を受けることができるようになり、平民たちの不老長寿に関する不満はなくなるのであった。
あとがき
不老長寿というのは割と問題になると思います(特に女性には)。昔はその手の技術が発達していなかった為に問題にならなかったが、技術の発達により簡単に不老長寿が実現できるようになったのでブリタニア帝国も規制緩和しなくてはならなくなったという話です。これ以降、ブリタニア帝国は貴族だけでなく平民も不老長寿の長寿大国になります。